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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
強欲の魔王マモン篇
40/55

魔王マモン

新章突入です!




 人々を見下ろす天空、最も天に近いと言われるその場所に、タカシ達は一週間をかけて、ようやく辿り着いた。




 そこに待ち受けるは魔王。


「よく来たね……勇者達」

「お前が……魔王マモン……!」


 明らかに違う威圧感、背を向けて立つスーツ姿の男は格の違いを背中だけで語っていた。




「ようこそ……我が城へ」




 その男、『強欲の魔王』、マモン。


 タカシ達は、遂に魔王と対峙する……










「いやぁ!疲れただろう?ささ、ソファーに座ってくれたまえ!」


 振り返るマモンはにこやかに言う。


「全くだよ!アポ取ってないとかで一週間足止め食らったぞ!」


 タカシはマモンに詰め寄る。


「あれ?そうだったのかい?それは失礼。勇者と名乗ってくれればすぐに通したんだが」

「え!じゃあ一週間無駄にしたじゃんか!畜生!こうなったらとっとと決着……」

「待ちたまえ。先ずは座って話そうじゃないか。喉は渇いていないかな?飲み物を用意しよう」

「え、ええええ?」


 柔らかい物腰に、タカシも困惑する。




 此処は商業都市ウリム最大を誇る建物、マモン商業本社ビル。

 世界トップクラスの大企業の本拠地にして、魔王マモンの城である……







  ----




 赤い長髪を後ろで結び、眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気の男、マモン。一見普通の人間にしか見えないその魔王はにっと笑うと、お茶を用意しにきた秘書らしき女を手をひらひらと動かし退室させた。


「噂は予々聞いているよ、魔王殺しの勇者一行。随分とノリにノッてるらしいじゃないか。光栄だなぁ、あのベリト氏を倒した勇者と出会えるなんて!」

「いや……握手とか要求されても……お前倒しに来たわけだし……」


 戸惑いを隠せないタカシは傍らで、これまた奇妙な表情を見せているむくちゃんにヒソヒソと囁いた。


「おい……!マモンってめっちゃ嫌な奴じゃなかったのかよ……!」

「いや…………罠の可能性もあるむきゅ。……まだ判断には早いむきゅ」

「そういやここ最近出会った魔王に殆ど歓迎されてんぞ!」

「おや?どうしたのかな?あ、もしかして紅茶よりコーヒー?それとも冷たいのがよかったかな?あ、ジュースもあるよ?」

「い、いえ……お気遣いどうも」

「私…………ジュースがいい。林檎の……」

「はい承りました。はっきりと要望してくれると凄く助かるよ」


 其処はマモンの王の間……ということになっている社長室。その部屋の隅に置かれた冷蔵庫までマモンは歩いていき、氷で冷やした林檎ジュースをパパっと用意し、ゼブブの元に持ってくる。


「ありがと……」

「はい、どういたしまして。他の皆さんはどうです?大体のモノは用意できますけど」

「い、いえ……結構です」


 凄く遣りづらい……と、その場に居る殆どが思った。


「さて……そろそろお話を始めましょうか?其方の事情も大体耳には入ってますよ。……斎藤タカシさん、二十歳でしたっけ?」

「は、はい……」


 何か凄く社長っぽい雰囲気に、タカシは恐縮しきっていた。秘書に案内されてエレベーターに乗ってビルに登ってきたときは、「俺の必殺技で一発で終わらせてやんよwww」と調子に乗っていたのに。


