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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
求心の魔王バアルゼブブ篇
17/55

黒い男

会話回。台詞が多いです。




「が……は……!」


 青ざめた顔で倒れ伏す羊の執事、メイ。痺れる腕を持ち上げ、今まさに去ろうとする背中に手を伸ばす。


「ま…………て……ゼブブ様には……!」


 オオオオオオオオオオオオンッ!


 オオオオオオオオオオオオンッ!


 メイの中で鳴り止まぬ断末魔。

 去り行く背中から立ち上るどす黒いオーラが、今更自分が牙をむいた相手の正体を理解させる。


「ま…………魔王……?いや…………『大』魔王……!!」


 メイはあの禍々しい顔を思い出し、身震いする。


「ゼブブ様……お逃げ下さい……!」




 オオオンッ!




 断末魔を聞きながら、メイの意識は闇へと落ちる。


「殺さ……れる……!」







   ----




 ホロの突拍子もない願いは、レイとミリーを唖然とさせた。


「……貴方様方の旅に……ゼブブ様を同行させて頂きたい!」




 意味不明。


「ちょっとなにいってんのかわからないです」

「ゼブブ様を仲間にしていただきたい!貴方様方のパーティーに加えて頂きたいのです!」


 レイは拒絶、というよりは困惑の表情を浮かべて、ホロの真剣な目を見る。


「……取り敢えず事情を言ってもらえないと……」

「勿論お話しますとも!」


 ホロは熱く語り出した。


「ほら、ゼブブ様は可愛いじゃないですか?」

「知らねえよ!親バカか!」

「可愛いよ!ほら、正直欲情したでしょう?」

『え……レイ?……まさか、あんなに食ってかかったのって……!』

「してねえよ!誰があんな子供に手を出すか!ロリコンじゃあるまいし!」


 タカシ涙目!


「ゼブブ様は二十歳だよ!」

「マジで!?あれで俺より年上!?……というか興奮し過ぎだよ!口調が荒れてるよ!」

「だって可愛いだろうが!」

「落ち着け!」


 主君への愛が暴走しちゃってるホロを宥めて、一旦話をリセットする。


「はあはあ……失礼。取り乱しました……」

「取り乱し過ぎだろ」


 目の色がヤバかったホロに冷静に突っ込むレイ。ホロはようやく話し始める。


「……まあ可愛いんですよ。あまりに可愛くて、支配した国から少しこの城は離れてたんですけど、なんかゼブブ様に近付きたいとかいう国民がどんどん家をこっちに建てて城下町を勝手に作って国を此処まで拡大する程に可愛いんですよ」

「この国馬鹿ばっかか!共存とかじゃないのかよ!」

「ただのゼブブ様愛……それが国を繋ぐのです」

「格好良く言うな!」


 この国の人間と魔族はただ単に、ゼブブのファンクラブなのだ!


「みんなゼブブ様に良い顔しようと善人の振りをしているのです!あいつら、仲良さそうに見えて隙あらば出し抜き合う仲なんですよ!」

「嫌な話を聞いたよ!最悪じゃねぇかこの国!」


 何処がのどかだ!


「……私としてはあんな奴らの元にゼブブ様を置いておきたくないのです!間違いが起こったらどうします!?だからいっそ可愛い子には旅をさせよ、貴方様方にゼブブ様を連れてって欲しい!」

「予想以上に嫌な理由だ!しかもあんたも同類みたいな反応してたぞ!人のこと言えないだろが!むしろ一番間違い起こしそうなのお前だろが!」


 レイの声が枯れてきた。


「……だから頼んでんだろうが!」

「認めたァ!?」


 ホロがレイに詰め寄る! 


「ゼブブ様ももう二十歳!出るとこ出てきてんだよ!……興奮するだろうがァ!」

「最低だこの発情ジジイ!」


 主に発情する従者(65歳)。


「だから厳しく接して理性を抑えてる!でも、叱ると反省する姿が余計に可愛いんだもの!」

「駄目だこのジジイ早くなんとかしないと!」


 レイはもう此処でこのジジイをぶった斬ったほうがいいんじゃないかと思ったが、ぐっとこらえた!


