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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
蝕みの魔王マゴット篇
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背く者




 勇者アーク。大国ヘーレ出身の勇者である彼が倒すべき相手は、ヘーレに無数の魔物を送り込む魔王、シカトリスだった。


 ヘーレに恐怖を齎すシカトリスを倒すために、彼は三人の仲間を連れて旅立った。


 魔剣士クルス。魔法剣という特異な才能を秘めた強力な金髪の剣士。一国の兵団にも匹敵するとも言われるヘーレでも最高峰の戦力。


 白魔術師レゾ=ミストフォロス。世界でも最高峰の力を持つと言われる雇われ魔術師の家系、ミストフォロス家に名を連ね、中でも白魔術の腕に関しては歴代最高とも呼ばれるエリート白魔術師。

 その力は、『死』以外のあらゆる傷も病も治すと云われる程のものだった。


 そして、武道家アリア=ミストフォロス。その名から分かるように、レゾと同じミストフォロスに名を連ねる少女。魔術師の家系にありながら、武道家のジョブに就く異色の者。得意とする魔術も強化系中心、さらに加えて元より持つそのパワーとスピードは、魔族ですら引けを取る程に強力という魔術師とは程遠いパワータイプ。

 しかしそれは勿論、ミストフォロス家のあり方からは大きく外れた存在で、その家系では落ちこぼれとも呼べる存在だった。

 そんな彼女の支えになっていたのが、姉であるレゾ。そして、彼女を誘った勇者アークだった。




 出てくる魔物は、アリアが真っ先に飛び出し素手で粉砕。地面ごと巻き込み、敵の群れを一瞬で崩壊させる。逃がした魔物はアークとクルスがうち漏らさずに斬る。

 物理のアリア、魔法のクルス、安定のアーク、攻撃面では隙のない三人に、一人で回復、防御、全てを担うレゾ……この四人のコンビネーションを相手に、生き残れる魔物は居なかった。


「アリアは馬鹿力で頼りになりますね~~~まさに豪腕!って感じです~~~」

「馬鹿って言うな!それに豪腕って……私も一応乙女だけど!?」

「…………乙女(笑)」

「おいコラクルス。何笑ってんだこの根暗」

「まぁ、でも頼りにしてるぜアリア!お前の怪力!」

「怪力言うな!」


 それは最高のパーティーだった。魔王シカトリスなんて敵ではない、そう言えるほどに強く、楽しいものだった。




「俺さ、シカトリスを倒した後も、魔王を倒して行きたいんだよな。もっと困ってる人を救いたい……っていうかなんというか」


 ある日の夜、そう語ったアーク。


「でさ、もしもよかったら……その魔王討伐の旅に、お前らも手を貸してくれないかな~なんて」


 クルスは元々、力こそあれど孤立した存在だった。力がある故の嫉妬、そして元々口下手な性格もあって、いつも一人でただ淡々と与えられた仕事をこなすだけの機械のようだった。それに声を掛け、熱心に勧誘したのはアークだった。


