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聖焔の軌跡 〜Miracle Lucas〜  作者: ムササ
第六章 The black flame which is distorted
115/121

#108 咆哮


『くそっ、らちが明かねえ』


ジントとケイがゾアギラエスとの交戦を始めてから約15分。何度もゾアギラエスに攻撃を仕掛けるものの、ゾアギラエスは致命傷を食らったり胴を切り裂かれたりすると、すぐさま分裂を始め、大きさこそ人間の1.5倍程にまで縮んだが、その数を32まで増やしていた。

ゾアギラエスはゾアーク種の使うメタクスを駆使し、二人の王の器であるバルクーサスと、コルセア以外の攻撃は器用に受け流したり弾いたりして、攻撃を凌ぎメタクスで体全体を硬化させ弾丸の様に体当たりを仕掛ける戦法をとっていた。


『このままだと、俺たちの魔力が先に底をついちゃいますよ』

『……それだけは流石に避けたい所だな』


今二人がどうにか攻撃を捌けているのはひとえにケイのお陰である。ケイの固有魔法であるテレポートとケイの使うマジックボードが無ければ王の器で攻撃を弾く以外防御方法の無い二人は今頃魔力が底をつきゾアギラエスの餌となっていたであろう。ジントのグラビデウスでゾアギラエスを協力な重力で押さえつけ、動きを制限してはいるものの、元々ヘビの魔獣であるゾアーク種は余り重力の影響を受けやすいとは言えない。更に都合の悪いことに、


『どうやらこいつら、視界の共有をしてるっぽいな』

『視界の共有?どうしてそんな事分かるんですか?』

『…ケイ。お前もうちょっと魔力感知の練習した方が良いぞ?仮にもアマリリスを背負って立ってるんだからな』

『……はーい』

『まあいい。元々こいつらは一体の魔獣だっただけあって視界の共有が出来るらしい。さっき気になって魔力を探ったらそんな兆候が見えた。という事はだ』

『さっきからやけに連携とか奇襲が上手いと思ったんですよ……』


視界の共有が出来るという事は、攻撃を受ける側の視界と攻撃をされているゾアギラエスを見ることの出来るゾアギラエスの視界とがリンクしているという事である。それはすなわち、攻撃の全体像が見えるという事であり、どう動けば相手がどう動くという事が筒抜けになるという事で、相対的にケイたちの攻撃は当たらず、ゾアギラエスの攻撃が当たりやすくなるという事である。


『だがまあ朗報もある、取り敢えずこいつらはもう分裂出来ない。多分この数がゾアギラエスの分裂の限界なんだろう』

『てことは、一匹づつ倒してけば俺たちの勝ちって事ですか⁉︎』

『いや、事はそんな上手く行かねえ。どうやらこいつらは全部一斉に倒さないと倒された奴に他の奴が魔力を送って再生させちまうみたいだ』

『……この数を全部一斉に倒さないと、俺たちに勝ちは来ないって事ですか』

『ああ、こりゃあちと厳しいかもな』


ジントのバルクーサス然り、ケイのコルセア然り、二人の王の器は範囲攻撃の出来るタイプの王の器では無い。となると範囲攻撃の出来るリラやコトハなどの援軍を呼んで来ないとケイ達に勝ち目は無いという事になる。


『……まって下さいジントさん。俺にちょっと考えがあります。奴らを一箇所に集めることって出来ますか?』

『ああ、それ位ならお安いもんだ………なんか思いついたか?』

『はい、上手くいけば奴らを一網打尽に出来ます』

『…オッケー。やってやるよケイ。俺とアキトから受け継いだアマリリスの隊長職の意地ってもんを思い知らせてやれ!』

『了解です!』


そこからの行動は早かった。ジントがグラビデウスを発動させると、今度は重力を加えるのでは無く、無重力としてゾアギラエスを一箇所に纏めたのだ。


『準備完了だぜ、ケイ!』

『了解です、ジントさん。俺がテレポートを使ったら直ぐにグラビデウスをまた加重力に戻して下さい。じゃあいきます!』


ケイはゾアギラエスと共に自分ごとテレポートで空高く転移する。その瞬間ジントのグラビデウスがケイとゾアギラエスに掛かり、地面に向かって恐ろしいまでの加速で落下を始めた。その間ケイはコルセアを地面に向かって乱射し続ける。


(視界の共有とかいうのが無ければもうちょっと楽だったんだけどな。つーか、視界の共有だけでこんな苦戦するんだからリラのラル・イーガとか恐ろしいな。アキトの古代魔法に比べて地味だなーとか思ってたけど、ごめんなさいリラさん。今までそんな事思っててすいません)


そんなことを思いながらもケイはコルセアの引き金を引くのを止めることは無い。右からは爆散しながら飛ぶ魔法弾。左からは拡散しながら飛ぶ魔法弾。左右のコルセアから放たれる魔法弾は加重力の影響を受けていないため、ゾアギラエスに届くことは無い。しかし、それでいいのだ。そして、ケイとゾアギラエスが地面に接触する寸前。ケイは自分と、コルセアから放たれる魔法弾のみをもう一度転移させる。テレポートを受けなかったゾアギラエスは地面に叩きつけられる直前、メタクスを発動しダメージを最小限まで減らして、まだ倒すまでには至っていない。

