恋とテスト
次の日から京子先輩とは約束をしなくても毎日ランチを取るようになった。
とあるランチのひと時、京子先輩がこう切り出してきた。
「そろそろ答えを聞かせてもらえないかな?その……告白の件だ」
いずれ聞かれると思っていたが、まだ悩んでいる。その理由が一目惚れというのが未だに信じられないのと、僕と京子先輩では釣り合わないのではないかと心配である。
「私が嫌いか?」
僕は慌てて首を横に振った。嫌いではない。むしろ好きな方だ。
「ではなぜ?もしかしてまだ私の好きという気持ちが嘘ではないかと疑っているのか?そんなに信じられないなら耳を貸してくれ」
僕は言われるがまま机越しに耳を貸そうとした。すると、京子先輩は僕の顔を両手でつかみ顔を引き寄せ唇と唇を重ね合わせたのであった。キスはすぐに終わった。
「今の見た?」
「キスしてなかった?」
そう言った声がいろいろ聞こえてきたが今はそんなことはどうでもいい。僕は顔を真っ赤にして目を見開き動揺を隠せなかった。京子先輩も顔を少し赤くして恥ずかしそうであった。
「これで信じてくれる?初めてだったんだよ?」
僕も初めてであった。京子先輩の積極性には僕もお手上げである。美樹も積極的だと思うがここまでではない。美樹の場合は何かしようとしてもあと一歩のところで恥じらいを感じて途中でやめてしまう。
このキスで先輩の気持ちは伝わった。京子先輩が軽々しくキスをするとは思えない。よほどの覚悟でキスをしてくれたのだと思う。自分でいうのも恥ずかしいがよほど僕のことを好きでいてくれているのだろう。
そして釣り合う、釣り合わないは僕次第。なにより何日も前から京子先輩を好きだったんだと思う。見ているだけでドキドキして胸がはち切れそうな気持になる。いつでも京子先輩のことを考えていた。おそらくこの気持ちが恋なのであろう。ただ不安だけだった。
{京子先輩の気持ちが伝わりました。僕なんかでよかったらお付き合いしてください!}
「私なんかでいいのか?嘘じゃないよね?」
僕はまだ赤く熱った顔をしたまま笑顔で頷いた。
「ありがとう。凛……大好きだよ!」
京子先輩と付き合い始めてからの日々はとても楽しく時間が経つのが早く感じた。毎日一緒に登校して、お昼も一緒に食べて下校も一緒だった。
とある週末、初めてデートをすることになった。どこに行くなどは未定であった。
当日の集合場所に十分前に到着したが、そこにはすでに京子先輩が待っていた。真っ白な肌が際立つ真っ黒なワンピースであった。つい足を止めて見入ってしまったがすぐに走り近づいた。
{僕、集合時間を間違えましたか?}
京子先輩はクスッと笑った。
「いや。私が早く来ただけ」
それを聞いて一安心した。本当は服装とかを褒めたほうがいいのだろうがなんて言ったらいいかわからなかった。しかし待たせてしまって悪い気もした。
{待たせてすみませんでした……}
「好きでしたことだから気にしなくていい。それではさっそくどこに行こうか」
僕はどこに行くか、まだ決めていなかった。
{京子先輩はどこに行きたいですか?}
「私は凛が行きたいところに行きたい。こんな答えじゃ困るかな?」
正直困ってしまう。当然のことながらデートなんて一度もしたことがないからどこに行くのがいいかなどわからない。僕は少し考えた結果、無難なところにすることにした。
{とりあえず、映画館にでも行きませんか?}
「わかった」
僕はとりあえずと言ったがその発言を公開することになった。京子先輩はもちろんこう尋ねた。
「何を見る?」
当然こう聞かれるだろう。僕が京子先輩に何を見たいか聞いても、さっきと同じく僕が見たいものと聞くだろう。今度はどのジャンルを見ようか悩み始めた。ラブストーリーは見ていて恥ずかしくなりそうだし、ホラーは嫌いな人はとことん嫌いだろうし、SFやアニメは興味なさそうだし、サスペンスは……。よしサスペンスにしよう!
