表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

旅行2

 民宿に到着した。


「温泉もよかったけど、あそこもよかったわね!」

「おかえりなさい。あそこって温泉以外にどこか行ってきたの?」


 真理さんが現れ、話に入ってきた。


「それは、た……」


 京子先輩は何かを察知したらしく美樹の口を手で覆った。


「何でもない……」

「そう。そろそろ夕食ができるからもう少し待ってね」


 真理さんは首を傾げて不思議そうな顔をして戻って行った。


「夕飯だってさ!俺はあれだけバーベキューを食べたけど、もうお腹がペコペコで楽しみだ」


 直哉は自分のお腹を摩っている。僕もお腹が空いてしまった。夕食が楽しみである。


「では夕食まで部屋で待機する事にしよう」

「はーい!」


 二人は元気に返事した。部屋に戻ると、とりあえず座布団に座ることにした。少し歩いたせいか疲れてしまった。直哉は部屋にある小さい戸をあけて何かを見つけたようであった。


「お!ここに浴衣があるぞ。せっかくだから着ようぜ!」


 あの温泉でも浴衣を着ている人を見かけたが同じく見てみたいとは思っていた。さっそく着替えることにした。着替えてみたけれど着方はこれで合っているか不安になってしまった。すると、ドアがコンコンと鳴った。


「どうぞ」


 ドアが開き、そこにはこちらと同じく浴衣を着た美樹と京子先輩の姿があった。


「夕食が出来たそうだ。夕食を食べる部屋があるから向かおう」


 待ちに待った夕食の時間である。一度階段を下りて一階に向かった。部屋は玄関の横の部屋であった。部屋を開けると何種類もの料理が並んでいた。川魚の塩焼き、漬物、煮物、刺身、お浸し、鍋、茶碗蒸し、てんぷら、その他にも色々並んでいた。


「わー!美味しそう!」

「冷めないうちに頂く事にしよう。いただきます」

「いただきまーす!」


 最初はどれから食べようか迷ってしまった。とりあえず、塩焼きを食べることにした。魚の背中のあたりをパックと食べた。塩加減は絶妙で口の中に魚のうま味が広がり美味しかった。箸は次から次に口に入って行った。


「バーベキューであれだけ食べたのに、こんなにおいしい夕食が出たら食べられちゃうね」


 美樹はお腹を摩りながら苦笑いしていた。するとコンコンとドアを叩く音がした。


「失礼します。満足いただけましたか?」


 女将さんであった。満足という他になかった。


「とても美味しかったです」

「満足いただけたようでなによりです。お食事中にお布団をひかしていただきました」

「何もかもすみません。ご馳走様でした」


 四人でお辞儀した。


「お粗末様でした」


 とても美味しかった。真理さんはいつもこんなにおいしいのを食べているのであろうか。

 

「生徒会長、これから何しますか?」

「もちろん、決まっている!夏の夜と言った花火だ」

「おー。さすが生徒会長!」


 美樹と直哉は食べ終えたばかりだというのに元気にはしゃいでいる。



 外は真っ暗であった。街中では街頭や建物から出る光で明るかったりするがここは違う。街頭はポツンポツンとある程度で真っ暗に近い。しかし、空を見上げると都会ではあまり見れない光景が広がっていた。キラキラと輝く、数えきれない星々。耳を澄ませば聞こえてくる虫の音。夜の外は好きになったことはなかったが、ここの夜は好きだ。


