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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
強欲の魔王マモン篇
42/55

カオスの始まり







 マモンを探し、飛び回るむくちゃん。

 その怪しい気配に気付いたのは、一番可能性のありそうなマモン商業本社ビルの前にたどり着いた時だった。


「…………まさか付けられているのに気付かなかったとは、むきゅ」


 不抜けた自分に嫌気がさす。そんな溜め息を漏らして、自分の後ろで急速にその殺気を鋭くした気配に意識を向けるむくちゃん。


「もう無駄だ、むきゅ。そんな殺気を向けられれば、猿でも気付くむきゅ」

「…………猿なら気付いても、弱そうな小動物は気付かないかと思いましたので」

「残念。小動物の方が殺気には敏感むきゅ。命が懸かってるからなむきゅ。殺気に見向きもしないのは、無敵の魔王様位むきゅ」

「これは失念。だが、貴方は相当の腕利きのようですね」


 何もない空間から、ぬるりとスーツ姿の男が這い出してくる。いや、正確には纏っていた透明な何かを剥がしたというべきか。男は頭の狐の耳をぴょこんと動かすと、深々と一礼した。


「私はルナールという者でして。以後お見知りおきを」

「以後なんてものがあるのかむきゅ?」

「それはお互いの交渉次第、ですかね?」

「交渉?」


 狐耳の男、ルナールはくっくと笑い、スーツの懐から一つの封筒を取り出す。そしてその中から何枚かの紙切れを取り出し、むくちゃんに歩み寄る。


「実は私、ちょっとした依頼を受けて貴方を付けてたんですけども。個人的に貴方に交渉を持ちかけようと思いましてね」

「だからその交渉は何かと聞いてるむきゅ」

「二度とこのビルに近付かないで貰えません?出来れば今日中にでもこの街から立ち去って、二度とマモンさんに近づかないでいただきたい」


 マモン、その言葉が出てきて、むくちゃんは直ぐ様理解する。


「マモンの刺客かむきゅ?やっぱりあいつは黒……」

「勘違い乙、ですね。いやいや、依頼者の情報を言うのは問題ですけどそれは否定しますよ。……勘繰り入れずに素直に聞いて貰えませんかね?じゃないと依頼を素直に執行しなくてはならなくなる」

「……どういう事だむきゅ?」

「……私は自分で言うのもなんですが、『出来る男』ですので。指示を受けてホイホイ動くだけの男じゃないんですよ。自分で考え、より依頼者様に良い結果が戻ってくるよう、考えて動く気の利く男なんです」

「お前はさっきから質問に答えるのに遠まわりしすぎだむきゅ!」

「だ~か~ら~……」


 ルナールは取り出した紙切れをすっとむくちゃんに差し出し、営業スマイルを全開にする。


「言うこと聞かなきゃ依頼通りにぶっ殺す、って事ですよ。だからこれは慈悲です慈悲。マモンさんの前から貴方達が消えりゃ解決なんですよ」


 ルナールの笑顔のぶっ殺す発言。脅迫じみた交渉に、むくちゃんは……


「……お断りむきゅ」

「じゃ、ぶっ殺します」


 ルナールは取り出した紙を放り投げ、むくちゃんに飛びかかる!









   ----




「マモンさん。そこのお嬢ちゃん、寝かしただけ?バラバラにしちゃった方がよくない?」

「……無益な殺生は小物のすることだ。これで邪魔者無しで話も出来るだろう?」


 公園のベンチに目を閉じるゼブブ。その首に当てていた手を離し、マモンは背後に立つ黒マントの男を振り返る。


「……今日はやたらと後を付け回される日だ。この子とそのお仲間は、どうやら私の本性を暴こうとしていたらしいが……君は違うのだろう?」

「なはは、そりゃあね?僕ちん、君の本性知ってるし。ね?強欲の魔王、その名の通りのマモンさん?……僕ちんは『シオンさん』の遣い、って言えばわかるよね?」

「……シオン……ドミナシオンの事か?」

「ヤー。僕ちん、魔王モーメンっていうの。趣味は昼寝と子守唄作り。特技は交渉と脅迫とバラバラ。営業をやってんの。今日は前任のインクブスさんに代わってマモンさんの交渉役として来ました~」


 魔王モーメン。見た目は少年、頭にはナイトキャップ、枕を抱き、黒マントの下には水玉模様のパジャマを着こなすいかにも『眠そう』な魔王。目を閉じたまま、ふらふらしているモーメンに、マモンは冷めた表情で冷たい視線を送る。


「……ドミナシオンも飽きないな。この前交渉は断ったろう?」

「パンプディングが討たれたからね。兵器開発の遅れが目立ってきたんだってさ。この前はパンプディングっていう代わりの交渉相手がいたから見逃したげたけど、今は事情が違うんだ~」

