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ランチ

 次の日、待ちに待った昼休みがやってきた。僕は少し緊張しながらラウンジに向かった。到着して生徒で賑わう中から身長の低い僕が生徒会長を探すのは少し大変だったが窓辺の一番奥に生徒会長の姿が見えた。生徒会長も僕に気が付きこちらに手を振っている。


「来てくれてありがとう。約束通り好きなものを頼んでくれ」


 こんな機会を与えてくれた部長には感謝したいぐらいである。お言葉に甘えてカレーライスを食べることにした。


「カレーライスとはさすが男の子と言ったところだね。見た目はこんなに可愛らしいのに」


 男の僕に可愛らしいと言われて喜んでいいのか複雑な気持ちであったので苦笑いしかできなかった。

 

 注文を終えてテーブルに戻ると周りからの鋭い視線に気が付いた。僕は少し小さくうずくまりながら椅子に座り、キョロキョロと視線を泳がした。


「周りは気にしなくていい」


 そう言われても僕はあまり目立つのが好きではない。


「カレーライスが冷めてしまうよ」


 僕は周りの視線を気にしながら食べ始めることにした。生徒会長はコーヒーだけのようだ。生徒会長はコーヒーを一口飲むとテーブルにカップを置いた。


「君は喋れないそうだね。嫌な気分にさせてしまったら申し訳ない」


 僕は少し微笑みながら首を横に振った。去年は喋れないことが原因で小さないじめがあったが今はそういうこともなく、特に気にしてはいない。


「今日呼んだのはうちのクラスの生徒のお詫びというのはただの口実で、私は前々から君に興味があったのでこれはいい機会だと思いランチに誘わせてもらった」


 生徒会長が僕に興味を抱いてくれることに驚きである。僕は今の気持ちをそのまま聞いてみることにした。


{なぜ僕なんかに興味を抱いてもらえたのですか?}


 生徒会長は少しモゾモゾと落ち着きがなくなった


「今は内緒だ。それにしても君は携帯電話でコミュニケーションを取っているのか。校内で唯一授業中に携帯電話の使用が許可されているのも納得だな」


 僕は声が出ないから先生に質問する事が出来ないので携帯電話を使って質問をしている。


「よかったらなんだが私とメールアドレスを交換しないか?そうすればこれから先、よりコミュニケーションが取りやすいだろうからな」


 正直意外すぎる展開に驚いた。僕は躊躇せずに答えた。


{わかりました。赤外線送信でいいですか?}


「わかった」


 生徒会長は嬉しそうだった。お互い携帯電話を前に出して赤外線送信の準備をした。するとさっき以上に周りがザワザワと話声がするようになった。


「あれってメアド交換?」

「あの生徒会長が男子と交換?」


 そういった声が多々聞こえた。そんなことを少し気にしながら僕は生徒会長とメールアドレスを交換できた。あの生徒会長と話せるだけでも幸せなのにまさかメールアドレスまで交換できるとは思っていなかった。