{この映画はどうですか?}
「いいと思うよ」
さっそく映画が始まった。よくカップルは映画上映中に手を繋ぐシーンをよくテレビで見かけるが僕にはそんな度胸がなかった。だが頑張って手を伸ばすことにした。すると京子先輩も同じことを考えていたらしく手と手がぶつかった。その流れで手を繋ぐことに成功した。
映画が終わり、フロアが明るくなってきて手を繋いでいるのが見えるようになった瞬間、お互い恥ずかしくなり手を放してしまった。フロアを出ると京子先輩が映画の感想を喋りだした。
「まさかあの人が犯人だとは予想外だった。とても面白い映画だった」
喜んでもらえて一安心した。そろそろお昼ご飯の時間だった。
{お昼はどうしますか?京子先輩はどんな料理を食べたいですか?}
「そうだな……。基本何でも好きだが、ファミレスに行ってみたい」
{ファミレスに行ったことないんですか?}
「うん。家族は仕事が忙しくて一緒に外食することがないし、私は友達と遊ぶ機会が少ないからファミレスに行くことがなかった」
{ではファミレスに行きましょう!}
「ありがとう」
さっそく近くのファミレスに向かった。
「いらっしゃいませー」
店員にテーブルを案内されると見慣れた女子高生を見つけた。美樹であった。服装が制服であるところを見ると部活の帰りでバスケ部のみんなとお昼を食べている様だった。美樹もこちらに気が付いた。急に不機嫌になったのが見て分かった。美樹は立ち上がりこちらに向かってきた。
「私はまだ生徒会長を信じたわけじゃないですからね!それだけです。ではごゆっくり」
美樹はそれだけ言い残し戻って行った。
{すみません。美樹は、本当はとてもいい子なんです}
「凛が謝ることではない。わかっているよ。美樹はよほど凛のことが好きなんだね」
{美樹が僕を?まさか。ただの幼馴染ですよ!}
確かに美樹は僕にベタベタくっついてくるがそれは僕をいじっているだけだ。
「そう思っているのは凛だけかもしれないよ?」
そういうと京子先輩はクスッと笑った。ご飯が食べ終わるとまた次は何をしようか悩むことになった。しかし、今回は違った。
「今日は清々しい過ごしやすい陽気だから公園にでも行って少し話さないか?」
もちろん僕は縦に頷いた。公園につきベンチに座ることにした。
{何を話しますか?}
「そうだな。私はもっと凛のことを知りたいし私のことも知ってほしい」
{では何でも聞かれたことを答えますので、質問してください。終わったら僕も京子先輩に質問させてもらいます}
「わかった。では凛は私のどこが好き?」
やはりそう来たか。聞かれるとは思ったがいきなり来るとは思わなかった。もし声を出して答えなければならなかったのなら、恥ずかしくて何も言えないところであったが文章をつくだけでいいので助かった。
{美人で優しくて積極的なところです}
「そうか。好きでいてくれたのか。私は心配だった。積極的に行き過ぎてしぶしぶ付き合っているのではないかと……それが聞けて安心した」
{京子先輩は僕のどこが好きなんですか?}
「もちろん全部だ!」
恥じらいもなく即答されてびっくりしたと同時に恥ずかしくなって少し顔を赤くしてしまった。