「災難でしたね……向こうの世界のご家族とか、心配してません?」

「……だ、大丈夫かと。というかあんまり考えたことなかったな」

「左右も分からない知らない場所はさぞかし不安だったでしょう……しかも、初めて見たのが魔王の手下と来たら、それはもう驚いたでしょう?……あ、でも楽勝でしたっけ?」

「は、はい…………結構ノリでやってきたんでなんとか」

「いやはや……感心しますよ。私だったら見知らぬ場所に、何も持たずに呼び出されたら……うまくやっていけるかどうか。いやぁ、ご立派だ」

「え、そ、そうすかね?うへへ……」

「し、師匠……何か言いくるめられてません……?」


 マモンの話を背筋を伸ばして聞くタカシ。もう開始時点から圧倒されっぱなしである。それを指摘するレイも何故か緊張の面持ちで背筋をピンと伸ばしている。


「……あ、緊張しないでいいよ!ごめんごめん。砕けた感じが良かったかな?あっはは!ああ、そんなに姿勢を良くしなくても……楽な格好でいいんだよ?」

「い、いえ。これが楽なんで……」


 タカシは完全に緊張していた。

 他のメンバーも何か緊張している様子で、まるで言葉を発していない。


「……あ、このお茶菓子、美味しいですね~」

「ホントだ…………」

『いやぁ……たっか~~~~い!絶景だね!』


 ……いや、女性陣は全然緊張してなかった。ミリーなんて見えないことを良いことに、何か窓から景色を眺めて立っている。まるでマモンさんの話を聞いていない。


「……ところで随分と知っているむきゅね、マモン」


 緊張し切ったタカシ達に代わり、むくちゃんが空気を変えようと口を開く。


 ナイスですむくさん!さすがは長老!人生の先輩やで!


 タカシとレイは、初めてむくちゃん……いや、むくさんに畏敬の念を抱いた。


「ああ、それなりにね。気分を害したのなら謝るよ。商売人としては色々と情報を集めたくてね……その過程でたまたま、ね。自分の身の安全にも関わるし」

「……じゃあ、俺達の目的もわかってるよなむきゅ」


 むくさんマジ頼りになるっす!

 この気まずい空気の中でいち早く本題を切り出してくれた!


「……勿論だとも」


 マモンはにっこりと微笑んで、ソファから腰を上げる。


 遂に戦闘突入か!?


 タカシとレイが緊張の糸を解いて立ち上がろうと気合いをいれたその時、

マモンはバッと手を上げて、目を閉じた。


「殴ってくれていいよ。しかし、一つだけお願いしたい」


 マモンの意外な言葉に、タカシとレイは完全に立つタイミングを見失った。そして、マモンは苦笑しながら溜め息をついた。




「あまり大きなケガをしない程度に、それだけは許して欲しい」





 




   ----




 マモンは窓の外を眺めながら語る。


「君の話を聞いたときにね、私はきっと君がいつか私の元を訪れると思っていたんだよ。事情を知るまでは何とか話し合いで見逃して貰えれば……と思っていたんだけど、事情を聞いたらどうやらそういう訳にもいかないようらしいしね。君の人生が掛かっているとなると、私も殴られたくないとは言ってられないなと思ってね」


 事情。タカシは魔王を全て倒さないと、元いた世界に帰れない。だからこそ、話し合いでマモンを見逃すこともないだろう。


「でも申し訳ないことに……私には守るべきモノがある。その為には、怪我で暫く此処を離れるなんて……許されないんだ。だから私は考えた」




「……私を殴っても構わない。その一撃で私は倒れよう。そうすれば、君達は魔王マモンを倒したことになる。でも、お願いだ。せめて、一発。思い切りでも構わない。だから、一発で許してくれ。一発だけなら、私も大怪我しない自信がある」

「え……えええええええ……?」


 タカシもレイも困惑した。

 そう言われると凄い遣りにくい。


「い、いや……別に殴らなくても、あんたに降伏してもらえばそれで……」

「それじゃあ君達も倒した気がしないだろう?何かの間違いで、君が帰れなくなったらどうするんだ?」

「い、いやそりゃ確かにそうだが……」

「遠慮はいらない!どんな一撃でも私は倒れる!抵抗もしない!さぁ、私を殴ってくれ!」


 窓から離れて、マモンが勢い良くタカシに迫る!タカシはもうオドオドと周囲を見回すばかりである。


「社長!何を馬鹿な事を言ってるんです!?」


 バンッ!


