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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
怠惰の魔王バアルフェゴール篇
7/55

怠惰の魔王を目指せ

少し長めかもです。




 魔王討伐の旅。その最初の目的地は新たな仲間、アリアの情報で決まった。


「この辺りの魔王といえば……ハジム東部を支配する『怠惰の魔王バアルフェゴール』ですかね~」




 怠惰の魔王バアルフェゴール。


 人間嫌いの魔王で、強力な部下を無数に従え、それらを仕向けて人間を虐げているという。

 しかも自身は城から動かない。


 何者も通さない鉄の城に潜み『不動の魔王』の異名を持つという。




「要は引きこもりか?」

「そうですね~……極端に言うとそうかもです」




 タカシの中で魔王のイメージが再びダウンする。


 扉で潰れる格好悪い魔王の次は引きこもりの魔王である。

 まさかまともな魔王はいなかったりするんじゃないのか?




「まあ、大丈夫ですよ~!だって、あの『殺戮の魔王バアルベリト』を倒した最強の召喚獣さんがいるんですから!」


 アリアがにっこりと笑う。


 新メンバーには一応事のあらましは話してある。

 その結果……


『あれ?バアルベリトはそんなに凄いの?』

「ご存知ないです?凄いなんてレベルじゃないですよ~?」


 タカシの背後霊(違)、ミリーが見えるようになった。

 ギルドの憎たらしい男には見えていなかったし、道行く人々も気付かなかったのに。


 ミリー曰わく、『私の存在を信じる人には見えるんだよ!』。

 怪しい宗教みたいである。




 とまあ、ミリーも新メンバーと馴染めるようになった件は置いておいて、話題の対象は魔王に移る。


「バアルベリトと言ったら、単純な殺傷能力で言ったら最強の魔王ですよ?恐らくは真っ向から戦えば一番危険な魔王です」


 あいつはそんなに凄かったのかとタカシは驚くと同時に申し訳なく思う。


 最強の魔王のラストがあれか、と。


 しかしそれと同時に安心しつつがっかりする。

 じゃあ後は楽勝だな、と。


 作業ゲーが嫌いなタカシのやる気は一気にダウンした。


 魔王の城に向かう森の道を、雑談しながら、飛び出てくる魔物を虫を払うように叩きながら、タカシは退屈そうに進む。


 すると溜め息を吐くタカシを心配してか、その横に並ぶようにアリアが駆けてくる。


「バアルフェゴール、絶対に倒せますよ~!私も足手まといにならないように頑張ります!」


 ぐっと拳を握ってやる気のポーズを見せるアリア。


 思わずタカシの顔は綻んだ。


 可愛ええのう……こんな子と旅できるなんて……地球に生まれて良かったァーーーッ!


 タカシ、心の雄叫び!




