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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
怠惰の魔王バアルフェゴール篇
6/55

大丈夫!ゴルバニアのギルドだよ!

今回は少し長めです。






「……で、なんでお前がいるんだ?」


 イーチェの村から去ろうとするタカシ。その後を追いかけてきた背後霊はむむむと口をへの字に曲げる。


『だって、召喚主だからタカシ君から離れられないんだもん』

「……拉致監禁の次はストーキングか。胸が熱くなるな」




 背後霊ミリーは仲間になりたそうにこちらを見ている。


 軽くホラーである。


『ほら!タカシ君、こっちの世界に詳しくないでしょ?私が案内するよ!』

「……まあ、お前がついてくるのは別に構わないが……」


 タカシは萎えていた。女の子(しかも結構可愛い)の幽霊(正確には幽霊かは分からないが)が自分にくっついているというのに、興奮しなかった。


 流石のタカシも、「魔王全部倒さなきゃ帰れなーい、てへっ♪」なんて言われて「はーい!君のためなら!」なんて返せる程の紳士ではない。


 故にタカシは今、多少冷めた目でミリーを見ている。





 それはともかく、タカシが気になること。


 それはミリーと一緒に後を追いかけてきた勇者のことだ。


「お前は何でついてくるんだ?」


 勇者レイは頭を下げる。そして意外な言葉を並べた。


「迷惑だとは分かっています……でも、どうか俺も連れて行っては貰えないでしょうか?」




 何故敬語?


 疑問に思いつつも、後輩にすらタメ口をきかれた高校時代を思うと満更でもないようで。


 少しにやけながら、それでも一応尋ねる。


「どうしてまた?それに、あの二人はどうした?」


 騎士の内藤、魔術師ドリーの二人、勇者パーティーの二人。なにやら二人の姿は見えない。


「あの二人は置いてきました」

 むむ、とタカシが奇妙な顔。


「何でまた?勇者様御一行は解散したのか?」

「まあ……そうなりますかね。俺達はもう魔王を倒したので……」


 もう魔王を倒した?とタカシは首を傾げる。


「え?まだまだ魔王はいるんだろ」

「いや……俺達の国に影響があった魔王はバアルベリトだけですので。奴を倒したら俺の勇者の役目も終わりですから」


 あれ?勇者は自分の国だけを守るのか?ということは複数の魔王がいるということは、国ごとに勇者がいるということだろうか?


 タカシは今更ながらこの世界の構造に意識を向ける。


「……ま、いいか。魔王倒していけば自然と分かるだろ」


 しかし学ぼうとはしない。成り行き任せがこの男、タカシの生き様なのである。


「じゃ行くぞー」

「え?同行してもいいんですか?」

「え?ついてくるんじゃないの?」

「いや、もっと理由を聞くとか……俺みたいな足手まといを連れてくのにそんなに簡単でいいんですか?」


 なんだこいつは、構ってちゃんかとタカシは溜め息。タカシ的には正直なところ誰がついてきても構わない。何も考えてないから。


「俺は別に他人の話に時間を割くつもりはないっての。ついてきたきゃついてきな。どうせミリーとイチャイチャしたいんだろ?」


 言ってタカシは気付く。




 ……こいつら、俺に見せつける気か!?


 畜生!リア充共!俺にカップルの横を寂しく歩かせる気か!

 おのれ……だったらお断りだ!二人の仲を引き裂いてくれるわ!




 邪悪な笑みを浮かべたタカシがお断り宣言しようとしたその時、勇者レイは緊迫した表情で勢い良く頭を下げた。


「ありがとうございます!……それで申し訳ないんですがもう一つだけお願いが……」


 お断りキャンセルの次は図々しくもまたお願いだと!?

 憤慨しながらも、実は押しに弱いタカシは黙って聞く。




「俺を……弟子にして下さいっ!!」




 え?


「……何て?」


 思わず聞き返すタカシ。レイは目を眩しいほどに輝かせてタカシを期待の目で見る。


「旅の同行と同時に、俺に稽古をつけて下さい!俺……もっと強くなりたいんです!俺をタカシさんの弟子にして下さい!」




 弟子……だと……!?


 タカシは絶句した。




 後輩にもなめられ続け、弟にも馬鹿にされ、他人から尊敬されたことのない俺に……弟子だと!?




 タカシは即答する。


「いいよっ!!」

「ありがとうございます!師匠!」




 師匠……いい響きだ……!


 その言葉を噛み締めながらタカシは鼻を鳴らす。


 なんて素晴らしい世界……!


 意気揚々とタカシは足を踏み出す。


「いくぞお前らぁ!」

「はい!」

『おー!』


 こうして、タカシの冒険は幕を開けた!







  ----




 というわけで、俺達はこの街、ゴルバニアに来たのさ……


 目的はギルドとやらでのパーティーメンバー探し。


 ギルドは様々な人材の揃う依頼解決集団らしい。


 魔物討伐やら護衛やら薬草採取やら何でもこなすギルドでは、パーティーメンバー派遣も行っているらしい。


 そこで新たなパーティーメンバーを加えようという訳だ。



 正直俺一人でパーティーは十分だが、これには理由がある。


 忘れていたのだ。俺はカップルと旅をしているということを。


 ……気不味いわ!


 絶対俺が浮くだろうが!だから新しくメンバーを入れるんだよ!しかも可愛い女の子をなぁ!


 そういう点ではあの魔術師と騎士をレイが置いてきて良かった……


 パーティーは四人までだという。

 ミリーは幽霊だから頭数から除くとして……あいつらいれたらパーティー内で俺はぼっちじゃねぇか!


 そうはさせるか!

 というわけで俺はパーティーメンバーを探せる場所を二人に聞いて此処にきたのさ!





