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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
強欲の魔王マモン篇
45/55

なんということでしょう

前回が2年振りかと思いきやまさかの2日ぶり




 なんということでしょう





 ~此処で優雅なBGM~





 立派にそびえていたものの、魔王マモンさんを縛り付けていた、富の象徴。


 それが匠の手によって、今では綺麗さっぱり新地に大変身。


 これで毎晩、夜空を見上げながら、眠る事ができますね。






「ふざけんじゃねぇぞこの糞ガキャああああああああああッ!」


 魔王マモンが現れた!




 それはマモンの観察が始まった頃に遡る……




   ----




 それは大きな勘違いと擦れ違いであった!


 まず、この悲劇が起こった要因のひとつとして、タカシの寝坊があげられよう!

 タカシは夜型の人間なので、朝に滅法弱いのである!

 今日はマモンを偵察する日だというのに、皆に起こされることなく置いていかれた事もまた、要因のひとつと言えよう! 彼は傷心だったのだ! ちなみに、皆は意地悪したつもりはなくて、起こしちゃ可哀想かな? という心遣いがあったのだが、放置された本人にとってはあまり関係のない事だ!

 

「ちこくちこく~」


 食パン咥えた女子高生よろしく、マモン商業本社ビルに向かって駆けていくタカシ!

 彼は偶然、ふらりふらりと寝惚け眼で公園へと向かうゼブブちゃんを目撃したのだ!

 このタイミングが悪かった!


 タカシは迷った。

 ふらっとゼブブちゃんを追い掛けていくか、マモンの偵察に向かうか……

 

 結果、タカシは約束を選んだ! 仲間との約束を反故にする訳にはいかない!

(そんな事したら好感度ダダ下がりだ、という打算がなかったとは一概には言えない)


 そこでもしもゼブブちゃんをタカシが追い掛けていたら、この結末は確実に変わっていたであろう!


 当然、ビル前には仲間達は待っていない! マモンの朝は早い!

 

「困ったぞ」


 地面で寝転んでいるミリーには気付かない!

 だって、まさか地面に寝ているとは思わないもの。

 此処でもし、タカシがミリーに気付いていたら結果は……変わらなかっただろう。多分、気付いても放置していた!


「……仕方がない」


 タカシは諦めた!


「ゼブブちゃんの所に行こう!」


 ここでタカシがもうちょっと頑張って探そうとしていたら結果は変わっていたであろう!

 彼は迷う事なく公園へ向かう事に決めたのだ!


 若干道に迷ってようやく辿り着いた公園。

 地面で伸びてる魔王モーメンや、激しい戦闘を繰り広げるクロードとパイモンがいたが、タカシの眼中には入らない!

 何故なら、彼が、このタイミングで、公園に来た事で、見てしまったのだ!




 マモンの手を引き走り去っていく、ゼブブちゃんの後ろ姿を!




   ----




 そして場面は、会話するゼブブとマモンの前に、タカシが現れたところに戻る。

 

 マモンは焦った。

 似合わない悪態をついて、「タカシをパズズの当て馬にするんすよ」と言っちゃったのを、うっかり当人に聞かれてしまった。

 一発殴られる覚悟はしていたが、ボコボコに叩きのめされる覚悟は出来ていない。

 タカシの逆鱗に触れてしまっていたら……パズズよりマシと思っていた妥協が、割と洒落にならなくなってしまう!


 しかし、そこは人生経験豊富なマモン。頭の切り替えは早かった!


 少しフレンドリーに、今のは冗談だと言ってしまえばいいだろう。

 マモンは話術には自信があった!

 

「いやぁ、タカシ君。びっくりしたよ。まさか最後の追跡者が君だったとは」


 マモンはひとつ誤解していた!

 タカシは正直パズズがどうとか聞いていなかった!

 彼がやたらと怖い目でマモンを見ているのは、一緒に逃げてきちゃったゼブブちゃんが原因なのだ!


 タカシは、二人がとても仲良くしていると勘違いしているのだ!


 しかし、此処で「俺の女に何してる」と言い切る程、タカシは嫉妬深くもないし、自信もない!

 この状況でも笑顔で語りかけてくる恋敵を前にして、タカシははっと気がついた!

 

 此処で嫉妬してたら、ゼブブちゃんに嫌われるんじゃね?


 傷心のタカシであったが、此処でマイナスポイントを貰うわけにはいかない!

 大人の笑顔をマモンにお返しする!


「あ、あー。お、おはようございます」

「あ、ああ、うん。おはようございます……」


 気 ま ず い !

 互いに大人の対応を試みた所、相手も大人の対応を返してきたので、逆に気まずくなってくる!

 いっそどちらかがキレてしまえば話はずっと分かりやすいのだ!


 どちらも気まずいので言葉に詰まる!

 

 正直、このままだったらどれだけ良かった事だろうか。

 そもそもマモンとゼブブの駆け落ち疑惑は誤解なのだ。

 そして、マモンも嘘を突き通せた筈だったのだ。

 

 ただ、傍まで迫っていたアホ二人が悪かった!