「ありがとう。私はこれで失礼するよ。今日は楽しかったよ」


 嬉しそうに言うとラウンジから去って行った。僕はついボーっとしてしまった。するとどこからともなく美樹と直哉が小走りで来た。


「凛、何話していたの?」


 僕は我に返り少し手を震わせながら文章を作った。


{これといって何も話してない。ただ……}


「ただ?」


 二人の声がシンクロした。今はそんなことを気にせずまた文章を作成した。


{メールアドレスを交換してと、頼まれて交換した}


「え?」


またシンクロした。この二人はどれだけ息がぴったりなのであろう。


「えー!」


 またまたシンクロした。このシンクロ率に笑ってしまい、いつの間にか体の震えが治まった。


「凛。本当に春がやってきたのかもしれないぞ?そんなオドオドしていないでもっと喜べ!」


 直哉は一緒に喜んでくれたが美樹は違った様であった。


「罠か何かじゃないの?あの生徒会長が男に興味を示すなんて聞いたことないよ?逆に女が好きなんじゃないかって噂があるくらいだし……」


 美樹の言うことにも一理ある。僕に前々から興味があったと言っていたが僕なんかに興味を抱かせるようなところがあるだろうか。


しかし、今はそんなことを深く考えずに素直に喜ぶことにしよう。

 教室に戻ると


「凛。生徒会長とメールアドレスを交換したのって本当?」


そう言った声がいっせいに押し寄せてきた。もう教室まで噂が広まっていた。僕は小さく頷いた。


「美樹ちゃんだけでなく、あの生徒会長までも……」

「どれだけ幸せ者なんだよ……」


 目立つのが嫌いな僕にはこの声や視線が心に鋭く刺さり痛い気分であった。この視線や声は下校中も感じた。

 


 家につきようやく落ち着ける空間にたどり着いて部屋で着替えをしている時に携帯電話が鳴った。


 メールである。送信者は生徒会長であった。さっそくメールが来て困惑した。恐る恐るメールを見ると


{こんばんは。今日はいきなりメールアドレス教えてくれだなんて急に頼んで申し訳なかった。おそらく何かの冗談か罠なんかじゃないかと考えているだろう}


生徒会長は超能力者かと疑うほど、僕の考えを的中させた。メールの続きはこうであった。


{疑われても仕方がないが、私は純粋に君と仲良くなりたかっただけ。信じてくれと言ってもまだ知り合って間もないから無理だろう。だからじっくり君と仲良くなって信じてもらうことにするよ。あと君のことはなんて呼んだらいいかな?}


僕も何を送ったほうがいいかしばらく考えながら返信することにした。


{こんばんは。僕なんかと仲良くなりたいだなんてもったいない限りです。こちらこそこれからよろしくお願いします。僕のことは新堂凛なので凛と呼んでください。僕は生徒会長のことはなんて呼んだらいいですか?}


 生徒会長との初めてのメールだったので緊張して文章を作るのに時間がかかってしまった。数分も経たずにメールが返ってきた。


{こちらこそよろしくお願いします。では凛と呼ばせてもらうよ。私のことは京子でいい}

{……京子先輩でもいいですか?}

{わかった。いきなりだがまた明日一緒にランチを食べない?}

{はい!急いで行きます!}

{また今日と同じテーブルで待っているね。では今日はこの辺で。バイバイ}

{はい。さようなら}


 メールのやり取りはこれで終了した。メールが返ってくる時間がこんなにもまだかまだかと待ちわびるのは初めてであった。また明日の昼休みが楽しみである。


 時間を見るともう二十時になっていた。帰りに買ってきたコンビニ弁当を食べて、風呂に入って寝ることにした。



 次の日の昼休み。いつも通り美樹が僕のところにやって来た。


「凛ご飯食べよー?」


{ごめん。今日も京子先輩と食べることになっているからラウンジに行くね!}


 僕は美樹のことを放っておいてラウンジに走って行った。ラウンジにつくと京子先輩はもう注文を終えたらしくテーブルにパスタが置いてあった。僕も慌てて注文してテーブルに向かった。


{お待たせしてすみません}


「私もさっきついたところだから大丈夫。では頂きましょう。」


 僕はオムライスを食べることにした。これといった会話がなく気まずい空気を何とかしようと必死に考えたが何も思いつかなかった。しかし、京子先輩から話しかけてくれた。


「昨日話した君に興味があるって話だが……理由は……」


また昨日みたいにモゾモゾと落ち着きがなくなった。

「耳を貸して」


 僕は恥ずかしがりながらテーブル越しに耳を京子先輩の方に近づけた。京子先輩は耳元に小声で言った。


「凛に一目惚れをしてしまったらしい」


 え?


