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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
蝕みの魔王マゴット篇
38/55

解放の試練

いよいよ解放の試練も終盤……?




 むくちゃんは考える。


 この力、扱うにはこの白い饅頭みたいな体は余りにも器が小さすぎる。せめて、力をもう少しだけ引き出せるくらいの器が欲しい。


 今までは力を出す事を恐れていたのに、大した心変わりだな……とむくちゃんは自嘲の笑みを浮かべつつ、その器を得る方法を考えた。


 最初の頃はまだ知恵足らずだった。しかし、今は世界を飽きるほどに見てきた。


 思い浮かぶは、自身の唯一の忠実なる配下、ゼペット。


 人形遣いである彼女の能力を思い出し、自身もその能力から可能性を見出す。


「どうした!?逃げるばかりじゃ、押しつぶされるのは時間の問題だぞ!?」


 巨大な黒い山、リヴァイアサンに化けたマゴットを見上げ、むくちゃんは試す。


「…………器が無いなら、作ればいいむきゅ」


 生憎ここに人形は無い。使えそうなものもない。


 しかし、『余りある物』ならある。


 むくちゃんは、それを器に、放出し得る膨大な魔力を一気に流し込む!




「…………!?そ、それは……!」


 マゴットは驚愕した。むくちゃんが見出した、その力の利用法、その意外な形に。


 ヒントはゼペット、そしてミリー。


 のしかかった筈のマゴットの巨大が浮かび上がる!


 むくちゃんが作り出した器は……









   ----




 タカシは未だに悩んでいた。


「うおおおおおお!エクスカリバァァァァァ!」

「だから魔力を武器にしたって、それはただの物理攻撃なんだって!」


 ガツン!という衝撃音。もう一人のタカシ、マゴットは楽々それを受け止める。そして容赦なく空いた左手でのカウンター。


「うぼあ!?」


 吹っ飛ぶものの、大したダメージでもないと直ぐに立ち上がるタカシ。


「ほんと、呆れる程丈夫な体だな……」


 マゴットは自分の体とタカシの体を交互に見ながら呆れ顔で溜め息一つ。確かにここまで相当な力で打ち合ってきたが、かなりタカシの体はピンピンしている。それでも多少の疲労は見られる。


「ほら。もっとさ……工夫しろよ工夫!レベルを上げて物理で殴ればいい、なんて発想じゃ倒せない魔王も出てくるぜ?」

「わかっとるわ!少し黙れ!」


 イライラしながらもタカシは考える……


「隙あり!」

「ぐぼら!?」


 考えるタカシにマゴット顔面パンチ!余裕で耐えるがタカシがキレる!


「何しやがる!?」

「お前も似たことやってきただろうが!」

「ぐ……!言い返せない……!自分の行いが自分に帰ってくるとは……!」


 タカシ、歯噛み!


 しかし、冗談を言いつつもなかではタカシなりに冷静に思考を巡らせる。


(……しかし、どうする?殴るのは効かんし……そういえばリヴァイアサンとかいうのは物理攻撃が効かないとか言ってたな……なら魔法?しかしどんなものを出せばいい?)


 飛んでくるマゴットの荒々しいパンチをいなし、タカシは考える。


(何か格好いい必殺技…………何かこう……ビームとか出したいよな……)


 ビーム、ビーム、ビーム、必殺技………………


 ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、…………




 チーン!




 タカシは突如、子供の頃の懐かしき記憶を思い出す。


 近所の山。其処には確か小さな滝があった。小さい頃の俺は、一人で山篭り気分でその滝にしょっちゅう向かっていたっけ。


 あの、必殺技を習得するために……!


 タカシは閃いた。


 今ならば、この世界でならば、あの『必殺技』を放てるかもしれない!


 山奥で叫び続けたあの『必殺技』……!


(『かめ○め波』……!!)




 マゴットは奇妙な寒気に鳥肌を立てた。


(……となると、俺オリジナルの技名をつけたいところ……!考えろ!考えろ!)


 もう考える内容が完全に変わってしまった。


 もしかして、自分はとんでもないアホと戦っているのでは……?