「綺麗。昼間もいいけど夜もいいわね」

「そうだな。じゃあ花火やりますか!でも花火はどこ?」


 確かに京子先輩の手元には花火がなかった。


「花火持ってきたよ!」


 真理さんが大小様々な花火を持ってきてくれた。どうやら花火までこちらが用意してくれたらしい。本当にありがたい。


「それじゃあ私は戻るね」

「真理さんは一緒にやらないの?」


 美樹が真理さんを呼び止めた。


「私は片づけがあるから戻らないと……」


 すると直哉が急に民宿に帰って行った。数分も経たずに帰ってきた。


「女将さんに聞いたら後片付けは私がやるから混ぜてもらいなさいって言っていたよ!」


 こういう時に気が利く男であった。僕は真理さんに近づき手を引っ張ってこっちに連れてきた。真理さんは少し困ったようにしていたが気にせずに連れてきた。


「じゃあお言葉に甘えて混ぜてもらおうかな……」

「みんなが言うなら仕方がないから混ぜてあげるわ」


 京子先輩はまたそんな言い方をした。いつもの流れからしたら、そのあとに必ず真理さんは反発するところだが今回は違った。


「ありがとう……」


 京子先輩は少し驚いた顔がしたがその後に微笑んだ気がした。


「それじゃあパーッとやりますか!」


 直哉の掛け声で花火がスタートした。すると直哉はいきなり大きな花火を手にした。僕はそれでもかまわないが美樹は許すはずがなかった。


「ちょっと!それは最後にやるような花火でしょう!」

「いいじゃないか!こういうのは一発目を大きいの打ち上げて、場の空気を盛り上げないと!」

「それも一理あるけど……。最初はこのぐらいのサイズにしておきなさいよ!」


 美樹は直哉が取った花火の半分くらいのを指差した。


「仕方がないなー」


 直哉はしぶしぶ納得した様である。さっそく直哉はそれを手に取り、みんなから少し離れたところに花火を置いた。暗闇の中にマッチの火が灯された。花火の導火線に火が付き、見る見るうちに短くなっていく。火が花火に吸い込まれた瞬間、バン。爆発音とともに夜空に高々と打ち上げられた。空中に上がった火の玉はまた爆発して夜空に花が咲いた。その花火は一回だけでなく何回も打ちあがった。最後には火柱が立った。


「綺麗」


 京子先輩が見惚れている様であった。


「やっぱり、私が選んだのが正解だったでしょ?」

「たまたまだ。今度はこれ!」


 大きい花火は二人に任せることにした。真理さんはただ立ち尽くしていた。僕はそんな真理さんに小さな棒状の花火を渡した。


「これを私に?」


 僕は頷いた。花火は見るのもいいと思ったけど、きっとやるのも楽しいと思った。


「凛は真理に優しすぎ!」


 京子先輩がやって来た。


「本当に誰かさんと違って優しいわね」


 結局こうなるのか。でも表では喧嘩ばかりしているが本当は仲がいいようになぜか思えた


 美樹と直哉は大きな花火ばかりやり、僕たち三人は小さい花火で楽しんだ。そして花火の数が残りわずかになり、美樹たちは最初に出てきた一番大きな花火に点火しようとしていた。こちらは線香花火で勝負することになった。


「線香花火で最後まで残った人が勝ちで、勝ったら負けた人に何でも言うことを聞かせられるっていうのはどう?」


「いいわよ。勝つのはもちろん私だがな!」


 真理さんの提案に僕と京子先輩は同意した。始まる前から火花が散っていた。同時に点火して、開始数秒は静寂に包まれ線香花火がもうじき落ちそうになった時、真理さんが静寂を壊した。


「凛。私と付き合わない?」


 ポト。僕と京子先輩はその言葉に動揺して線香花火を落としてしまった。


「な。なに馬鹿なこと言っているのよ!」

「冗談よ。冗談。これで私の作戦勝ちね!」


 真理さんは大きな口を開けて大笑いした。僕と京子先輩はまんまと真理さんの作戦に負けた。


「こんなの卑怯よ!もう一回!」

「あなた達が心を乱すのが悪い!」


 ここにまた喧嘩という名の花火が咲いた。


「楽しかったね」

「そうだな」


 美樹と直哉は満足そうであったが、もちろん京子先輩は違っていた。いまだに真理さんは笑っている。僕は素直に負けを認めることにした。


{真理さんは僕たちに何をさせるの?}


 真理さんは腕を組み悩み始めた。京子先輩は悩んでいる真理さんをギロッと睨んでいる。


「あなた達が帰る前には決めておくよ」


 僕は素直に頷いたが京子先輩は拗ねたように顔をそむけた。真理さんはいったい何を言うのだろうか。少し怖い気もした。


 民宿に戻り時刻はもう二十一時過ぎていた。みんなで部屋に戻ろうとすると女将さんが現れた。


「花火は楽しかったですか?外に出て体が冷めたようでしたら今日入ってきた温泉と比べると小さくなりますが、温泉がありますので空いているという札がかかっている時はいつでもお入りください」


「ありがとうございます」


 女将さんは戻って行った。

 