「もうね、ヤバいんですよ。先月に寝顔を写真に撮ろうとした時に、寝間着姿を見たときからヤバいんですよ。今はドレスで隠してますが……薄着だと結構胸もお尻もヤバ」

「お前が一番ヤバいわ!」


 ミリーが冷たい目でホロを見ている。


『レイ。ゼブブちゃん連れてこう。あとこいつの目潰してこう』

「……うん。流石に危機に曝される女性を放っては置けないが……ミリー、そのアイスピックは仕舞ってくれ」


 レイは溜め息をつき、枯れた声をあーあーとひねり出し、ミリーのアイスピックを取り上げて、肩を落とした。


「……分かったよ。でも、このパーティーのリーダーは師匠だからなあ。まあ俺から説得してみるが……パーティー定員の問題もあるしな」

「ありがとうございます!」

「まだ決まってねえよ」


 レイは枯れた声のまま、畳から腰を上げる。そして喉を気遣いながら部屋の出口に向かう。


「ちょっとうがいしたい」

「食堂の奥の扉を通った先に洗面所がありますよ」

「すまない。貸してもらう」




 ぴしゃり。




「……」


 出て行くレイをホロが見る。そして誰も居なくなった事を確認すると、ふうと息をついた。




「……で、本当の所はどういう訳があるむきゅ?」

「な……!?」


 ホロが目を見開き振り向く。レイについて行かず、たまたま其処に残っていたミリーは、ホロには聞こえない声で、その声の主の名を呼んだ。


『むくちゃん!?』


 丸っこい愛玩魔物、パーティーの一員むくちゃんである。


 むくちゃんは相変わらずの可愛い声で、重々しく呟く。


「下らない理由で騙そうって魂胆だろうが……見え見えむきゅ」

「……下らないとは」


 ホロの言い訳はすぐさま掻き消される。


「間違いを起こす……あの娘の能力から見て……この国に居る程度の奴じゃ不意打ちしても無意味むきゅ。あのレベルの魔王に不埒な真似をされる心配はないむきゅ」

「……」

「しかも、『なんでレイの腕試し』をする必要があるむきゅ?連れ出して欲しい理由と行動が一致してないむきゅ」


 むくちゃんの可愛らしいくりくりした目が光無くホロを吸い込む。


「……安っぽい嘘は、善人か馬鹿にしか通じない……むきゅ」

「……成る程。貴方には何を言っても意味はなさそうですね。…………いつから?」

「……さあ?いつからむきゅね?分からないむきゅー」

「……何者ですか貴方は?……まあいいですが」


 むくちゃんの捉えどころのない態度にホロは諦めたように呟く。


「やはり悪巧みは上手くいかないものですねぇ」

「あくまで魔王の手先、むきゅ?」

「ええ。肝心の魔王様は悪さの一つも出来ない方ですがね」


 ホロが懐から取り出したのは赤い角。禍々しいオーラを放つ角をむくちゃんは睨む。


「……この赤は……アバドンの角?」

「……話が早くて助かりますよ。余計な話が省けます」

『アバドン……?』


 ミリーが横から覗き込む。しかし間に合わずホロは懐に角をしまう。

 笑みを消し、ホロは淡々と告げる。


「アバドンが討たれました」

「……むきゅ」


 むくちゃんは少し驚いた表情を見せる。


「我々はそれなりに周りの情報を集めています。その中で、アバドンの地に飛ばした偵察が『見た』と言います」

「見た?」

「『黒い男』。アバドンを楽々切り裂いた謎の人物を」


 アバドン、その名をミリーは知らないが、ホロが出した赤い角……あれから察するに、アバドンとは恐らく『魔王』。

 魔王がやられた?ミリーは予測を立てる。


「……まああのアバドンが討たれても、強い勇者が育ったと思えば不思議ではない……むきゅ」

「それだけならば……ですがね」

「だろうむきゅ」


 ミリーは思う。


(……むくちゃん全然可愛くない!)


 最早キャラが行方不明である。


「ペレトヘケトゥ、イングズズ、アビゴール……」


 それ何の呪文?とミリーが首を傾げる。


「アバドンと同じ殺され方をした魔王、バラバラに切り刻まれた魔王の名です」


 切り刻まれた、殺された魔王……これでアバドンが魔王なのは間違いない。タカシ達以外にも、魔王を狙う者がいる?


