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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
惰眠の魔王モーメン篇
47/55

四人の魔王

魔王回。やっぱり出てこないタカシ達。




 ぞわぞわと、地面を這う『何か』が集まってきた。

 何かは次第に積み重なり、大きく大きくなっていく。

 『塵も積もれば山となる』。

 その言葉通り、塵のような何かはたちまち巨大な『山』となった。


「待たせたな」

「さして待ってねぇよじいさん」

「じいさんはやめい。ワシとてまだまだ現役よ」


 山から生えた丸々とした目が、ぎょろりと下にいた怪物を睨み付けた。

 山のような巨体の前には、既に三つの影があった。

 比べれば圧倒的にちっぽけな、人間サイズの三人。

 しかし存在感だけは、山に劣らないものを感じさせる。


「ようやく集まりましたか。では早速始めましょう」


 一人、唯一明らかな人間の形状を保つ、緑色の天然パーマの男が口を開いた。

 眼鏡が似合い、装いも落ち着きつつも高貴さを漂わせる男は知的に微笑み、傍らの白衣の怪物に視線を向けた。


「貴方がボク達を呼ぶとは珍しい。パズズ君」

「俺に呼ばれた事を光栄に思えよ? 俺は雑魚とは話さねぇからな」


 テーブルに足を載せる怪物の挑発じみた言葉にも、他の三人の怪物は動じない。


「ああ、パズズ君は性格悪いせいで友達いませんからね。ボク達も光栄ですよ。勝手に友達扱いされて」

「お前に性格の事をとやかく言われたかねぇな、グリム」


 緑髪の男、グリムは相変わらず表情を崩さなかった。


「まぁ、認めてやるよ。お前らは『俺ほどとは言わねぇが』、強えからな。俺がこうして愉快にお喋りできるのも、お前らくらいのもんなんだぜ?」

「まぁ、殺しても死なないような奴らばっかしだかんね~! この四人はさ!」


 けたけたと笑うのは、テーブルの上で体育座りをしている少女。

 一見人間に見える少女だが、尻尾のように腰の辺りから蛇を生やしている。

 うむ、と山は少女の言葉に同調して身体を揺らした。


「だな。でなければとっくの昔に、貴様らなど殺している」

「言うねぇリヴァイアサン。伊達に年は重ねちゃいねぇ」


 決して友好的には見えないが、これが彼らなりのコミュニケーションという事なのだろうか。不思議と言葉以外に険悪さは見られなかった。

 

「さて、本題に戻しましょう。して、パズズ君。用件は何です?」


 グリムが問うと、パズズは一瞬ぴたりと止まった。


「…………ぷっ!」


 そして、吹き出す。


「ぎゃはははははははははは! ビルが……ビルが『ぺしゃっ』って! ぎゃはははははははははははは!」

「急にどうしたのさ!?」

「思いだし笑いですか? パズズ君にしては珍しい。……なになに? そんなに愉快な事があったの? ちょっ、ボクにも教えて!」

「私にも! 私にも!」


 パズズに掴み掛かるグリムと少女。必死である。

 

