犯人は大体勝手に自らの犯行を語る
案外どうでもいいのにやたらと続くパンプディング篇!
まだまだ続いてしまうのです……
魔王パンプディングは『お菓子の魔王』である。
故に代表とされる能力は『お菓子を操る能力』。
第零工場ドラッグ製造区画に飛来したお化けカボチャは、その中央に聳えるケーキの塔の天辺に着地した。
「お前らスタンバイはオーケーかヨー?」
「勿論ですともパンプディング様!」
工場中から響く声。その出所は分からない。
しかしそこに無数の何かが潜むことは明らかだった。
工場に飛び込みゼブブが両手の斧を構える!
「ゼブブ!気をつけろむきゅ!此処に誘い込んだ意図があることを忘れるなむきゅ!」
『いっぱい声がしたよ!相当な数の敵が隠れてる!』
幽霊(?)ミリーに小動物むくちゃん、いまいち戦力になりそうもない二人を振り返り、ゼブブは微笑む。
「大丈夫……心配ない」
そして目の前に立ちはだかる巨大ケーキに、工場内に潜む魔力に、ゼブブは一転した絶対零度の視線を送る。
「私の前では……数なんて無力だから。…………生まれたことを後悔したいのなら…………掛かってくれば?」
普通の人間なら、いや魔物ですら、その威圧には怖じ気づくだろう。
しかし流石に魔王というべきか、ふざけたカボチャ、パンプディングはむしろそれを笑い飛ばす!
「ハァ?数攻めなんてちっちゃい事はしないヨー?だってボクだけで十分だからネー!」
パンプディングの体、巨大ケーキからポコポコと巨大マシュマロが湧き出す。そしてケーキから湧いたマシュマロは、そのままゼブブ目掛けて勢い良く吐き出される!
魔王パンプディングのマシュマロキャノン!
「……!」
「ゼブブ!それは避けろむきゅ!」
むくちゃんの忠告虚しく、ゼブブはマシュマロを避けずに受け止める。
「パンプディングのマシュマロは、大砲の玉も弾く弾力だヨー!」
マシュマロを受け止めたゼブブの体がぐん!とその弾力に弾かれる!
そしてその小さな体は勢い良く無骨な工場の壁にガン!と激しい音と共に叩き付けられた。
『ゼブブちゃん!』
「大丈夫かむきゅ!」
「ざまあ~ッ!弱っちいヨー軟弱魔王ーッ!」
ケタケタと不気味に笑うパンプディング。壁にもたれかかるゼブブにすぐさま近寄るむくちゃんとミリー。あれほどの勢いで壁に叩きつけられたら、この小さな少女の体はひとたまりもないだろう。そう思って、ミリーは涙を浮かべながらその様子を覗き込んだのだった。
そう、忘れていたのだ。
「…………今、私は『三つ』……怒っていることがある」
『ゼブブちゃん!』
壁に叩きつけられたゼブブは、悲鳴一つあげていなかった。
それも当然。何故なら彼女は元『魔王』なのだから。
「一つ…………あなたが、人間を、魔族を、酷く扱っていること」
むくりとゼブブが立ち上がる。
「んな!?効いてないノー!?」
パンプディングも相手が魔王だったことは理解している。しかし、この小さな体に其処までの耐久性があることまでは想定外。
「二つ…………私は軟弱魔王じゃない……『元』魔王。……間違えるな」
斧を両手に、抱きつくようにマシュマロを抱えたゼブブ。その腕からゼブブがマシュマロを解放すると、何故かそれはふわりと浮かび上がる。
自由になった両手をゼブブはフッと振り上げて、その目を鋭く光らせると、ゆっくりと口を開いた。
「三つ…………これが最悪」
ピシィッ!
パンプディングの頭にヒビ。
「…………お菓子を粗末に扱うな……!」
ゼブブが前に突き出した手からは斧は両方消えていた。
何処へいった?
二本の斧は、仲良くカボチャに割れ目を入れている。
バアルゼブブのアックススロー!
魔王パンプディングに2回ヒットした!
「ギ、ギャアアアアアアアアアアッ!?」
ゼブブは目にも止まらぬ速さで斧を投擲したのだ。パンプディングは、ヒビが入って初めて悲鳴を上げた。
「アアアアッハッハハッハハッハァァァッ!!」
否、それは笑い声。パンプディングも魔王なのだ。
頭にヒビ、その程度では終わらない。
「ムキになって武器投げちまったなァーッ!今のお前は手ぶらだヨーッ!これで攻撃力は削い……」
ザクッ!