 その時である。

 タカシの至福を遮るように、目の前の藪から何かが飛び出した。


「バアルフェゴールを倒す?随分とでかいこというじゃないか」




 それは人。アリアの言葉を嘲笑するように青い鎧をつけた細身の男がレイピア片手に前に立つ。


「魔王の手先か?」

「バーカ。ねーよ」


 レイの言葉を笑い飛ばして、男はレイピアの先端をタカシ達に向ける。


「バアルフェゴールを倒すのはこの俺、最速の勇者……ビーツ様だ」

「おお、勇者かー」


 タカシは興味なさげに呟く。そしてふふんと鼻で笑う。


「最速(笑)」

「な、なにがおかしい!?」


 プスーッと最高にムカつく顔で笑うタカシ。そのムカつき度、天使も思わず観客席からベンチをリングに持ち込んでの凶器攻撃に及ぶ程である。


「スピード自慢って、いかにも小物がしそうだよな(大爆笑)」

「貴様……!」


 余裕に満ちていたビーツの顔が見る見る歪んでいく。


「ビーツ様顔真っ赤ッスよw」

「タカシさん、煽ったら可哀想ですよ~」

「可哀想と言うなッ!」


 アリアのフォロー(?)が逆に(?)ビーツの怒りのボルテージを高めていく。


「……仕方ない。お前ら、思い知らせてやる。自分達の無力さを……我が最速の剣技にて!」




 レイピアを構えるビーツ。それを見て、丸い愛玩魔物むくちゃんをぬいぐるみのように抱き締めながら、ミリーがあわあわ慌て出す。


『勇者同士で喧嘩なんて駄目だよう!』


 しかしレイは剣を抜く。


「……初めから向こうはやる気だったみたいだけどな」

『え?』

「強盗紛いの勇者……たまにいますよね~。狙いはお金と経験値ですか?」




 アリアも鈍く光る杖を構える。


「人聞きの悪い……まあ、きっちり経験値も金も戴くがね!」


 ビーツは不敵な笑みと共に動き出す!




 勇者ビーツが現れた!




 ビーツの素早さは「最速の勇者」の異名通り、グンを抜いている。

 その圧倒的な初速で、ビーツは先制攻撃を仕掛けに掛かった。


 構えるタカシ達。




 しかしビーツはニヤリと笑って急ブレーキ。


「掛かったな!」


 瞬間、ガサガサと音を立てて、黒衣を纏い、鉄爪をつけたアサシンが薮から飛び出す!




 バックアタックだ!




 勇者ビーツは『最速の勇者』である。しかしその言葉は罠。

 彼は『勇者で最速』なだけで、『全ての人間で最速』というわけではない。


 最速の先制攻撃、それに注意を集めて『さらに速い一撃』を不意打ちで叩き込むのがビーツパーティーの常勝戦略!




 アサシン、クロウの麻痺爪!


 タカシはダメージを受けた!




「ちっ……!」

「ははは!食らったな!クロウの麻痺爪を!」

「仲間を隠して待ち伏せしていたのか……!」


 戦場に躍り出たアサシンを睨みレイが顔をしかめる。


「ははは!これが我が最強陣形、『無限痺れの陣』!高い素早さを生かした麻痺攻撃の連撃で、相手に動く間を与えずに決着をつける!」


 ビーツは大声で笑う。


「さあ、まだ潜んでいるぞ!お前らを狙う暗殺者がな!」




 ガサガサ!




 忍者、ニンニンの麻痺刀!


 藪から忍者風の男が飛び出す!そして、手にする短刀で背中を見せるアリアに斬りかかる!


「アリア!」


 周囲に警戒を張り巡らせていたレイが気付く。しかしそのスピードには追い付けない!


「2人目!」







 メメキィ……







「え?」


 響くのは明らかに刀が少女を斬る音ではない。


 唖然とするビーツを前に、空中で顔面を凹ませた忍者は無様に地面に落ちた。




「なにアリアちゃんに手ェ出してんだコラ……」


 拳を突き出すその男を目にして、ビーツは思わず叫び声を上げた。


「な……麻痺爪を食らって何故動ける……いや、何故ニンニンから先制が取れる!?」




 その男、タカシは麻痺爪で斬られて赤くなった場所を掻きながら、口から白い息を吐く。


「秋穂さんのスタンガンのが百万倍痺れる……それに、隠れてる事を教えて、不意打ちもなしに、その程度の速さで先に動けるとでも?」


 タカシは倒れた忍者に跨り、拳を振り上げる。




「お前」


 タカシの攻撃!


「アリアちゃんに」


 タカシの攻撃!



「何してんだぁ!?」



 タカシの攻撃!!クリティカル!!オーバーキル!!忍者ニンニンはボコボコにされた!




「…………よ、よよよよよよ……四回攻撃ぃ!?しかもパンチ四発でニンニンを……!?」




 ビーツは今更喧嘩を売った相手のヤバさに気付く。


「ば……化け物……!」

「違うな……俺は……『超』化け物だッ!!」




 タカシが吠える。ビーツは身震いした。


「く……くそおおお!!シュン!お前のターンだ!!やれええええ!」




 シュンは逃げ出した!