「この件を知るのはごく一部。しかしこの一部がまた問題でして……」

「……差し詰めパズズ辺りむきゅ?情報が早くて、この状況で一番厄介な動きを見せるのは」

「……一体貴方は何処まで知っているのやら……その通り。パズズはいち早く動き出しました。貴方様方と『黒い男』……それがどこかの魔王の出先と踏んで……いや、そういう『口実』で、『大魔王』の座を狙って」

「……そして、『バアルの魔王に手を出していない』黒い男は……バアルの手先と疑って、いやそう決めつけて、バアルの魔王に手をかけようとしている……故にゼブブに危険が……ってところか?……むきゅ」

「そう。危険因子は黒い男にパズズ、もしかしたらそれ以外にもあるやも知れません」

『話が長い……』


 ミリーは別に話を聞かされている訳ではないが、席を外すに外せない微妙な状況に巻き込まれてしまって、困ったことになった……といった様子で目を細めた。


「話は分かるむきゅ。しかし、どうしてこのパーティーに頼む事にしたむきゅ?魔王を次々と倒すこのパーティーは、危険因子じゃないのかむきゅ?」


 むくちゃんの質問は当然のものだった。「ゼブブを仲間に入れて欲しい」、くらいは理解していたミリーも疑問に思う。

 ホロは静かに微笑み口を開く。


「計算で言えば、ドッペルゲンガーに手を上げなかった事。女性には手を上げない程度には野蛮でない召喚獣と分かったからです」

「計算でなければ?」

「……人柄、ですかね?魔王の手先と言えど、人の善し悪しくらいは見れるつもりですよ」




 ホロはくっくと笑う。


「……で、本当は?」


 むくちゃんが珍しく目を細め、じっとりとした視線を送る。


「…………召喚獣様は全く冴えないし、勇者様もさほど女性に興味なさそうでしたので」

「……まあ否定はしない、むきゅ」

「ゼブブ様は娘のようなもの、間違いでも男に興味を持たれたら……!しかし、我々では守れないですし……其処で十分強くてゼブブ様が間違いを起こさないであろう貴方様方に!」

「あんた、大体失礼むきゅ」


 むくちゃんが興奮気味のホロをジト見する。

 そして溜め息を吐き、ふわふわと出口に向かう。


「……でもあんたは案外見る目がないむきゅね」

「……え?それはどういう?ま、まさか!あのレイという男、実は女好き!?」

「ねーよ……むきゅ」


 むくちゃんは背中で語る。


「……あいつらは、演技で騙さなくとも、危険を承知でも、きっとその頼みは聞いてたよ」

「……!」

「滅茶苦茶だが、何だかんだであいつらはそういう奴なんだ」


 ミリーは思う。


(語尾の「むきゅ」は……?)


「……あいつらにはありのまま伝えておく。いいな?」

「…………はい」


 部屋を出るむくちゃん。それを追い掛け部屋を出るミリー。廊下に出てすぐにむくちゃんは口を開く。


「ミリー。今の話は忘れろむきゅ」

『え?むくちゃん私に気付いてた?』

「目の前に堂々と居たら分かるむきゅ」


 ミリーはう~んと首を傾げる。


『忘れるも何も……サッパリ分からなかったよ』

「だろうなむきゅ。酷い間抜け面で欠伸してたもんなむきゅ」

『え!?そうだった!?……って、何だかむくちゃん全然可愛くない!』


 ミリーはぶすっと口を尖らせ、前に浮かぶむくちゃんの頭をばしばし叩く。ゴム鞠のようにぶにぶに弾み潰れるむくちゃんは呟く。


「絶対に秘密だぞ」

 ばいんばいん


『だから分からないって!』


 ばいんばいん


『……むくちゃんって何者?』


 ばいんばいん


 弾みながら、むくちゃんはくるりと振り向いた。


「ただの可愛い魔物むきゅー!」


 ミリーはそれは見事なミドルシュートでゴム鞠を廊下の果てへぶっ飛ばした。




   ----




「どういう事!?」


 驚愕するタカシに、ゼブブはぐいと迫る。


「私も旅に行きたい」

「だからなん…で」


 顔を赤くして目を逸らすタカシ。


「……兄貴を倒した俺の事、恨んでるんだろ?」

「ない」

「即答!?」


 タカシはコントのように椅子から転げ落ちた!


「何で!?」

「なんでって……死んだわけじゃあるまいし」

「あいつら生きてるの!?」

「死ぬわけないよ。ドアに挟まれた程度で」


 まさに正論!


「手紙もきてるし」

 懐から一枚の葉書を取り出すゼブブ。その裏には浅黒い肌のいかつい男がピースしながら女性と写る写真が……


『結婚しちゃいました~(≧∇≦) ゼブブちゃんへ♪お兄ちゃんベリトより♪』


「めっちゃ元気じゃねーか!」

「めっちゃ元気だよ」


 タカシ憤慨!ベリトお兄ちゃん良い笑顔すぎるだろ!