「お前は……我がライバルッ!」

「まさかまた、こんなに直ぐに、遭おうとは」


 激しい戦闘を尚も繰り広げる二人の魔王、クロードとパイモン!

 全く互角の競り合いを見せる二人は、通りすがりに見つけたタカシに反応した!

 気が逸れたお陰で、パイモンの流れ弾がマモンのビルに直撃する!


 ドカーン!


「ちょっ……!」


 マモン、慌てる!


「……何? まさか貴様、タカシを知っているのか?」

「……貴様こそ、ライバルなどと、抜かしおる」


 再び衝突する二人の魔王!

 ついでのようにマモンのビルが炎上する!

 

「や、やめろ!」


 マモン、焦る!


 そして、アホ二人にようやく気付いたタカシ!

 此処で、ティンと来た!


(こいつらに八つ当たりしちゃえばいいんじゃね?)


 正直、マモンをぶん殴ってやりたいくらいにタカシは傷心していた!

 しかし、ゼブブちゃんの目の前で大人げないことできないし!

 我慢していたのだ!


「丁度いい……俺の新必殺技のお披露目回だ……」


 精霊リベルの元で習得したタカシの新必殺技。

 そういえば攻撃が全く通用しないパイモンが習得のきっかけだった。

 理由としては申し分ないシチュエーション。

 もしも此処でクロードだけが現れたのなら、こうはならなかったであろう!

 多分、普通にボコボコに八つ当たりされただけである!


 タカシは構える!


「はあああああああああああああああああああああああああああ……」


 そして、手に何かを溜めていく!


「な、何をする気だ……!?」


 マモンが、唯ならぬ空気に気付いた。


 時 既 に お す し !


「―――――――」




 カッ!




 一瞬走った閃光が、一直線にクロードとパイモン、ついでにマモンのビルを貫く!





 ぺしゃっ





 ビルが、本当に「ぺしゃっ」と音を立てて潰れた。






   ----




 何かのアニメの悪役の如く、パイモン一行は空を飛ぶ!

 タカシの新必殺技で、纏めて吹っ飛ばされたのだ!

 

「まさかもう、こうあっさりと、負けるとは、恐るべきかな、異界の魔物」

「だから言いましたのに! 変なアドバイスするなって!」

「勝てる気しないっすわ、あんなの」


 割と余裕で宙を舞うパイモン達。

 ちらりと横目で別方向に吹っ飛ばされた黒い魔王を見送って……


 パイモン達はきらりと光る星になった。




   ----




 マモンのビルがぺしゃりと潰れた。

 此処で冒頭に戻る。


「ふざけんじゃねぇぞこの糞ガキャああああああああああッ!」


 流石のマモンもこれにはキレた!

 ぎろりと目をひん剥いて、タカシに襲い掛かる!


「一発殴っていいって言ったよな?」


 バチコーン!


「へぶっ!」


 タカシのカウンター!


 魔王マモンは倒れた!


 実はマモンはあまり強くなかった!


「……ふう」


 ビルの影になっていたその場所も、今では朝日を感じられる。

 八つ当たりに成功したタカシは、すっきりとした表情で太陽を見上げた。





 ……ちなみに、マモンの十人の追跡者だが……

 タカシは寝坊してきたので、実はマモンが気付いた時にはいなかったのだ。


 この一部始終を見ていた十人目の追跡者。


「……ああ……」


 レイは唖然として、ただ綺麗さっぱり消えてなくなったビル(のあった場所)を見上げていた。




   ----




「びっくりしましたよ~! だって、ビルが『ぺしゃっ』て潰れたんですよ!」


 遠巻きに事件を眺めていたアリアが、興奮気味に語る。

 

「……何処の馬鹿だ。そんな馬鹿な真似したのは……むきゅ」


 ビル倒壊の瞬間、まさにビルの中で追いかけっこをしていたむくちゃんが、目を血走らせながら言う。

 ちなみに、むくちゃんが追い掛けていた男、ルナールも無事だったようだ。


『本当だよ……見つけたら、絶対に呪い殺してやる……』


 ビルの傍でごろ寝していたミリーも被害者の一人である。

 

 流石に殺気だった二人を前にして、タカシは自らが犯人であるとは名乗り出ない。


「俺見てたよ! あのパイモンって魔王と、クロードって魔王がやったんだ!」


 丁度いい感じに犯人にされた二人の魔王。


「……本当、あのふざけた魔王ども……必ず見つけ出して後悔させてやる……!」


 怒りに震えるマモンが呟く。

 どうやらタカシの一撃と、ビル倒壊のショックで記憶が混乱しているらしい。

 残る目撃者であるゼブブは興味がないので黙っていたし、レイも(損害賠償が)恐ろしくて黙っていた。


「……と、まぁ。あの魔王達の対処は後にして……まずはお前の処分からだな」




 正座して、顔を伏せる二人の男女。

 一人はマモンの秘書、エーデル。一人はエーデルに雇われた殺し屋、ルナールである。

 

