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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
殺戮の魔王バアルベリト篇
4/55

魔王バアルベリト




 タカシの攻撃!




「おらあああ!必殺『デストロイキヤノンMk2』!」


 必殺技『デストロイキヤノンMk2(ただのパンチ)』を使った!


「うおお!?」


 魔力を漲らせたから魔法でも来るのかと思いきや、まさかの物理。ベルペスもびっくりである。


 杖でとっさにガードする。







 ミシィ…




「んな!?」




 パンチを受け止めた禍々しい杖から嫌な音。


 ベルペスの嫌な予感の通りの光景が其処にはあった。


「ま、魔神の杖が……あ、ああああ!」

「嘘だろ……俺の剣を、ドリーの魔法をいくら受けても汚れ一つつかなかった杖が……!」

「一発……!」


 勇者達も驚愕。魔力も関係ないただのパンチ。それだけであの杖を折った。タカシは魔力だけでなく、身体能力さえもこの世界のものを超越しているとでもいうのか?


「見たかァ!電気のヒモボクシングで鍛えた俺の必殺技ァ!」

「おのれぇぇぇ!!」




 ベルペスが激昂する。


 絶体絶命。しかし志気を高めながらもベルペスは僅かな光明を冷静に見出していた。




 超魔神の攻撃は終わった。これで次は勇者のターン。他はカスのみ。それに耐えきり……私のターンで超魔神を討つ!


 ベルペスは杖から取り込んだ魔力をまだ体内に蓄えていた。勇者達では適わない程に。

 故に魔力を生み出す魔神の杖なき今でも戦える。




 そして取って置きの切り札、『死の呪い』。自分の命の欠片と引き換えに、一度だけ敵に死の呪いをかける魔法。


 これなら超魔神でも……!


 勇者など眼中にないとばかりにほくそ笑む。


「さあ!勇者よ!来い!杖は砕けようとも私は倒れぬッ!」

「ぐ……うおおおおッ!」




 勇者は勢いよく飛び出す!残り僅かな力を振り絞って。




 そして……








「スマッシュ!」

「うぼろぉッ!?」




 タカシの『スマッシュ(ただのパンチ)』!


 ベルペスは口から緑色の魔力と胃液を吐き出した!

 強烈なボディブローにベルペスは膝をつく。




「う……おえッ……!?何故……?今は勇者のターンだろう!?」

「あれ?これってターン制だった?悪ぃ。でも勝負の世界は非情なのよね」




 有り得ない!!!

 ターンを無視して動くだと!?これじゃまるで……!


「ターン二回行動……!」




 こいつは魔王様と同列だとでも言うのか……!?




「じゃ、そろそろファイナルターンだ!」







 ターン三回行動……だと……!?





「貴様は……魔王様を……超えると言うのか……!」

「え?魔王もいるのか?だったら俺は……『超』魔王だ!w」




 タカシは右腕を振り上げた(でも全裸)!


 魔力が右腕に集中していく!




「必殺、『ダークネスエクスカリバー』」


 黒いオーラが剣を形作る!


「ダークネスエクスカリバーとは!闇と光の境界を融合させた闇の聖剣!闇と光が混じり合ったカオスの力は、相手の光と闇の心を融合させ、さらにはカルマの法則をも超越し、光と闇のバランスを失った相手は世界の法則から離れ、消滅してしまうのだ!」




 ベルペスは『消滅してしまうのだ』だけは理解できた。





 魔王様……私は此処までのようです。


 きっと貴方様のこと、逃走の文字はないのでしょう。


 ならばせめて祈らせて貰いましょう。


 貴方様の勝利を……


「魔王バアルベリト様万歳!」


 ベルペスの叫びは城に木霊し……







 カーーンッ!!




 小気味良い金属音が遅れて響いた。




 タカシの必殺技『ダークネスエクスカリバー(鈍器)』!



 魔神臣ベルペスの頭をかち割った!




「ちょっ……!普通に痛いだけ……」


 魔神臣ベルペスは倒れた!


 勇者達はたくさんの経験値を得た!


 タカシは魔神臣ベルペスの衣服を剥ぎ取った!


