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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
お菓子の魔王パンプディング篇
25/55

召喚獣だからノーカンだ!

パンプディング篇完結!




 スピードとは、足の速さによらず。あらゆる要素の掛け合わせによる。


 タカシの不意打ちパンチは確かにパンプディングに先制ダメージを与えたが、身構えた今は話は別。

 開けたその間合いにおいて、圧倒的リーチと速度を誇るパンプディングの銃器はタカシ達のスピードを上回る先制攻撃性能を誇る。


 機動性皆無のケーキの鎧を纏うパンプディングは姑息でありながら、誰より周到な魔王なのだ。


「遅いヨ」


 彼が張り巡らせた複線。


 まずは『人質の盾』。

 ゼブブに仕向けたその盾は、一度は攻撃を防ぎ、二度目は踏み出す一歩に迷いを与える。


 勇者一行なんて良い子ちゃん達が罪なき人間を傷付けないことは知っている。ならばその危険がある時、奴らは警戒し、一歩踏みとどまる。


 それがマイナススピード。


 パンプディングはそのために、あえて危険を侵して『人質の盾』を無理矢理使った。


 その複線が今生きる!


 パンプディングの動きを伺うパーティーの隙、それをついてパンプディングは兵器を展開。


 自らが集めた最高の火器を全てターゲットに向ける。


 それも他の魔王と違い、一回り基本スペックで劣るパンプディングが導いた戦略の一つ。


 『お菓子操作』による『無限の手』による一斉射撃。


 パンプディングはお菓子を操る。それにより手を形成し、引き金を纏めて操る。これによりターン内複数行動のスペックを持たないパンプディングもターン『数百発』の攻撃を可能とする。


 実にゼブブの数十倍以上。さらには武器依存のその破壊力は抜群。人間は当然、並程度の耐久の魔王なら一発でも十分仕留められる。


 それを広範囲に一斉射撃。最強の召喚獣はともかく、確実に死者は出せる。


 まずはパーティーの一部を貰う!


「………ファイア」




 魔王パンプディングのフルファイア!




 防げる奴もいるだろう。しかし全員は生かさない!


 そんな攻撃を、タカシは迷う事なく焦る事なく迎え入れた。

 地面にぐっと指を刺し……


「おらぁッ!」


 めくり上げる!




 ガガガガガガガガガガガガ!


「んな!?」


 激しい衝突音に爆音。激しい火花を散らした床の盾は、僅かな黒ずみだけを残し、地面にカラカラと弾を落とす。


「あっぶね!お前ヤケクソか!」


 タカシは床を利用して、パンプディングのフルファイアを全弾ガードしたのだ!




 パンプディングはしくじったと後悔する。

 三時間以上前の接触で、彼はご丁寧にも「工場は頑丈な素材で出来ている」ことを説明した。


 それは工場の機能を確実に守る為。稀に現れる侵入者との交戦で施設が損傷しないようにだ。


 つまりそれはタカシが楽々破ったが、本来は『壊れるものではない』。それはパンプディングのフルファイアをもってしても、だ。


 つまりそれでガードできる事は当然。




 しかしそれを『ガードに使えるか』は別問題だ。


 加工にも特殊な器具と魔法を要する床を、指で引き千切るなど有り得ないことなのだ。しかもそれを盾にフルファイアの衝撃を抑えきるのも不可能な筈だった。




 パンプディングは改めて目の前の召喚獣の危険性を認識する。


(マズい……これはマズい……!)


 予定では、数人を仕留める筈だった。その動揺をついて不意を打つ追撃、それで片付くと思っていた。


 しかし結果は失敗。しかも彼のお菓子の手をもってしてもリロードには時間がかかる。結果、タカシ達に攻撃の猶予。


 この時点でパンプディングの選択肢の『逃げる』が最有力候補に上がる。


「逃がさない」




 それを見越したかのようなゼブブのターン。




 ゼブブの封鎖結界!


 ゼブブの手から放たれた魔力が拡散し、パンプディングとタカシ達を包み込む壁となる!


「このチビ……!面倒な真似を……!」


 結界術、それにより閉じ込められたパンプディングから選択肢が、武器がさらに減る。


 結界はパンプディングの逃げ道を削っただけでなく、『人質の盾』という外部からの干渉を遮断し、タカシ達の行動をより自由にする。


「じゃ、アリアお願い」


 ゼブブがさらに手をかざし、魔力を放つ。




 バアルゼブブの封鎖結界!


 次に結界で包み込むのはタカシ達。正確には、杖を構えた白魔術師アリアを除いたパーティーメンバー。


「何をする気だヨー……?」

「それじゃあいっきま~す!これが私の全身全霊!」


 杖を振り上げアリアが飛ぶ!そして振り下ろされる杖が地面を叩く!




 アリアのアースブレイカー!




 ズズンッ!


