旅行1
旅行当日、四人は駅に朝八時に集合することになっていた。ぼくは少し早めに集合場所に行ったがやはりそこには京子先輩の姿があった。
「おはよう。早いね」
{おはようございます。京子先輩はいつも早いですね}
少し時間が経つと遠くから美樹と直哉が走ってくるのが見えた。美樹以外は一泊分にはちょうどいいバックのサイズだが、美樹だけみんなよりバック一つ分大きかった。
「みんな早いよ。まだ二十分前だよ。遠くから二人が見えて焦って走ってきちゃったよ……」
「俺もそう思って走ってきちゃった……」
京子先輩がクスッと笑った。
「みんな、二十分前行動とはいい心がけだね。それでは行くとしよう」
電車は本当ならば三十分先であったが四人が集まるのが早かったため一本先の電車に乗る事が出来た。
電車に乗ったが人が大勢乗っていてとても窮屈で息苦しかった。しかし、町を離れる徐々に人は減ってきた。一度電車を乗り換えることになった。その電車にはお互いに向き合いながら座れる席があったので四人で座ることにした。
集まった時から気になっていた美樹のバックの中身を聞いてみることにした。
{そのバックの中身は何が入っているの?}
「もちろんお菓子よ!」
「まるで幼稚園の遠足のようだな」
「生徒会長、それは酷いですよ……そんなこと言うなら生徒会長にはお菓子あげない!」
「ごめん、ごめん」
美樹はバックからお菓子を出し始めた。三人はそのお菓子を食べ始めたが僕はお菓子より外の風景が気になっていた。変わっていく風景、ガタン、ゴトンという電車の音。この二つが交わり、とても気持ちが落ち着いてきた。都会では人が大勢乗っていて窮屈で暑苦しく苦痛でしかなかったが今の電車はそれと違ってとても過ごしやすかった。
ボーっとしている僕に京子先輩が口元にポテトチップを運んできてくれた。少し恥ずかしがりながらパクッと食べた。ポテトチップを食べながらまた外を眺めることにした。するとトンネルに入り真っ暗になった。しばらくするとトンネルを抜けた。僕は目を見開らいた。そこにはさっきまでの住宅街や車やビルが見えていたが、今は緑が広がっていた。
木々が生い茂り、山々や立派な旅館が見えてきた。線路沿いから見える歩道にはカメラを持った観光客が多く目に入った。中には電車に手を振ってくれる子供たちもいた。
いつの間にかお菓子を食べていた三人も外を眺めていた。
「間もなく終点です」
どうやら着くらしい。美樹と直哉は食べ散らかしたお菓子を急いで食べ始めた。僕は終点まで外を眺めていようと思ったがそれは叶わなかった。
「凛!お菓子食べ終わすのを手伝って!」
その声を聴いて外を眺めるのをやめて美樹たちの方に振り向くとハムスターが二匹いた。美樹と直哉は口に大量のお菓子を詰め込んでいた。京子先輩と僕は笑って二人を見ていた。
「凛!笑っている場合じゃない!手伝え!」
すると残ったお菓子を僕に突き出してきた。僕は食べるのを躊躇していると京子先輩がお菓子を食べ始めた。
「私も手伝うから凛も食べよう?」
僕はしぶしぶ一緒に食べ始めることにした。僕は京子先輩に無理に食べさせないように人一倍早くいっぱい食べた。
「生徒会長、ここですか?」
「ここではない。それにしても美樹さんはさっきまであれだけ苦しそうだったのに嘘だったかのようにピンピンしているね」