「よし」


 ベルペスから剥ぎ取った服をいそいそと着ながら(というより巻きつけながら)、タカシは振り返る。


「……で?」

「で?」

「俺は何でこんなところに喚ばれたわけ?」




「……今更?」

「いや。まあノリでそこのモンスターぶっ倒したけど……もう帰っていいか?」




 タカシの口から出た言葉に戸惑う勇者達。


「おい……召還獣は呼び出したら命令を聞くんじゃないのか?」

「……普通は召還時に命令を一つ与える筈です。でもミリーは何か命令してましたっけ?」

「してないな」

「なら彼はどんな命令で動いてるんです?」

「取り敢えず何か命令するか?」

「いえ危険でしょう。ただでさえ手に余る召還獣です。下手に機嫌を損ねたら……」


 内藤とドリーはひそひそと相談する。

 そんな中、勇者レイだけが話に加わらず、真剣な眼差しでタカシを見ていた。


「待ってくれ」




 レイの声にタカシが振り向く。


「何だ……?どう帰るか早く教え……」

「まだ帰らないでくれ」




 意外な言葉に内藤もドリーも、そしてタカシでさえも驚く。


「は?」


 怪訝な表情を見せるタカシ。




 レイはそんな最強の召喚獣に深々と頭を下げた。


「頼む。俺達に、魔王討伐に協力してくれ」








「はああああ!?」


 タカシが変な声で叫ぶ。勇者一行も驚きを隠せない。


「レイ、何を……?」

「お前、頭下げて……」

「これしか俺には出来ないだろう!?」


 レイが声を荒げる。たじろぐ二人。


「ベルペスと戦って分かった筈だ……俺達じゃあ、魔王を倒せない……!」




 突きつけられた事実を再認識して、勇者一行は顔をしかめる。


「でも負けられないんだ……ミリーの為にも!だからあいつの残した希望に縋ってでも……俺達は魔王を打倒しなきゃいけない!」




 冷静なドリーはこの後、一旦引き返すことを考えていた。しかし今のレイにそんなことは提案できない。


 次があるさ。


 その言葉が吐けない程に、ベルペスと自分達の力は差があった。


 魔王は恐らくその数段上をいくだろう。


 例え経験値を貯めて鍛えたとしても、ドリーはまるで勝てる気がしなかった。




 ならば手を引く?


 無理だ。勇者は人々の希望を背負っている。逃げれば待つのは絶望のみ。


 そして何より、ここで尻尾を巻いて逃げ出したら……それこそミリーは無駄死にだ。


 きっと優しいミリーなら、『みんなが無事で良かった』と、逃げたとしても許してくれる。むしろ喜んでくれるだろう。




 しかし幾ら冷静でも、そんな優しさに甘える程にドリーは賢くなかった。




 ドリーも深々と頭を下げる。


「……自分からもお願いします。希望はあなたしかいないんです」


 ここで彼を帰してしまえば……魔王を討つチャンスは潰える。ここで彼の力を借りるのが最善策。

 それがドリーの判断。あくまで魔王を討つための。


「……俺からも頼む」


 内藤も頭を垂れる。


「……あんたの召喚に……俺達の仲間が一人命を懸けた。無駄にしたくないんだ……あいつが託してくれた希望を」




 タカシは難しい顔をしている。


「無礼は承知だ。あんたには何のメリットもないのはわかってる。でも……頼む。あんたが魔王を倒す……最後の希望なんだ」







 涙ながらにレイはさらに頭を下げる。それに続いて二人も下げる。


 それを見たタカシは……










「いいよっ」







「……軽いな!」


 思わず頭を上げるレイ。




 その視線の先には、妙に嬉しそうなタカシの顔が……


「な、なんでにやけてるんだ?」

「……人に頼りにされるの初めて」

「そ、そうなのか」




 意外と可哀想な奴なのかな、とレイは苦笑いで得意気なタカシを見る。


「……この世界も悪くないな。人に頭下げられたの初めてだ……」




 泣いたタカシ。一体元いた世界で何があった?勇者達が本気で心配するレベルの切ない表情である。


「俺、なんかタカシとは仲良くなれる気がするわ……」


 しみじみ呟く内藤。


「誤解してましたよ……ただただ危険な方だと思ってましたが……はい」


 言葉を濁すドリー。


「……頼ってしまって済まない。でも、あんただけが頼りだ……よろしく頼む」


 レイが手を差し伸べる。




 タカシはその手を強く握り返す。


「よせや……べ、別に大して苦労しないからな。気にすんな……」


 二人の握り合う手に、ドリーと内藤の手が重ねられる。




 勇者達は顔を見合わせる。




 そしてまるで永年の友のように、にっと笑い合った。


 そして声を合わせて誓う。




「魔王を必ず倒す」



 新たな勇者パーティーの誕生の瞬間だった。


「へっ!お前らに出番はねえよ!この『超』魔王が!すぐにケリつけてやら!」

「へっ!お前を頼りはしたが……俺だってやってやる!」

「頼もしいですね……!サポートはお任せを!」

「俺は壁になるぜ!……あれ?言ってて悲しくなってきた……」




 決意を固めた四人。先陣を切るのは超魔神で超魔王、最強の召喚獣のタカシ!