 マゴットの予感はだいたいあっていた。









   ----




 マゴットは絶句した。


 『積み木積み』、それを通して彼がミリーに求めていたもの、リベルがミリーに求めていたもの。


 それは霊体ミリーが持つ才能、『念動力』。


 手を使わず、念じるだけで物を動かす特別な才能。人間では極稀、魔王の中でも一部、優秀な者にしか使えないというかなり特殊な能力。

 その応用範囲は実に広大。時には敵に触れることなく倒す、という非常に強力な能力である。


 ミリーはいつからか、この才能の片鱗を見せていた。……というよりも、霊体状態で物に干渉できるということ自体が、恐らくは念動力によるものだろう。

 無意識下で、手や体の接触に合わせて念動力が発動する。しかもそれは霊体である自分自身にまで。それにより、触覚といった感覚や物体に触るといった現象を再現しているのだろう。


 この試練での合格ポイントは、この念動力を自由に扱うこと。


 不安定な積み木を念動力で支え、その上に念動力で積み木をさらに積み上げていく……つまり自分の手以外での干渉方法をマスターすることが目的であった。


 しかし、ミリーは意外な……信じ難い方法を編み出す。


 彼女はアホっぽい。とてもアホっぽい。


 しかし、意外なことに冷静に事態を観測し、意外なまでに度胸があった。


 しかしやはりアホっぽい。彼女は少し勘違いをしていた。


 かつてその体になって訪れたたった一度の危機、魔王クロードとの接触。その時の経験と、自身の持つ念動力の才能。

 そして、自身の元々持つ『召喚術師』としての才能。


 これらの混同により、彼女は全く見当違いな答えを見出し、さらには全く違った力を発現させた。


「…………いやいやいや……これはちょっと……姉御、ヤバいですって。『こんな力』、見当違いもいいトコですって。もしかして、やっちゃいけないコトしちゃってません?あっしら……」


 マゴットは身震いした。


 それはこの世の理に対する反逆。歴史上に名を残す、伝説の魔王の力としてのみ伝えられる恐るべき禁術の再現。


 積み木を高々と積み上げ、ドヤ顔しているミリーは、積み上がった積み木を支える『無数の手』をポンポンと叩いてマゴットを見下ろした。


『これでいいんでしょ?』




 






   ----




 飛び回るハエは部屋を埋め尽くすほどに増えていた。


 レイはまるで減らせない、それどころか増えてしまった光るハエを睨みつける。


「お~お~、もう大分増えちゃったね?進歩しないな君も」


 マゴットの言葉にレイは言葉を返さない。言われずとも、自分でも自身の無能を理解しているといった表情で、ただただハエを睨む。


 此処までレイは積極的にチャージを用いて、その加速中に方向転換を狙ったり、チャージ時間をどうにか短縮できないかと調整を繰り返してみた。


 しかし、どうしてもできない。曲がることもままならず、チャージ時間はいくら繰り返しても集中しても縮まらない。


「…………なんでだ。何が足りない……?」


 レイは考える。これは調節するようなものではないのか?


「もうずっと続けてるね。これじゃあ日が暮れてしまうよ」


 再び力を溜め込もうとして、ふと引っかかる。


 日が暮れる……そういえばずっと続けていたな、この動作。

 しかし慣れとかそういう問題でもなさそうだ……

 いや、そこは問題じゃない。




 ……何故、俺は疲労しない?




 集中していて、レイは余りにも疲労が来ない、魔力の限界が来ないことに気付かなかった。しかし、よく考えたらそれは奇妙なことである。


「ああ、それはちょっとした細工がしてあるからね。君は体力も魔力も気にしないで試練を続けるといい」


 心を見透かすように、女が言う。


「そうか……お前の仕業か」


 レイは目の前の事に必死になりすぎて、この試練の目的を忘れていたことに気付き、自分を戒める。


 これは戦う為の鍛錬。


 それを意識し、レイは今までの魔力と体力の無駄遣いを恥じる。実践ではこんな闇雲な動きは命取りだ。もっと、戦況を見極めてのペース配分が必要の筈。

 パンと頬を叩き、深く息を吐く。

 気を取り直して、レイはそういったことにも目を向ける。




 ………ん?




 そこから見出す一筋の光明。


 何故、曲がれないのか?……勢いが強すぎるからである。

 何故、チャージ時間を短縮できないのか?……それだけのチャージに最低限その時間を要するからである。


 …………そうか。


 使い放題の力に甘えて、レイは失念していた。


 それに気付けば話は早い。


 レイは再び魔力を押さえ込む。




 そして、今までよりも圧倒的に早いタイミングで一歩を踏み出した!


「…………これだッ!」









   ----




「…………うん、うん。お仲間は続々と見出してるみたいだね。自分達の可能性」


 リベルは本をぱらりと捲りながら、鼻歌交じりに呟いた。


「……で、ゼブブちゃんは見つけられたかな?『私の力』」


 息を切らして、ゼブブはその手から銀色の光の矢を生み出す。光の矢は激しい音を立てながら回転すると、ゼブブの合図と共に射出される!