 強烈な振動、そして衝撃波!

 パンプディングにも壊せない工場の床が激しく砕ける!さらに衝撃波がパンプディングの最強ケーキに這い回り、その体から伸びる銃器を粉砕し、さらにはゼブブが張り巡らせた結界をも崩壊させる!


「な……な……なんだこの馬鹿力!?」

「馬鹿じゃないです!」


 アリアが杖を引っ込めムスッとする。

 ゼブブの結界はアリアのふざけた威力の衝撃波をガードするためにも張られていたようだ。さらにはゼブブは三回行動により周到にも逃走防止の結界は二枚張っていたようで、崩れた一枚の上に新たに結界が顔を出す。

 自分達を守る結界も崩れるが、タカシ達は無傷。


 これは元魔王の結界を腕力で砕くアリアの力に驚くべきか、それともパンプディングのケーキの鎧を一瞬で崩壊にまで導く破壊力を一枚で受けきるゼブブの結界に驚くべきか。


 どちらにせよ、パンプディングは相手にあと二人の化け物がいることを理解し、リロードという選択肢を失う。


(よし、逃げる!)


 パンプディング、即断!しかし更なる追撃が迫る!


「次は俺だ」


 勇者レイが事前に押さえ込んでいた魔力の解放口を足と剣に設ける。溜まりに溜まった魔力は、穴から勢い良く噴き出す!


「魔力を密封しチャージ、そして僅かな隙間を作り溜まった魔力をそこから噴き出させる……」


 ヒュン!と風を切り、レイが消える!そしてパンプディングをすり抜けて、タンと一瞬で着地する。


「んが……!?速……」


 カボチャヘッドに線が刻まれる。




 レイのチャージソード!


 パンプディングのカボチャヘッドは真っ二つになる!


「これが、師匠の神力解放……ですよね?」

「なにそれしらん……怖っ」

「ええええええええ……?」


 若干引いてるタカシにショックを受けるレイ。なんか新技を開発しちゃっただけだった。


「おのれ……まさかこの姿を晒すことになろうとは……!」


 反応する間もなかったパンプディング。開かれたカボチャの中から、無様にその姿を晒しだす!


 それは光の球体。ボンヤリと浮かぶ、発光体が不気味に唇を浮かび上がらせている。黄色い炎を纏ったようにも見える球体の唇からは、パンプディングのやかましい声が漏れ出す。


「……だが残念。この程度の結界で……ボクを閉じ込めたつもりか?」




 パンプディングが唇を歪ませ不気味に笑う。


 彼はもう『逃げる』というカードを選んでいた。


 最後の切り札、『パンプディングネットワーク』。


 お菓子の国から外部一定距離まで地中に張り巡らせたその導線は、特殊発光体魔族パンプディング専用の通路。そこを伝い、パンプディングは誰にも気付かれずに高速で移動する。


 勿論ネットワークは今のケーキ内から地面に向けても伸びている。それは今までに使っていたケーキも同様。


(如何に結界を張ろうとも、地面はがら空きなんだヨ!)


 パンプディングはタカシの動きに注目しながら導線に触るように近付く……




 しかしそこに意外な伏兵が飛来する!




 むくちゃんのタックル!バックアタックだ!


 弾丸のように、隙だらけのパンプディングの背後から体当たりするむくちゃん!


「お返しむきゅ」

「ぐっ……!畜生ォォォッ!!」


 思わぬダメージにパンプディングの思考が燃え上がる!速く逃げる!早く逃げる!やられなければ後でどうとでもなる!


 むくちゃんの一押しは、パンプディングの逃走を促した。


「覚えていろ……!ボクのビジネスを崩してくれた復讐は必ずしてやる……!あばよマヌケどもォ!」




 パンプディングは迷わずネットワークに飛び込み……










 逃げられない!


「……は?」

「マヌケはお前だったな」


 ネットワークに飛び込めない。

 パンプディングは地面を見下ろし、発狂した。




「このゴリラ女がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 アリアの一撃。それでネットワークはバラバラに断絶されていた!


「私の役目はその移動経路の破壊です」


 アリアがにっこり笑う。


「私はアリアの攻撃から、みんなを保護。さらに地上への衝撃波の伝達をカット。そして結界を張り逃げ道を塞ぐことであなたを導線に誘導した」


 ゼブブが淡々と語る。


「俺はお前の殻を破り、その姿をさらけ出させ」


 レイが剣を仕舞いながら笑う。


「俺がお前を煽り、判断力を削いだむきゅ」


 むくちゃんがミリーの元に舞い降りる。


「そしてお前は逃走失敗で無駄に動きを止めた」




 タカシの魔力が異様なスピードで増幅する!


「や、ややややややややや止めろっ!」

「これで唯一の関門、お前の『逃走』は防いだ」




 冷静さを欠いたパンプディングが唇をパクパク動かす!


