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第二十六話

二十六、


 高橋は、それから三日ほど伊藤とも直子とも話をする事はなかった。そのためか、一人孤独感を味わっていた。その上、その日は休日ということもあり、孤独感は一層際立った。そのため、高橋はベットに座りながらテレビを見ていた。こういった時に重宝するのはテレビである。小さな部屋に一人でいても、部屋全体を明るい雰囲気に変えてくれる。しかも、人と違ってコミュニケーションをとらなくてすむので、非常に楽である。電源を入れれば、後は勝手にブラウン管の向こうで話を進めてくれる。そうやって高橋が無駄な時間をつぶしていると、いきなり電話がかかってきた。電話の相手は直子である。

「もしもし。」高橋はテレビをつけたまま電話に出た。

「もしもし。大変なのよ!」直子は異常に興奮していた。

「おいおい、いきなりどうしたんだよ。」

「伊藤君が亡くなったのよ!」

「はっ?今、伊藤がなくなったって言ったのか?」

「そうよ!」

 高橋の頭は真白になり、いきなりの報告に何が起きているのか把握できなかった。

「詳しい話を聞かせてくれ。」

「電話はあれだから、今から会って話しましょう。」

「おう、分かった。それで、今どこにいるんだ?」

「今、病院。すぐに来てもらえる?」

「分かった。すぐ向かうよ!」

 高橋は電話を切ると、服も着替えずにそのまま家を飛び出した。自転車をこぐスピードはいつになく速い。けれども、病院までの道のりはいつになく遠く感じた。なぜ、伊藤が?高橋は驚きと不安を隠せなかった。

 病院の周りには、なにやら人だかりができていた。その中には警察の姿もある。高橋は人ごみの中をすり抜けると、ようやく病院の玄関までたどり着いた。しかし、玄関には黄色いテープが張り巡らされ、中に入ることはできなかった。その上、病院の中にも警察がいた。なにか事件があったようだ。高橋は、なにか胸騒ぎを感じた。

 それから、高橋はさらに人ごみを掻き分けて人だかりの中心に向かった。そこは駐車場であったが、こちらも黄色のテープが張り巡らされ、警察が座り込みながらなにか作業をしていた。良くは見えないが、なにやら血痕のようなものがアスファルトの上に付着している。周りでは人々がなにか話していたが、内容はよく聞き取れない。そんな中、高橋は、自分の名前を呼ぶ声に気付いた。

「信く〜ん。」

 声の主は直子のようであるが、周囲に姿は見受けられない。

「信く〜ん。ここよ、ここ!」と直子は右手を上げながら、高橋の方へと近づいてきた。

「この人だかりはなんなんだ?」

「さっき電話したのもこの騒ぎのためよ。」

「はぁ?それより伊藤の話を聞かせてくれよ。」

「今から話すわ。それより、少し静かなところへ行きましょう。」

 高橋は直子に連れられ、人ごみのなかから抜け出した。それから、二人は病院の敷地内にあるベンチに腰を下ろした。

「それじゃ、伊藤の話を聞かせてくれ。」

「まずはあの騒ぎの話からよ。」

「あんなのはどうでもいいよ。それより伊藤の話を聞かせろよ!」

「いいから聞いて!」直子はいつになく真剣な表情であった。

 高橋は、直子の気迫に押され、話を聞くことにした。」

「あれは事件なのよ。病院の屋上からここの患者が飛び降りたみたい。警察は事故の可能性も視野に入れて捜査しているみたいだけれど、自殺の可能性が高いみたいなの。もちろん飛び降りた人は即死よ。私もはっきりとしたことは言えないけど、その自殺した人がどうやら伊藤君らしいのよ。」直子は顔に両手を当てて泣き始めた。

「それは確かか?」

「はっきりしたことはまだ分からないわ。」

「どこでそんな情報を手に入れたんだ。」

「さっき、テレビ局が現場で報道していたのよ。あとは周りの人の話とかをまとめてみたら、伊藤君にぴったり当てはまるのよ。」

「俺は伊藤と会うまで信じないぞ。」そう言って高橋は眉間にしわを寄せた。直子は手で顔を覆ったまま縮こまっている。

「とにかく、もう少し情報がないことにはどうしようもないよ。」高橋は直子の背中を優しくなでた。

「そうよね。まだ、伊藤君だと決まったわけじゃないんだもの。」

「もちろんそうさ!」それから次のように続けた。

「俺は、ここに残って情報を集めるよ。直子は、家に帰ってテレビを見ていてくれ。」

「うん。」

「それで、なにかあったらお互い連絡することにしよう。」

「うん。」直子は涙に濡れた顔を上げ、高橋の顔を見た。

「それじゃ、お互い頑張ろう。」

 そう言うやいなや、高橋はベンチから立ち上がって、病院の建物の方へと走っていった。一方、直子は、まだベンチに座ったまま高橋の後姿を見つめていた。


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