#106 違和感
『マギルガ古代種、マギガロスか。行くぞカルマ』
『了解っすよオルガさん』
ベガの街の中心部から少し西へと向かったところにマギルガ古代種、マギガロスと対峙するオルガとカルマの姿があった。
オルガととカルマに気が付いたマギガロスが奇声を上げながら両の鎌を乱れ振る。マギルガ種特有の魔法である風を操る魔法である。その鎌からかまいたちにも似て非なる大きな鎌状の斬撃が飛んでくる。
『無駄ぁ!』
カルマが王の器、風鞭マカツカゼを起動。全ての風を撃ち落とす。マカツカゼは触れた物の魔力の流れを阻害する王の器。魔力の塊である攻撃に触れれば、それは無効化される。その隙を生かし、カルマは一気にマギガロスに接近する。しかし、マギガロスは風と自身の鎌を縦横無尽に振るい、カルマの接近を許さない。
『今っすよオルガさん!』
しかし、マギガロスは見落としていた、カルマの後ろに魔力を貯めているオルガの存在を。
『リボルトを発動。妖精の籠手を起動。悪いな、私はこの世からマギルガ種は絶滅させると誓っている。風の魔法使いは私の中では一人で十分だ』
オルガ・エレサールの弟、アンセム・エレサール。今は亡き彼の魔法とマギルガ種の魔法は酷似している。
『今、私がお前を倒す理由はそれでも足りないか?!!』
リボルトで限界までリミッターを外されたオルガはその弾丸の様な速さでマギガロスに突っ込んでいく。その筋力は人間であって、人間には到底到達できないものである。彼女の王の器、妖精の籠手の能力も相まって、彼女に触れたら、その巨体といえど数キロは吹き飛ばされる事は確実である。そして、彼女とマギガロスの距離が数メートルと迫った時、目の前を凄まじい暴風が吹き荒れた。
〜〜〜〜〜〜〜
『赤い…オルレマイオス?……そんなの聞いたこと……』
リラが追いついたオルレマイオスは赤かった。
少なくともリラの聞く限りオルレマイオスの古代種というものは聞いたことはあるものの、殆どは他のシリウスに討伐されたと聞いていた。勿論リラの知らない所で新たな古代種が生まれたという事はあってはならないものの、絶対に無いとは言い切れない。言い切れないものの、リラは何か引っかかる物を感じていた。
だか、そんな事は御構い無しにオルレマイオスはリラに攻撃を仕掛ける。その尻尾とハサミでリラを串刺しに、あるいは真っ二つにしようと、襲いかかる。
だかそれをリラはヴァルキュリアで迎撃、すかさず胴にも何本か矢を射る。だか、オルレマイオス古代種はオルレマイオス特有の魔法、超速再生で傷を塞ぐ。
『やっぱり再生能力か…さーて、古代種特有の魔法は何かな?』
すると見せつける様にオルレマイオス古代種の体が赤い光に包まれ、ハサミを前に突き出すとそこから炎が噴射した。
『炎⁉︎』
リラはギリギリで黒色魔力を解放すると、間一髪それを回避。更にヴァルキュリアを反撃として放つものの、再生され、傷が塞がってしまう。
『なるほど、接近戦はハサミと尾の針で遠距離は炎って訳ね。しかしよりによって炎とか……ケンカでも売ってるのかな?』
皮肉にもオルレマイオス古代種の使う魔法はリラの最も愛する人の魔法とほぼ同じである。その事がリラの怒りを買う事をオルレマイオス古代種の魔獣の頭では分からない。分かったとしても、どうしようも無い事ではあるのだが。
『決ーめた。あなたは私が倒す。恨むんならそんな魔法を持ってしまった自分自身を恨むんだね。黒色魔力解放………スプレッドノヴァ!!』
それはかつてリラがアキトと共にソルド・ギルワーカを倒した時に使ったヴァルキュリアの攻撃。空高く光の矢を連射、拡散する事で広範囲に多数の矢を降り注がせる攻撃である。だが、あの時とは違いリラは黒色魔力を解放している。星誕祭の時よりリラは自分の黒色魔力を使うと相手の先を読む事が出来る事を発見していた………のちにこの事は世界に革新を生み出すのだが、今は知る由もない。
オルレマイオス古代種に光の矢の雨が降り注ぐ。
空を切る音の一つ一つにそれぞれその巨体を貫通する攻撃力のある矢が実体を持って降ってきており、オルレマイオス古代種の体へと降り注ぐ。オルレマイオス古代種はその持ち前の超速再生で傷を塞ぐが、それでもまだ矢は降り注いでくる。やがてその雨が止んだ時、オルレマイオス古代種の残り魔力は半分を切っていた。
オルレマイオス古代種は傷つけられた怒りからか奇声を上げながら無茶苦茶に炎を乱射する。だかリラはそれを相反する属性である水の精霊の力を借り、それを相殺していく。それに気が付いたオルレマイオス古代種は自身のハサミを捻じ曲げ、変形させていく。二つのハサミは螺旋状に刃を絡ませながら細く、鋭く尖っていく。そしてオルレマイオス古代種には三本の針が備わった。
『そろそろチェックメイト…かな?』
オルレマイオス古代種は自身の体に残った魔力をすべて使い、自身を炎で燃やす。焼けただれていく皮膚はすぐさま再生され、自身へのダメージはゼロ。炎で攻撃力は上がるという魔獣らしからぬ行動である。
本当ならばここで気づくべきだったのだ。リラが気付いていれば、この魔獣らしからぬ行動に疑問さえ持っていれば。
ーーそうすればこの後起こる悲劇など起こり得なかった。
〜〜〜〜〜〜〜
炎の大剣と影とがぶつかり合う。アキトの振るうブリューナクとユイの振るうカシオスがぶつかるたび火花が散る。
アキトがブリューナクを振るい、ユイのスパルラス交戦禁忌種と化した腕を薙ぎ払えば、ユイが負けじとアキトの胴を狙い薙ぎ払う。
かつて仲間として戦った二人は一人はかつての仲間を取り戻すために、もう1人はただ本能に従って攻撃を仕掛ける。
『アトミックブレイザー!!』
アキトがブリューナクの先から熱線を撃ち出す。それをユイは近くの建物の瓦礫を飛ばす事で相殺し、炎と瓦礫を砕きながら影を伸ばす。この影に捕まってしまえばアキトの命は無い。ユイの固有魔法であるシャドーレは陰に攻撃を仕掛ける事で本体にも同じダメージをあたえる魔法である。
どんなに鍛えても影の防御力など上がるはずもない。影の首が切り裂かれた瞬間、アキトの首も飛ぶのだ。
成り行きで連れてきてしまったエレムも実はアキトの役に立っている。アキトの背後は言わずもがな死角である。本来ならば見えるはずもない背後をエレムがカバーしているのだ。ケモノの第六感とも言うべき察知能力で、エレムはアキトの第三の目として機能していた。
そして、ユイが体制を崩し、アキトがブリューナクを振るいユイの戦闘能力を奪おうとした時、そいつは現れた。
『久しぶりね、神凪アキト』
その瞬間、アキトに向かって特大の魔力弾が襲いかかった。