「……ビルが『ぺしゃっ』、というのはついこの間のマモンの領地での出来事か?」

「ははははは…………おい、リヴァイアサン。折角、俺が話そうとしてたのに、何先にネタばらししてんだ?」

「ワシとて暇ではない。早く済ませろ」


 山のような怪物、リヴァイアサンは既に事情を知っているようだ。


「何!? ビルが『ぺしゃっ』って何!? 教えて教えて!」

「お前は面白そうな事に必死すぎんだよグリム。分かった分かった」


 チッ、と舌打ちして、パズズは一本のビデオテープを取り出した。


「じゃじゃーん。メフィストフェレスの奴に聞いてみたら案の定撮影してたぜ。ここに一部始終が入ってる」


 ビデオテープはふわりと独りでに浮き上がると、ビデオデッキに刺さった。

 すると、思い出したようにリヴァイアサンが口を開く。


「あ、そう言えばワシ、ブルーレイのやつ最近買ったぞ。画面とかめっちゃ綺麗」

「マジで!? 今度見に行きたいんだけど!?」

「ボクもボクも!」

「だー! 今はこっちだ! こっちのが面白えから!」


 興味の対象がやたらと移りやすい二人の怪物を制し、パズズはビデオの再生ボタンを押した――――








   ----




「「「ぎゃははははははははははははははははははは!!」」」


 グリムと少女、そしてパズズは声を揃えて大爆笑。

 『ビルがぺしゃっと潰れる衝撃映像』は、見事似たもの同士の彼らのハートに突き刺さったようだ。


「バカだ! 最高にバカだ! ボクが見てきた愉快なお話の中でも、最高にバカだ!」

「面白すぎるんですけど! でも、惜しいっ! マモンのリアクションが見たかった!」

「あー! お前それ、いいな! 畜生! メフィストの奴、そっちの撮影とかしてねーかな!?」


 きゃっきゃとはしゃぐ三人。

 一方、静かにその様子を見ていたリヴァイアサンは……


「……画面ちっちゃくて見えんな。今度ワシんちのテレビで見ない?」

「オイコラてめぇ。ブルーレイ自慢したいだけだろ?」

「うおおおおお! いいね! いいね! リヴァイアサンちの超大画面で見たらめっちゃ面白そう!」

「いつにします? ボクは先一ヶ月は暇ですけど?」

「……俺も行くからな! ……まぁ、日取りは今度後で決めるとして、今はこっちの話だ!」


 パズズがごほんと咳払いを挟み仕切り直す。


「……『これをやった奴』の話だ。興味あるだろ?」


 グリムがぴくりと眉を動かす。


「……犯人が分かっているのですか?」


 少女の蛇尻尾が下を出す。


「教えて。いや、教えろ」


 爛々と目を輝かせる二人の反応を見て、パズズはにやりと笑った。


「お前らならそう来ると思ってた。それでこそ、『魔王』だ」


 パズズはテーブルから足を降ろし、立ち上がる。


「最近無駄に増えやがった『魔王』。お陰で質自体が落ち始めるわ、中には人間と上手くやっていこうなんてバカもいるわで困ったもんだぜ。駄目なんだよ駄目駄目。お前らならそれが分かるだろ?」


 パズズと同席する『魔王』達は、その言葉に概ね同意する。


「分かりますよ。ボク達は、『魔王』は人間にとって『絶望』と同義語でなければならない」

「んでもって『恐怖』でもあるんだよね~!」

「懐かしきかな。そんな時代もあったものだ」


 リヴァイアサンが昔を懐かしむように身体を震わせる。


「その時代が、今まさに訪れようとしていようとはな」

「どういうことですリヴァイアサン?」

「それよりアタシはマモンのビルを倒した奴が知りたいんだけど!」

「まぁ、落ち着けよヨル子。全く無関係って話でもねぇ。まぁ、この前のベリアルの召集を蹴ったお前ら二人はピンとこないだろうだな」


 パズズがテーブルに投げた写真に、グリムとヨル子と呼ばれた魔王が見入る。

 そこには何とも冴えない普通の人間が写っている。


「『魔王狩り』。噂くらいは聞いてるだろ?」

「ええ、勿論」

「初耳~。ところでなになにこの人間?」


 パズズは実に簡潔に語る。


「『魔王狩り』の犯人」

「……嘘でしょう?」

「いやぁ~、でも目を見れば割と分かるかも。『こんな世界眼中にねぇ』っていう舐めきった目してるわ」

「貴様は世間知らずの癖にそういう所は察しがいいな」

「世間知らずは一言余計じゃない? じじい」

「まぁ、そう喧嘩するなよ。野蛮だな」

「貴様に言われたくないわ」

「お前にだけは言われたくないわー」


 自由気ままに話す魔王相手に、会話を試みようとしても無駄である。

 パズズは無理矢理話を進める。


「まぁ、かくかくしかじかそんなこんなでこの『魔王狩り』はこの世界に現れたって訳だ」

「アタシ、『召喚獣』って嫌いなのよね。人間に犬みたいに媚びるとか、生き物の恥だと思わない?」

「ヨル子、お前少し黙ってろ。それより今の話で何か気になった事はねーか?」


 パズズの問いに答えるのはリヴァイアサン。


「ワシもそいつの現れた敬意は初めて聞いたが……『時期が同じ』だな」

「……あー、そうですね。確かに同じだ」

「何よそれ。『これ』とそいつに、何か関係があるって訳?」


 ヨル子が膝を包んでいた腕を前に突きだした。

 同じようにグリムも右手を前に出す。

 全く容姿の異なる魔王には、とあるひとつの共通点があったのだ。

 それが手の甲に刻まれた、ひとつの『不可解な文様』だった。

  

