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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
謀略の魔王オロバス篇
49/55

魔王アニマルランド

怪しいふいんき




 街を訪れた夜。


「絶対におかしい、むきゅ」


 一人一室提供された宿の部屋、その中のむくちゃんの部屋にはタカシとミリーはいた。

 少女にオロバス討伐を頼まれた面々が、むくちゃんに呼び出されたのである。

 ちなみに、ゼブブは既に就寝中である。


『何が?』

「あの子供が、むきゅ」


 むくちゃんが、ベッドに埋もれながら話し出す。


「どうしてあいつは俺達が勇者だと分かったむきゅ?」

『お前が勇者とかおこがましいよ』

「そうだなむきゅ」


 ミリーが意外なむくちゃんの反応に目を丸くした。


「だって考えてもみろ。あの時如何にも勇者なレイはいなかったんだ。いたのはゼブブと見えない幽霊、可愛い小動物に見た目は冴えない一般人だぞ、むきゅ」

「おいこら小動物。誰が冴えない一般人だ」

『確かに……勇者っぽいの一人もいないね』


 ミリーが真面目に考える。


『でも、それはレイが直前まで一緒に居たとこ見てたからじゃないの?』

「だったら、レイの方に行くだろむきゅ。俺達に寄ってくる意味が分からない」

「俺が勇者に見えたんだろ」


 ミリーがうーんと唸って首を傾げた。


「そもそも、オロバスの出張だとか、なんで支配下の街の娘が知ってる? それに悲劇を語っちゃいたが、悲壮感がまるで感じられなかったのも怪しい」

『……うーん。考えすぎだよむくちゃん』


 ミリーもそう言いつつも、少し不安げな表情を見せ始める。

 タカシは話に混ぜて貰えずに、いじけて体育座りしていた。


「……本当に、あれは助けを求める少女だったのか?」

『そんな……あんな女の子が、何か悪い事しようとしてるって?』

「ゼブブを見ろ。魔族に見た目は関係ない」

『ゼブブちゃんは良い子だよ? やっぱり考えすぎじゃ……』

「考えすぎるくらいが丁度いいんだ。あのオロバスを相手取るにはな」


 むくちゃんはかつて偉大な魔王だったという。

 そんなむくちゃんがそこまで評価するオロバスとは、どれ程の魔王なのか。

 いじけながらも話を聞いていたタカシも少し気になり始めた。


『怖いこというのやめてよ……』


 そして、ふと気付く。

 ミリーの声が震えだしている事に。


『だって……あんな女の子が、魔王の手下なんて言ったら……私達は何を信じればいいの?』


 はっとむくちゃんが思い出す。

 暢気で明るく振る舞うミリーだが、彼女は誰よりも魔王の怖さを知っている。

 彼女は魔王の前で身体を失うという『死』に等しい経験をしているからだ。


「…………ま、まぁタカシもいるし、ゼブブもいる。そして俺もいるから大丈夫だむきゅ」

『でも、ずっと一緒には居られないよ! タカシ君とゼブブちゃんが居ない時に襲われたらどうするの!? アリアちゃん、具合が悪いんだよ!』


 泣きそうになりながらミリーが声を大きくする。


「大丈夫だってミリー。俺がアリアちゃんの傍にずっとついてるから」

『タカシ君も夜は寝るでしょ! 起きてたとしても、寝てるアリアちゃんの傍に置いておくには不安すぎる人材!』

「ちょっ……」


 一蹴されて完全にハートブレイクされたタカシ。

 