「……なんだよ。大丈夫なのかよ」


 しかし少しだけ安心するタカシ。ゼブブの兄を奪った訳ではなかったのだと、息をつく。


「……」


 そんなタカシをじっと見つめ、ゼブブはぽつりと呟く。


「優しいね……タカシは」

「え?」

「だって……魔王を倒すことは何も悪いことじゃないのに、私に気を使ってくれるんだもん」


 ゼブブの小さな手がタカシの手に添えられる。タカシの心臓がどくんと弾む。


「……魔王はね、一度負けたら魔王じゃなくなるの。その地位は失われ、忽ちただの魔族になってしまう」


 タカシが目を白黒させる。




(……こんなに可愛い子が、俺に触れてくれる筈がない!)


 タカシ、卑屈!


「でもね、それだけなの。それを手離せない魔王もいるけれど、それだけ」




(罠だ!きっと罠だ!じゃなきゃこんなに可愛い女の子が俺の目を見てくる筈がない!なんだ!狙いは何だ!?)


 タカシ、疑心暗鬼!


「魔王は魔王らしくあれ、これはバアル一族の掟。魔王は笑っちゃいけないの」


 ゼブブは改めてベリトの写真を差し出す。


「魔王じゃなければ、こんな風に笑えるんだよ」


 凄く良い笑顔のベリト。だが顔は怖い。


「ベリト兄、今はとっても幸せだと思う。フェゴール兄も魔王の重荷を嫌ってたから……多分のんびり過ごせる今はとっても幸せだと思う」


 ゼブブはぐいと疑心暗鬼の卑屈男の手を引っ張る。そして無理矢理顔を向けさせる。


「だから妹の私から……代わりに言わせて」







「ありがとう」


 不思議な感覚だった。


「私も魔王でいるよりも、笑えるようになりたいな」


 重荷が一気にほどけた感覚。


「……自分を責めなくてもいいんだよ」


 ゼブブの励ましは、卑屈になったタカシにも届いた。何故だろう、タカシは目の前の魔王を見つめる。


 するとゼブブは僅かに頬を染め、僅かに目を逸らす。

 しかしすぐに視線を戻し、口を開いた。


「…………と、優しい言葉をかけて……タカシに付け入ろうという……魔王の悪い秘策……なのでした~」


 頬を赤くして、首を傾け、照れ臭そうにゼブブは笑った。

 まるで照れ隠しのように悪戯っ子の笑顔を浮かべるゼブブを見てタカシは……








(抱き締めてぇ……!)


 落ちた。


(もう罠でもいいやッ!騙されてやらぁッ!だって俺、男の子だものッ!)




 だが実際抱きつく度胸もないタカシは、目を逸らしながら呟いた。


「……ありがとう」


 するとゼブブはまたも頬を染めた。そしてそれを誤魔化すように呟く。


「優しくしたんだから……連れてって……よねっ」




 頼まれずとも持ち帰るさ。タカシは心で呟いた。

 だがパーティー定員は四人。一人多くなるな。じゃあむくでも置いていくか!


 ……なんて酷いことを考えているタカシは、ふと動きを止める。








 ゾワッ……!


「な……!?」


 タカシは反射的にゼブブに背を向ける。扉からゼブブを遠ざけるように。




 何で今まで気付かなかった……!?




 タカシが初めて感じた悪寒。


 扉の前に、おぞましい程の魔力と邪気が渦巻いている。

 今まで見て来た魔王とはケタ違い……タカシでさえ震える威圧感。




「タカシ……!」

「大丈夫……下がってろ」


 ゼブブも今気付いたようだ。その小さな体がふるふると震えるのが、服を掴む指から伝わる。




 オオオオオオオオオオオオオオオンッ!




 断末魔?幻聴?不気味な唸りが響く。




「…………誰だ」




 タカシが扉を睨む。そんな度胸は本当はないのに。


 しかしタカシは立ち向かう。


 後ろの愛らしい魔王を守るため。







 扉がゆっくりと開く……





ゼブブ仲間フラグを立てつつ……不穏な影。


『黒い男』とは?むくちゃんの正体は?扉の先に待つものは?タカシの運命は?


ややこしくなってきてゴメンナサイ(-.-;)



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