「『結界針ケッカイシン』」


 目にも止まらぬ速さの矢。それを一瞥すると、リベルは本を支える指をちょいと横に動かす。


「『無効』」


 届く前に銀の矢は消失する。


「ゼブブちゃん。さっきからお姉ちゃんに気を遣ってるのか分からないけど……殺す気で来ないと、私の力は見極められないよ?」


 本を読みながらの余裕の表情。更には本を閉じ、青髪青眼の女、リベルは目を閉じた。


「あれ?ちょっと眠くなってきたかな?やっぱり活字は疲れるねぇ」


 誘っている。そう気付きつつも、ゼブブは受けた言葉通りに、容赦なくその手に二本のハンドアックスを握る!そして、一気に距離を詰めるとその二本を勢い良く振り抜いた!『おまけ』もつけて……


「『即死デス


 黒いオーラを帯びてハンドアックスが不気味に輝く。それを見もせず、くすりと笑うとリベルは軽く身を逸らして右腕を盾のように差し出した。


「『無効』」


 斧が切り裂く音も、接触する音もしなかった。そして何より、ゼブブの付けた『おまけ』は全く効果すら見せなかった。


「そんな…………!」

「ベリトの能力……でも、ちょっと未熟かな?それじゃ、相手を瀕死状態にしかできないよ?……いや、優しいゼブブちゃんにはピッタリな加減なのかな?……ま、私には効かないよ。例えベリトの能力そのままでもね」


 ゼブブは直ぐ様距離を取る。すると二本の斧はパラパラと砕け落ちた。対するリベルの腕には傷一つない。


「いや…………可愛いゼブブちゃんの為にネタばらしをちょくちょく始めて行こうか。…………私には、一切の攻撃は通用しないよ」




 ゼブブは言葉を失った。


 一切通用しない?そんなふざけた性能の能力があるのか?それは事実上無敵ということではないのか?


「そうだよゼブブちゃん」

「……!」


 心の内を見透かすリベル。目を閉じたまま不気味に微笑む。


「私は無敵だよ。私に対する攻撃は全て『無効』。私を前にして意思を覆い隠す壁は全て『無効』。私にとって体は一つしかないなんて縛りは『無効』。この世全ての法則は『無効』。私にもできないことがあるか?そんなことは全部『無効』」


 リベルが仕切りに繰り返す言葉、それこそが元魔王、現精霊リベルの能力。


「私の能力は『無効』。ありとあらゆるものを『なし』にする。私に働く害悪も、斧によるダメージも、斧の耐久力も……そして記憶もなかったことにできる」


 まさにデタラメ。まさにイカサマ。

 巫山戯たを通り越して理不尽。

 それがリベルの能力。


「そう、そろそろ思い出してくれたかな?…………って、そろそろ記憶にかけてる『無効』に『無効』をかけようかな?」


 カチン!とゼブブの中で、何かが外れる音が響く。それと同時に蘇る、目の前に立つ女の記憶。


「………………メヒ……姉?」

「わお。ようやく思い出してくれたかな?可愛い可愛いゼブブちゃん?……さて、『無効』」


 リベルは己の身に掛かる『無効』を『無効』で打ち消す。それにより『可視』を『無効』にした変装を解除する。


 そして隠していた背中から生えた翼のような透明の角が姿を顕す。


「改めて自己紹介と行こう。私は精霊リベル。またの名を……『万能の魔王』、バアルメヒティヒ。バアルに名を連ねる、ゼブブちゃんのお姉さんだ。まあ、名前が長くて面倒だから、リベルで結構。あ、ゼブブちゃんならメヒ姉でもいいよ?」


 バアルメヒティヒ……リベルは閉じていた目を開く。するとそこには青い眼からうって変わって、灰色の瞳が不気味に輝く。


「どうして…………?どうしてみんなの記憶を消して…………家を離れてたの?」

「どうしてって……そんな話はどうでもいいだろう?」


 リベルは楽しそうに笑い、パチンと指を弾き「無効」と一言。途端にその体はふわりと宙に浮かび上がり、ゼブブを見下ろす形で透明の角を輝かせる。


「遊ぼうよゼブブちゃん。そして、是非とも習得してよ。私の力、『無効』を、ほんの少しのカケラでも、ね」




 魔王バアルメヒティヒ。その圧倒的な力を持つ姉に、ゼブブは立ち向かう。その力、『無効』を手に入れる為に。




精霊リベル、またの名を魔王バアルメヒティヒの仕向ける解放の試練、遂に完全決着?

そして、手に入る力とは?バアルメヒティヒの目論見とは?


次回、「見透かす者」に続く!


メヒティヒさんは基本的にチートすぎる性能を持つ魔王様。なんでも「無効」で済ますデタラメ魔王ですw

そして、次回でこの章も終了!その次からが再び魔王討伐の旅へ戻ります!

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