家政婦は見た!ミリーとむくちゃん地下探検!
パンプディング編はまだまだ続きます!
「……何故地下に来たし」
むくちゃんも語尾の「むきゅ」を忘れるレベルのミリーの方向音痴、いや滅茶苦茶さ。
魔王の元へ案内されたタカシ達に取り残され、勘で後に追い付こうと息巻いて進んだミリーとその後に続いたむくちゃんは、城の地下に辿り着いた。
「常識的に考えて魔王が地下に居るわけ無いだろ!……むきゅ!」
『え?なんで?』
「何で上に高い城を立てて、わざわざ地下に潜る必要があるむきゅ!」
『……いや、一概には言えないよ』
「いや、どう考えたってここはおかしいだろむきゅ!」
例えるならば、お化け屋敷で舞台裏に紛れ込んでしまったような……そんな場所。お菓子の城地下には、一階の華やかなお菓子空間とは打って変わって、石造りの通路が張り巡らされていた。
飴細工の石像の真下に隠されていた隠し階段を降りた先にあったその場所は、明らかに浮いていたのだ。ちなみに隠し階段を見つけたのはミリーがうっかり石像を粉砕したお陰である(『あ、綺麗!』→タッチ→ボキィ!→『やっちゃった!直さないと……』→ミシィ→『あ、もう駄目だ』→ガッシャーン→お陀仏)。手順からしておかしい。
そもそも魔王協会では『魔王城建設規定』が定められおり、十条『魔王城にて魔王の部屋は決して理不尽な位置に設置してはならない。冒険者が必ず辿り着ける場所に設置しなければならない』により、こんな意味不明な隠し階段は御法度なのである。違反者には城の改築義務と30万以下の罰金が課せられるのだ。
つまり査定を潜った時点で魔王の部屋はもっと普通に辿り着ける場所にあるはずである。
まあそんな理屈は抜きにして、こんな面倒なギミックを一々使って出入りするとか面倒だろう。出入りしたあと直さないといけないし。
『……うわーん!迷子だー!死んじゃうー!』
「もう死んでるようなもんだろアホ幽霊むきゅ」
『ハッ!違いない!……って私は死んでないし幽霊でもないよ!精霊的な何かだよ!』
「言ってる場合むきゅ?」
『言ってる場合じゃないー!どうしよー!うわーん!』
子供みたいに泣きじゃくるミリーを横目にむくちゃんは先を見る。
「……ま、何か面白そうな臭いがするから良かったかもむきゅ」
『……え?今なんて?』
「『でかしたミリー』ってことだむきゅ」
二人の前に現れたのは、錠前をつけられた怪しい鉄扉。
『第零工場』と書かれた札が掛けられた扉だった。
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「魔王なんて称号、気付いたら持っていたもので、正直興味も未練もないんだヨー」
パンプディングは酷く投げやりに呟く。
「魔王なんて退屈ヨー?立場上フレンドだって作れやしない。長いこと努めてようやっとそれなりに人間や魔族との距離を縮めたけど、最初は本当に辛かったヨー……」
「辛かった?」
魔王の独白にいつしか耳を傾けているタカシ達。パンプディングはオヨヨとわざとらしく泣き真似をする。
「ボクは見ての通りの異形の魔王。恐れられ、蔑まれ、罵られ……魔族にすら仲間は居なかった。自身が生み出した配下しか、ボクの周りには居なかったんだヨー……」
その言葉は冗談なのか本心なのか。しかし少なくとも暗さの一つも感じさせない演技臭さでパンプディングは語る。
「君になら分かって貰えると思ってるんだけどネー、元魔王バアルゼブブ?」
「いや、私結構周りに人いたけど……」
「ガーン!」
「分かる……」
「へ……?」
飛んできたのはまさかのタカシの声。
「分かる……分かるぞ……一人ぼっちは寂しいもんな……!ペア組んで~、って鬼かあの教師はッ!」
「……悪いけど、キミのトラウマとボクとは全く関係ないと思うヨー?」
「いきなり突き放された!?」
タカシを軽くスルーして、パンプディングは首をグルグル回す。
「要はボクは『お菓子の魔王』よりも、『お菓子の王様』で居たいんだヨー!『魔』は余計!ボクはみんなと楽しくできればいいんだヨー、グリーンだヨー!」
ケーキの王様、孤独の魔王パンプディング……哀れな魔王を見て、アリアが呟く。
「魔王っていっても……色んな方がいるんですね。一概に悪い人ばかりじゃないというか……」
するとパンプディングはゲラゲラと笑って、カボチャの頭の口からポーッ!と煙を吐き出した。
それと同時にタカシ達の前にお菓子を積んだテーブルがせり出す。
「まあ、ボクを倒す件は後にしヨー!湿っぽいのはお菓子だけに嫌いなんだヨー!ササ!まずはおもてなしだヨー!ゆっくりたんまりお菓子を食べて、それから気持ち良くボクをのしちゃってヨー!」
並べられたお菓子、敵意がまるでない魔王、タカシ達はそれをなんの疑いもなく受け入れる。
しかしその様子を見下ろすカボチャの頭は何故か不気味に笑っているようだった。
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『…………むくちゃんすごーい。なんで鍵開けられるの?』
「鍵破りくらいワケないむきゅ。盗賊のジョブにつくものならなむきゅ」
楽々と鉄扉を突破しつつ、ミリーとむくちゃんは地下の道を行く。
そして意外と早く、その光景は見えてきた。
『なにこれ……』
道沿いに広がるのはガラス張りの空間。中には機械によるラインが動いている。文字通り此処が『第零工場』なのだろう。
しかし問題はそこではない。
ラインの一部、天井を走るカプセル……緑色の液体に浸かったそれは明らかに……
『……人?』
人間だった。
ゴウンゴウンと音を立てて、人の入ったカプセルがベルトコンベアのスタート地点にある機械に入れられる。
その機械は次々とコンベアに白い塊を吐き出し、空のカプセルをガラガラと脇に出す。
その様子と、さらに広大に広がる無数のラインを前に、むくちゃんは僅かに口元を歪めた。
「これはどういうことだ……?なぜこんなものを作ってる……!」
『むくちゃん?知ってるの?』
白い塊は機械で粉砕され粉になる。粉は一定量で袋詰めされる。その袋を不気味な仮面をつけた女が箱に詰めていく。
他のラインでも似たような粉や粒、塊を生産しているようだ。
それがなにか理解できないミリーに、むくちゃんは答えた。
「あれは『人間』を材料に作られる『マジックパウダー』、あっちにあるのは魔獣トルシアスの角から作られる『マジューデ』、あっちにあるのは……」
『ちょ……ちょっと待って!人間から作る?なに?なんなのそのマジックパウダーとかって……?』
ミリーが少し怯えたような表情で尋ねる。
薄々は気付いているのだろう。
しかしむくちゃんは聞かれるままに、その事実を改めて伝える。
「……どれも……特S級指定の違法薬物。使用も所持も……ましてや製造なんて許されない代物……むきゅ」
第零工場にてミリーとむくちゃんが見たもの、それは明らかに危険なものだった。
「……パンプディングの奴、なにやら良からぬことに手を染めてるみたいむきゅね」
お菓子の国で不穏に蠢く影……むくちゃんはそれを睨みつつ、さらに通路の先に進む……
なにやらシリアスの予感?
魔王パンプディングは何をしているのか?何を企んでいるのか?次回、真相が明らかに!