 クルスにとって、アークは唯一の友でもあったのだ。その答えは決まっていた。


「……………………構わん。……どうせ暇だ」


 アリア……私の答えも決まっていた。


 元々、ミストフォロスの家にも居場所もない私には、アークが誘ってくれたこの場所しか、居場所はなかった。

 こんな女らしくもない力を、必要としてくれた、落ちこぼれの私を、必要としてくれた、そんなアークに私は心の底から感謝していた。


「私も別にいいけど。アークみたいな軟弱者だけじゃ魔王なんて倒せないし!」

「いや……たしかにお前からしたらみんな軟弱者だろうけどさぁ……」

「…………男(笑)」

「オイコラ、根暗ァ……!」




 しかし、一人だけ。居場所はどこにでもあるレゾ、姉さんは事情が違う。

 わざわざ魔王討伐なんて危険な道に進まなくとも、いくらでも進む道はある。そもそも、この魔王討伐の勇者パーティーに加わったことも、不思議でしかなかったのだ。


「…………レゾはやっぱり無理かな?」


 それはアークも気にしていた部分だったようだ。姉さんはいつもどおりののほほんとした笑顔を浮かべて答えた。


「いいですよ~~~?」


 意外な返事にアークも、クルスも、私も驚いたものだ。


「ちょ……姉さん!何言ってんの!ミストフォロスの家の事とかは……!」

「いや、まぁ結果を残せば……大丈夫なんじゃないですか~?」

「そんな呑気な!」

「そうかしら~~?でも大丈夫なんじゃないですか~?だって、魔王討伐なんて軽いですよ~~」


 レゾ姉さんはいつものように私を抱き寄せる。


「アリアも居るし~、アークも居るし~、クルスも居るもの~。私もも~っとみんなと居たいな~って!」


 知っていた。姉さんが、私のことを気に掛けてこの旅に付いてきた事くらい。それを知っていて、付いてくると言った姉さんの優しさに私は甘えていた。


 そう。私がその優しさに甘えさえしなければ…………姉さんをはじめに突き返していたら…………あんなことにはならなかったはずだった。







   ~~~~




「…………誰?」


 魔王シカトリスの城、その最深部の部屋で、『あいつ』は肉を貪るように血の海の中心に佇んでいた。


 一目見た印象は『黒』、全身黒づくめの『あいつ』は、その血塗れの爪でシカトリスの空色の角をつまみ上げ、その真っ赤な瞳で此方を睨んだ。


 黄金の角、血で汚れたそれが不気味に光る。

 それは危険。危機。死。死。死。死。


 私の目がそれを『死』そのものだと捉える。


 気付けば私は誰よりも先に飛び出していた。


 ……殺らなきゃ殺られる。殺らなきゃ殺られる。殺らなきゃ殺られる。




 振り抜いた拳はその銀色の肌に傷一つ付けることナク


「…………敵性、ソンザイ……抹消…………マッショウ……」


 『あいつ』のツブヤキ二私が恐怖した時にハ既二オソイ




 血。血。血。血。


「クルス!アリアを連れて逃げろ!俺が足止めを…………!」


 ナンデ?ナンデ私ダケ?


「…………来い、アリア!…………レゾはもう……!」


 ナンデ私が生き残ル?




「……魔王討伐の任、ご苦労であった。……その『黒い男』の話は決して口外するな。勇者アークと白魔術師レゾは魔王シカトリスと同士討ちで倒れた。いいな?お前達も、あの二人の名誉が汚されることを望まないだろう?」


 姉サンが死んデ、私が生き残ル?……オカシイ、絶対にオカシイ。


「…………気に病むな。…………あれは仕方なかった」


「……なんであんな落ちこぼれが生きて帰って、レゾが……」

「よくもまぁ、ノコノコと帰ってきたものね」

「ミストフォロスの恥さらしが…………何のためにお前が居る?レゾの代わりに何故命を差し出さなかった?」




 そうダ、アソコで死んダノは、レゾじゃナイ……アリアだ……



 私は決めタ。

 白いローブを身に纏い。

 家を出た。

 白魔術師として。

 救う者ものとして。

 姉さんが救うはずだった人々を。

 救うために。




「とんだ白魔術師だね。白魔法の一つも満足に扱えやしない」

「役立たずだよ本当」

「落ちこぼれ白魔術師」


 それでも私に居場所はナイ。言葉遣いを変えてみても、魔法をどんなに勉強しても、姉さんは帰って来ない。




 全てハ私のセイで。全ては『あいつ』のセイで……!



「……う、うああああああああああああああっ!」


 目の前に浮かび上がる『あいつ』に、アリアはあの時と同じように殴りかかる。


「……駄目じゃないか。何も考えずに向かっていったら……あ、もしかしてトラウマで壊れちゃった?」

「姉御……不味いですって!これはちょっと……ヤバイレベルの傷口開いちゃってますって!」

「…………やっぱり見つめられないかぁ過去を。折角、君の開花を期待していたのにねぇ……」


 リベルは残念そうに呟く。


「君が白魔術師になろうとした理由は姉の穴埋めの為?……それともあの時姉を、仲間を救えなかった自分が悔しかったから?あの時、自分が白魔法を使えていたら、姉は救えた?」




 アリアは『あいつ』に拳を受け止められ、そのまま投げ飛ばされる。爪を開き、ギチギチと音を立てながら、黒い悪魔はアリアを睨む。


「……無理だろう。姉のように白魔法を使えても……あの時、君の姉は死んでいた」


 『あいつ』さえ壊せば、『あいつ』さえ殺せば、姉さんは生きていた……?


「君に出来ることはなんだ?姉を真似ても君は何もできない。君らしさとはなんだ?」


 私は馬鹿力のアリア。『救う』能のない『壊す』者。だったらただ『壊せば』いい?


「そう、『壊せば』いい」




「…………姉御!ヤバイですって!完全に壊れちまいますよこの娘!」

「……はぁ。惜しいとこまでは来てるんだけど。やっぱりきちんとアドバイスしたほうがいいのかなぁ?それともゆっくり馴らしながら……かな?…………んじゃ、マゴット。蓋をしてくれ」




 ぼんやりと暗闇に意識が落ちていく。目を逸らしてきた過去に蓋が掛かる。


「…………いきなり悪かったね。辛いことを思い出させて。でもそれだけ君には期待しているんだと思ってくれ。…………お詫びというのもなんだけど、『その時』が来たら助けよう」


 リベルには何が見えているのか?その手に宿した光をそっとアリアの額に添えて、その光を注ぎ込む。


「最後にヒントだ。『壊せば』いい。しかし、それは『救うな』と言っている訳ではないよ」


 うっすらと聞こえるリベルの声。それに意識も回せぬまま、アリアは眠りに落ちていく。


「『理不尽を壊す』。君にはその才能がある。もしも、それを知ったとき、君は白魔術師よりも優れた、姉よりも優れた…………」








   ----




「ほいほい。取り敢えず過去の記憶を封じ込めましたよ。元々、反対だったんですよ。本人が忘れようとしてる記憶を引っ張り出すなんて。所々破損も見られましたし、下手したら廃人ですよ廃人!そこまでして何を求めてるんです?」


 マゴットの責め立てるような言葉に動じず、目を閉じるアリアを見下ろしリベルは溜め息を吐く。


「この子には『死』が見える。その才能、私の『眼』を引き継ぐのに相応しい」

「…………まぁ、よく分かりませんけど」

「今は分からないさ。この子は、アリアの成長はもう少し後。今はどうやったって『解放』は望めない。待たないと」




「……仲間がもう一度、『死ぬ』まで、ね」




 リベルの不気味な笑み。それにマゴットは身震いした。その深淵とした考え、想像もつかない目論見、それを全く見通せずに。


「……さて、マゴット。そっちで見ているのはどうかな?」

「……ええ。中々に良い調子ですよ」

「それは良かった。じゃあ、おあずけはアリアだけかな?」


 『解放の試練』の精霊、リベルは何を思うか。


 試練も終盤、如何なる力が解放されるか?





背く者=アリア。この意味はまだこの話だけでは分からないかも?

アリアの過去が断片的に判明。彼女が自分の才能に気付くのは、もう少し先のお話……

結構ブラックブラックになってきたところで……試練も終盤!

解放の試練、遂に決着間近?

次回、『解放の試練』に続く!


…………ギャグチックなノリで突入した割に、案外ブラックだったり真面目に修行したり……針がブレブレでございますw

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