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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
蝕みの魔王マゴット篇
35/55

小さいことからコツコツと

引き続きの試練!次の二人は……




『…………そ~っと、そ~っと……』


 ガシャン!


『あー!もー!』


 崩れた木片を睨んでミリーが悲鳴を上げる。それを見ながら、青髪の女はくすくす笑う。


「頑張れ頑張れー」

『なんで私は積み木を積んでいるの!?』


 ミリーがいる部屋は子供部屋のようなファンシーな見た目の部屋。その中央には積み木が詰め込まれた箱が一つ。

 ミリーが要求されたことは部屋の壁に引かれた線、そこを超える高さまで積み木を積み上げること。高さおよそ2m程、手のひらサイズの積み木を地道に積み上げるというなんとも地味な作業。

 しかも困った事に、積み木は見た目の量程の余裕がない。なかには三角形など、単純に積み上げることのできないものなどがあり、2m分に加えて、ほんの僅かしか使える積み木が出ない。つまり幅広く安定させて積み上げるのは不可能。手のひらサイズの小さな積み木を、細く積み上げるしかないのだ。


『絶対に無理だよこんなの!』

「大丈夫大丈夫。やらなきゃ此処から出られないから」


 青髪の女は本を読みながら楽しそうにくすくす笑う。


「君はまだまだ自分の持つ力を理解できていない。その特殊な体で何が出来るのか……それを見つける必要がある。そのためにまずは出来ることを磨くことだね。つまりは自分の意思で物体に干渉できる力を、もっと繊細に扱えるようになるんだ」


 タカシの召喚に命という代償を支払おうとしたミリーは、そのせいか、幽霊のように透き通った体になってしまった。通常ならばその体は物体をすり抜けるし、知らないものには見えもしない。しかし、僅かながらミリーの意思で物体に干渉すること可能ではあった。

 今はまさにその力をもっと自由に扱うことを要求していると、青髪の女、精霊リベルらしき女は語る。


「君は意外とパーティーメンバーの力になれる力を持っているはずだ。その霊体にも似た体は、形ある彼らには成せないことを成せるだろう。その時に、物体に干渉できないようじゃ意味ないだろう?例えば鍵の閉まった扉をすり抜けて、向こう側から鍵を開ける……とかさ」

『タカシ君、開かない扉は多分ぶち破る』

「…………いやいや。そこは役に立てるかも!って喜ぶところだろう?どっちにせよ、此処に入った以上は出来るまで出さないから」

『…………じゃあ、今すり抜けて出てけば』

「無理だよ。それにそういうことをするのなら、身の安全は保証できないな?」

『き、脅迫!うえ~ん、酷いよ~』

「…………嘘泣き下手だな。いや、上手くとも私は騙せないけどね」

『チッ……!』

「…………君というキャラが分からない」


 精霊リベル…………の姿を模した、魔王マゴットは深く溜め息を吐いた。


 こいつら、扱いづらいというか…………何というか……


 マゴットは、蝕んだ他者の思考を自在に読み取ることができる。ここに誘い込んだことで蝕みに成功した今、試練に訪れた彼ら彼女らの思考はマゴットの掌の上にあるも同然だった。

 しかし、それでも理解に苦しむ。というか分かるだけに面倒くさい。


(…………そうか。馬鹿なのか、こいつら)


 今更マゴットは理解した。


『う~ん……でも、難しい。バランス取ろうとしても数を積むとやっぱりちょっとの衝撃で崩れちゃうし…………そもそも、この積み木、おかしいよね?』


 お?とリベルの姿を取るマゴットは少し眉を動かす。


『…………あ!おかしい!これ、ズルしてるでしょ!ちょっと平らじゃない!』

「……おやおや。これは失敬。少し不良品が混ざっていたようだ」


 ヒントを出す前に気付いたか……と、マゴットは少し感心した。馬鹿っぽいが、それなりに察しはいいのかな?……あの力ばっかりのゴリラ召喚獣よりかは。

 にやりと微笑むマゴット。そして、予定より早くその言葉を吐く。


「でも悪いね。代わりはない。それでなんとかしてもらえるかな」

『無理でしょ!そんなの手で抑えながらじゃないと…………ん?』


 なにやら気づいたように、視線を上に向けるミリー。


 おや、早速気付いたか?


 マゴットが興味深そうに見ていると、ミリーはにやりとなにやら悪いことを考えているような表情を浮かべて、じとっとしたいやらしい目でマゴットを見る。


『これ、あの高さまで積み上げればいいんだよね?』

「そうだが」

『じゃあ、あの高さまで積み木が重なってたら……文句ない?』

「ああ。積み木が重なっていれば問題ない」

『……後悔するがいい!撤回はナシだからね!』


 ミリーは勢い良く積み木に手をかける。まるで何かを思いついたように、迷いなくその手を動かし始める。


 ……さて、ここからが本番といったところか。


 マゴットは椅子から腰を上げることなく、余計な口を挟まずに読書に興じる……






 




   ----




「だ~~~~ッ!!鬱陶しいッ!」


 レイは地面を這い回るように、薄汚れた巨大な屋敷の中を駆け回る!


