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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
求心の魔王バアルゼブブ篇
16/55

魔王の秘策、従者の思索

まさかのシリアス回!?




 道場、そう呼ばれるその畳張りの部屋は、その花だらけの甘ったるい今までの部屋や通路とは打って変わってひどく質素な場所だった。


「此処はゼブブ様が幼少の頃から武術の稽古に励んでいらっしゃった部屋。今となっては稽古をつけていた私でさえ、手も足も出なくなった為、殆ど使わなくなりましたが……此方は私にとってゼブブ様との思い出の場所。今でも手入れを欠いたことはありません」

「思い出話に興味はない」

「おや?あなた様には今のがジジイの思い出話に聞こえましたか?」


 老人は両手に青竜刀をぶら下げながら、剣を構えるレイに背を向ける。


 低い声が道場に響く。


「ゼブブ様は私の『億倍』強い」


 ホロは右手の青竜刀を持ち上げる。


「ゼブブ様はバアルベリト様の……『十倍』強い」

「な……!?」


 バアルベリト、レイがその部下にさえ、手も足も出なかった魔王。その名前が意外な形で出てきた事に、レイは驚きを隠せない。


 左手の青竜刀を持ち上げて、ホロは笑った。


「これは親バカ過ぎましたかな?しかし、私に勝てなければ……あなた様はゼブブ様に適わない事は確実」


 人間、ホロの内からどす黒い魔力が溢れ出す。


「ゼブブ様を愚弄し、討とうなど思いあがった重みを其の身に刻み込んで……おっと。大切な客人に稽古をつけて差し上げましょう」

「本音が隠せてな……」




 ギィィンッ!


「おや。流石に止めますか?」

「ぐっ……!」


 まさかの一撃。

 背を向けて立っていた筈のホロの青竜刀がレイの剣を捉えている。

 人間の老人は、地面を切り上げ後ろのレイ目掛けて飛翔し、その体を空中で捻るように回転させ、方向転換しつつその遠心力に任せて攻撃を叩き込んできたのだ。


 青竜刀を打ち込んで浮いた状態のホロは、そのままレイの剣を蹴りバック宙で距離を取る。


 ズドン!と畳に足を降ろす老人は、影の掛かった笑顔を浮かべた。


「では、次は曲芸でなく……剣舞と行きましょう」


 宙で踊るような先程の動き……それはとても老人のものとは、……いや、人間のものとは思えなかった。

 レイは目の前の敵の実力を認識する。


 油断は即『死』……


 レイはベリトの配下、ベルペスを思い出して息を呑む。


 ホロがダン!と畳を蹴る。

 そして交差させた二本の青竜刀を突き出す!


 ギィィンッ!


 衝突。


 シュイン!


 擦るように青竜刀が引かれる。


「どうぞ、打ち込んできてくださいよ?」


 言いつつ、ホロは一つ一つの動作を滑らかに繋げるように、その勢いを速さに上乗せしながら連続で青竜刀を叩きつける。




 ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!




「ぐっ!」


 脚を振り回し、グオングオンと宙を舞うように叩きつけられる青竜刀は、速さと重さが増していく。嵐のような回転剣舞がレイに動く隙を与えない。徐々にレイの膝が沈んでいく。


「おや?膝が震えてますよ?まるで生まれたてですね」

「く……黙れ!」


 口では反抗しつつ、手は出せないレイ。徐々に迫る刃が遂にレイの腕に掠めて血を流させる。


「おっと失礼」


 ホロは青竜刀を引き、地面の一蹴りで後退する。


 そして威圧的な笑顔でシャリンと青竜刀を擦り合わせる。


「やめにします?……『添え物勇者様』?」


 レイがその一言でギラリと目を光らせる。レイの内に眠る魔力が渦巻き始める。


『レイ!駄目!相手は人間だよ!死んじゃう!』


 様子を見ていたミリーが叫ぶ。


 しかし剣を振りかぶったレイの耳にはその声は届いていない。


 レイは魔力を込めた剣を振り抜き……




「『ファイヤーボム』!」


 炎の球体をホロに向けて放つ!


「な……!?炎を成型する高等魔法!?」

「これならただの武器じゃ防げない!」

『レイっ!』




 しかし、驚きを見せたホロは……


「あ。驚いただけですよ?」


 目の前の畳をダン!と踏みつける!

 すると畳はぐいと立ち上がり、ホロを守る壁となって、炎の球体を受けて燃え上がる!


「な!?」

「慌てませんよこんなことで」


 シャシャシャ!


 素早い青竜刀捌きが燃える畳を切り刻む!そして崩れ落ちる畳を体でぶち破るように、燃える畳の破片をくぐり、ホロは一瞬でレイとの間合いを詰めて、脚を振り抜いた。


「あぐ……!」


 ドボリと強烈なホロの蹴りがレイの腹に突き刺さる。濁った声を漏らしたレイは胃液を吐き出し、うつ伏せで倒れ込んだ。


「……情けない。剣技で勝てないとなると魔法に逃げ、それでもこうして地面に這いつくばっている」


 蔑むように、ホロはレイを見下ろす。


 そして呆れたように、その右手の青竜刀を持ち上げて……


「おしまいにしましょう」




 レイ目掛けて振り下ろした。








   ----




 覗き込む黒い双眼が心を締め付ける。


「……どうして黙るの」


 今更タカシは気付く。


 自分が壊してきたものの後ろにも何かがあるということを。


 そして今、まさに妹という背後の存在が、タカシを咎めるように其処に居る。

 しかもあろう事か、そんな相手に心を奪われてしまった。




 言葉が見つからない。




「俺は……」


 言葉に詰まり、目を逸らすタカシ。


 そんなタカシをゼブブはじっと見つめ、すう、と息を吐いた。


「…………やっぱり本当なんだ」


 沈黙は回答。素っ気なく呟くゼブブに、タカシは目を合わせずに呟く。


「……ごめん」

「……どうして謝るの?」


 特に感情も見せずにゼブブは呟く。

 声にも特別な変化はない。


「…………私も倒すの?」


 タカシは口を閉ざす。

 ゼブブの優しい声が辛い。




 魔王を倒さなくては帰れない。


 ならば自分は、この女の子を倒さなくてはならないのか?