 社長室の扉を勢い良く開けて現れたのは、秘書。

 スーツをバシッと着こなした、眼鏡を掛けた真面目そうな秘書は、見た目は普通の人間である。気配も普通の人間である。


「もしも、何かの間違いで大怪我をしたらどうするんですか!?」

「だから一発で勘弁してくれるように頼んでいるんだろう!」

「それでも!社長にもしもの事があったら会社はどうなるんです!」

「しかし、タカシ君の人生が掛かっているんだぞ!私は大丈夫だ!だから下がっていろ!」

「貴方はこの街に暮らす……いえ、この世界に暮らす多くの人間の人生を背負っているのですよ!?もっとご自身の立場を理解してください!」

「分かっている!しかし、それがタカシ君の人生を犠牲にする理由にはなるまい!大丈夫、多くの守るべきものがあるからこそ、私はその程度では止まりはしない!一発殴られて、倒れるだけだ。仕事に支障をきたすつもりはない!」

「…………私は貴方を心配しているのですよ!?」


 秘書さんと凄い言い合いを始めるマモンさん。


 や、遣りづらい…………!


 タカシとレイは、冷や汗がどっと吹き出すのを感じた。横をちらりと見ると、むくさんもなにやら気まずい表情を見せている。


「お、おい、むく……マモンて金にがめつい悪人じゃないのか……?」

「…………ずっと以前はそうだった筈むきゅ!」

「今は……?」

「…………知らんむきゅ!」


 バン!と机を叩く音。ビクリと肩を弾ませる一同。


「御引き取りください!社長は此れから会議がありますので!」


 秘書さんが凄い形相で睨む。


 正直、タカシ達は今まで会った魔王よりも、ずっとおっかないと思った。


「エーデル!やめろ!……失礼した。私の部下が無礼な真似を……」

「社長!お言葉ですがもうお時間なのは事実です!」

「…………分かった。すまない、タカシ君。この話は後日、改めてさせてくれ。大丈夫。この街に滞在する費用や宿代は此方で持ちます。……エーデル、手配を」

「…………了解しました……!」


 凄く悔しそうな顔で、タカシ達を睨みつけるエーデル。怖い。


「ではまた後日……」


 タカシ達は、マモンと一戦交えることもなく、今日はマモンに手配して貰った宿に向かうこととなった。





 





   ----




「話が違うぞむく!めっちゃやりにくいぞあの魔王!しかも、めっちゃ人が良さそうだぞ!流石の俺でもあの人殴るの気が引けるわ!それに秘書さんめっちゃ怖かった!すごい睨んでたよ!」


 宿の一室で、取り敢えずの作戦会議に集まった一同。タカシはむくちゃんに涙目で掴みかかった。


「落ち着けむきゅ。…………パンプディングの事を忘れたか、むきゅ?」


 善良な顔をして、タカシ達を騙そうとした魔王も確かに今まではいた。


「だけどあれ、少なくとも私には演技には見えませんでしたけど……」

『秘書さん凄い怖かったよね……』


 アリアとミリーが言うとおり、あの凄まじい迫力はとても演技には思えなかった。マモンの言動からしても、あの場でどうやってタカシ達を罠に嵌めようとしているのか、まるで想像がつかない。殴らせておしまい、それだけしかあのあとの展開がなかったように思える。


「本心…………なのか?」

「………………私も別に悪人には見えなかった」


 レイも戸惑い、ゼブブもマモンの裏を疑わない。


 どうにも乗り気になれない魔王討伐。


 微妙な空気を漂う中、むくちゃんはその空気を破るべく、とある提案を持ち出した。




「……じゃあ、マモンの動きを探ってみるのはどうむきゅ?……裏で何かしていないか、それともあれが本心なのか、そうすれば分かるはずむきゅ」




 むくちゃんの提案。


 それは魔王マモンを探る事。


「探偵みたいで格好良いですね~!」

『私の偵察スキルが火を吹くぜ!』


 ノリがいいのはアリアとミリー。う~ん、と複雑な表情浮かべるタカシとレイ。どっちつかずな微妙な表情のゼブブ。


「…………じゃあ、そこの二人と俺が奴の本性を探ってみるむきゅ」




 こうして、魔王マモンの本性を探る偵察任務がスタートした!





魔王マモンはめっちゃ良い人?

謎多き社長魔王、マモンの素性を探るため、むくちゃん達がその動向を追う!


……果たして修行の成果は試せるのか?試せそうにないなぁ……


マモン篇はそれなりの長さに落ち着く予定でございます。


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