「私は凛のことを一年前から知っていた。凛も知っているだろうが去年、私は副生徒会長であった。新入生を迎えるために準備をしている時にある話を聞いた。入学を控えた春休みに事故で父親を亡くしたショックのあまり、声を失ってしまった生徒がいると。私は生徒が心配で仕方がなかった。副生徒会長としてでもあったが、何より人として心配になった。私には両親がいるがもし同じことがあったら私はそうなってしまうのだろうと考えると怖い気持ちでいっぱいになった。しかし、その生徒はなんと入学式に参列していた。私はなんて強い人なのだろうとビックリした。それからというもの、私は影でその生徒を見守ることにした。やはり最初のころは事故のショックで元気はなかった。声をかけて私も力になろうと思ったことがあった。だが私にはそんな力があるだろうか、逆に傷つけてしまうのではないかと躊躇してしまった。するとそこに女子生徒が現れてその生徒を元気づけた。生徒は日に日に元気を取り戻していった。私はその生徒を励ました女子生徒が羨ましく思えた。それからの私はその女子生徒を見習い副生徒会長として多くの生徒の手助けができればと思い、より頑張るようになった。私はいつの間にか生徒会長になった。これは小栗美樹さんのおかげかもしれない。それ以降もその生徒を見守っていた。いつの日からか私はその生徒を意識するようになっていた。その生徒はとても優しく怠けているが時があるが、やる時はやる男だったりする一面もあったり可愛らしいところもあった。そんなところに私はひかれていった。とある日、その生徒と合同体育をすることになった。やはりそこでも私はその生徒を見ていた。私は驚いた。その生徒のバスケをする姿は今までに見たことがないほどかっこよく見えた。圧倒的不利な相手に立ち向かうその姿勢に一段と惚れてしまった。そこで私は体育の授業が終わったら、その生徒に話しかけようと思った。しかし、その生徒はうちのクラスの男子生徒と勝負することになってしまった。続々と人が集まり話しかけるタイミングを見つけられなかった。本当であれば、あのような騒ぎは私が止めなくてはいけないのだがその生徒の真剣な眼差しに息をのんで見守ることになってしまった。そしてその生徒は勝った。今までで一番かっこよく見えた。もう人目なんてどうでもよくなって話しかけることにした。だがいざ話しかけると緊張してしまいうまく気持ちを伝えられなかった。しかしなんとか次の日にランチを約束するとこができた。その日の夜は緊張して眠れなかった。当日はもっと緊張して恥ずかしくなって逃げ出したい気分だったよ。あとは凛が知っての通り」
京子先輩がそんな風に見守ってくれていたなんて知らなかった。たまに目が合うなとは思っていたがそれはたまたまだと思っていた。
「話が長くなってすまない。これで私のことは分かってもらえただろう。今思うとただのストーカーみたいだな」
京子先輩は笑いながらそう言った。時計を見るともう四時頃であった。京子先輩といると、とても時間が早く感じる。
「今日はそろそろ帰るとしよう」
僕は頷いた。いつも通りお別れの場所についた。
「それではまた明日」
僕は手を振った。僕も帰ろうとした時
「凛!」
振り向いたと同時に目の前には京子先輩がいて背伸びして僕にキスをした。僕はただ立ち尽くした。
「お別れのキスだ。ではまたな!」
そう言うと先輩は走って帰って行った。
期末試験の時期がやって来た。
「どうしよー。赤点を取ったら、せっかくの夏休みが減っちゃうよ……」
美樹が机にうつ伏せになった状態で足をバタつかせて駄々をこねている。
「そうだな。夏休みと言ったら素敵な出会いが満ち溢れているのに、補修なんかでせっかくのパラダイスを減らすのはもったいない」
直哉も会話に混ざってきた。美樹と直哉は、運動神経は抜群だが勉強の方は苦手である。いつも赤点をぎりぎり回避している感じで今回はどうなるかわからない。
「凛は頭がいいから赤点の心配をしなくていいよなー」
直哉が羨ましそうに言った。すると美樹が立ち上がりこちらに近づいてきた。
「凛!勉強教えて!」
腕を強くつかまれてすごい目力で僕を見ながら言った。
{僕なんかより最適な人がいるよ?}
「誰?」
二人は声をそろえて尋ねた。
「それで私が呼ばれたのか?」
