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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
強欲の魔王マモン篇
44/55

強欲の摩天楼

2年振り……(ボソッ



 マモンは一人の(元)魔王に手を引かれて駆けていく。遠くでは激しい音が鳴り響き、なにやら魔王同士の交戦が始まった事が把握出来た。


「ああ、もうとんだ災難だね。まさか、私を狙う魔王が一度に三人も……いや、君達も含めたらもっとか」

「残念。…………私は『元』。……今は魔王じゃないから」

「勿体ない。私の能力を受けないレベルの魔王だったら、魔王の中でも相当の立ち位置に付けるだろうに」


 マモンの賛辞に喜ぶことなく、走りながらゼブブは呟くように吐き捨てる。


「手加減していてよく言う…………」

「……バレてたか。それでも全く効果がないなんて事はレアなんだけどね」

「…………さっきの魔王は?」


 襲撃者の一人、さっきぺしゃんこに潰された魔王、モーメン。

 交わされた怪しい会話から、ゼブブもマモンの背景に唯ならぬものがあると察していた。


「しつこい営業だよ。有名になるとあの手の輩がどっと増えるからね」


 マモンも諦めた様に話し出す。


「ドミナシオン。知ってるかな?」

「…………知らない」

「だろうね。私も最近知った名だ。タチの悪い奴だよ。君も気をつけるといい。足を洗った魔王にまで、手をかけるようなやつらしいからね」


 足を洗った魔王にまで手をかける、そこまで聞いてゼブブが眉をひそめた。


「…………何それ」


 珍しくゼブブは不快さを露わにした。

 マモンは続ける。


「他にも物騒な話が多い。大魔王の座を狙い動く魔王が次々と現れている。魔王を八つ裂きにするという『黒い魔王』。会話すらままならない『奇人魔王』。そして……『風の魔王』」

「…………パズズ」


 ドミナシオンの噂以上に、顔を歪めてゼブブは呟いた。

 彼女が最も忌み嫌い、彼女が知る中でも最も強い魔王の名を。


「……まぁ、そこまで言えば分かるだろう? 私がタカシ君に一発殴られてもいいという理由」


 『黒い魔王』や『奇人魔王』をゼブブは知らないが、最後に出された名前を聞いて理解した。


「私も始めは欲を捨てきれなかったよ。大魔王という魅力的な立ち位置へのね。ぽっと出の『黒い魔王』や『奇人魔王』、ドミナシオン如きに後れをとるつもりはなかった。だが……『パズズが動いた』となると話は別だ」


 ようやくマモンは、むくちゃんが語ったような『悪人』らしい、黒い笑みを露わにした。 


「パズズを相手取る位ならば、タカシ君に殴られて、魔王の座を捨てた方がましだ」


 マモン商業本社ビルが見えてくる。

 マモンの言葉を聞いたゼブブは、ビルに逃げ込む直前で、突然足を止めた。




   ----




 無数の切れ込みが入ったガラスのオブジェが乱立された公園には、既に二人の魔王の姿はなかった。

 その場に留まって戦えるような相手ではないと、互いに判断し、激しく動きながらクロードとパイモンは戦っていたのだ(迷惑)。


「旦那! やばいよやばすぎるって! あのパイモンとかいう魔王、強すぎる!」

「……流石は噂の『奇人魔王』と言ったところか。あの『白光魔王』ウィスプを倒しただけのことはある」

「『奇人魔王』!? あいつが!? ……う~ん、でも『奇人魔王』って確か……」


 クロードとチョコカラスは、自分達と同じ『大魔王を目指す者』を知っていた。

 その中でも目立つルーキー『奇人魔王』が、あのパイモンであると推測した。

 だって、どう見たって奇人だもの。




 一方、一旦距離を離し、相手の様子を窺うパイモン側でも……


「パイモン様! 何ですのあの男は!」

「ちょっと今まで見てきた魔王とはレベルが違いすぎっすよ!」

「当然だ、今や噂の、黒い王、そうやすやすと、討てるはずなし」

「黒い王!? あのアバドンをバラバラにしたっていう!?」

「でもちょっと待つっす……? 噂の『黒い魔王』の武器って確か爪って聞いた気が……」

「馬鹿者め、爪で魔王が、刻めるか、誇大広告、踊るのは馬鹿」


 パイモン一行も知っている。

 その中でも噂のルーキー『黒い魔王』が、あのクロードであると推測した。

 だって、真っ黒なんだもの。




「「こいつを此処で仕留めれば、大魔王の座が一気に近付くッ!」」


 実力はあってもアホな為、互いに割と大魔王の席から遠い事には気付いていない。

 それと、互いに最初のターゲットを見失っている事には気付いていない。


 なんやかんやで追いかけっこしながら、二人のアホは図らずも次第にマモン商業本社ビルへと迫っていた。




   ----




「助けてぇぇぇぇぇぇぇ! 殺されるぅぅぅぅぅぅ!」


 ルナールはマモン商業本社ビルに駆け込んだ!

