序章 午睡
十一月二十三日。
呼び鈴の音が聞こえた。目を覚ました俺は、大欠伸と共に身を起こす。いつの間にか眠ってしまった。腕時計を見ると、針は三時を指していた。
「おい、起きろ、紫苑」
「……ん。いけない、寝ちゃってた……」
肩を揺すると、机に突っ伏していた紫苑が顔を上げた。
「誰か来た。お前、出てくれ。」
「え〜、遼が出てよ。先に起きたんだしさ」
「いいから行ってこい。所長を助けてこその助手だろ」
そう言うと、紫苑に不機嫌な顔をされた。
「何よ偉そうに。助けるというか、これじゃただの小間使いじゃない」
「別にいいだろ。階段降りるの面倒くさいんだ」
「あっさりと本音を……。もしお客さんだったらどうするのさ?所長が出てこないなんて、怪しまれて帰られちゃうんじゃないの?」
怪しまれる。その言葉に、俺は口をつぐんだ。大袈裟かとも思うのだが、職業柄、些細なことでも不信感を抱かれかねない。まして、俺達にとって外聞は非常に重要なのだ。
また呼び鈴が鳴った。ほら、と紫苑が急かす。俺は渋々立ち上がり、玄関へ向かう。なんとも下らないことで来訪者を待たせてしまった。
「はい」
扉の向こうには、俺や紫苑より二つか三つ程年下、中学生くらいと思しき少年が立っていた。
「……うちに仕事の依頼か?」
訊くと、はい、と少年が小さく頷いた。どうやら、お客様のお越しのようだ。全く、よくもまあこんな怪しげな事務所に依頼が来るものだ。
此処、怪異請負事務所「柊」に舞い込む依頼。即ち、妖怪変化に纏わる事象の解決だ。