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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
惰眠の魔王モーメン篇
46/55

その名は……

クッション回。タカシ達は登場しません



 魔王モーメンが目覚めたのは、乱入者達が全員立ち去ってからの事だった。


「……ふざけやがって」


 空から落ちてきたパイモンに押し潰された彼だったが、決してあの一撃で敗れた訳ではない。

 魔王と思しき二人と、マモンを同時に相手取る程無謀ではない彼は、敢えて倒れたフリをしていたのだ。

 その能力は『夢想』。眠りながらも夢の中で自在に動き、気絶しようとも動き続ける、持久力のみならばトップクラスの魔王。それが魔王モーメンなのである。


「あいつら絶対許さない……マモンだって逃がすもんか……今に見てろよ~~~~!」


 怒りに燃えるモーメン。

 彼が目を開け、立ち上がろうとした時、ふと何かに気付いた。

 どっと冷や汗が吹き出す。

 そして、思う。


 どうして今まで気がつかなかったのか。


 眠っていたから? 気絶していたから?


 そもそも『こいつ』はいつから此処に居た?


 どうして『こいつ』は此処に居る?


「おーおー、ようやくお目覚めか? ったくよぉ、いつまで寝たフリぶっこいてやがんだてめぇは」


 日を遮る黒い影。

 大きさは普通の人間程度。

 しかし、重圧は人間の比ではない。

 

 モーメンは、とうとう背後の影を見上げる事はできなかった。


 ただ、せめてもの抵抗として、その名を呟く。


「ぱ……パズズ……!」


 グシャアッ!

 モーメンは「ぷげっ!」と空気が抜けるような声を漏らした。

 頭を地面にぐりぐりと押し付けられているのだ。

 押し返せない。頭蓋にみしみしとヒビを入れる程の力が、モーメンを完全に制していた。


「パズズ?」


 影は呟く。


「パ ズ ズ ?」


 ゆっくりと、ゆっくりと。


「パ  ズ  ズ  ?」


 次第に力が強まっていく。


「わりいなぁ。耳がすっかり遠くなっちまったみたいで。もっぺん言ってくれねぇか?」


 モーメンはガタガタと震えながら、絞り出す様に『訂正』した。


「パズズ……『様』……!」

「おー。モーメン君。元気してたかぁ?」


 パズズ。

 『風の魔王』と呼ばれる魔王。

 その名は人間よりも、魔王達に怖れられると言われる、『最悪の魔王』。

 