 しかし、ギルドを前にタカシは言い知れぬ不安を覚えた。




『大丈夫!ゴルバニアのギルドだよ!』


 建物の前に大量に張られたチラシの奇妙な煽りに嫌な予感がプンプンしたからだ。


「俺はこの煽りに嫌なものを感じるのだが」 

「そうですかね」




 レイは特に気にする様子もない。

 考え過ぎか、とタカシは取り敢えず中に入ることにした。




 カランカラン




「らっしゃいませ~!」


 威勢のいい声でカウンターの若い男がタカシ達を迎え入れる。


 入り口すぐにはカウンター。傍には色々張られた掲示板。人はあまりいないようだ。


「何かお困りで?」


 営業スマイルで尋ねる若い男にタカシは目的を告げる。


「パーティーメンバーを探してる」

「え?人捜しですか?なら、鼻の利くもんがおりますぜ!」

「いや、人捜しじゃなくて……パーティーに入れる人間を……」




 きょとんとしていた若い男。しばらくしてから質問の意図を理解した男は……




「冗談キツいですよ~!」

「は?」


 鼻で笑った。


「ウチだって仕事ぐらい選びますって!魔王を倒しにいく勇者様ならともかく、あんたみたいな冴えない男に人材なんぞ派遣できませんよ~!」

「な……!お前、師匠になんてことを!」


 まず怒ったのはレイ。カウンターに乗り出し、若い男に迫る。


「だって事実でしょう?こっちも人手がなくて、パーティーメンバー派遣なんてできりゃ嫌なんですよ。文句があれば余所に行ってくれ」


 フンと鼻を鳴らす若い男。態度最悪である。

 タカシが握る拳が震え出す。それに気付いたミリー(若い男には見えてない)とレイは、慌ててタカシを宥めようとする。


『タカシ君!お、落ち着いて!一般人に手を出したらだめだよ!』

「し、師匠!もう別の街に行きましょう!こんなギルド、こっちから願い下げですよ!だから此処を消し飛ばすのはやめ……」


 あわわと人間兵器の顔を覗き込み、宥める二人。しかし宥めるまでもなく、その顔に怒りは浮かんでいなかった。




「……はは。ですよね……俺なんか……どうせ……冴えないですよ……」


 タカシ、泣く。

 半笑いで、泣く。


「し、師匠!……おいお前!師匠を泣かせたな!師匠は意外とメンタル面が弱いのに!」


 レイ、激怒!

 タカシは「メンタル面が弱い」とか言われて逆にダメージを受けた!


 レイが怒り、タカシが泣き、ミリーが慌てて、収拾がつかなくなったその時!


「あれ~?もしかして、勇者レイ様じゃないですか~?」


 店の奥から黒いショートヘアーの少女が顔を出す。白いローブを纏い、片手に鈍く光る杖を握るおっとりした印象の少女は、レイに歩み寄りにっこりと微笑み手を差し出した。


「はじめまして~。白魔術師のアリアです~」


 レイがああと少し戸惑いながら、握手をする。

 すると若い男ははっとして、目を見開く。


「ま……まさか……あの、魔王バアルベリトを倒したという……勇者、レイ様……?」

「いや……別に俺が倒した訳じゃないが……レイだよ」







 瞬間、若い男は顔を真っ青にして頭を下げる。


「も、申し訳ありませんでしたあああ!」


 そして引きつった笑顔でリストを出す。


「お、お詫びどいってはなんですが……ど、どうか……無料でパーティーメンバーを紹介させてください……」

「お前……何調子のいいこと…」

「まあ待てレイ」


 レイの肩を掴むのはタカシ。


「いいじゃないか。まあいいじゃないか。好意は受け取るべきだ」

「……師匠がそういうのなら」


 タカシの目はキラキラ輝いていた。アリアの胸元に向かって……







  ----




「よろしくお願いします~」

「むきゅきゅ~!」


 リストから選んだ二人の新メンバー、それを見て、タカシとミリーは満足げに頷いた。




 一人めは白魔術師のアリア。


 黒髪ショートでおっとりとした可愛らしい少女だ。


 タカシの「パーティーにおける白魔術師の重要性」という、どこかの教授の論文のような主張で選ばれたメンバーである。


 決してぶかぶかしたローブの上からでも伺える、ナイスバディが理由ではない。断じてない。


「頑張りますね~」




 もう一人……いや、もう一匹というべきか。


「むきゅ~!」


 丸っこい体に垂れたウサギのような耳、白いふかふかな毛並みに、くりくりと潤む赤いお目目……


 愛玩魔物、むくちゃんである。


『かわいい~!』


 ミリーがリストを見て、見つけ出したメンバーである。


『かわいい~!この子がいい~!』


 とか言いながら、やたらと駄々をこねるので、選んだメンバーである。







 …………。







(私情ばっかじゃねーか!!)


 レイは心の中で突っ込んだ!


 一応、師匠には従うが。


「さあ!いくぞ魔王討伐!」


 タカシの掛け声で、新パーティーは進み出す!




 目指すは最寄りの魔王城!










 勇者一行を見送り、ギルドの若い男はふうと息をつく。


「まさかあのバアルベリトを倒した勇者がくるとは……」


 冷や汗を拭い、男はリストを片付ける。


「まあ、ラッキーか。これでいい宣伝になる」




 男は喜ぶ。


 それは宣伝になるというだけではない。


 男は悪い笑顔を浮かべて、見送ったギルドのメンバーを思い浮かべた。




「まさか問題児二人を連れてくとは……いい厄介払いだな!はは!」




 タカシ達の、魔王討伐の旅はまだまだ始まったばかりである……




サブヒロイン&マスコットキャラクター加入!

サブ?じゃあメインはミリー?いえいえ、メインヒロインは……


次回からようやく2人目の魔王に向かいます!


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