「当たり前じゃないですか!いよいよって感じになって来たからテンションが上がって元気になりました!」
僕と直哉はお菓子を食べすぎて顔を引きつりながらお腹を押さえている。
「そこの男子!休んでいる暇はないぞ!次はバスに乗る」
ここでも十分な場所に思えるがさらに移動するらしい。あまり動きたくないがバス停まで歩くことにした。バス停に着くとしばらく休む事が出来た。バスに乗ってしばらくして気が付いたのだが、バス停をいくつも通過しているが乗る人はいなかった。最初のころはなぜかと思ったがバスは進めば進むほど家一つない山の奥に入って行った。まれに車とすれ違うが道路はとても狭くちょっと広くなった道を利用して譲り合いで車が走っていた。僕は田舎は好きだったのでこれから向かう場所にワクワクと心を踊らせた。しかし、他の三人は少し疲れてしまったのか寝ている様であった。僕は一人で外の風景を楽しむことにした。見渡す限りの山々、車道の下に見える透き通った川、木々の隙間から見える木漏れ日。外を見ていて一番驚いたのは雲が僕達より下に見えたことである。その光景はとても幻想的であった。
僕は風景を飽きもせずにずっと見ていると僕の手を誰かが握った。
振り返ると京子先輩であった。
「凛は眠くないのか?もうすぐ着くからね」
僕は頷きまた外を眺め始めた。
「二人とも!そろそろ着くよ!」
美樹と直哉はよだれを垂らしながら寝ていたがその呼びかけにより、ようやく目を覚ました。よだれを裾で拭き目を擦りながら周りを見渡している。
「ここはどこですか?……すごい!雲の上だよ!山しかない!」
「本当だ!綺麗!」
バスはようやく小さい村に入った。バスは止まり京子先輩に続いて降りた。日差しがさしているというのにとても都会と比べて涼しかった。
ここまでにかかった時間は五時間ぐらいであろうか。僕はキョロキョロと周りを見ながら京子先輩について行った。バス停から坂を下りて行った。すると湖が見えてきた。
「生徒会長、ここですか?」
「ああ、ここだ」
その民宿はホテルや旅館と違って二階建ての少し大きな家のようである。京子先輩は民宿に入った。
「こんにちは」
する遠くから女将さんらしき人が出てきた。
「よく遠くからお越しくださいました。まー、京子ちゃん何年振りかしら。またより美人になったわね」
「お久しぶりです。こちらはこの民宿の女将さん。そして、こちらの三人は私の高校の友達です」
「よくお越しくださいました」
「短い間ですがよろしくお願いします!」
僕たちは部屋に荷物を降ろしに二階に行った。部屋は和室の八畳ぐらいであろうか。シンプルで部屋中央にテーブルが一つ、壁際にテレビと綺麗な花が添えられた花瓶が一つ。二人には十分な広さである。僕と直哉、美樹と京子先輩で部屋を分かれることになった。窓から風景が見えるが民宿の下には湖が見えた。僕はふと時計を見るともう十三時過ぎていた。するとコンコンとドアが鳴った。
「入るよ」
京子先輩と美樹が入ってきた。
「二人とも外に出る準備しなさい。お昼を食べに行くよ」
玄関に向かうと女将さんがいた。
「今、娘が一生懸命火を起こしているのでもう少し待っていてください」
僕は火と聞いてピンときた!