 小動物に追い掛けられながら!

 幸い朝も早いため、人はいない!


「自ら袋小路に逃げ込むとは……愚かなむきゅ」

「エーデルさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 ちなみにエーデルさんはまだ出社していない。

 依頼人の名前を叫びながら走り回る、そもそも何を仕事にしているのか分からない狐耳の男は、次第に追い詰められていく。

 しかしこの時、二人は気付いていなかった。


 自分達が巨大な棺桶の中に足どころか全身を突っ込んでいる事に……




   ----




 ゼブブは振り向く。

 そして、一言。


「…………あなた、嘘ばっかり」

「……嘘?」


 マモンが怪訝な表情を見せる。


「何がです?」

「…………言ってることもやってることが、卑屈な理由と噛み合ってない。そして何より……」


 ぎゅっとマモンの手を握る、ゼブブの力が強まった。


「私よりも長く、『あいつ』を見てきたあなたにしては、的外れが過ぎるから」

「……やっぱりこれは魔王に吐くような嘘じゃなかったかな」

「……『元』魔王」


 魔王なら誰でも知っている。

 ゼブブの言う『あいつ』が、魔王の座を放棄した程度で見逃してくれる筈などないと。

 やってしまったと、マモンは頭をぺちんと叩いた。


「慣れない事はするものじゃないな。嘘は苦手でね。何せ欲望に正直に生きてきたものだから」


 『強欲の魔王』と呼ばれるように、魔王マモンは欲に忠実な、自分勝手な魔王である。

 彼自身が認めた通り、むくちゃんの話は間違ってはいなかったのだ。

 ゼブブは想いの他あっさりと認めたマモンに驚きつつ、マモンの見せてきた顔を思い出した。


「…………でも、いい人のふりは上手かった」

「ああ、あれか。あれは嘘じゃないからね」


 意外な言葉に、ゼブブはきょとんと呆けていた。

 

「…………意味が分からない」

「ははは。そうだろうね。私も意味が分かってないんだ」


 意味が分からず、しまいにはむすっとし出すゼブブを見て、マモンは苦笑した。


「君は誰かを好きになった事はあるかい?」

「…………???」

「ごめんごめん。からかうつもりはないんだ。『よく見られたい』という欲もあるんだよ、って事かな」


 マモンという魔王を理解するのは、ゼブブには少し難しかったようだ。

 それを十分理解した上で、マモンは本音を語り出す。

 

「……君は嘘だと言ったが、パズズが怖いのは本当だ。だから、タカシ君に殴られて、魔王の座を降りたい。それも本心だ」

「…………でも」

「君よりも付き合いが長いから、私は知っている。私が呆気なく魔王狩りに倒されたと知れば、奴はここにはこないだろう。むしろ、私を倒した相手に興味を持つ筈だ。『あいつ』はそういう奴だ」


 マモンの本心を見出し、ゼブブはようやく納得した。

 彼の狙いはただ一つ。

 『風の魔王』パズズ。魔王ならば知らない者のいない『あいつ』を、タカシに押し付ける事にあったのだ。

 

「タカシ君には申し訳ないと思っているよ。ただ、私も死ぬ訳にはいかないのでね。大魔王を狙って命を賭けるには、少々大切なものが増えすぎた」


 裏にある小難しい事情は分からない。

 それでもゼブブは、理解した。

 そして、微笑む。


「…………あなたは、ひとつ間違ってる」

「……間違ってる?」


 意外な言葉に今度はマモンが驚いた。

 幼く見える『元』魔王が、自分に何を言うのか。

 マモンが静かに耳を傾けようとしたその時……




 つん、と冷たい空気がマモンを刺した。


 誰かの視線を感じる。

 マモンは気配に引かれるままに、横を向く。




 追跡者は10人だった。

 今では散り散りバラバラになった、追跡者の中で、唯一後をついてきていた気配に今更マモンは気付く。


 今までの話を、最も聞かれてはならない相手。

 

 最後の追跡者は、まさにその一人だった。





「……タカシ君」


 マモンの背筋が凍り付いた。





ちょちょちょっと更新。

書こう書こうと思っていたら、気付いたら2年。時の流れは早いのねん。


ちょっと真面目な雰囲気出しつつ、

なんやかんやでマモン篇、次回完結!?


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