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聖焔の軌跡 〜Miracle Lucas〜  作者: ムササ
第六章 The black flame which is distorted
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#109 風と炎と焔

『ぐっ!』

『オルガさんっ!!』


リボルトで限界まで強化されたオルガの感覚を持ってしても一瞬何が起きたか分からなかった。だがそれも一瞬のこと。直ぐさまオルガは自分とマギガロスに何が起きたのかを悟った。すなわち、マギガロスの周囲を強風が、敢えて言うならば竜巻が覆ったのだ。

目を一瞬でも離せば見失う特攻、たとえ離さなくても通常ならば見えないその攻撃をマギガロスは獣の直感とも言うべき恐ろしき人間には備わっていない、進化の過程で失ってしまったであろうもの、第六感とも言うべきものでその攻撃を防いで見せたのだった。


『小賢しい、おとなしくやられれば苦しまずに済んだものを…』

『しっかりして下さいオルガさん、言ってることが悪役です』


だが、弾かれたオルガの体に傷らしきものは見当たらなかった。オルガの固有魔法であるリボルトの恩恵は攻撃力だけには止まらない。全ての身体能力強化系の魔法の上位互換とも言うべきこの魔法は解いた時の凄まじい副作用の代わりに使用者に人を超えた身体能力を授ける。それ即ち防御力も通常のその比ではないということだ。


『一人じゃあいつの相手は無理です、事前の打ち合わせ通り一撃で倒しきれなかったので俺も参戦します』

『ああ……オルガ・エレサールに二言は無い、頼んだぞカルマ』

『勿論です、俺だって少なからずアンセムには面識があるんですから』


アンセム・エレサールと前鳥カルマはアンセムがアルビレオに来るまではそれぞれ部下と上司の関係……ではなく兄弟の関係に等しいものであった。アンセムが死んだとアキトから聞かされた時の絶望感は筆舌に尽くしがたい。だからカルマもオルガに負けず劣らずアンセムと同じような魔法を使うマギルガ種には少なくない憤りを感じる。


たとえそれが八つ当たりだとしてもそれを看過出来るほどオルガとカルマは人間が出来てはいなかった。


『だから、俺も参戦させてもらいますよオルガさん』

『ふっ、オルガでいい。今は私は流星と呼ばれた1人の女だ』


二人はそれぞれ王の器を構え、マギガロスに突っ込んでいく。二人の魔法は遠距離から攻撃できる類のものでは無い。彼らにはその肉体しか攻撃出来る方法が無いのだ。だから、だからこそ彼らは走る。それが彼らの弟の慰めになると信じて、それがたとえ独りよがりな思い込みだったとしても、彼らはそれ以外に理由など求めなかった。


それを見たマギガロスがその鎌から風の斬撃をなぎ払う。それは真空波となり、彼らを襲う。しかしそれはカルマの拳に、鞭に払われる。その間にオルガが風の間を縫ってマギガロスへと接近する。マギガロスはそれを見ると、またも自身の周りに竜巻を発生させオルガの接近を許さない。しかしそうするとカルマへと向かう斬撃は精度が甘くなるわけで、それを見逃すほどカルマは甘いわけでは無い。


カルマはその場(・・・)で腕を引き絞り、大きく拳を突き出す為の構えを取った。マギガロスはその隙を逃すまいと大きく鎌を振るう。その先から風の斬撃が飛び、カルマの首を狩らんと襲いかかる。その斬撃がカルマにあたる寸前カルマは拳を真っ直ぐ。ただ真っ直ぐ斬撃に向かって打ち出す。その拳は斬撃を霧に変え、更にその効果はマギガロスに向かって飛んだ。


カルマの固有魔法、コンバットは殴れば殴るだけその拳の威力が上がる魔法である。さっきまで殴り続けた風の斬撃のダメージにより、地に濡れた拳の衝撃が、友への思いを乗せた一撃がマギガロスの竜巻の結界を打ち破る。