「怒っても、『ナゲヤリ』にはならない…………なんちゃって」
「グ……ゲ……!?」
パンプディングの頭に突き刺さるのは、『槍』。
目の下に斧をめり込ませたパンプディングの頭の上には、身の丈程の銀の槍をそのカボチャに突き刺し、カボチャの上に座るゼブブの姿。
「テ……メ……!何時の間に……いや……何処から武器を……ッ!?」
「何時の間に……って、何回意識を逸らせば気が済むの?何処から武器を出した……って……」
ケーキの塔のカボチャから、ふわりと華麗に舞い降りるゼブブ。まるで宙を泳ぐように空中をさまよい、ゆっくりと音もなく着地した彼女の手には、斧でもなく、銀色の槍でもなく……
黒い刀身を誇る優美な一振りの刀だった。
「……最初からもってたけど?」
槍と斧の三角形、既にヒビだらけのカボチャの中心に一筋の線が入る。
その様子に見向きもせずに、ゼブブは背を向けたまま、刀を持たない手に絡み付くクリームをぺろりと舐めとる。
「……こんなに美味しいのに……」
線は開く。
まさに一刀両断。
不気味な笑顔の浮かぶカボチャは、見事に真っ二つ。
「……このケーキは、あなたの体には似合わない」
ゼブブと同じく、お化けカボチャのパンプディングは悲鳴一つあげる事はない。
虚しく崩れ落ちるカボチャを前に、二人の観客、ミリーとむくちゃんは言葉も出なかった。
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「アリア」
「(ボリボリボリボリボリボリ)何でふかレイはん?」
「……ちょっと気になるんだが」
「(ボリボリボリボリ)何がでふ?」
「……取り敢えず飴を噛むのをやめろ。何個目だよそれ」
「(ごっくん)138個目です」
「食い過ぎ!……って、ふざけてる場合じゃない!」
レイはひそひそとアリアに尋ねる。
「……見られてる気がしないか?」
アリアはきょとんとした表情で、首を傾ける。
「やっぱり俺の気のせいか?」
アリアはぷっと吹き出すように笑った。
「何言ってるんですか?思いっきり見られてるじゃないですか~!お菓子に夢中で気付きませんでした~!」
「おい!……って、まあ……ならいいや。お前と話すとワンテンポ動作が遅れるな……」
暢気なアリアに呆れつつ、レイはその視線の存在を確信する。そして、『目から光の失せた』カボチャを睨むように見上げる。
煽るか……
「……いつまで隠れてる?用があるなら出て来いよ。ビビってんのか?」
レイの分かりやすい挑発。まんまと視線はそれに釣られた。
「……バレてますか。ま、まだ指示はでてないが……やっちゃってもいいかもな」
「パンプディング様ならとっくにケリをつけてるダロ」
「化け物がいないうちに殺しちゃお~♪」
彼方此方から響く声。壁に張り付いた無数のお菓子は小動物の姿に変わり、レイとアリアの二人を囲う。
「うわ……ゴキブリみたいですね」
「言うな……想像して気持ち悪くなった」
わらわらと群がるお菓子魔物。その中の一匹が声を発する。
「あなた方のお仲間が、知ってはならない事を知りました。なので全員処分シマス」
立ち上がり武器を構えるレイとアリア。二人背中合わせで戦闘体制に入る。レイは深く溜め息を吐き、アリアは不思議そうに魔物を見渡す。
「知ってはならない、ってなんですかね?」
「こいつらもあの魔王も真っ黒って事だろう。……どうせミリーかむくが余計な事をしたんだろうな」
「まあ、この場合はむしろグッドじゃないですか?」
「だな」
二人は決して焦らない。
「……で、パンプディングが『部屋から抜け出した事』は気付いてるか?」
「はい。てっきりお手洗いに立ったのかと思ってました。本人はあれだけ大きな魔力が移動して気付かれないとでも思っているんでしょうか?」
「……分かってて尚余裕なお前が怖いな。……ま、舐められてるんだろ。師匠以外は」
パンプディングは部屋に居ない。その事実を元に、レイは、アリアはパンプディングに対する「ある予測」を立てる。
「ま、まずは雑魚を蹴散らして……」
「それからみんなを捜索ですね!」
ニヤリと笑い二人が動く……
……かと思った矢先。
バキバキバキィッ!!
「……へ?」
それはレイとアリアだけでなく、無数のお菓子魔物に共通した声。
全員がふわりと浮かび上がる感覚に唖然とし、状況を把握してなおも唖然とする。
「えええええええええええええ!?」
お菓子の城の最上階、魔王パンプディングの部屋。
その床は崩壊した。
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パンプディングのカボチャ頭は真っ二つになり地面に転がった。
「事情を聞けなかったのは惜しいけど……まあいいかな」
ゼブブはふうと一息吐くと、周囲を睨む。
「……で、あなた達のボスはやられたけど……どうするの?」
恐ろしい元魔王の威圧に晒され、潜む配下は震え上がる。既に勝敗は決した……
と、ゼブブは勘違いしていた。
「怖いヨー!逃げないとヤバいヨー!」
「ゼブブ!後ろむきゅ!」
むくちゃんがゼブブの背後に飛ぶ。するとそれ毎巻き込むように、高速回転する『何か』がゼブブの背中に直撃する!