「生徒会長、この後はどうしますか?」

「この後は特に予定はない。温泉にまた入るでもいいし、早めに寝るのでもいいし私は少し疲れたから休憩させてもらうよ」

「えー。生徒会長は休憩ですか?じゃあゆっくり凛について語りましょうよ」

「それは是非いろいろ聞きたいわね」


 美樹が余計なことを言わないか心配だが、僕はどうしようか。


「凛!じゃあ俺たちも対抗して下ネタでも話そうぜ!」


 その発言に一気に場の空気が変わった。美樹と京子先輩が鬼のような怖い顔で直哉を睨んだ。直哉はその視線を痛いほど感知したらしく恐る恐る二人の方に振り返った。


「凛に何か良からぬことを言ったらただじゃおかないから」


 京子先輩は笑顔でそういった。笑顔で脅されるほど怖いことはない。直哉はわざと怒られたいのではないかと思う時がある。この二人を怒らせる度胸は僕にはない。


「冗談ですって……」


 直哉の引きつった顔を見ると、よほど京子先輩の笑顔が効いたらしい。


「凛も疲れただろ。早く休んだ方がいい。ほら行くぞ!それではおやすみなさい!」


 直哉は逃げるように僕の背中を押して部屋に向かった。


「さてと。これから何する?」


 これといって思いつかなかった。直哉も同じようであった。しばらく考える時間がやって来た。


「そうだ温泉入りに行こうぜ!花火で少し冷えたし、さっき変な汗かいちゃったからさ」


 確かにここの温泉も入ってみた。反対する気は全然なかったので僕も頷き準備した。


「お!ここだな。空いているっていう札があるから入ろうぜ」


 どうやらここは男女共用のようだ。だから横に備え付けてある、男性入浴中や女性入浴中といった札で誰か入っているかチェックできるようなシステムになっているようだ。


 脱衣所に入ると壁に大きな鏡があり、服を置くスペースが四つ、温泉は大人が寝ても二人が入る事が出来そうなスペースの浴槽であった。シャワーは二つあった。確かにあそこと比べると小さいが僕と直哉だけだし、このぐらいの方が落ち着きそうである。


「確かにあそこと比べると小さいけど二人で入るなら十分だな」


 すぐに服を脱いで二人で浴槽に入ったが、浴槽が小さいために満水だった温泉が勢いよく流れだしてしまった。温度は少し熱めだが気持ちのいい温泉である。


「ここもいい温泉だな。それにしても濃い一日だったな」


 確かに濃い一日であった。早起きして電車に乗りバスに乗り、着いたらバーベキュー。終わったら温泉に入り、火照った体を冷やしに川に遊びに行って夕食にまた美味しい料理を食べて、そしてみんなで花火をやって一日のしめにまた温泉に入る。


 一日を振り返りながら湯に浸かるとついウトウトしてしまった。


「凛。俺はもう出るが、まだ入っているか?」


 僕はもう少し入っていたいから頷いた。


「わかった。あまりのぼせるほど入るなよ」


 直哉は風呂を出たが僕は一人になったので、家のお風呂でやっているように浴槽に全身を入れた。家とは違って全身を伸ばして水中に入れるからより落ち着いた。すると、ドンドンとドアが叩く音がした。


「札は空いているってなっているけど、電気がついているから誰か入っているのかな?」


 またこのパターンか。誰かが来てしまったが声を出せないから伝えられない。策を考えている暇なくドアが開いた。


「誰か入っていますか?」


 この声は真理さんである。京子先輩がお風呂に入って来た時の反省を生かして策を練っておけばよかったと今になって後悔。考え方を変えた。諦めも肝心。もう流れに任せよう。


「これ誰の服だろう。……もしかして返事がないから凛ね!」


 やはりバレテしまった。でもこれで危機は回避された。このまま僕が入っていることに気が付いたから僕が出るまで待ってくれれば大丈夫である。しかし、そうはならなかった。ガラガラ。


「やっぱり凛だ!凛なら一緒に入っちゃおう!」


 そんなのダメに決まっている。もしそんなところを京子先輩に見られたら何をされるかわからない。見られなくても男としてダメである。策を考える間もなく真理さんが入ってきた。前を隠して顔を逸らして慌てて脱衣所に向かった。


「凛出ちゃうの?残念だな」


 脱衣所に入り一安心したと思ったがそうではなかった。わざと僕の着替えの上に真理さんの下着が置いてあった。着替えたくてもこの下着があるせいでそれが出来ない。仕方がなくどかすことにした。持ってすかさず別のところに置くことに成功した。


「あー。今、私の下着を手に取ったでしょー!凛のエッチ!」


 何を言っているのであろうか。自分で置いておいて酷い言われようである。また何かしてくる前に早くこの場から離れよう。着替えて脱衣所から出ようとしたら、さっきまでの感じとは変わって話し始めた。


