#87 空を飛んでみよう
先に言っておきます、どうしてこうなった。
『どう?アキト美味しい?』
『うん、美味しいよリラ』
紅茶独特の香りとミルクの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
今二人が居るのはラウンジである。
そこで二人は優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいるのであった。
今の時刻は午後1時、普段ならばミッションが一つや二つ入っていても不思議ではない、とゆうか入っていないとおかしい。
『ああー、暇だ』
それもそのはず、アルビレオとアンタレスが合併して一週間が過ぎ、最初は指揮系統がバラバラで混乱していたが、それも次第に慣れ。新しい体制で始まった新アルビレオは前の面積が二倍となり、更に騒がしくなっていた。
ということは当然前からのアルビレオ支部とアンタレス支部が合併する事にもなり、守る量は増えたものの、それよりもシリウスの量が多すぎてアキト達が出るまでも無いのだ。
更にアキトはソールバニス国王から直々に「グラジオラス」の再建を命じられており、人事も好きにしろという事なので取り敢えずリラは当然の如く副隊長に任命したもののそれ以外のメンバーが殆ど決まっていない為、まだアマリリスの隊長も兼任しているくらいである。
『うーん、私達までまわってくるミッションが無いんだね』
『でももう流石にミッション行かないと…もう三日も魔獣と戦って無い…』
ケイや、エンドリア相手の模擬戦などはするのだが魔獣の討伐はこの一週間で二回である。
これでは流石に腕が鈍る。
『と、取り敢えずミラさんの所行ってみようか』
『うんそうだね。ひょっとしたらなんか有るかもしれないし!』
そうと決まったら二人は急いでエントランスへと向かっていくのだった。
その途中ケイと一緒に歩いているエンドリアを発見。
『あれ、やっぱアキト達も考えることは一緒?ミラさんの所行こうとしてる?』
『うん、てことはケイ達もか、流石にこれ以上何もしないと気が狂いそうだ』
それは一種の禁断症状なのでは?
普通の人が聞いたらそう思うだろうが、残念ながらここにいるのはストレスの発散をしたい四人の飢えた獣だけであった。
『ごめんね、今アマリリスに頼めるミッションは無いのよ』
だが頼みの綱であったミラも残念そうにフラれてしまった。
『『『『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー』』』』
長い、実に長いため息をつきながら四人はラウンジに戻る。
『俺、今なら一人で大型三体くらい余裕な気がする』
『私なら十体くらいは』
『止めて下さい、ケイさんリラさん、一匹位私にも残してくださいよ』
『ともかく、ストレスの発散がしたい…』
それが四人の総意であった。
魔獣にそれをぶつけるのはどうかと思うが、魔力を溜め込むのは体にもあまり良い影響を及ぼす訳ではない。
体内の魔力を入れ替えないと空気のように淀んでしまうのだ。
『ふむ、それならちょっと手伝ってくれないかね?』
そんな時なんやかんやでアルビレオの支部長を続ける事になったリックスがやって来た。
『いいストレス発散になると思うのだがね〜〜』
ストレス発散と聞いて今の四人は飛びつかないほど大人ではなかった。
リックスに連れられてやってきたのはアルビレオ支部の近くにある空き地であった。
『これを見てくれるかね?』
そう言ってリックスが見せたのは何かの図面と丸いメダルの様な四枚の機械であった。
『支部長、これは?』
『これはね、ソールバニス国王に命じられて作っていた魔法式人体推進装置、通称【エアログルス】だ』
『『『『エアログルス????』』』』
リックスの説明によるとソールバニス国王と共同で新たに【エレクター】という新装置を開発したらしい。
このエレクターは中に魔法陣が埋め込まれており、魔力を流す事でその魔法陣が発動し、簡単な魔法を発動するというものである。
『これで理論上アキト君だろうと、ケイ君だろうとたとえ他の人だろうと他の魔法が使えるようになった。という訳だよ』
『なるほど』
凄いのは分かったが、なぜそれがエアログルスに繋がるのかわかっていない。
『それはね、このエアログルスはエレクターを使って僕が作った試作品第一号だからだよ。流石に戦闘用に使えるほど強くは無いのでね、戦闘の補助として使おうと思った訳だよ』
そう言ってリックスはエアログルスの説明に入る。
理解すれば簡単な理論だがそれは少々危なかっしいものである。
エアログルスを自分の両足の靴底と腰の後ろに取り付け、魔力を流す事で空中で風の魔法を発動、足からは地面に向かって、腰からは後ろへ向かって風を連続的に送り出すことで推進力を得ようとするものだった。
要は空を飛ぼうと言うのだ。
『という訳で誰かやってみたい人はいるかな?』