京子先輩である。僕なんかより学年トップの人が指導する方が最適だと思った。
「凛の頼みなら何でも聞くが」
京子先輩は承諾してくれた。すると直哉が食いついた。
「まさかあの生徒会長とお近づきになれるなんって感激です。持つべきものはやはり友ですね!」
「直哉君は大げさだな」
京子先輩は笑った。次は美樹が食いついてきた。
「私達なんかの相手をしていていいんですか?」
「なぜだ?」
「生徒会の仕事とか自分の事とかで忙しいんじゃないかと……」
「今週は生徒会役員も今週はテスト勉強に集中するために休みだ。それに二人とは話がしたかった」
「話ですか?」
「ああ。凛には話したのだが私が頑張って生徒会長をできるのは二人のおかげでもある」
「私たちが?」
「凛、俺たち何かしたのか?」
僕は笑みを浮かべながら頷いた。
「そうなのか。何をしたかわからないが、なんだか嬉しいな」
直哉は本当に嬉しそうであった。美樹は何か言いたそうにしていた。僕はまた美樹と京子先輩が衝突するんじゃないかとヒヤヒヤしていた。しかし今回は美樹は違っていた。
「その……生徒会長、今まで喧嘩みたいな言い争いしてすみませんでした!」
「気にしなくていい。気持ちは十分わかっている。すまなかったね。凛君を取ってしまって。美樹さんも凛のことを……」
美樹は何かを察知したらしく慌てて京子先輩の口を両手で覆い隠した。
「すまない。つい口を滑らしてしまいそうだった」
京子先輩は笑い出したが、美樹は顔を赤くして少し汗をにじませていた。
「私がいないとダメダメな凛ですがこれからはよろしくお願いします!」
{なんで美樹が僕の親みたいな立場になっているんだよ!}
その場には笑い声が響き微笑ましい光景であった。
さっそく勉強会が始まった。場所は京子先輩のおかげで生徒会室を使わせてもらえることになった。生徒会室は一クラス分の広さがあり窓辺には生徒会長が座ると思われる大きな机。両サイドには書類がいっぱい詰まったファイルがずっしりと棚に並べてあり、中央に長テーブルが二つ並んでありパソコンがいくつも置いてあった。その他にもホワイトボードやコーヒーセットが置いてあった。想像以上に広々としていた。
そんな部屋で勉強ができるなんて貴重な体験である。勉強会が始まったが京子先輩の教え方が上手で勉強が捗った。
期末試験が明日に控えた日曜日、僕の家で勉強会をすることになった。僕の住んでいるマンションは二人で暮らすには広すぎるぐらいなので四人で勉強するにはちょうどいいかもしれない。
美樹と直哉は何回も来たことがあったが京子先輩は来るのが初めてであった。
美樹と直哉は僕の家を知っているので先に家に入ってもらった。僕は京子先輩を迎えに行った。京子先輩はいつも通り僕を待っていた。京子先輩は僕に気が付き手を振っている。ただの勉強会なのに京子先輩の服装は今度は紫色の肩が露出しているセクシーなワンピースであった。
「やあ。凛の家に行けるのを楽しみにしていたよ」
{今日もご指導よろしくお願いします!}
家につくと唖然としてしまった。数十分もたたずに美樹は僕の部屋をぐちゃぐちゃにしたのであった。
「俺は止めたんだけど美樹は止まらなくて……」
「何言っているの!直哉も一緒にエロ本探したくせに!」
美樹と直哉は僕の家に来ると、少し目を離したら毎回僕の部屋をめちゃくちゃにする。今回は京子先輩のことで頭がいっぱいで注意するのを忘れていた。
「生徒会長こんにちは!今日はいつも以上にお美しいことで」
「ありがとう。美樹さんは何をやっているの?」
「凛はどういうのが好みか探索しているけどなかなか見つからない……」
{持ってない!}
