#105 市街地の戦闘
『目を開けるとベガの街の中心部だ。住民は避難完了という報告も来ている。準備はいいな?』
俺たちは顔を見合わせて一斉に頷く。
ぐるりと見渡すと最後にミディアに抱き抱えられたエレムと目が合った。
『行ってくるな、エレム』
『みゅう…』
危ないから連れて行く訳にはいかないんだよ。わかってくれ。俺はそんな事を思いながら、リラの方を向く。
リラにとってはこれが唯一グラジオラス時代に色々な事を教えてくれたユイにとっての恩返しであろう。気合いも十分で、魔力もみなぎっている。
ミディアやチェリアは心配そうな顔をしてくれているな。大丈夫だ、と言い聞かせたんだけどな。まあいい、絶対に帰って来ることは変わらないんだ。その後でゆっくり話でもしよう。
『さあ、送るぞ。準備はいいな。皆の者…ベガの街を…頼んだぞ』
ソールバニスのそんな見送りの言葉と同時に俺たちの下の魔法陣が標準白く光り出す。そして光が目の前を包み込む………………もふっ。
『あっ……』
もふっ?
そんな事を考えている間に転移するときの独特の体が引っ張られる様な感覚が俺たちを包んだ。
〜〜〜〜〜〜〜
『えっ、ちょっ…アキト?』
『も、もが、もがふがっ!』
『みゅう!』
アイアンクロー健在なり。
見事に転移の瞬間エレムが又も三本の尾でアキトの顔に綺麗にアイアンクローをかましたのだ。
『ま、まあ付いて来ちまったもんはしょうがねえ。アキト、責任とって一緒に連れてってやれ、下手に隠すよりもよっぽど安全だろ』
『は、はい』
そう言うジントの采配により、アキトの背中を勝ち取ったエレムは心なしか誇らしげである。
その時、凄まじい轟音と共にベガの街の東の外壁が崩れ落ちる。するとそこから遠目ではあるが、巨大な魔獣の顔が見え隠れしている。
『ちっ、侵入しちまったか。しょうがねえ、被害の確認しておきたかったが、行くぞ!!』
そう言って真っ先に先頭を走り始めるジントに続いて、俺たちも走り始めるのだった。
数分走って輪郭まで目視出来るようになった魔獣はどうやらバラバラにベガの街に攻撃を仕掛ける様だ。この動き、間違いない。キリコが操っている。
『各自さっき決めたペアを組んで魔獣を追え!…アキトあいつは頼んだぜ』
『……勿論…絶対に助けてやりますよ』
今俺の目の前には巨大なスパルラス、ユイが立ちはだかっていた。
リラ達が他の魔獣を追いかけるのを阻止しようとしないのはキリコに操られている為か、それともハルやアツシの様にユイとしての人格がまだ残っているのか。
みんなが居なくなったのを確認してから俺は叫んだ。
『ユイ!俺だ!アキトだ!!助けに来たぞ!!』
『…………』
ユイはその前脚を大きく薙ぎ払った。
どうやら後者では無いらしい。
もしかしたらと期待したが、それならばコトハの力を借りるまでだ。俺はそれまでにユイを戦闘不能に追い込めばいい。
『……上等だ。グラジオラスの特訓の続きといこうか、ユイ!』
俺はブリューナクを起動し、ユイはシャドーレを発動して互いに飛び込んだ。
〜〜〜〜〜〜〜
『コトハの相手は…ギルオス?…じゃなくって古代種だから…ギルオークか!』
コトハは外壁沿いに走っていたギルオークに追いつくと、そう言った。
『さーて、さっさと終わらせてアキトお兄ちゃんの所に行かないとねー……じゃあいきますか!』
コトハはナルカミとツキウサギを起動。その気を逃さまいとギルオークはギルオス種特有のサファイアによく似た魔法で、一瞬にして距離を詰め、コトハに爪を振るう。
『ちょっと…先制攻撃とはやるじゃん。でもまだまだ…ねっ!』
コトハはそれをツキウサギを全面に盾のように動かす事でガード。だがその一撃は凄まじく、コトハの体が少し後ずさる。コトハは足にサファイアを纏い、一瞬後ろへさがり、ギルオークの体制が崩れた瞬間を狙ってナルカミを振るい、押し戻す。
ナルカミと爪が目まぐるしく動き回り、コトハとギルオークの間に火花が散る。コトハが爪の激突の衝撃で一瞬吹き飛ばされたと思うと、すぐさま体制を立て直し追撃を許さないばかりか、ガラ空きの胴に浅いながらも斬撃を入れる。
ギルオークがコトハの動きが止まった一瞬を逃さず、爪を振るう。しかしそれはツキウサギに弾かれるが、ギルオークの攻撃は終わらない。ギルオークに限らず全ての古代種は何人もの人を食らっていることからそれなりにシリウスとの戦闘経験がある。しかし、彼らは全てを退けているのだ。ならばその攻撃を受け止められた事など一度や二度ではない。人に限らず生物は全て成長する。その事を裏付ける様にギルオークは一瞬の無駄なく止まったコトハ目掛けて自身の鋭い牙を突き立てる。
それをコトハは爪の衝撃を受け流しながら、ギルオークの横へと回避、更にすれ違いざまに牙を一本斬りとばすという荒技までやってのけた。
牙を折られたギルオークが怒りに激昂する。さらにその巨体の速度は上がり、コトハに襲いかかる。
だがコトハはそれを全て受け流し、受け止め、避ける。打ち込みと踏み込み、基本に忠実な動きはギルオークの爪をコトハまで届かせない。
そして両者の間合いが開く。
『麗華一門 菊一文字』
コトハはナルカミを手放すとツキウサギでナルカミを綺麗に掴む。その間合いはギルオークの爪すらも届かない。
コトハは器用に空中で一回転をしながら、遠心力プラスツキウサギの推進力でギルオークの顔を撫でる様に切り裂く。しかしギルオークはそれをまさしく獣の勘というべき反応で避けるものの、ナルカミがギルオークの耳を一つ削ぎ落とす。
ギルオークの怒りの咆哮が響き渡る。
〜〜〜〜〜〜〜
『おっと、俺らの相手はゾアーク古代種、ゾアギラエスか。準備は良いか?ケイ』
『オッケーっすよジントさん、何時でも行けます』
『じゃあ行くぜ、一、二の、三っ!』
ケイはテレポートでゾアギラエスの背後に転移。するとゾアギラエスはケイの方へと反射的に首を向ける。しかしその間にジントが重力をゼロにして突っ込んでくる。そしてゾアギラエスの胴体をバルクーサスで真っ二つに引き裂いた。それで終わりである……本来ならば。
『おいおい……嘘だろ』
『げっ、マジかよ簡便してくれ』
ゾアギラエスは引き裂かれた部分から新しく胴体が生え変わり、少々小型化したものの、数を二匹に増やしまるで品定めをするようにケイとジントを見渡した。
『あとかたもなく倒さなきゃダメってか?』
ゾアギラエスに向かいケイがコルセアの引き金を引く。それはゾアギラエスの頭蓋を狙ったものだったが、ゾアギラエスはわざとそれを胴体で食らう。又も半分に引き裂かれたゾアギラエスは再生をし、数を三匹に増やす。
頭蓋を狙えばわざと胴体で食らい数を増やし、かといってこのまま何もしなければ数的有利で押し込まれる。
『取り敢えず細切れになるまで倒し続けますか』
『そうっすね』
それぞれジントはバルクーサスをケイはコルセアを構えなおし、先の長い戦いを始めるのだった。