「この文様、未だに何が何だか分からねぇが、今のところ確認できてんのは俺ら四人だけだ。バアルの魔王共にも、ベリアルの野郎にも、こんなものは現れてねぇ。この召喚獣の現れた時期に、突然浮かび上がったこの文様…………何か関係があると思うのが普通じゃねぇか?」


 じっと手の甲を見つめて、ヨル子が答える。


「いや、別にどうでもいいし。生活に困らないから」

「お前はな、本当に空気を読んでくれ」

「アタシが興味あるのは、もうこの犬ヤローだけ。こいつの荒んだ目、アタシ大好きカモ」


 ギラギラとした目で、ヨル子は写真をじっと睨む。

 

「ボクはむしろ、魔王を倒せる程の召喚獣を喚び出したという召喚術士に興味がありますね」

「おお、グリム。てめぇは中々に目の付け所がいいじゃねぇか」


 グリムは話の中で聞いた、『幽霊になった召喚術士』に興味を抱いていたようだ。

 その反応を、パズズは上から目線で評価する。


「あの『馬鹿野郎』……いや、今じゃ『馬野郎』か。あいつも同じ事言ってたぜ?」

「オロバス君ですか……それは少々癪ですね」

「そう言うな。あいつは糞雑魚だが、あいつの謀略だけは俺だって認めてんだぜ? 何より身の程を弁えた姿勢がいい。……『魔王』と呼ぶのは少々癪だがな」


 まぁ、とパズズが手を叩く。


「取り敢えず今日はそろそろお開きにしようか。『マモンの敗北』、『魔王狩り』、『文様』、話は全部理解できたか?」

「中々に面白くなってきましたね。……いつも通り、お互いにこれからどうするのかは聞かない方向で行きますか?」

「賛成~! ……ってか、あんたらのやること聞いたら大抵胸糞悪いだけだしね!」

「それはお互い様だろう。ワシは帰るぞ」


 四人の魔王は決して、互いの行動には干渉しない。

 それは互いに互いが『悪党』だと知っているからだ。

 しかも彼らは『悪党』の頂点『魔王』である。

 悪党から見ても酷い悪党である魔王。ヨル子の言葉通り、彼らの行いは悪党からしても胸糞の悪い事ばかり。



 この時、パズズ除く三人の魔王は気付いていなかった。


 パズズがまだ隠している情報がある事に。




 ――『これ』はまだまだ言うべきじゃねぇよなぁ? せいぜい『当て馬』になってくれよ?




 ――俺が『大魔王』になるための。




 パズズが『魔王狩りの召喚獣』に興味を抱いたのは、彼が強いからだけではない。

 その事実を、三人の魔王は知らない。

 

 三人の魔王が散り散りバラバラに姿を消していく様を見送り、パズズは一人ほくそ笑んだ。


「……まずはオロバス。この俺様が期待してやったんだ。裏切るなよ?」


 次に魔王狩りとぶつかるのは魔王オロバス。

 彼の『言う事』が確かならば……

 パズズはその仇敵の名を呟いた。


「化けの皮を剥いでやるぜ。ベリアル」


 生まれながらにして異常。

 殺しても死なない、『討伐不可能吸』の四人の魔王。

 『伝承の魔王』グリム。

 『永遠の魔王』ヨルムンガンド。

 『不可侵魔王』リヴァイアサン。

 そして、『風の魔王』パズズ。


 彼らもまた、『魔王狩りの召喚獣』をターゲットとして動き出す。





何やら怪しい四人組。


明らかにタカシと何か関係のある『文様』持ちの魔王さんです。

そして、やたらと出張ってきた、ラスボス臭漂うパズズさん。


彼らに活躍の機会はあるのか!?


何はともあれ、次回から新章でっす。

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