「生徒会長!もしかしてバーベキューですか?」
「その通りだ」
美樹と直哉は、はしゃぎ始めた。僕は二人のようにはしゃぎはしなかったが内心大喜びであった。
「では私たちも手伝います。私と美樹さんは女将さんの手伝い。凛と直哉君は下に降りて火を起こす手伝いをしてもらいたいのだが……。凛!女将さんの娘には気をつけなよ!」
二組に分かれて準備を手伝うことになったが、京子先輩の最後の言葉が気になった。
下に降りて湖のすぐ近くの広場にやって来たが、そこにはキャンプに使うテントやキャンピングカーや家族の姿が目に入った。そんな中を歩いていくと歳は同じぐらいに見えて小柄で髪はショートヘアの目はクリッとした女性がいた。
「俺たち、今日、上の民宿に泊まることになっている内の二人なんですが……」
「話は母から聞いていますよ。ちょうどよかった。なかなか炭に火がつかなくて疲れちゃったとこなの」
「俺が変わります!」
直哉に変わるとものすごい勢いで団扇を煽ぎだした。僕は何をしようか探していると
「じゃあ君は一緒に母が準備した食材をここに運ぶのを手伝って!」
僕は小さく頷き、その女性について行った。
「私は真理。短い間だけどよろしくね」
僕は頷いた。
「もしかして君が凛か?話は聞いているよ。声が出ないのとあの魔女と付き合っているって聞いたよ。あの女はやめておきな!あんな鬼と付き合っていたら身を滅ぼすよ!」
僕は首をかしげてしまった。
「誰が鬼だ。相変わらず小さいな」
京子先輩は手に食材を持ってこっちに来た。どうやら二人は仲が悪いみたいだ。
「あんたも相変わらずガリガリの死にそうなぐらい肌が白いわね」
「真理も相変わらずちんちくりんの小学生ね」
「言わせておけばこの女は!」
すると真理は手を握りしめた。
「こら!真理いい加減にしなさい!」
女将さんもやって来た。
「……命拾いしたね」
真理さんはそう言い残すと次々と食材を運んで行った。京子先輩が近づいてきた。
「あの女に何か言われなかった?」
僕は横に首を振った。そして、バーベキューが始まった。次々と網に肉や野菜が並べられた。
「こんな大自然の中でバーベキューができるなんて最高ね!来たかいがあった!」
「美樹さんは何を言っているの。まだ始まったばかりよ。これからもまだまだあるんだから」
「そうですね!これから何が始まるか楽しみ」
直哉はすごい勢いで肉を食べている。僕は肉を焼きながら少しずつ肉を食べた。
真理さんが少し遠くの隅でおにぎりを食べているのが目に入った。僕は紙皿に肉や野菜を乗せて真理さんのところに向かった。
真理さんのところに到着すると紙皿を渡した。
「くれるのか?……ありがとう。凛は見た目もいいし、いい人そうだからあの女にはもったいないな」
真理さんはモジモジと恥ずかしそうに言われた。
「凛!」
京子先輩が僕たちに気が付き近づいてきた。
「この女に肉はあげなくていい!」
すると真理さんの顔つきが鬼のように一気に変わった。
「この婆は!」
僕は京子先輩の頭を軽く拳でたたいた。京子先輩はなんでと言った顔でキョトンとした。
{バーベキューが出来ているのは真理さんの協力があってこそなんだよ?肉を上げるどころか僕たちはちゃんと感謝しなくちゃいけない}
「凛がそう言うならいいけど……。凛に感謝しなさい!」
そう言い残すと京子先輩は元に戻って行った。真理さんが京子先輩にベーッとしたのを見てクスッと笑ってしまった。僕も戻ることにした。すると、真理さんに腕を掴まれた。
「肉ありがとね」
真理さんが喜んでくれてよかった。
「美味しかったわねー」
「もうこれ以上は食べられない」
美樹と直哉は満足そうでよかった。僕も大満足である。京子先輩はどうなのかと思って探したが見当たらなかった。少し探しに行ってみると隅に座っていた。
「凛か。満足できたかな?私は満足すぎて苦しいくらいだよ……」
僕は背中をしばらくさすってあと片付けをすることにした。
「凛。後片付けは私やるから大丈夫だよ」
真理さんが大きなごみ袋を持ってこちらにやって来た。しかし僕は横に首を振り片づけを続けた。