「凛。あの女とは仲良くしてあげてね。いつもしっかりしているイメージだけど内心は泣き虫だし、寂しがり屋なの。初めて会ったのは小学生三年生の時かな?今と同様偉そうにしていたの。けど目を見るとどこか寂しげな感じがした。たぶん、親が立派な人だからその顔を汚さないように我慢していた。親は忙しくてなかなかあの女と過ごす時間もなくて寂しい思いをしていったと思う。だから、私は優しく接してあげようと思った。けどその同情から来る優しさが気に食わなくて今のように喧嘩する仲になっちゃったんだと思う。私もその優しさを素直に受け入れてくれなくてイライラしてさらに喧嘩は続いた。今でも喧嘩しているのは挨拶みたいなものだから気にしないでね」


 京子先輩が真理さんと接するときはいつも喧嘩していたのは、喧嘩しても関係が崩れない自信があるからだと思う。お互い、本当に嫌いなら京子先輩もここには来ようともしないだろうし、真理さんもかかわろうとはしないと思う。二人が喧嘩している時はお互い元気そうであった。

 

 とくに京子先輩は学校でも僕の前でもあんな元気そうな姿を見せたことがなかった。京子先輩の中で喧嘩できるのは真理さんだけである。世の中には、愛し合う仲、親しみ合う仲と同じように喧嘩し合う仲を必要とする関係もあるのかもしれない。


 話はまだ続いた。


「これは内緒話だったんだけど言っちゃうわ。あの女が小学六年生の時、今日四人が入ってきた温泉があるでしょ?あそこであの女は母親と一緒に入る予定だったんだけど、急に仕事が入っちゃって来れなくなっちゃったの。今にも泣きだしそうだったけど、それをこらえて周りに接してきた。私は我慢しているあの女を無理やりあるところに連れて行った。私の秘密の場所。その場所には綺麗な滝があって幻想的な場所。そこにあの女が着くと、さっきまでの顔が嘘だったかのようにほぐれて目をキラキラとさせた。そこで私は言った。『ここには大人もいないし滝の音で周りには何も聞こえない。だから泣いてもいいんだよ?』って優しく語りかけるよう言った。そうしたら、今までに我慢に我慢を重ねて貯めた涙を一気に滝のように流し始めた。あの女は言った『私が泣いたことは二人の秘密。この場所も二人の秘密』ってね。けどあの女はあの滝に凛たちを連れて行ったでしょ?美樹が口を滑らそうとしたのをあの女が口をふさいだのを見た瞬間分かったわ。だからこの話は仕返し」


 あの滝にそんなエピソードがあるなんて思っていなかった。あの京子先輩が泣くところは僕でも見たことがない。京子先輩の隠れた一面を引き出せる真理さんに少し嫉妬してしまう。


「長話したことだし、そろそろ出ようかな!凛。うるさいようだけどあの女をよろしくね」


 僕はその場を後にした。

 