「どうして……此処に……!?」

「どうしてって……マモンの縄張りに顔出したんだから理由は一つに決まってんだろ? それとも何か? 俺が此処に居ちゃおかしいってか? どうしてそう思う?」


 モーメンは明らかに視線を泳がせた。

 幸い地面に押さえ付けられ、その様子はパズズには見えていない。

 言葉を選ぶように、モーメンは口を開く。


「……あ、貴方ほどの魔王が、広大な縄張りを離れて動くなんて」


 みしり、と頭蓋が再び軋む。

 しまった、とモーメンは思った。


「『此処も』だ」


 パズズの声が低く沈む。


「俺の家も、此処も、お前の城がある森も、全部、全部、全部、全部、全部、全部……全部俺の縄張りだ。誰も縄張りから離れちゃいねぇ。お前は何を言ってるんだ?」

「す、すみません……すみません……!」


 ぐっとモーメンの頭が持ち上がる。

 耳元に、冷たい息が吹きかかり、ぶるりと身体を震わせる。


「ほら。言ってみろ。『私の縄張りはパズズ様のものです』」


 逆らえない。


「わ、わたしのなわばりは、パズズ様の……ものです」

「おー、よく言えましたぁー。じゃあ、もう一声」


 ぐいと更に顔を引き寄せられる。

 次の瞬間、唯でさえ身動きの取れなかったモーメンは凍り付く事になる。


「『ドミナシオンの縄張りも、パズズ様のものです』」

「……!」


 モーメンが敬愛するドミナシオンの名前を出して、パズズはにたりと口元を歪ませた。

 屈辱に震える。

 しかし、逆らえない。

 でも、ドミナシオンも裏切れない。

 踏み絵を強要されたモーメンは、乾いた唇をぱくぱくさせながら震えていた。


「……聞こえねぇなぁ?」


 ごろんとモーメンの足元にボールのような何かが転がった。


「風の噂で聞いたんだが……ドミナシオンとその一派が、何やら怪しい動きを見せてるらしいぜ? なんとまぁ、目的は『大魔王の座』だとか」


 見てはいけない。見てはいけない。

 後ろは向けない。しかし、足元を見てはいけない。

 転がったボールの正体を、モーメンは察していた。


「誰の許可を得てほざいてるんだかなぁ? なぁ、モーメン?」

「し、し……しし……」

「何を怯えてるんだ? ん? ……あぁ、あー! 何だ、安心しろよ。お前何か勘違いしてるって」


 パズズの声が明るくなった。

 パズズはモーメンを殺しに来た。

 モーメンはそう思っていた。



 しかし、違った。



 という、……そんな淡い希望に縋り付くように、モーメンは泣きそうな顔でとうとう見上げた。


 



「俺、幽霊じゃねーから」


 ぎょろりと見開いた目は、声色に反していた。

 

「ん? だったらおかしいよなぁ? 死んだ筈の……『お前らが殺せるつもりでいたパズズの奴』が生きて、此処に現れたときた。……あぁ~、そうかそうか。さっきの『どうして』は、やっぱりそういう事だったんだなぁ」


 バレている。

 そして、足元に転がっているものの正体は……


「こんな雑魚で、俺が殺せると思ったか? お前は、お前らは、俺を舐めてるだろ? なぁ、モーメンよぉ?」

「ち、ちが……ちが……!」


 ぱっとモーメンの頭が解放される。

 それと同時に、モーメンは一気にパズズから距離をとった。

 

「3ターン待ってやる」


 パズズが三本の指を立て、ひらひらと手を振る。


「俺に攻撃してもいい。尻尾巻いて逃げてもいい。土下座して命乞いしてもいい。3ターンの間、俺は一切合切何もしねぇ」


 にたぁ、と口を開いて、パズズはポケットに手を入れた。

 

「 楽 し ま せ ろ 」


 モーメンの頭の中に、愚かな考えが浮かぶ。

 チャンスだ。

 あのパズズを討ち取るチャンスだ。

 何もしないとパズズは言った。

 油断しきったこいつに、一泡吹かせてやれるかも知れない。

 パズズを討てば名が上がる。

 ドミナシオンも褒めてくれる。


 チャンスだ。チャンスだ! チャンスだ!! チャンスだ!!!













 モーメンは迷う事なく逃げ出した。


 本能が拒んでいる。


 『あいつ』に刃向かってはならない。


 あいつから逃げ果せる最大のチャンス、モーメンは一心不乱に羽ばたいた。

 一気にマモン商事本社ビルが遠ざかっていく。

 マモンの事などどうでもいい。

 ドミナシオンの命を果たせないのも仕方がない。

 逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。


 パズズの気配は追ってこない。

 本当に待つつもりだ。

 今の内に距離を取れ。

 そうすれば、パズズも諦めるかも知れない。


 大丈夫だ。大丈夫。これだけ離れれば、いくらパズズでも追いつけない筈。















「時間だ」


 どうして声が聞こえる?


「それがお前の答えか?」


 耳元で囁く。


「…………つまんねぇなぁ」


 胸の奥から何かが沸き上がる。






「死ね」







「ごぱっ!?」


 パズズの『死刑宣告』と共に、モーメンは腹の内側から弾け飛んだ。











 魔王パズズ。

 通称『風の魔王』。

 

 崩落するビルを遠巻きに眺め、パズズは邪悪な笑みを浮かべる。


「くくっ……想像以上に面白え」


 刈り取った生首を足蹴にして、『最も大魔王に近い魔王』は遂に『魔王狩り』に興味を持った。


 彼に目を付けられた事を、『魔王狩り』の愚か者達が後悔する事になるのは、もう少し後のお話。

 




何かと名前が出始めた、真面目そうな魔王パズズさん。


そして、早速退場するモーメンさん。


次回もう一話、魔王サイドのお話です。

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