「さぁ……カチコミいくかァ!」




 魔王の待つ部屋、その扉の前に立つ。




 タカシはその足を持ち上げ……








 ガッシャァァァァァァァンッ!!!




 その足で扉を蹴破る!




 耳を塞ぎたくなるような騒音と共に扉は吹き飛び、勇者パーティーは魔王の部屋へと踏み込んだ!




「さあッ!始めようぜ……魔王ォォォォォッ!!」










 魔王ォォォッ!……魔王ォォッ!………魔王ォッ!……魔王…………まお~…………




 木霊する声。




「……あれ?」




 広い部屋には誰も居なかった。




「……部屋間違えた?」

「いや……ベルペスが守ってたし、合ってるはずだが」

「ベルペスが守る部屋間違えたんじゃねぇの?」

「……どんな馬鹿ですかそれ」


 何かがおかしい。勇者パーティーは違和感を感じた。




「まさか俺に恐れをなして逃げたか?」

「いや。魔王バアルベリトはプライドの高い奴だ。敵前逃亡なんて有り得ない」

「トイレじゃないのか?」

「内藤、少し黙れ」




 ざわめく魔王の部屋。




 そんな中、冷静なドリーが声を漏らす。


「……あの……自分の気のせいだったらいいのですが……」

 心なしかその声は震えているようにも聞こえた。


「ドリー、どうした?」




 ドリーは真っ直ぐある方向を指さす。


「……もしかしてあそこ」




 大きな入り口をくぐり抜けたら地面には高貴な赤絨毯。真っ直ぐ伸びた絨毯の先には段差が。







 ―――そしてその先には、タカシが蹴り飛ばした巨大な扉が……壁にめり込んでいる。




 あれ?




 扉が通ったその通り道には、一部抉れた跡。


 『まるで何かあったような』、入り口から真っ直ぐ進んだ先にある跡。



「あそこ…………元は『玉座』があったんじゃ……?」




 ざわ……




 嫌な予感。




 四人は息を呑み、ゆっくりと赤絨毯を進む。


 そして抉れた地面を通り過ぎ、壁にめり込む扉の前に立つ。




「タカシ、どかせるか?」

「……うん。グロ注意な」

「……いやいやいや……ギャグじゃあるまいし」

「頼む……!居るなよ……居るなよ……!」




 冷や汗だらっだらの勇者パーティー。


「う、うおおおおおおおおおお!」




 無駄な雄叫びと共に、扉を壁から引き剥がす。


 ガコンと音を立ててパラパラと破片をこぼしながら凹んだ壁が姿を見せる。




 そこには……










「……居た」


 黒褐色の肌の男がめり込んでいた。


 頭に生える立派な二本の角にはヒビが入っている。


 額には第三の目が開く。血走った三眼は白目剥き出し。


 胸に刻まれた魔王の刻印は、何故か虚しく煤けていた。




「お前が……魔王バアルベリトか」


 魔王バアルベリトは答えない。だが多分バアルベリトで合ってる。


「覚悟しろ……お前の悪事もここまでだ」

 魔王バアルベリトは答えない。だが多分、覚悟とかはしていないとは思う。


「強い……」


 多分強かったと思う。


「……」

「……」

「……」

「……」




 沈黙。




「よかったですね」

 沈黙を破り、ドリーが口を開く。




「潰れたゴキブリみたいになってなくて」







「そうだね」


 三人は引きつった表情で答えた。






 魔王バアルベリトを倒した!


 得るものは何もなかった!


 勇者達の冒険はここで終わってしまった!




 -END-




 スタッフロールが流れるのを感じながら、勇者達は固めた覚悟が音を立てて一瞬で崩れ去ったことを理解した。



死因:ド圧死


教訓:ドアは静かに開けましょう


バアルベリトさん終了のお知らせ


もうちょっとだけ続くんじゃよ(もっと続くフラグ)




まだまだ導入部分です……次回、勇者凱旋!序章完結!



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