本当のことである。別に興味がないわけではないが、美樹がこういうことを平気でするから警戒していたのもあるが何より僕にはエロ本を買う勇気がない。
「凛は持っていないのか?」
京子先輩まで食いついてきた。
「私は構わないぞ。男性はエロ本の一冊や二冊は持っているらしいからな」
僕はこの流れを断ち切るために話を変えた。
{そんなことより勉強しましょう!}
「それもそうだな!」
「今回も見つからなかったか……」
「そうね」
みんなやっとやる気が出てくれて安心した。
勉強が始まって少しした時、美樹が京子先輩に尋ねた。
「今さらですが生徒会長は自分の勉強はしなくていいんですか?毎回学年トップになるために日々勉強で忙しいのでは?」
「私は家では復習ぐらいしかしていないよ?それに順位なんて気にしたことがない」
三人は唖然としてしまった。こういう人を天才というのであろう。
「さすが生徒会長ですね。他の人とは大違い」
三人で苦笑いしかできなかった。そのあとはみんな黙々と勉強に励んだ。時刻はもう十九時過ぎであった。
「俺はそろそろ帰るよ」
「では私も帰ろう」
どうやらみんな帰るようだ。しかし、美樹は動こうとしなかった。三人で美樹を見つめた。
「私?今日は凛のお家に泊まっていく!」
「何を言っているのだ、君は?」
「だってもう遅いし勉強で疲れて動きたくない」
美樹は仰向けになって寝そべり足をバタつかせ駄々をこね始めた。小さい頃から美樹はこうやって僕の家に泊まることが多かった。
「では私も泊まっていく!問題ないな?」
何でこんなことになってしまうのであろう。正直嬉しい展開だがこの二人を一緒にするとろくなことがなさそうで心配である。
直哉はいつの間にか帰っていた。
「それじゃあ夕食はどうします?やっぱり外食?」
美樹はそう言ったが京子先輩は違っていた。
「凛のお母さんはいないようだから私が作る!」
やったー。心でそう叫んだ。彼女の手料理を喜ばない彼氏はいないであろう。
「じゃあ私も手伝います!」
僕は慌てて止めに入った。前に食べた卵焼きと似たようなものを食べるのは嫌である。
{美樹はダメ!絶対ダメ!}
「なんでよー!」
あの料理を京子先輩に食べさせるわけにはいかない。未然に防がなくてはならないという使命感が沸いてきた。僕はなんとか美樹を説得する事が出来た。さっそく近くのスーパーに買い出しに行くことにした。
「生徒会長。夕飯は何にしますか?」
「そうだな……凛が好きなカレーライスにしよう!」
京子先輩が僕の好きなものを把握してくれているだけで嬉しいのにそれを作ってもらえるなんて夢のようである。
僕がカートを押して京子先輩は次から次へと食材を入れて行った。美樹はその辺をブラブラとしていた。それはそれで余計な出費を避けたかったからありがたかった。
「こんなところかな……」
どうやら揃ったようだ。一般的なカレーではなくフルーツがいっぱい入ったカレーになるようだ。果たしておいしいのであろうか。お会計は三人で払い家に帰ることにした。京子先輩がの料理が楽しみで仕方がなかった。
どこか、こんな気持ちでこの道を歩いた気がした。すぐに思い出した。お父さんと帰った時もこんな気持ちであった。
僕がそんなことを考えていることを美樹は察知した。
「思い出しちゃったんだね……」
「何のこと?」
京子先輩には訳が分からないと言った顔をしていた。それも仕方がない。まだ詳しく話したことがなかった。
僕は事故のことを携帯電話でなるべく簡単に伝えた。いずれ話そうと思っていた。
「気になってはいたが聞いてはいけないことだと思って聞かないでいた。辛い記憶をわざわざ教えてくれてありがとう」
京子先輩は僕の手をそっと握りしめてくれた。その手はとても暖かく京子先輩の優しさが伝わってきた。