 否、倒すつもりなのか?




 初めての迷い。答えが見つからない。誰も答えはくれない。助けてはくれない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。




「……いいよ」


 助けなんてない筈だった。


 何故なら此処には二人しか居ないのだから。


 つまりその言葉を発する相手は、今まさにタカシを苦しめるその元凶しかいなかった。


「私を……倒して」




 耳元で魔王が囁く。


「……え?」


 タカシは耳を疑った。


 悪戯っ子のような黒い笑顔が其処にはあった。










   ----




 レイは目を開く。痛みは感じない。確かに青竜刀は勢い良く振り下ろされた筈だった。




 一番驚いているのは攻撃したホロ。


「何を……したのですか……?」


 レイの眼前にて停止する青竜刀。


「……ミリー?」


 それを受け止めていたのは淡い光……


『レイ……早く逃げて……あんまり支えられない……』


 ミリーがレイとホロの間に入り、その手から光を放ち青竜刀を受け止めていたのだ。

 顔を真っ赤にして、必死で攻撃を支えるミリー。


『レイ……本気でキツい……!ほんと急いで!』


 また助けられた……


『ちょっ……聞いてる!?ヤバいよ!ほんとヤバい!』


 俺が助けなきゃいけないのに……


『こ、腰がヤバい!腰が!早く早く!』


 何のために師匠に弟子入りした?何のために付いてきた?何のためにドリーに村を任せて出てきた?


『お前ェ!動けェ!』


 ミリーを守る為、守れる位に強くなる為だろうが!


『いい加減にしろォ!あとお前もいい加減に刀を引けェ!しつこいわ!』


 動け……


『動けェ!』


 動け!


 思い出す。師匠タカシの戦いを。

 静寂の魔力。押さえ込んだ魔力を一気に吐き出す感覚、爆発。


 神力『制御』、そう『制御』。




 しん……


「……魔力が、減った?」


 ホロがレイの異変に気付く。


(…………違う!?)


 ホロは察した。


 レイの魔力は減ったのではない。


 『抑えられた』のだ。


 常に全身から溢れる魔力に封をする。溢れる魔力は封の中に溜まり込む。


 言うなれば『チャージ』。


「ぐおっ!」


 ホロは歴戦の勘で飛び退く!そんな現象は誰も知らない。しかし直感というアラートが鳴り響く!


「……一点……いや……二点……」


 膨らんだ風船。破裂する前に空気の逃げ道を。穴を空けるのは……


「剣と足!」


 膨れ上がった風船が、ようやく見つけた出口から逃げ出す……強力になった勢いと共に!




「この距離ならば……」

「遅い」







『……え?』


 ビュオッ!


 空気を切り裂く音。遅れて吹く風。そして、ホロの後方で背を向けるレイ。




「……お見事……!」


 汗を一筋流し、笑うホロ。前に構えた二本の青竜刀が悲鳴を上げる。




 ピシィッ!




 レイは己の内に起きた異変を噛み締める。

 それに付いてくるような不思議な感情。


「師匠ほどではない」


 その感情は、レイの口から自然とその言葉を吐かせた。




「御指導、感謝する」

「……天晴!」




 バリィィンッ!!




 二本の青竜刀は、音を立てて砕け散った。




「トドメは?」

「必要ない」


 レイは背中を向けたまま呟く。


「代わりに話して貰う。ゼブブでなく……あんた自身の狙いを」

「お見通しですか……」




 ホロは手を上げ降参の意を示す。そして安心したような穏やかな微笑みを浮かべて、口を開いた。


「召喚獣殿、そして勇者殿……あなた方に、御願いが御座います」







   ----




「え、え、え?」

「……駄目?」


 首を傾げてタカシの顔を覗き込むゼブブ。可愛い。




 ……じゃない!


「も、もう一度いい?ちょっと、理解が、出来なかった」




 タカシはゼブブの言葉にパニック状態である。


 それは罪悪感が何たらという、今までの流れからはまるで想像もつかない発言だった。




 話を聞いてないと思い、「もう」と頬を膨らませるゼブブ。可愛い。


 そして改めて、ゼブブはタカシに願う。それこそが他ならぬ、彼女の『秘策』だった。







「……私を倒して……私をあなたの旅に連れてって」







「……ええええええええええええええええええええええええええッ!?」




 タカシは改めて絶叫した。





最初にシリアス回だと言ったな。


あれは嘘だ。




……ゴメンナサイ(-.-;)


雲行きがおかしくなってきましたよ!


一応今回はレイ覚醒回!


ちなみにタカシは何も教えていません……師匠?


タカシはステータス『だけ』は最強。

仲間も一応少しずつパワーアップしていきます。


タカシも成長していく?


ホロにゼブブ、それぞれの思惑とは?


魔王バアルゼブブ編はもう少し続きます!




内藤ェ……



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