「其方の都合ばかりだね」

「そうだね。こちらの都合ばかりさ。でもニーズに答えるのが商売人だろ?」


 マモンは額に手を当て、「くっくっく」と悪役のような笑みを浮かべる。


「……分かってないなぁ。商売人は、ニーズに答える為に居るんじゃないさ。ニーズは利用するだけだよ。結局の所、商売人は『コレ』の為に居るんだよね」 


 指でつくる円。それを見せつけて、マモンはにやりと悪い笑み。それが見えているのかは分からないが、モーメンは目を閉じたまま「う~ん」と声を漏らす。


「もしかして寝ぼけてる?」

「寝ぼけてるのはそっちだろう?魔王の癖に、何を人の言いなりになっているんだ?ドミナシオンはそれ程の奴なのか?」

「シオンさんはね、すごい人だよ。そこらの魔王が霞む程に、でっかいでっかい野望を持ってる人だ。僕ちんはその野望に同調して、あの人に付いていくことにしたのさ」

「野望?」

「世界征服」

 

 その一言に、マモンはぽかんとしてしまう。しかし、モーメンは真面目に、ふらふらしながら続ける。


「シオンさんは世界を征服する。人間も、動物も、魔族も、魔王も、全てがあの人の前に平伏する。そして世界は全てシオンさんと僕ちん達のものになるのだ~。これで僕ちん、ぽかぽか陽気の下で、奴隷を侍らせお昼寝ざんまい……考えただけでヨダレがでるよ~」

「何を馬鹿げた事を言ってるんだ?」


 マモンは笑う。


「世界征服?はっ!馬鹿げてるな!他の魔王が黙っちゃいないぞ?それこそ、パズズやベリアル、リヴァイアサンの奴等が手に負えるのか?」

「負えるとも。既に何人か、シオンさんの『駒』が何人かの魔王をバラバラにしたから」

「……何?」


 マモンは表情を変える。

 最近、彼はある情報を得ていた。各地で、魔王が殺害される事件が相次いでいる。しかも、それはその地に住まう勇者などではなく、何やら怪しい黒マントの男だという。魔王殺しの勇者一行とは別に、惨たらしく魔王を殺める者……正体のまるで掴めないその存在の情報は、マモンもかなり警戒しているものだった。


 目の前には『黒マント』の魔王、モーメン。


「…………『魔王殺し』は、ドミナシオンが?」

「うん。シオンさんは役に立つ魔王以外は邪魔だから殺すってさ。ついでに体の一部も欲しいって言ってた」


 ドミナシオン。マモンはその名前こそ知ってはいるものの、その正体までは知らない。数年前に、マモンに取引を持ちかけてきた男、それしか彼とドミナシオンのつながりはない。その謎多き相手が、魔王殺し?そして、自分に取引を持ちかけてきているということは……


「シオンさんはマモンさんの財力と技術力を借りたいってさ。そうすれば、新しい世界でそれなりのポジションを与える~、っていうのが伝言だよ~」

「…………断れば?」


 返事は分かりきっていた。モーメンは目を閉じたまま、即答した。


「勿論、バラバラ」

「じゃあ、断る」


 モーメンの閉じていた目が、ぎょろりと見開く。不気味な紫色の瞳が、恐ろしい圧迫感を与えながら、マモンを捉える。


「ごめん寝てた。よく聞こえなかったな~。もう一回だけ言ってみて?」


 脅迫じみた威圧的な言葉に、マモンは平然とした様子で答えを返す。


「断る」

「バラバラ決定~~~」


 モーメンは枕を抱え、腕を塞いだ状態のまま一瞬でマモンの目の前に移動する!マモンはその驚異的なスピードに一瞬怯む。しかし、すぐに気をとり直し、あらかじめ仕込んでおいた『仕掛け』を発動させた。


 カチリ、とスイッチ音。


 瞬間、マモンの目の前に迫るモーメン目掛けて、周囲の木々から光の弾が射出された!

 



 カッ!


 強烈な閃光。それにモーメンは目を晦まされる。そして、その隙を突いて、マーモンはぐっとその首に手を当てた。


「悪いね。此処で寝ていてもらおう」




 マモンの手に魔力が宿る。そして、その魔力はモーメンの瞼に重い感覚を刻み込む。


「これは~~~~~……?」

「『睡眠欲』。眠るのが好きなのだろう?たっぷり、本能赴くままに眠るがいいさ。目的を聞き出せた今、君は用済みだよ」


 ゼブブも眠りにつかせたマモンの能力。


 それは『欲操作』。他者の持つ欲を引き出しコントロールする力。今の場合は、相手の『睡眠欲』を引き出し、眠りに誘う催眠術。

 マモンは難なくこの力により、モーメンを無力化した。


「…………答えを聞き出せた今、君は用済みだよ」


 と、思われた。


 しかし、モーメンは口を開いた。目を閉じ、ふらりと倒れ込むように、その手をマモンの腹にねじ込み、マモンの体を吹っ飛ばす!