『むくちゃんは私をわざと怖がらせようとしてる!』

「ミリー!」


 ミリーは部屋の壁をすり抜け飛び出していった。

 思わぬ彼女の反応に、タカシは驚きを隠せずにぽかんとしている。

 触れないミリーを無理矢理引き留められる筈もなく、むくちゃんは早々に諦めて再びベッドに埋もれた。


「……おい、むく。流石にちょっと怖がらせすぎたんじゃないのか? お前、此処に来てからオロバスってやつの事誉めちぎりっぱなしだぞ」

「そんなつもりはなかったが……流石に脅かし過ぎたか」

「そうだ。正直俺がいりゃ楽勝だろ?」


 ぐぬぬ、とむくちゃんが唸る。


「……そうなんだ。奴自身大した魔王じゃないんだが……昔、手痛い目に遭わされてな」

「え? お前って凄い魔王じゃなかったのか? 一体何されて……」

「聞くな……頭が痛くなる……」


 余程の事があったのだろう、とタカシは察した。

 聞きたい気もしたが、メンタルの弱い者としては、傷口を抉られる痛みは知っているつもりなのだ。

 余計な事は聞かない事にした。


「まぁ、この街が怪しいのは事実むきゅ。警戒は怠るなよタカシ」

「ん? ああ、気をつけとくか。心配のし過ぎだと思うがな」


 タカシはひょいとベッドからむくちゃんをつまみ上げる。


「お前もミリーのフォローしとけよ」

「……分かってるむきゅ」


 むくちゃんは珍しく気まずそうに顔を伏せた。




   ----




「……で? 魔王狩りの一行は、上手く招き入れたのですか?」


 魔王オロバスは歯茎を剥き出し、ぶるると笑った。


「ぬかりなく! しっかりばっちり騙せましたよ! 私の迫真の演技で! 全員バラバラの部屋に押し込めました!」


 少女はくすくすと笑い、隠す必要のなくなった狸の尻尾を撫でた。

 

「街の人間も街外れの豚舎に全員押し込めてます! 計画が終わりましたら、元に戻す……でしたよね?」

「ええ。人間も私の貴重な資産です。丁重に扱いなさい」

「御意!」


 狸尻尾の少女はびしりと頭を下げた。

 そして、ちらりと視線をあげて、オロバスの顔色を窺う。


「…………ところで、この仕事を終えたら」

「ええ、お約束しますよ。あなたとあなたの森のお仲間の生活と、森の木々には手を出さないと誓いましょう」


 ぱぁっと少女の顔が明るくなる。

 それを見てオロバスはぶるると笑った。


「街で絶賛名演中の森のお仲間にもお伝え下さい。失敗は有り得ない、と」

「も、勿論です……! 明日の夜に、『この手紙』を召喚獣に届ければいいんですよね!」


 少女は手紙を取り出した。


「そうです。分かっているのならよろしい。下がりなさい」

「ぎょ、御意!」


 どろんと少女は焦って消える。

 少女の気配が完全に消えたのを確認して、オロバスはぶるると唇を震わせた。



「……で、オロバス。見逃す気はあるのか?」


 オロバスの裏で、目を光らせる影が蠢いた。


「まさか」


 オロバスは嘲笑する。


「木の需要は年々上がってきています。土地も足りない。あの森を潰さない理由がありません」

「貴様は本当に悪辣な奴だ……」

「そう言わないで下さいワンフー。あなた達とて嬉しいでしょう?」


 じゅるりとワンフーと呼ばれた魔王はヨダレを垂らす。


「人間は流石に私の持ち物ですからご遠慮頂きますが……森の肉、選り取り見取りですよ」

「……楽しみだ」


 誰一人として気付いていない。


 魔王オロバスの、都合のいい言葉に踊らされている事に。

 

 むくちゃんの勘ぐりさえも、タカシの楽観さえも、ミリーの怖れさえも、少女の無駄な努力さえも、そして彼と手を結ぶ魔王達でさえも、全てがオロバスの掌の上だという事に。



 ――馬鹿共が


 ――見ていろパズズ、ベリアル、リヴァイアサン、その他諸々魔王共


 ――貴様らに媚びるのも明日までだ


 『処分』する予定の背後の魔王にも、嘲りの視線を送り、オロバスは一人ほくそ笑む。





魔王オロバスの恐ろしい策がタカシ達を襲う!

何だかとってもわるそうな馬野郎ことオロバスさん。


オロバス「今年は午年、私の年!」



オロバス変でスポットが当たるのは……

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