 部屋に着くと直哉はすでに寝ていた。もう時刻は二十三時。僕も寝る事にしよう。女将さんが敷いてくれた布団に入りすぐに眠ってしまった。


「凛。凛。朝だよー!」


 誰かが僕を呼んでいる。けどまだ眠いから邪魔をしないでもらいたい。


「まだ起きないのか。じゃあこっちにも考えがあるよ?」


 この声は美樹か。前にもこんなことがあった気がするが眠くて思い出せない。すると、耳元に気配を感じた。


「目覚めのキスをしちゃうぞ?」


 思い出しとともに目が覚めた。


「何を言っている。キスをするのは彼女である私に決まっている」


「私はいつも凛にこれを言って起こしてあげているんです!生徒会長は邪魔しないでください!」


「邪魔するに決まっているだろう。まさか本当にキスして起こしているんじゃないだろうな?」


 そんな訳あるはずない。もう目が覚めたから争いはやめてほしい。


「朝食で来たよ!二人は何をしているの?」


「どっちがキスして起こそうかもめているの」


 直哉が説明してくれたが、どうせならこの騒ぎを止めてほしい。


「なるほどね。じゃあ間を取って私が……」


 もちろん二人はそれを許すはずが無かった。三人は言い争いから掴み合いまで発展した。


 僕は三人を無視して顔を洗いに行った。顔を洗い、歯を磨いて部屋に戻るとまだ続いていた。僕はこの場をおさめる方法を考えた。そして思いついた。直哉に携帯電話を見せた。


「じゃあ、俺がその間を取ってキスしちゃおうかな……」


 三人はいっせいに直哉を睨んだ。


「……冗談です。この通り凛は起きていますからもう行きましょう?」


 三人は何か納得のいかないって感じで朝飯を食べに一階に向かった。直哉には少し怖い思いをさせてしまったが作戦は大成功。僕と直哉も一階に向かった。


「いただきます」


 朝食はご飯、味噌汁、卵焼き、漬物、納豆、焼き魚であった。朝食もやはり美味しかった。


「ご馳走様でした」


「朝食も食べ終わったことだし、帰りの準備をしましょう。荷物がまとまったら外に集合ね」


 もう帰る時間なのか。まだ居たい気持ちでいっぱいだがバスの時間があるから急ぐことにした。今になって思い出したがお母さんにお土産を買っていない。どうせなら駅のお土産じゃなくて、ここのお土産にしたい。何かいいものはないか女将さんに相談することにした。今はたぶん、僕たちが食べた食器類を片づけているだろうからさっきの部屋に戻った。ドアを開けるとそこにはやはり女将さんがいた。真理さんも手伝っている様である。


「凛どうしたの?」

{お母さんにお土産を持って行きたいんですが、ここでいいお土産って何かありますか?}

「今の時間だとどこもお土産を売っているところは開いていないわね」


 やはりそうか。仕方がないから駅で何か買う事にしよう。僕は小さくお辞儀して部屋を出ようとしたら真理さんに呼び止められた。


「凛!お家の住所教えてよ!教えてくれたら私とお母さんで何か送るよ!」

「それはいい考えだわ!でも、もし住所とか教えると迷惑がかかるようなら無理にとは言わないわ」


 うちの住所を教えるのは何も問題はないが、そこまでしてもらうのは申し訳ない。


「申し訳ないとかは考えなくていいのよ?うちの真理はあまり男の子とは関わらないんだけど凛君は気に入ったみたいでとってもビックリしたわ。真理と遊んでくれたお礼に何か送らせてもらえないかしら?送る代わりにま是非来てくださいね」


 僕は大きく頷いた。次来るときはお母さんも連れてきたい。


「みんな集まったみたいね。じゃあ最後にみんなで記念撮影しましょう。女将さんと五人で!」

「何で私が入っていないのよ!」

「あら。いたの。小さくて気が付かなかった」


 また言い争いが始まった。本当に仲がいい。写真は一緒に民宿に宿泊していたお兄さんに撮ってもらうことにした。


「じゃあ私は凛の隣!」


 真理さんが僕の腕に絡まってきた。


「ダメに決まっているだろう。後ろに立ってな!」


 もちろん京子先輩はそれを許すはずがなかった。僕の両手を引っ張り合い腕が引きちぎれそうであった。他の三人は笑っているだけで何もしてくれなかった。見かねたお兄さんがカメラに手をかけ始めた。


「……撮りますよ!」


 僕は出来る限りの力を振り絞り、引っ張られている腕を引き寄せて二人を抱き寄せた。


 お兄さんはニコッと笑った。カシャ。撮影は無事に終了した。すぐにバス停に向かった。見送りに女将さんと真理さんも来てくれた。バス停に到着してから数分後にバスが遠くに見えてきた。


「そういえば、花火の件はどうするのよ?別にやらなくてもいいのよ?」


 忘れていた。それを聞いた真理さんはニコッと笑った。バスはもうすぐ到着してしまう。


「もちろんやるに決まっているじゃない!」

「あんたはとりあえず、これから起こることを許しなさい。それと凛と仲良くしなさい!」

「なにそれ?意味が分からない。仲良くなんて当たり前じゃない。あんたこそ元気にしてなさいよ」


 バスは到着した。確かに意味が分からないが最後は仲良くお別れが出来そうでよかった。美樹と直哉と京子先輩はバスに乗った。


「凛。ちょっと耳を貸しなさい!」


 わけのわからないまま言うとおりに耳を真理さんの方に傾けた。こちらを京子先輩が睨んでいるのが見えた。ゾクッとしたがとりあえず耳を澄ました。


「絶対にまた来るのよ!じゃあね!」


 ただそれだけであった。しかしそれだけでは済まなかった。真理さんは僕の頭を両手で掴み顔を正面に向かせた瞬間、真理さんは僕の唇に自分の唇を重ねた。


 京子先輩は叫び、直哉は京子先輩を止めて、美樹はただ立ち尽くしていた。

唇は離れて、真理さんは僕をバスに押し込んだ。すると逃げるように帰って行った。


「……ドア閉まります」


「凛は無防備すぎ!」


 それから説教は数十分続いた。京子先輩は叱りつかれて寝てしまった。直哉と美樹も寝てしまった。僕はまた、外の風景を楽しむことにした。すると川で遊ぶ人たちが目に入った。そういえば水着を使っていないことを思い出した。いったい女装の努力はなんだったのであろう。今はみんな疲れているからこれは言わないでおこう。今はそう思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