 その言葉が今の僕の気持ちを最大限に表した言葉であった。確かにそれなら今までの京子先輩の行動にも納得がいく。いきなりランチに誘ったりメールアドレスを交換したり落ち着きがなかったり。


 しかし、信じられない。京子先輩に一目惚れされるほど見た目がいいとは思えない。


 京子先輩は上目づかいで僕をチラチラと見てくる。いつも礼儀正しく学校の代表に相応しい完璧な女性とは思えないほどの乙女な感じがキュンと来てしまった。


 僕まで落ち着きがなくなってしまった。頭の中が真っ白でどうしたらいいのだろう。今まで女子から告白されたことなんて一度もなかった。困惑している時に京子先輩が喋りだした。


「いつからか分からないが凛を学校で見かけるといつも目で追ってしまい、美樹さんと一緒にいるところを見ると胸のあたりが締め付けられるような感じがした。最初は病気かと思ったが、ネットで調べるとそれは恋だと書いてあった。今までこんな気持ちになったことがなかった。正直、今も恥ずかしくて逃げ出したい気分」


 僕も恥ずかしくて逃げ出したいが緊張のせいかうまく体が動かせない。動かない体を無理やり動かして文章を作ることにした。


{僕も恋というのがよくわかりません。だからうまく返答できません……}


「わかった……」


 京子先輩は落ち込んでいるようだ。するとどこからともなく知らない女子生徒が近づいてきた。


「鈴木さん、お邪魔してすみません。二人はどういった関係なんですか?そろそろ教えてもらえませんか?」


どうやら京子先輩の知り合いらしい。その話声を聞いていた生徒がこちらに近づいてきた。京子先輩はコーヒーを一口飲むと答えた。


「私が告白して、彼に振られた関係かな」


沈黙が訪れたがすぐに崩壊した。


「えー!」


 その声は学校中に響き渡るのではないかと思うほど大声だった。しかし今は声のことよりその返答に唖然としてしまった。


 しかし、すぐに行動に出た。立ち上がり、京子先輩の手を引っ張ってこの場を逃げることにした。人気のない校庭に逃げる事が出来た。息を整える間も携帯電話と取り出してさっきの発言について問いただした。


{なんであんなこと言ったんですか?}


 京子先輩はクスッと笑った。


「振られたことには変わりがないでしょ?それに凛を少しいじめたくなった」


 僕はやはりいじられ役なのだろうか。ついつい呆れてしまいながら携帯電話を見せた。


{告白の件はもう少し考えさしてください}


「わかった。しかし君は私の見込んだ通り他の男子とは違うな」


{?}


「言葉通り意味だよ。私が振った男子は山ほどいるが、私を振ったのは君一人だけだよ」


 確かに京子先輩ほどの女性を振る人は少ないだろう。


「そろそろ午後の授業が始まるから戻るよ」


京子先輩は教室に帰ろうと少し歩いたがこちらに振り向き


「あ。手を引っ張ってくれて嬉しかったよ」


 そう言い残し教室に戻って行った。僕は今になって手を引っ張っていたことが恥ずかしく思えた。まさかあんなことを僕が無意識に


 するとは思わなかった。おそらく恥ずかしいことより逃げることが優先されたのであろう。そんなことを考えながら僕も教室に戻った。



 教室につくと昨日同様いっせいにクラスメイトが押し寄せてきた。予想通りである。しかし、予想はしていたがどう対処するか考えていなかった。また逃げ出したかったがもうそんな時間はない。しかしここに助けが入った。


「みんな落ち着け。凛が困っているだろう?」


頼りになる直哉であった。やはり持つべきものは友のようだ。


「凛。それで告白されたって本当か?」


 いくら友でも聞くことは聞くようだ。僕は少し恥ずかしがりながら小さく頷いた。


「おー!もちろん付き合うんだよな?」


 まだ考え中なので首を横に傾けた。


「えー!」


 クラス全員から言われた。ただでさえ騒がしクラスなのに一段と騒がしくなった。


「コラー。騒がしいぞ。席に着け。クラスが違うものはさっさとクラスに帰れ!」


 先生がやってきて静かになった。クラスに帰っていく生徒の中に美樹もいたがこちらをチラッと見ると戻って行ってしまった。いつもはこういった騒ぎの時は一目散に参戦してくるところだが今回は見ているだけであった。そして去り際に少し寂しげな表情をしていた気がした。