「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!」


 ビーツ絶叫。


「藪に隠れてた最後の仲間は逃げたみたいだな?」


 タカシが目をギラギラ輝かせながらビーツにゆっくりと迫る。


 ビーツはひいひい言いながら後退する。


「く、くそ……!逃げなきゃ……逃げなきゃ殺されるぅ……!」


 ビーツは自分のターンに逃げる決断をする。仲間三人はもう動いた。

 ビーツは自分のターンが回ってくると…………







 勘違いしていた。



「あ~、私のターンですね~」


 動き出したのは白魔術師アリア。


「ちょ……!なんで白魔術師がそんなに速いんだ!?」




 その質問に答えたのは、可愛らしい声。


「アリアは白魔術師だけど、間違えて攻撃と素早さに能力値を降っちゃった、脳筋馬鹿なドジっ娘なんだむきゅ~」

『む、むくちゃんが喋ったー!?』

「な、なんだそのふざけた白魔術師!?」


 何気に可愛らしい声で「脳筋馬鹿」とか言っちゃうマスコットキャラクターをよそに、アリアは照れ臭そうにはにかむ。


「私、うっかりしちゃって……魔法能力低いから、白魔術師なのに回復魔法も弱くて……誰も仲間にいれてくれなかったんです」


 鈍く光る杖……よく見たら明らかに重量がヤバそうな杖を持ち上げて、アリアはちらりとタカシを見る。


「でも、タカシさんはそんな私も仲間に入れてくれました……だから私は自分なりにそれに報います!」

「や……やめろ!」




 ズズゥゥゥンッ!!




 アリアのアースブレイカー!地面が唸り、大地が裂ける!




 アリアが地面に叩きつけたヘビーロッドは激しく地面を揺らす!その衝撃でアサシンは地面に叩きつけられ、泡を吹いて気絶する。

 もうちびっちゃったビーツを前に、アリアは地面にめり込んだ超重量の杖を片手で引っこ抜き、一礼してからとてとてと後ろに戻る。




「師匠……こんな白魔術師でいいんですか」


 割れた地面にドン引きするレイ。タカシは茫然と口を開く。


「……踏まれてぇ」

「死にますよ!?」


 タカシはドMだった。




「むくのターンだむきゅ~」


 むくちゃんがミリーの手から離れて、残るビーツにふわふわ迫る。


「身包み剥いで金に変えるむきゅ」

「可愛い声で何言ってんだコイツ!?」


 タカシも思わず突っ込む。




 むくちゃんの剥ぎ取る!


 ビーツは全ての装備と金銭を剥ぎ取られた!




「ひでぇ!」

「むくちゃんのジョブは盗賊ですから」


 タカシもドン引きするレベルの所業(お前も相手の服を剥ぎ取ってただろうがと言ってはいけない)に、アリアは平然と補足をする。




 全裸で震えるビーツを見下ろし、喝上げした物品を頭に乗せたむくちゃんは見下ろしながら言い放つ。




「豚には裸がお似合いむきゅ~」

『どうしようタカシ君!むくちゃん全然可愛くない!』




 半泣きでマスコットキャラクターを指差すミリー。

 確かにアニメで放送したら、苦情が殺到するレベルである。




 レイのターンが回ってくる。レイはげんなりした表情で全裸のビーツに歩み寄る。


「もう帰っていいよ」




 レイの同情の言葉!


「……お、覚えてろよ!」


 ビーツは藪に飛び込んだ!




「魔王は力だけじゃ倒せない!お前らみたいな脳筋パーティーがバアルフェゴールに勝てるもんか!バーカ!バーカ!」




 捨て台詞と共にビーツは逃げ出した。




「よし行くぞー」

「は~い」

「むきゅきゅ~」


 タカシ一行は魔王バアルフェゴールを目指して再び歩き出す!




『レイ。行こうよ。どうしたの?』




「……ああ、行くよ……」




 レイはビーツに脳筋パーティーと言われた事を否定できない事に軽く凹み、しかも何気にパーティーで自分が一番遅くて特徴がないという事実を前にして相当凹んだ。





勇者レイは常識人ポジション。パーティー最弱ではない……筈(-.-;)


むくちゃん「お前装備必要ないむきゅ?だから売っといてやるむきゅ~」

レイ「やめて!」


むくちゃんは鬼畜。だって魔物ですもの。



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