『超』魔神
―――解散する。
「クソッ!やっぱり駄目でしたか……!」
「まだだ」
上がる黒煙を前に、レイはその目を鋭く光らせた。
「まだ、俺が生きてる」
ミリーの命を、どうして無駄に出来ようか?
「まだ負けてない」
結果的にレイ達は生き残った。ミリーの喚んだ召喚獣がベルペスのターゲットになったお陰で。
「無駄にするものか!失敗だったと笑わせるものか!」
レイは吠える。ミリーのために。
冷淡に笑うベルペスを鋭く睨みつけて。
仲間もそれに呼応する。
「当然です」
「負けるかよ!勇者がこんな小悪党に!」
最後の足掻きが始まる。
「うおおおおッ!俺のナイトブレード(攻撃力1)を食らいやがれぇぇぇ!」
「ふははは!そんなチンケな攻撃が私に通用するものか!」
内藤が重い鎧をガチャガチャ引きずりながら攻撃!
しかし攻撃は届かなかった!
ガシャーン!
内藤は何かにぶつかった!
黒煙の中に何かあるぞ!
内藤は調べてみた!
「…………おいこらァ……俺はやめろって言ったよなァ……?」
「お前……まさか!」
「こ、この声……まさか我が最強魔法を受けて……!?」
徐々に晴れる黒煙の中から、最初に白煙から姿を顕した時のように現れたのは……
「カップ麺と卓袱台が消し炭になっただろうがッ!!」
オーゥ……
産まれたままの姿のタカシが……
「タカシ……服」
「ん?……ぎゃああああ!」
見せられないよ!
……っていうか、誰得?
一糸纏わぬタカシをじっと見るベルペス。
「それがマグナム……?」
「やめて!ごめんなさい!見栄張ってました!せいぜいゴム鉄砲ですよね!だからまじまじと見ないで!」
股の辺りのゴム鉄砲を隠すタカシ。規制確実である。
ベルペスは頬を赤らめつつも、空気を読んで視線をタカシの目に合わせた。
「貴様……何故生きている!?我が魔神の業火を受けて……無傷だと!?」
「社会的には死んだがな。あ、前からか」
「こっちが気を遣っているのにそっちに話を戻すのはやめろォ!」
これがベルペスが初めて見せたマジギレだった。
「な、なんすか……キレないで下さいよ……」
「……あ、ああすまない。取り乱した。服を燃やしたのは私だったのにな」
「お、おお……急に謝られても……此方こそお気遣いに気付けず申し訳ない……」
気まずくなってきたタカシとベルペスは取り敢えず一礼。
-仕切り直し-
「何故耐えれる!?」
「いや、まあ髪の毛は多少焦げたぞ?」
「何故生きている!?」
タカシはにやりと不敵に笑んだ(だが裸)。まるでベルペスを見下すように(見下されても仕方ないような格好で)。
「魔法……ねぇ。どんなものかとビビってみりゃあ……ただ『神力』の上澄みを吐き出してるだけじゃねぇか」
ベルペスと勇者達は怪訝な表情を浮かべる。
「『神力』……?」
「ん?ああ……この世界じゃそう呼ばないのか。成る程ねぇ……何で弱っちい神力を垂れ流してるのかと思いきや……ただ扱えてねえだけか」
「貴様……何を言って……」
ゴウ!
風。ベルペスがたじろぐ程の風。勇者達が軽く後退させられる程の風。
いや、実際は風など吹いていない。
それは威圧。全てを押しのけるような威圧的な圧倒的質量。
「な、な、な……!?魔力が跳ね上がった……!?」
「そりゃ水道の蛇口緩めっぱなしじゃ水道代が勿体無いだろ。何?驚くことか?」
「魔力を抑える……!?そんなことが……」
驚愕するベルペスを嘲るようにタカシは笑う。
「ちょwお前、もしかして神力制御も組み込んでない原始人?wうはwwウケるww」
ゴウ、ゴウ、ゴウ!
留まる事を知らないタカシの魔力増幅。
完全に規格外。
「お前さっきさ、俺のこと『下位世界の人間』って、言ったよな?」
止まらない。
魔神の力を持つベルペスの魔力をタカシは当に上回っている。しかしまだ止まらない。
その見るも明らかな事実を、タカシは叩きつける。
「『下位世界』はこっちみたいだったな?まさか神力制御も出来てない……魔法なんて信じてる原始世界に喚ばれちまうとは……」
「ヌルゲー乙!www」
別次元の異物が腕を広げて笑う。
タカシは完全に『上位世界』の存在だったのだ。
彼等からすれば、謂わば『神』。
素っ裸で残念だが、不可侵な絶対的存在なのだ。
「さっきの炎……温い!温いぜ!秋穂さんの根性焼きの方が千倍熱いわ!」
筋肉皆無の胸を指差すタカシ。其処には七つの火傷の跡。
「……ああ、良い世界だ。まるで人がゴミのようだ!」
恍惚の表情。
「ブサメンだと罵られ、軟弱だとイジメられ、早く働けと叱られる……そんな社会の底辺とはもうオサラバだ!」
ここから、タカシのターンが始まる。
「ニートの俺が異世界で神になってしまった件」
「ば……ばかな……ありえない……私の魔神の力が……足元にも及ばないほどの……魔力だと……」
震え後退りしだしたベルペスをタカシは指差す。
そして爆笑した。
「がはははは!お前が魔神?だったら俺は……」
「『超』魔神だwwwwww」
タカシは飛翔する(全裸で)。
タカシがじつは上位世界の住人だったという件。
ちなみに向こうでは底辺。