「ありがとう……」
「俺らも手伝うよ!」
「みんなで片づけた方が早く終わるしね!」
そこに二人が加わり片づけが早く進んだ。美樹はゴミ集め。直哉は炭の後処理。僕は真理さんが無理して余った食材を運んでいるのを見えたので手伝うことにした。僕はそっと積まれたタッパを手に取った。
「凛か。凛は本当に気が利くね。あの女が羨ましいよ」
真理さんは小走りで先に行ってしまった。僕もあとに続いて歩いた。
「あら。凛君まで手伝ってくれているのかい?ありがとうね」
「他の二人も手伝ってくれている。あの女は苦しそうに座っていたよ」
「あらあら。お客さんなのにありがとうね」
僕は頷き、また元に戻った。そこには京子先輩も片づけをしていた。
{もう大丈夫なんですか?}
「ああ。心配かけたね」
大丈夫と言う割にはまだ顔が引きつっていた。片づけはみんなでやったのですぐに終わった。
「みんなありがとうね。冷たいお茶どうぞ」
お茶を頂くことにした。一仕事終えた後に飲む冷たいお茶はいつもよりおいしく感じた。
「これからの予定は決まっているの?」
真理さんはみんなの顔を伺った。
「一汗かいたから温泉なんてどうかな?」
京子先輩の提案に反対する人はいなかった。
「真理さん、この辺にいい温泉はあるんですか?できれば混浴がいいのだけれど……」
すぐに直哉のお腹に美樹の拳が衝突した。
「痛い……。冗談に決まっているじゃないか」
「直哉が言うと冗談に聞こえないのよ!」
いつも通りのボケとツッコミであった。
「混浴は無いけど大きな浴場はあるけどそこはどう?」
「あそこね。確かにいいかもしれないわね」
どうやら京子先輩も知っているところらしい。一度民宿に戻って着替えやタオルなどを取りに行った。準備が終わると玄関に集合した。
「やっぱ山に行ったら温泉よね。混浴じゃないから私の美貌を見せられないのが残念だわ」
美樹の発言で時が一瞬止まった。
「何よ、みんなして!」
美樹は温泉に入る前から、はしゃぎ出した。すると民宿の隅から野菜を運んでいる真理さんがいた。
「真理さんは温泉に行かないの?」
「私は夕食の準備があるから四人で行ってきて」
真理さんは少し残念そうであった。真理さんに手を振って出発した。
「こんにちは」
すれ違う、ここに住んでいる人から声をかけてくれた。都会ではそう言った光景はご近所でしか見たことがなかった。もちろん僕は声を出せないので頷くことしかできなかった。
そんな出会いがありながら歩くこと十分、大きな温泉施設らしき建物に着いた。その建物の上から湯気が黙々と立っていた。
「ここがこれから入る温泉よ」
「良さそうなところですね。早く入りましょう!」
中に入ると、食堂やお土産コーナーがあり多くの人がいた。
「一時間後にここに集合ね」
京子先輩と美樹が女湯に向かおうとしたが、なぜか直哉まで向かおうとしていた。すぐに美樹が、その気配に気が付いた。
「捕まりたいの?」
「はい。ごめんなさい……」
直哉は少しションボリしながら男湯に向かった。僕も直哉に続いて向かった。
脱衣所に入るとすでに直哉は全裸であった。どれだけ脱ぐのが早いのだろうか。直哉の上半身は体育の着替えの時などに見ているが、改めて見ると腹筋が割れておりとても筋肉質な体をしている。僕も脱ぎ、備え付の大きな鏡で自分の体を見ると直哉とは大違いである。筋肉質でもなく太ってもいなく、ただ細いだけであった。京子先輩はやはり直哉のような筋肉質な体がいいのであろうか。そんなことを気にしながらドアを開けた。
そこには十メートルはあるのではないかともう程の大きな浴槽が一つ。外には露天風呂。直哉はすでに体を洗っていた。僕も直哉の隣で体を洗うことにした。洗い終わると最初に室内の浴槽に入ろうとした。しかし、集めのお湯でゆっくりとしか入れなった。直哉は平然と温泉に浸かっている。
「いかにも体に効きそうな温泉だな!」
疲れが温泉に吸い出されるように疲れが取れて行った。
「次は露天風呂入ろうぜ!」
さっそく浴槽から出て露天風呂に向かった。ドアを開けると風が涼しく気持ちがよかった。今度はさっきの温泉で体が慣れているのですんなりと温泉に入れた。すると隣から女性の声がしてきた。