「ただいまー!」
美樹は誰もいない家にまるで自分の家のように大声で言った。
「では早速、私は料理を始めることにするよ。ちょっと待っていてくれ」
お言葉に甘えて僕と美樹はリビングでくつろぐことにした。時間が経つにつれてカレーのいい匂いがしてきた。僕はまだかまだかとそわそわしていると、それを見ていた美樹に
「落ち着きなよ!」
笑いながら言われてしまった。グゥー。そのあとに美樹のお腹が鳴って僕も笑い出した。そんなことをしている間にカレーライスが完成したようだ。カレーライスが置かれたテーブルに向かうとよりいい匂いがしてきた。
「我ながら自信作だ。どうぞ食べてくれ!」
僕はカレーライスを口に入れた。すると最初は甘くまろやかだが遅れてパンチの利いた辛さがやってきた。今までで一番おいしく食べたことがない味であった。
「美味しい?」
京子先輩は不安そうに尋ねてきた。答えはもちろん美味しいである。僕はこの気持ちを表現しようと何度も一生懸命、首を縦に振った。
「満足してくれたみたいで嬉しいよ。おかわりはいっぱいできるから遠慮なく食べてくれ!」
僕は美味しさのあまり二回もおかわりをしてしまった。美樹も満足そうであった。
食べ終わると二人は一緒にお風呂に入ってもらった。僕はその間に二人が寝る布団を用意した。布団を敷き終わると改めて京子先輩が泊まるんだと実感して今になって緊張してきた。一緒に寝たいなという願望はあったが美樹がいるから今日のところは大人しく一人で寝ることにしようと考えた。
二人がお風呂から上がってきた。
「先にお風呂頂いたよ」
僕は京子先輩の姿をジーっと見つめた。
「そんなにパジャマ姿を見ないでくれ。スーパーでこれしかいいのがなかった!」
京子先輩の恥じらいながらの花柄のパジャマ姿もとてもかわいかった。
「私のパジャマ姿はどう?」
美樹のパジャマ姿は何回も見たことがあるからスルーした。
「ちょっと!スルーしないでよ!」
僕もお風呂に入ることにした。京子先輩が入った後のお風呂はいつもと違う匂いがした。しかし二人が待っているから浴槽には入らずに頭と体だけ洗いすぐ出ることにした。
部屋に戻ると床に敷いた布団に二人は横になっていた。美樹はすでに寝ている様であった。
「早かったね。美樹さんはこの通りぐっすり寝ちゃったよ。私たちも寝ることにしよう」
僕は頷き電気を消した。次の日は、二人は制服に着替えるために朝早く帰って行った。
ついに期末テストが始まった。京子先輩に教わったおかげで今回は自信があった。美樹と直哉もいつもなら慌てて勉強しているところだが今回は落ち着いている。
「それではテストを始めます」
テスト用紙を開いた。もくもく進めていくと京子先輩が教えてくれたところが驚くほど出てきた。京子先輩に手伝ってもらったのは大成功であった。
「終了。それでは後ろから回答用紙を回収してください」
僕は直哉の方を見た。自信満々のようで前に手を伸ばして親指を上に付き立てた。どうやらいい感じのようであった。美樹もわざわざ隣のクラスからやってきて直哉同様いい感じらしい。
そのあとのどの教科もみんな大丈夫そうであった。
そしてテスト期間が終わり、解答用紙が返ってきた。僕は今までで一番いい点数であった。二人も無事に赤点を回避した様であった。
その日、みんなでお疲れ様でした会を僕の家で開いた。
「生徒会長のおかげで無事に補修をしなくて済みました!本当にありがとうございました!」
「忙しい中本当にありがとうございました。」
「私はほんの手助けをした程度だよ。この結果は君たちの力だ。これからも頑張りなよ」
「それでは無事に赤点を回避できたことを祝して乾杯!」
そうして四人は無事に夏休みに入ることになった。