「ぐはっ……!?」


 マモンはベンチの側に転がる。そして、腹を抑えながら、ふらふらと立つモーメンを睨んだ。


「な、なぜ……!?効かないのか!?」

「…………Zzz」


 否。モーメンにマモンの能力は効いていた。モーメンは眠っていた。深く、深く。

 しかし、それで倒れるかは別問題だったのだ。

 モーメンは、『寝言』をむにゃむにゃと吐く。


「…………能力を知らない訳がないだろ~?シオンさんは適材適所の賢い人だよ~?眠らせて無力化?それは無理~」




「魔王モーメンは、眠りながら戦うのさ~」


 寝ながら戦う、その意味不明な言葉に、マモンは顔をしかめる。


「…………そこのお嬢ちゃんを眠らせて置けば、目撃者にしなければ、僕ちんが見逃すと思った~?僕ちんを殺すのは気が引けた~?……シオンさんに従う僕ちんよりも、そんな甘い事を考えるマモンさんこそ、魔王失格だよ~?」


 魔王モーメンが眠りながら地を駆ける!そして、その枕から突き出した槍をマモンに向けて、突進する!




 ドスッ!




 槍が刺さる音。


 マモンの目の前は真っ暗になった。









   ----




 黒い影が動いていた。


 ひっそりと息を潜めて、その平和な街並みに溶け込んでいた。


 キリキリ、キリキリと音を立てて、黒い影は目を見開いた。


 ぎらりと銀色が光る。




 魔王マモンは、それなりの実力を持つ魔王である。


 彼は自身の後を付けている気配に気づいていた。




 しかし、一つだけ、彼は気に掛かる事があった。


(…………ちょっと付けてきてる人数、多過ぎないか?)


 自宅内で、幽霊のような女の子が探りを入れているのに気付いた。逆に気付かれぬように、彼女の『睡眠欲』を引き出して、意識を朦朧とさせて引き離したのはいい。


 自宅を出た時点で、マモンは自宅周りで待機する10の気配に気付いていたのだ。しかも、その全部が、散り散りバラバラに自分の後を追いかけてきている。


(いやいやいやいや……多過ぎるだろう!?)


 マモンは正直自分の感覚を疑った。

 そして、追跡者の正気を疑った。


(この大人数で何をするつもりだ!?というかこんな大勢で付けてきて気付かれないとでも?)


 こんな大人数で後を付けているのはおかしい。こいつらは全員仲間ではないのか?でも、関係ない人間がこれだけ同じターゲットを追って群がっているのに、こいつらは互いにその存在に気付いていないのか?


(何か狙いが……?…………それともただの馬鹿なのか?)


 マモンの予想は当たっていた。


 完全に後者だったのだ。




 モーメンに止めを刺されかけたマモンは目を疑った。


 目の前が真っ暗になる。


 黒い服に身を包んだ男が、自分の目の前に立っている。


「魔王マモン…………貴様の命は、この俺が戴く!!」

「旦那!後ろ!後ろ!槍で刺されてますって!」


 黒服の男は銀色の刀をぶら下げて、後ろをチラリと振り向いた。肩に乗せたチョコレート作りのカラスに言われた事を確認している。


 マモンに向けられた槍は、上空からダイブしてきた黒い男の背中にブスリと突き刺さっていた。


「貴様…………不意打ちか……!」

「旦那!あんたが勝手に攻撃の間に飛び込んだんでしょうが!しかも、刺されてるのに気付くの遅ッ!」


 マモンは唖然としている。


「むにゃ…………誰だお前~?」


 背中を刺されたまま、馬鹿その1と2、黒い装束の魔王とチョコカラスは声高らかに宣言した。


「我が名は魔王クロード!全ての魔王を討ち滅ぼし、大魔王となる男だ!」

「格好付ける前に背中何とかしなって旦那!」

「…………クロード?なんだこの馬鹿っぽい……」




 グシャァッ!!


「ぶべっ!?」




 バレバレの追跡でマモンにとっくに見つかっていた、馬鹿その3、魔王モーメンが、突如空から落ちてきた『何か』にぺしゃんこにされる!




 落ちてきた三つの影、馬鹿その4、5、6がゆっくりと土煙の中から立ち上がる……







   ----




 街には嫌な空気が漂い始めていた。




 混沌とした、嫌な空気が。




 魔王マモンを中心とした、カオスな混乱が今、動き出そうとしていた。





クロードさん再臨!クロードさんについては、クロード篇を見てね!

いきなりカオス展開に突入!ごめんなさい!


街に渦巻く怪しい空気……その発生源達が、静かな街ウリムで暴走する!


マモンのシリアス空気をぶち壊す、早朝の騒音騒ぎ!


次回、「ばかのすくつ、やなふいんき」に続く!




……暴走展開申し訳有りません!前回の黒いなんとやらは、クロードさんだったということで……w そして、怪しい三つの影。マモンを追っていた10人のバレバレ追跡者。超大人数で繰り広げる、マモンとか置いてきぼりの暴走展開の行方は?


……そして、主人公どこ行った?

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