「ほらほらもっと早く走った走った!まだまだ後100匹!」

「おい!さっき50匹って言ってただろうが!」

「急がないと次から次へと増えるからね~」

「それを先に言え!」


 言いつつ、レイは手に握るハエたたきを振り下ろす!それをひょいと避けるのは光を放つ奇妙なハエ。

 異様なスピードで飛び回る無数の光。レイはハエたたきを振り回しながらそれを追いかけ回す。


「当たらない!速すぎるだろ、このハエ!」

「そりゃ遅かったら試練にならないしね。でも安心していいよ。そのハエたたき、ハエを潰せなくても当てただけで消せるから。ま、ほかの一切の攻撃は通用しないけどね」

「知ってるよ!さっき炎を使っても効かなかったしな!」

「屋敷が燃えないように気を付けてよ」


 レイに課せられた試練は『ハエたたき』。飛び回る特殊なハエを全て退治するというもの。

 しかし、問題はその速さ。普通のハエよりは……それどころか、レイが今まで見てきたもののなかでもトップクラス。例えるならば、それはタカシクラスのふざけた素早さ。魔王が遅れを取る程の速さである。

 常にそのスピードで回避を続けるハエが、それよりも数段速さで劣るレイに捉えられるはずも無く、ハエはまるで動きを読むかのように、先読みや待ち伏せなどのレイの作戦すらかいくぐる。


「畜生!」

「闇雲に振っても当たらないさ。ああ、考えて振っても無理かな?その子達は君の考えなんて全部お見通しだからね」

「ならどうしろっていうんだ!」

「それを自分で考える試練だろう?」


 レイは顔をしかめる。想像以上に厄介。


 思いついた一つの方法は、自ら編み出した特殊技法、『チャージ』を用いた加速。

 常に溢れ出る魔力を一旦押さえ込み、湧き出る魔力を身の内に止め溜め込み、一気に放出する技。この放出口を足に回し、魔力のブーストによる加速で、作戦も読みも関係なしにハエに追いつき叩く。

 しかし、それはハエが決まった数だけの時のみ通用する方法。ハエが時間経過で増えていることが分かった今は使えない。いや、それ以前に使えないことが分かっている。


 これは要は爆発に乗って、その勢いをスピードにするという、自らがぶっ飛ばされた状態になっての加速。つまり、これは小回りが効かないのだ。

 そのため、ハエにターゲットを合せ、そこに向けて動くことしかできない。

 しかしハエは常に動いている。ターゲットをゆっくり合わせ、魔力を溜め込む時間を与えはしない。

 さらに仮にこの方法に慣れたとしても、倒せるハエは一匹ずつ。ハエが常に増え続けているのならばキリがない。


 ……しかし、動きが読まれている以上、方法はハエを上回る速度でゴリ押しで追いつくほかはない。


 そこまで考えて、レイは今、求められているものを理解する。


「……つまり、チャージ時間の短縮と……加速のコントロールが必要になるわけか」

「……ほう。もう分かったんだ」


 レイが身に付けたスピードは確かにかなりのものである。しかし、それを機動力に生かすには、まだまだ心許ない。なぜならそれは直線的な移動のみ。制御が全く効かない。


「実践に置いて、直線的な動きはとても読みやすいからね。手練が相手になると、それは格好の餌食にされる。しかも、動作前の静止時間も格好の的だね」

「つまりは、この力を制御しろ……そういうことだろ?」

「ご名答。ま、此処からさきが関門なんだけどね」


 言いつつ、リベルの姿を借りるマゴットは感心していた。


 理解の遅い何処かの召喚獣とは大違い……ってか。呑み込みの早さと成長の伸びしろは流石勇者、と言ったところかな?


 レイに課せられた試練。それは『チャージ』の制御。そのタメ時間を短縮し、移動時に小回りが効く、機動力として昇華させること。

 本来ならそれは力の使い方の一部を開花させるだけに過ぎない。しかし、勇者という成長の伸びしろが無限大に伸びる者に与えられる『解放』は今のところはこれだけだとリベルは判断した。


「小さなことからコツコツと。大きな成長を目指さずに、まずは持っている力を使いこなし理解することだね」

「……ああ、やってやるよ!」


 レイはキッと飛び回るハエを睨んで集中する。そして、自らのうちから沸き上がる魔力を抑え込んでいく。


「チャージ時間短縮、そして小回りを効かせる方法…………取り敢えずは実践あるのみだ……!」


 そして、レイは加速する!


 その様子を見ながら、一段落はついたと判断したマゴットは本に視線を落とす。

 




 さて、リベルの姉御。こっちはある程度のメドはつきましたよ。




 あとは気づき、完成させるのを待つだけ……いや、少しの助言はOKですかね?




 ……で、其方の、姉御の『気になる』二人には、一体どんな『試練』を与えるつもりですかい?




 姉御直々、そんなの久方振りですよね?








   ----




「相変わらず可愛いねぇ?……ゼブブちゃん?」


 扉をくぐったゼブブを迎え入れたのは、揺り椅子に腰をかける青髪青眼の女。ゼブブは怪訝な表情でその女の顔をまじまじと見つめると、当然の疑問を投げかけた。


「………………誰?」


 その言葉に、女は大して嫌は表情も見せずに、愉快そうにくすくす笑うと開いていた本を閉じた。


「……ああ。そうそうそうだね。ゼブブちゃんは覚えてないかな?ま、仕方ないかな~」




「私が忘れさせちゃったからねぇ」


 その言葉にゼブブは警戒を強める。


「ああ、警戒しないで。怖い怖い……可愛いお顔が台無しだよ。私は敵じゃないから」

「誰なの…………?あなたは……」


 女は怪しく微笑む。


「私は精霊リベルさ。初めまして、お久しぶり、愛しているよゼブブちゃん?」




 精霊リベル、『解放の試練』の管理者は、ゼブブを優しい笑顔で迎え入れた。





レイとミリーは持っている能力の制御が目標。結構地味な修行を繰り広げておりますw

パーティー内の(比較的)常識人にしてパッとしない勇者レイ。そして幽霊みたいなミリー。二人もこの試練を乗り越えて、より強力な戦力に?


そしてリベルとゼブブの関係とは?そしてアリアの試練とは?次回、「精霊リベル」に続く!


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