『良くやった、カルマ。後は任せろ』


竜巻の結界という防御壁が無くなったマギガロスは余りにも無防備であった。リミットを外した垂直跳びでマギガロスの頭上からオルガは喜びを噛み締めながらそう言った。

マギガロスがそれに気づくももう遅い。リボルトの効果と妖精の籠手の能力により、限界まで弾き飛ばす事に特化したオルガの一撃がマギガロスの頭を貫く。

メキッという音と共にマギガロスの頭が首から下を残して地面に弾かれる。それは大きなクレーターを作りながら地面に埋没する。

マギガロスという魔獣のあっけない最後であった。


『静かに眠れ、今まで殺してきた市民に頭を下げながらな』


オルガとカルマの体を風が撫でる。それは今までのような強制された風ではなく、柔らかな風だった事は言うまでもない。


〜〜〜〜〜〜〜


『まだだ、まだ足りない』


リラはオルレマイオス古代種の放つ炎を紙一重でかわしながら一心不乱にヴァルキュリアを放ち続けた。その矢がオルレマイオス古代種を貫く度、オルレマイオス古代種は耳障りな悲鳴をあげるものの数秒後にはすぐに完治してしまっていた。

側から見れば全くもって無意味な攻撃、しかしそれを行うリラの顔は全く負ける事など考えてはいなかった。


『うーん、あと30……顔と尻尾……かな?』


そんな事を呟きながらリラはオルレマイオス古代種の頭と尻尾にヴァルキュリアを撃ち込む。又もオルレマイオス古代種は耳障りな悲鳴をあげるも、すぐに完治させてしまう。しかし、それを見届けたリラは微かに、しかししっかりと微笑んだ。

その時、


『みゅう!!』


後ろから聞きなれた少女の声がリラの耳に届いた。

そこにいたのは狐の耳と尻尾を生やした小さな少女。


『エレム!?なんで此処に!?』


その少女、エレムはリラの記憶が確かならばアキトと一緒に居たはずだ。あのアキトが戦闘能力に劣るエレムを一人で行動させるわけは無い。そしてリラはエレムがアキトの事を無視して勝手に単独行動をする様な少女ではない事をも知っていた。


『みゅう!!みみゅう!!みゅみゅみみゆぅ!!!』


エレムは何かを必死にリラへと伝えようと必死に叫んでいる。その間にもオルレマイオス古代種はリラを焼き尽くさんと炎を放つ。リラはそれをかわしながらいきなりエレムが現れた理由を考える。

第一にアキトがエレムを単独行動させる訳は無い。第二にエレムも勝手に単独行動をする様な少女ではない。第三にこんなにエレムが必死になっているのは初めての事である。第四に、


『アキトからの作戦完了の狼煙が上がらない』


今回の作戦としてはベガの街に現れた古代種を討伐し、魔獣に変えられたユイを人に戻す事である。よってその要となるアキトがコトハを呼ぶ為に狼煙をあげることとなっていたのだ。ただ単にまだアキトがユイの戦闘能力を奪えていないだけかもしれないが、何かがおかしい。それらの事から導き出せる答えは………


『アキトに何かあったの?』


エレムがこくんと頷くのを見て、リラは胸に一抹の不安を覚えた。アキトが危ない。リラの頭の中を占めるのはそれだけだった。アキトの元に駆けつけなければならない。その為にエレムは私の元に来たのだから。だが、それを許すまいとオルレマイオス古代種が炎を放つ。


『うるさい』


リラの視線がオルレマイオス古代種に向けられると共にオルレマイオス古代種の動きが止まる。それは言うなれば《蛇に睨まれた蛙》と、言うべきなのだろうか。オルレマイオス古代種は生命の危機を感じて一瞬止まらざるを得なかったのだ。だが、オルレマイオス古代種はそれを振り払う様に炎を放つ。そしてリラはそれを避け、指を一回鳴らす。


たったそれだけ、それだけの動作でオルレマイオス古代種の体が、全身が、全てが全て、爆ぜた。


リラの固有魔法であるファンタジアは火、水、風、土の4つの精霊を操る魔法である。そして、ヴァルキュリアにはその効果を乗せることが出来る。そう、リラはずっと放ち続けていたヴァルキュリアに火の、即ち爆破の属性を乗せ続けていたのだ。ヴァルキュリアの傷自体は完治できても体内に残った矢までは消すことは出来ない。

そしてそれはリラが指を鳴らすだけで爆ぜる様に出来ていたのだ。


内部からの爆破を食らったオルレマイオス古代種は再生などさせる暇もなく、木っ端微塵に弾け飛んだ。


『そんな【炎】で私をオトそうなんて100年早いのよ、私をオトしたければもっと熱い【焔】を持って来なさい』


オルレマイオス古代種の硬い攻殻と、血が降りしきる中、リラはエレムと共にアキトの方へと走っていった。


(お願いだから無事でいて、アキト!)

女性陣はこんなにもカッコいいのに何故だろう、ケイよ、何故貴方はそんなにもカッコよくならないのだ。

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