「凛!聞こえるか?」
やはり直哉は反応した。
「二人も来たようだな。ここの温泉はいいだろう?」
「はい。これで混浴があれば最高なんですがね」
「まだ言うか!」
すぐに美樹のツッコミが入った。直哉も懲りないものである。すると直哉がズルズルと近づいてきた。
「凛。男ならお約束のあれをやるしかないよな?」
僕は首をかしげた。いったいなんのことを言っているのであろうか。
「あれだよ。あれ!女湯を覗きだよ!」
そういうことか。どうやら直哉は死にたいようである。僕は飽きれながら首を横に振った。
「そうか。俺はやるぞ!」
すると、京子先輩がいきなり会話に入ってきた。
「直哉君。私は耳がいいのだが何をやるのかい?」
直哉が一気に固まった。苦し紛れの言い訳をしだした。
「あの。あれですよ!凛の肩を揉んでやるぞって言っただけですよ!」
「そうか。凛も少し疲れている様であったから、よろしく頼むよ」
「はい!喜んで!」
直哉は安どに包まれて苦笑いしている。どうやら命拾いした様である。
「そろそろ出るとしよう」
「俺らもでようぜ!」
これで温泉は終了のようである。温泉から出て、髪も乾かさずに脱衣所を出てロビーに向かった。女性組は髪を乾かしたり肌の手入れなど色々お風呂上りにすることがあるだろうからまだまだ時間がかかると思う。直哉は脱衣所を出てすぐに飲み物を買いに行った。僕も何か飲む事にしよう。
「お。凛も来たか!やっぱり、温泉に入った後は瓶の牛乳に限るよな!」
僕はうんうんと縦に頷き同意した。しかし実際には温泉上がりに飲んだことはなかった。ただ単にテレビでよくそういった光景を見ただけである。
僕も買うことにした。ガチャン。直哉は先に買って牛乳を一気飲みした。
「うまい!もう一本!」
僕は一気には飲まずに普通に飲んだ。確かに温泉上がりの牛乳はいいものであった。熱くなった体に冷たい優しい味の牛乳が染み渡った感覚はよかった。
「やっぱり温泉上がりは牛乳よね!私も飲む!」
思いのほか早く二人が出てきた。
「生徒会長もグイッといかがですか?」
「私は遠慮しておくよ。飲み終えたら少し歩かないか?温まった体を冷やしに川に行こう」
「いいですね!湖もいいけど川もいいですね!」
「そうだな」
もちろん僕も賛成である。二人は一気に牛乳を飲み終えた。僕たちはまた京子先輩に付いていくことになった。最初は道路沿いを歩いていたが急に曲がり道なき森林に入って行った。
「ここに入るんですか?」
「そうだ。騙されたと思ってついておいで」
僕らは不安そうに周りを気にしながら歩くことにした。歩くこと数分、車の音は小さくなった代わりに川のザーッという音が聞こえ始めた。さっきまで不安であったがこの音を聞くと好奇心が出てきて平気になっていた。木々で密着していて木漏れ日しか入らなかったが、歩くにつれて徐々に明るくなってきた。そして木々を抜けると光景が一変した。
「到着!」
そこには高さ五メートルぐらいの滝があった。滝の周りの苔に覆われ、そこに水滴が付きキラキラと宝石のように輝いている。流れる川はとても透き通っており魚が泳いでいるのが見えた。そこで奏でる風で揺れる木々の擦れ合う音。ザーッと流れる川の音。時々聞こえる鳥のさえずり。つい目を閉じて耳を澄ましてしまう。
「気に入ってもらえたかな?」
もちろんである。こんな光景、テレビでも写真でも見たことがなかった。それぐらい綺麗なところである。
「ここはね、小さい頃に真理と二人で遊んでいる時に見つけた思い出の場所」
どうやら昔は仲が良かったらしい。何で今は仲が悪いのかとふと思ったが今は聞かないでおこう。
美樹と京子先輩は川沿いにある大きな石に座り、裸足を川に着けて涼んでいた。直哉はひたすら水中にある石の下に手を入れて魚を探している様である。僕はただ石に座りながらこの風景を目に焼き付けようとした。
「ではそろそろ帰る事にしよう」
もっと居たいところだが、もう夕方なのでそろそろ暗くなってしまうから仕方がなかった。