 今日も濃い一日であった。一昨日からとても濃い一日が続いている。今までの僕の学校生活は美樹と直哉の三人で絡んでいるだけで、これと言って印象に残るようなことはしなかった。しかし一昨日からのことは鮮明に覚えている。


 これからの僕の生活は今までとは一変すると思った。


 そんなことを考えている間に今日の授業は終わってしまった。いつも通り三人で教室を出たら、廊下で京子先輩が待っていた。


「やあ。凛。授業お疲れ様。よかったら一緒に帰らないか?」


 京子先輩の積極的なところには僕も完敗である。消極的な僕には積極的な女性の方が合っているのかもしれない。


 僕は美樹と直哉の顔を見た。


「行ってきな!」


 直哉は許してくれたが、美樹は黙ったままであった。


「では凛。一緒に帰ろう」


 そういうと京子先輩は僕の手を引っ張って行った。


「今度は私が引っ張らせてもらうよ。いいだろ?」


 京子先輩の満面の笑みを見てしまったら断ることができなかった。


「ちょっと待って!」


 校門に差し掛かったあたりで美樹が僕たちを引き止めた。いつもとは感じが違うピリピリとした雰囲気であった。


「生徒会長はなにが目的ですか?本当に凛が好きなんですか?それに凛が嫌がっているのがわからないんですか?」

「本当に一目惚れだが問題はあるかな?何を嫌がっている?何より君が私達に口を出す権利はあるのかい?」


 言い争いが始まってしまった。争い事は嫌いである。僕はこの言い争いをどうしたらいいのだろうかと戸惑い始めてしまった。


「凛は昔から目立つのが嫌いです。それなのに先輩と知り合ってから目立ちまくりです。権利ですか?あるに決まっているじゃないですか!私は凛の幼馴染です!」


「目立っているのは申し訳ないと思っている。だがそれも時間の問題だ。関係については私が告白して今は返答待ちだから幼馴染より関係が深いかもしれないよ?そういう訳だから失礼するよ」


 そういうとその場を立ち去った。僕は京子先輩に引っ張られながら頭だけ後ろを向き美樹の姿を見たがただ棒のように立ち尽くしていた。結局僕は何もする事が出来なかった。こんな時に男らしくできればいいなとは思うが実際にできたことがなかった。


 京子先輩とは家の方向が一緒なのでしばらく一緒に歩いた。

 

「さっきは口喧嘩みたいなことをしてしまい申し訳なかった。ただ美樹さんはおそらく子離れでき親のようなものなのだろう。今までそばにいた凛が急に離れてしましそうになって焦っているのかもしれない。離れるのは時間の問題だ。だから少しきつく言ってしまった」


 先輩は美樹を思ってあんな風に言ったようだ。学校でも厳しい生徒会長だが本当は優しく他人思いのようだ。


「凛はあっちの道だな。私はこっちの道だからここでお別れだ。ではまた明日ラウンジで待っている」


 僕は手を振って京子先輩を見送った。遅れて気が付いたが、いつの間にかまた明日会う約束をしていた。

 家についてしばらくすると美樹からメールが来た。


{さっきはごめんね。私も熱くなりすぎた。けど凛が心配なんだよ}


{心配してくれてありがとう。けど、もしかしたらいい機会なのかもしれない。僕は美樹を頼りすぎていた。だから京子先輩の件は一人で何とかしようと思う}


{……わかった。じゃあまた明日}


{また明日}


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