「降参!降参だヨー!勘弁してヨー!」

「お前は此処で見逃したら、同じ事を繰り返す。魔王の座にこだわらないのはだからだろ?お前はどんな状況にあっても悪事は続けられるから……違うか?」


 図星。


「ぐっ……!弱い奴を食い物にして何が悪い!甘い蜜につられてボクに利用される馬鹿が悪いんだよ!ボクは悪くねぇ」

「……とことん救いようのない奴だ。やりやすくていい」




 タカシがにやりと笑う。攻撃準備は整ったようだ。


 パンプディングは最後の足掻きと言わんばかりに猛抗議する。




「お前らだって汚いぞ!よく見たらパーティーが5人いるぞ!ルール違反だ!だから召喚獣、お前動くな!」

「……はは。面白い奴だなお前は」









 ヒュッ……




 タカシの攻撃!


「ギッ……!」


 タカシの一瞬の右ストレート、それが光の球体を打ち抜き、ボッ!という音と短い悲鳴と共に光を霧散させる!




「俺は召喚獣だからパーティー人数にはノーカンだ」

「そ……そんな屁理屈でェ……!」




 霧散したパンプディングの光が最後の言葉と共に完全に消滅する。




「……完全勝利!」


 タカシのガッツポーズと共に、パーティーは沸いた。




 魔王パンプディングを倒した!









   ----




 タカシ達は魔王パンプディングを倒した。


 しかし魔王が残した爪痕は大きい。


「どうしたらいいんでしょう……?」


 残された虚ろな目の人間、魔族。彼等の処遇はタカシ達には決められない。




「……ま、このままじゃ気分が悪いむきゅね」




 そんな風に切り出したのはむくちゃんだった。

 むくちゃんは口から一枚の紙を吐き出す。


『召喚魔法陣?』


 真っ先に反応したのは召喚術師のミリーだった。


「出て来い、ゼペット」




 ボウン!


 紙切れが爆発し、煙の中からスーツ姿に白銀の髪の女が現れる。


「……お呼びですかボス。随分とお久しぶりですが」


 召喚された女はその鋭い切れ目をむくちゃんに向ける。女が漂わせる刃物のような鋭い緊張感に、むくちゃんが「ボス」と呼ばれたことに誰も突っ込めない。


「悪いな。実はかくかくしかじか……」


 説明省略。


「……ってな訳でゼペット、お前に被害者の保護、治療、そしてこの国の管理を任せたい」

「……概ね理解はしました」


 女、ゼペットは相も変わらずの鋭い目つきである。


「被害者の扱いも一般人の混乱を避けるために何もなかったように繕うことも訳ないです」


 しかしゼペットの空気は重い。何故かむくちゃんを睨んでいるようにも見える。

 するとやはりゼペットは不満げに溜め息をついた。


「シマを放ってロクに戻らず好き勝手な行動をとっておいて……都合の良い時だけ呼び出すのですね」


 怒ってらっしゃる……!


 タカシ達は気不味い状況に冷や汗ダラダラである。


 むくちゃんはその不満げな態度に対して、その真ん丸な目をゼペットに向けて口を開く。


「……俺の都合の良い時に動くのがお前の役目だろうが?」


 外道だーーーっ!


 タカシ達、唖然!やっぱり可愛くないむくちゃん。いや可愛くないなんてレベルじゃねーぞ!


 こりゃ、ゼペットさんキレますよ……とタカシ達がハラハラ見ていると……


「……それでこそボス///……分かりました。善処します」


 頬を染めてらっしゃる!?この人Mか!?


 もう突っ込み所満載で扱いに困りだすタカシ達。


 そんな中、真面目な表情でゼブブがむくちゃんを凝視する。


「むくちゃん」


 その目は何かを疑うように、じっとりとむくちゃんを睨む。


「なんだむきゅ」


 答えるむくちゃんの表情は、何かを諦めたような、開き直ったようなもので……




「あなたが召喚したのは『魔王クラス』の魔人……普通の魔物にそんなことはできない」


 ゼペットを横目にゼブブは今まで誰も触れてこなかった疑問を投げかける。真面目に、緊張感に満ちた空気を纏って。




「あなたは何者なの?」




 ゼブブの責めるような声色。その意味をタカシ達も悟る。


 その質問に答えたのは、むくちゃん自身でなく、喚び出された魔人、ゼペットだった。


「あら?あなた方、ボスの事を知らずに同行してらっしゃったのですか?」




 ゼペットのさらりと吐いた一言が、タカシ達を凍り付かせた。




「ボスはとある地を統括する魔王ですよ?」





パンプディングを倒した矢先、意外な事実が発覚!?


引き続きお菓子の国で物語が続く!


愛玩魔物、むくちゃんの正体が明らかに!?


次章、『放浪の魔王クロード篇』に続く!



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