「随分と馬鹿な真似をしたな。あれ程余計な事はするなと言ったのに」


 マモンを倒しに来たタカシ達。

 それを追い払うために、殺し屋まで雇ったエーデル。

 そんな彼女に、マモンは怒りを露わにした。


「申し訳御座いません……どんな処罰も覚悟しております」


 俯くエーデルは震えていた。

 それを見下ろすようにマモンは立つ。 

 マモンが今まで見せなかった、威圧感のある怒りに、その場に居合わせた一同もごくりと息を呑む。


 マモンが下した判決は……







「……一生私の傍にいろ」

「………………え?」


 エーデルは顔を上げた。

 全員がぽかんとしている。


「殺し屋を雇うなど……お前が此処までやるとは思ってもみなかった。そこまで私の身を案じてくれていたのだろう。だから私も考えを改めなければならない」


 マモンは厳しく、しかしどこか優しい声で言い放つ。


「だからお前は一生私の傍にいろ。余計な心配などしないように。私も一生お前から離れないと誓おう」

「マモン様……?」


 にぃ、とマモンは悪魔の笑みを浮かべた。

 それはむくちゃんが語り、かつてよく見た、『強欲の魔王』らしい笑みだった。


「ビルを潰され大損こいた社長で、しかも指輪をやらない程に強欲な魔王である私に一生ついていかなければならないんだ。どうだ? 中々に過酷な罰だろう?」

「……はい……なんて過酷な罰なんでしょう……」


 エーデルは、ぼろぼろと涙を零して、差し伸べられたマモンの手を取った。


 その光景をにこりと眺めて、傍らで正座するルナールが手を擦った。


「あ、じゃあ自分もお咎めなしって事で……」

「お前は警察に突き出すけどな」


 殺し屋だからね。仕方がないね。




   ----




「私も少々反省したよ。彼女を心配させまいととった行動が、逆に彼女を駆り立てる事になるとは……まだまだ修行が足りないな」


 タカシ達が再び旅立つ時、ゼブブを引き留めマモンは語った。

 苦笑しながら跡形もないビルをマモンは眺める。


「結果として、此処までみじめな事になれば、流石にパズズも興味をなくしてくれたかな?」

「……………かもね」


 ゼブブは素っ気なく返事を返した。

 実はこの時、彼女には『とある確信』があったのだが、特には口にしなかった。

 それよりも気になる事があったのだ。


「ねぇ……マモン」

「……なんだい?」


 ゼブブがふと思い出すのはマモンの言葉と、彼がもたらした結末。


「…………誰かを好きになる、って、なに?」


 マモンは一度きょとんとしたが、すぐににこりと微笑み答えた。


「君にもいずれ分かるよ」


 ふうん、とゼブブは少し不満そうに口を尖らせた。

 苦笑し、その表情を眺めながら、マモンもふと思い出す。


「それいえば……ひとつ聞かせてくれるかな?」

「…………なに?」


 ゼブブと交わした会話の中で、タカシの乱入で聞き逃した事を再び問う。


「『ひとつ間違ってる』って、言ったよね? 何が間違っていたのかな?」

 

 ――――…………あなたは、ひとつ間違ってる


 確かにゼブブが言った言葉だ。

 ゼブブは、ああ、と思い出したように頷いた。

 そして、魔王にはとても似合わない、柔和な微笑みを浮かべて、答えた。


「…………タカシは、パズズよりもずっと強いから。タカシに殴られた方が、ずっとつらいよ?」


 マモンはきょとんと目を見開いた。

 

(……なんだ。君も……)


 くすり、と微笑み、マモンは頬を擦った。


「……それをもっと早く言って欲しかったかな」




   ----




 マモンとの話を終えて、ゼブブは先に待っていた仲間達の元に駆け寄る。


「ゼブブちゃん……何話してたの?」


 そわそわとしながらタカシが問う。

 悪戯っぽくゼブブは微笑み、口に人差し指を当てた。


「…………ひみつ」




   ----












「――――マモン氏が討たれたそうです。あの『魔王狩り』に」


 馬が喋った。


「警告は受けた筈。にも関わらず、あの後既に、パンプディング氏まで討たれている。嘆かわしい。実に嘆かわしい」


 かつかつと革靴の音が鳴った。


「対策は幾らでも打てた筈。なのに彼らは怠った」


 かつんと一度、強く革靴が地面を打った。


「私は違います」


 馬は笑った。


「……だから此処は手を結びませんか?」


 馬が相対するは、二つの影。


「さすれば、『最高の策』と、『魔王狩り討伐の名誉』を差し上げましょう」


 二つの影がぴくりと動いた。


「この私、『智将』オロバスが」






 いずれ訪れる筈だったその時。

 それは以外と早くやってきた。

 タカシ達一行を阻む、『彼らを狙う敵』。

  

「……『魔王連合』の結成です」 




 その名は『謀略の魔王』オロバス。


 タカシを、史上最大最悪の事件が待ち受ける。






マモン篇完結!


マモンさんは良い格好しいの悪人でしたという事ですん


次回は終わりに出てきたオロバスさんの登場前に、二話ほどのクッションを置く予定。

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