『はい!』
最初に手を挙げたのはアキトだった。
『正気か⁉︎アキト⁉︎⁉︎⁉︎』
『お願いアキト!自分の身は大事にして!!』
『止めて下さいアキト隊長、危ないです!』
『君達…僕の事を信用してないね……』
それもそのはず、リックスは今まで火の魔力をビンに詰めてそれを投げれば爆発するんじゃないか、という独自の理論でそれを作り、暴発してオルガにこっぴどく怒られた経験があるのだ。
『まあ、いざとなったら逃げるから平気だって』
その一言でアキトはエアログルスの実験台となったのだった。
エアログルスの取り付けが終わり、遂に試験が始まった。
『よーし、先ずは足に軽く魔力を込めるんだ』
リックスの声に応じてアキトが足に魔力を込める。
すると唐突にエアログルスから風が送られ、アキトの体は数センチ中に浮いた。
『おお!これ凄い!本当に浮いてる!!』
『よし、今度は腰のあたりに!』
『よし!』
アキトは腰に魔力を込める。すると少しづつではあるが、アキトの体が前に動き始めた。
『おお!すげー!しぶちょーー!!俺にも無いんすか!』
『まあ待ってくれ、アキト君が終わったらね。よーしもう少し足に魔力込めて!』
そうしてエアログルスの実験は終わると思われたのだが…
『よーしラストだ!ありったけの魔力を込めてくれないか!どこまでいけるかチャレンジしたい!』
『いいですよ支部長、こいつの制御にも慣れてきましたし』
アキトが笑顔で答える、だがその笑顔はすぐに引きつることとなる。
アキトの最大の魔力を受けエアログルスは、突然その本性を剥き出しにしたのだ。
圧縮された空気の塊が連続してエアログルスから放たれ、強烈なジェット噴射がアキトの体に加速を与える。
いや、正確に表現するならば加速ではなく、「弾き飛ばした」と表現する方が正しいだろう。
『うぉぁぁゃゎぁゎゃぁ!⁉︎!』
明らかに暴走し始めたアキトを見て声が出ない四人をよそにエアログルスは暴走を続ける。
アキトの体には強烈な慣性がかかり、それに対抗するあまり操縦がおろそかになる。
そうしてふらつきながらそれに変化を与えたのは地面に落ちていた小さな小石であった。
エアログルスの気流の流れが小石によって少しだけ狂い、だが時が経つにつれてその狂いは大きくなっていく。
アキトの体が空高く舞い上がっていくのを四人は確かに見た。
アキトが必死に止めようと自分の向かっている逆方向に思いっきりアトミックブレイザーを放つも、暴走するエアログルスは止められない。
眩い焔を引き連れ、空高く舞い上がるアキトの姿は、アキト自身の悲惨な状態とは逆に、ある一種の感動を伴いながらその光景をリラ、ケイ、エンドリア、リックスはぽかーんという効果音が似合いそうなまま、口を開けて見入っていた。
『リックスしぶちょーー!!止めるほうほーはーーーぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』
アキトの悲痛な叫び声で四人は我に帰る。
『そうだ!早く止めないとアキトが死んじゃう!』
『支部長、止めてあげて下さい!』
だが支部長は何も言わず黙り込んでいる。
そしてやっと重い口を開いて出した言葉は、
『ゴメン、止める方法つけるの忘れてた(笑)』
『『『『はぁぁぁぁぁぁぁあ?????』』』』
だがアキトにとって幸いな事に唐突に始まったこの暴走劇は唐突に終わりを迎える。
足につけていたエアログルスが限界を迎え、故障をしたのだ。
それまでアキトを空中に放り出していた強烈な推進力が低下し、重力を負け、アキトの体が地面に向かい落ちてくる。
だがアキトに残念な事に腰のエアログルスはまだ作動しており、推進力が完全になくなった訳ではない。
『ウヮァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎!!!??⁉︎⁉︎』
アキトの体がどんどん地面へと近づく。
『ブリューナクーーーー!!!!!!!!!!
咄嗟にアキトはブリューナクを呼び出し、なんと詠唱なしで使う。
流石に宿主に死なれては困るのだろう、ブリューナクは自らの意思で詠唱状態と同じになった。
『うおりゃゃゃゃゃゃゃゃーーーー!!!』
そのままの勢いでアキトは地面に落下、ブリューナクを地面に突き立て、大きなクレーターを開けたものの、ブリューナクの焔のお陰で命に別状はなさそうだ。
だが喜びも束の間、アキトが割った地面から突如として、水が噴き出してきたのだ。
『なんだ⁉︎⁉︎⁉︎』
その水はアキトに思いっきりかかり。
『冷たっ!……くない?』
そうそこから出てきたのは。
『温泉キターーーー!!!!!』
無駄に喜ぶリックスをよそに、リラがアキトを医務室へと連れて行く。
そのあとアキトとリックスがミラにこっぴどく叱られたのは別の話。
なんか今までで最高の文字数が今回なんですけど……
あの温泉は新しいアルビレオの観光名所となりました。