しかし、そこまでがケイの作戦であった。ケイは本当に少し上空に転移し終えると、もう一度だけコルセアの引き金を引き、テレポートを使い地面へと降り立った。そして数瞬遅れて一つに纏まった(・・・・・・・)魔法弾に最後に放った魔法弾がぶつかり、地面へと落下する。


ケイの作戦はいたってシンプルである。

ジントに一箇所にゾアギラエスを集めてもらい、テレポートで上空に転移する。加重力を受けたゾアギラエスは落下によるダメージを最小限まで減らす為にメタクスを使い、自身を硬化させる。硬化させれば当然ダメージは減るもののその反面地面にめり込むというデメリットが起こる。そしてその隙に上空で放ち続けたコルセアをテレポートと共に集中、合体させ、最後に放った魔法弾にぶつける事で推進力を得て、ゾアギラエスを一網打尽にする。


凄まじい爆発音と共にゾアギラエスのいた場所ごと地面がえぐられる。ゾアギラエスは爆発に巻き込まれ、その体は粉々となっていた。


『メタクスに頼りきるのも考えものってね』


ジントとハイタッチを交わすケイの顔はアマリリスの隊長に相応しいものとなっている事にジントだけが気付いていた。


〜〜〜〜〜〜〜


『ベガの街をこんなにしちゃって……もうちょっと考えて行動した方が良いんじゃない?』


コトハの対峙するギルオークが口を開けると、コトハ目掛け見えない大砲が打ち込まれる。これこそがギルオークの魔法である。その正体は衝撃波。ギルオークは口から衝撃波を放つことのできる魔法を使うらしい。


『そんなにコトハに耳とか牙とか折られたのが不満?でも当たんなきゃ意味ないよね!』


ギルオークは今頭に血が上っていて通常の思考すらする事も出来ない。よって今ギルオークが使っている魔法はその口から衝撃波を放つ魔法だけであり、サファイアすら使えない。だが、コトハはシリウスの中でも唯一王の器を二つ持つ事が許されるほどの実力者である。そんな単調な攻撃、誇張でも何でもなく目を瞑って躱すことすら造作もない。


『麗華一門 紫電椿』


コトハがナルカミをサファイアで強化された凄まじい速さで振るう。それに合わせ、ナルカミからは雷が撃ち放たれ、ツキウサギもそれに合わせ鋭く尖り、何本もの矢となりてギルオークを襲う。ギルオークは衝撃波を撃つことに躍起になっており、致命的にその反応に遅れた。

髪がギルオークの表皮を焦がし、ツキウサギが更にその表皮をえぐる。その攻撃は少女が繰り出すものとは思えないほど相手の体力を奪う事に特化していた。

それが、神凪流の戦闘術。それが、本来のコトハの力である。コトハの固有魔法は戦闘に使えるものでは無い。だが、しかしそれを補って余りある戦闘能力がこの神凪コトハという少女には存在する。


『仮にもコトハは二人の神の器使いの妹だよ?そして何より、神凪の血はこんな魔獣程度に敗れるほどやわじゃないんだよね』


しかしギルオークも古代種の名を冠する魔獣である。元々のギルオス種のタフネスさも合わさって、タフネスだけは超大型種であるソルド・ギルワーカ以外にならば肩を並べる事すら許さない。全身を血で濡らしながらギルオークは立ち上がった。

そして今にも倒れてしまいそうな自分の足に檄を飛ばすように一際大きな咆哮を上げると、衝撃波を口から放ちながら、突進を始める。衝撃波はギルオークの全身を包み、その巨体の質量も合わさって、直撃すれば人一人などひとたまりもないだろう。


『それが、貴方の最後の力を振り絞った攻撃ってわけだね?いいよ、その攻撃とコトハの攻撃、どっちが強いか試してみよう!いくよ、麗華一門 八重桜!!』


コトハは自身の足にサファイアを全開で纏い、一気に力を込め駆け出した。必然的にギルオークと真正面から立ち向かう事となる。ギルオークの巨体とコトハの小さな体が交差する。事にはならなかった。

コトハとすれ違う直前にギルオークの体が八つに分かれていく。ナルカミと三本に分かれたツキウサギがすれ違う直前にギルオークの体を八つに切り裂いていったのだ。

基本的に麗華一門はアキトの聖焔七式をもとに作られている。アキトの一閃をコトハなりに改良した一撃という訳だ。そしてコトハが動きを止める頃にはギルオークの生命活動は完全に停止していた。


『コトハを負かせられるのは、お兄ちゃんだけだよ?間違っても魔獣には負けないんだから』


まあ、アキトお兄ちゃんを負かせるのは私とリラお姉ちゃんだけだけどね。

そう付け加えるコトハの顔は笑っていた。


その時、爆音がベガの街に響き渡る。


(今の音、魔獣の咆哮?取り敢えずみんなと合流しなきゃ!)


そして取り敢えずコトハは一番近くで戦っていたリラの元へと駆け出した。

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