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だからと言って、考えるのを止めて、まるっきり身体に任せたら、それこそ、絶対的な身体能力の差で、勝目を失ってしまう。
奴の方が、…でかい。重い。
まるで余裕の表情を浮かべるかの様に、猫ソックリの瞳をニヤリと細めながら、ゆっくりと、「経堂」が近付いて来る。
「武琉」が捩じり折った筈の「経堂」の首の骨は、既に略完治している様だった。
「武琉」の方はと言うと、両腕の靭帯はまだ伸び切った状態で、左足の筋肉の損傷も酷い、アバラも数本、折れてぶら下がった侭だ。
体力の消耗と共に、傷の治りも遅くなり、第三形態を維持し続けるのすら、難しくなる、…ラシイ?
そう言えば、酷い傷を負うと「観事」の気配が消えてしまうのとも、何かしら関係しているのだろうか??
遥かに人間の限界能力を凌駕しているとは言え、本調子でないのは、明らかだった。
まるで獲物を前にして恐怖を弄ぶ捕食者の如くに、体長3mの「化け物」が頭上から覆いかぶさって、人間形態の「武琉」を観察する。
武琉:「くそっ、舐めやがって!」
掴み掛かった「経堂」の手が、床を穿ち! 一瞬早く「観事」が、片足だけで跳躍する!