「むぎゅっ!」
「かっ……!?」
魔王パンプディングのスピンタックル!
壁に叩き付けられた時は声一つ上げなかったゼブブが苦悶の表情と共に膝をつく。そして、背後に浮かぶ自分に襲いかかった物体を睨みつけた。
「……何で……まだ居る……!パンプディング……!」
「おやヤー?ボクの体当たりを受けた割には余裕……ああ!その小動物がクッションになったのカー!」
そこに浮かぶは顔付きカボチャ。
割れたカボチャとは別のカボチャ、パンプディングが目を光らせていた。
「……ま、あの程度ワケないヨー?……ま、何でボクを倒せなかったかのネタバラしはこれから死ぬ君には必要ないよネー?」
フワフワ浮かぶカボチャがゲラゲラ笑う。しかし不意打ちに思わぬダメージを追いつつも、ゼブブもあの程度の体当たりに屈しない。
「その程度……!」
手にする刀を前に突き出し、地面を蹴る。空飛ぶカボチャ目掛けての一直線の突き。
それがまさにパンプディングが望んでいた展開。
「アレ~?いいのかナ~?そんなに無闇に突っ込んデー?」
ゼブブは僅かに顔をしかめて警戒する……がもう遅い。
ぶらん。
「な……!」
上から落ちてきたのは、ロープにぐったりと吊された人間の子供。子供はまるでパンプディングの盾になるように垂れ下がる!
ゼブブの血の気が一瞬で引く。
「良い子ちゃんのゼブブちゃんが……子供なんて刺すわけないよネー?」
パンプディングの不気味な笑い。それはゼブブが既に止まれないことを見越しての笑み。
刀の切っ先が子供に達する……ほんの一瞬
バガン!
ゼブブが勢い殺せず、青ざめたその瞬間。それは奇跡というべきか、悲劇というべきか?
「うおおおおおおおおおおッ!ゼブブちゃ……」
ブスリ。
「あ……」
ゼブブの刀が、天井をぶち破って、まるで子供の盾になるように落ちてきたタカシの尻に刺さった。
「アッ――――――!!」
タカシ、絶叫。
スタン!と着地したタカシ。それを驚愕した面持ちで見る一同。
タカシはそんな視線も気にせず息をはく。
「ッハー!ビビったー!あと数センチずれていたら……穴だった……!」
「ふざけんなヨーッ!テメェーッ!何、人の大切な工場の天井ぶち破ってくれてんだヨーッ!特殊金属ワルハリケン製の最強強度の工場をなんだゾーッ!」
パンプディング、発狂!
「え?フヒヒwサーセンw反省してまーすw」
「反省してネーだローがッ!」
パンプディングの怒りように、タカシは怪訝な表情で辺りを見回す。
「なんだよ。なんでお前がここにいるんだよ。あと工場ってなんだよ。ん?なんだあの白い粉?おい、ここヤバい工場じゃねーか!お前悪い奴だな!」
「喋り過ぎだヨー!ざけんなヨー!」
パンプディングに先程までのおどけた様子はない。よほど堪えたようだ。
「この工場で作ったドラッグはボクの活動の根幹なんだゾーッ!これを売りつけボロ儲け!薬浸けにして金をなくしたバカ共は、奴隷に、薬の材料に、臓器を売ってもヨシ!こんな素晴らしいビジネスをお前はぶっ壊してくれたんだヨーッ!」
「……ご丁寧に解説どうも」
ゼブブが呆れ顔で呟く。
「お前……随分と分かりやすい悪党だな!……ってか、魔王のクセにファンタジー色無さ過ぎる悪さだな!」
タカシも若干引くレベルである。
しかしタカシは笑う。
「…………ま、それでもいいか。初めてだしな」
「何がだヨーッ!?」
ガラガラガッシャーンッ!
天井が崩れて、何かが落ちてくる。
「あいたた~……何で崩れるんですか~……?」
「いてて……って師匠!?なんで此処に!?」
「おう、レイにアリアちゃん。丁度良かった。いきなり悪いけど……魔王戦いくぞー。事情はあとで話す」
タカシは不敵な笑みでパンプディングを指差す。
「初めて……遠慮なく、心置きなく戦える魔王!さあて、今までの暴れ足りなかったストレス、全部ぶつけてやる……!ぐへへ……!」
「……上等だヨーッ!こっちも本気でヤってやるヨーッ!!」
パーティーが遂に揃う。そして遂にまともに魔王と対峙するタカシ達。
魔王パンプディングが現れた!
パンプディング、勝手に犯行を自供!
パン「あいつが……あいつが全部悪いんだ……!あいつが俺の(以下略)」
推理モノの犯人が最後に語るのはご愛嬌。
夢もクソもない非ファンタジー系ワル、パンプディングをぶちのめせ!
次回、パンプディング戦決着……かな?
タカシが、レイとアリアが何故天井から落ちてきたかは次回以降。