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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
求心の魔王バアルゼブブ篇
15/55

バアル一族




「おや?どういたしまして?」


 それは羊の執事メイがレイに声を掛けた時に動き出した。


「……俺達は魔王を倒しに来た。それは分かっているのか?」


 レイは明らかに苛立っていた。メイはレイの敵対宣言に、笑顔(羊顔で本当にそれが笑顔なのかは分からないが雰囲気的に)で答える。


「勿論」

「ならどういうつもりだ!?」

『レイ!やめなよ!』


 声を荒げるレイ。レイに食堂中の視線が集まる。


 その獣のような視線を受けて、ゼブブは尚も余裕でクッキーをつまむ。


「……ゆとりがないね。……勇者さまは敵とテーブルも囲めないの?」

「不用心なのと余裕があるのとは違う!」


 レイは剣を握り椅子から腰を上げる!

「勝負だバアルゼ…」







 キィンッ!


 ドスッ!




「……!」


 金属音、そして何かが刺さる音。


 からんと床に落ちる剣を見て、レイはその傍の床に突き刺さり、まるでレイを威嚇するように佇むものを見つめた。


「……斧?」


 それは片手で操れる程度の小さな斧。

 じんじんと痺れる手、剣はこの斧の投擲で弾き落とされたというのか?レイはゼブブを睨みつける。




「まだクッキーが残ってる。立つことは許さない」

「……!誰が食べるかこんな……」




 ドスドスドスドスドスドスドスドスッ!!


 レイは思わず腰を落とす。


 その足下には無数の斧……


 その足下に刺さるハンドアックスを片手に握りレイに向け、ゼブブはその眠たげな目を初めて鋭く尖らせ、その頭にエメラルドのような角を光らせた。


「食べ物を粗末にするな」


 ゼブブの怒りの一声。しかし……


「ゼブブ様!客人に食事を強要してはいけません!」


 ゼブブが再びホロに怒られる。

 ゼブブはいじけたように口を尖らせ、ホロを睨む。


「だってあいつが……」

「客人をあいつ呼ばわりとはどういうことですか!床を穴だらけにして全く!それに人には好みがあるのです!強要はいけません!クッキーだって後で食べれば粗末にはならないでしょう?」


 次第にしょんぼりしていくゼブブ。見えないミリーがレイの耳元でがやがや騒ぎ、レイも気まずくなってくる。




「勇者様はきっと……此方の方が好みなんでしょう」


 しかしレイはすぐさま気を取り直し椅子から跳ね上がり、地面に転がる!


「……どういうつもりだ?」

「お見事。偉大なる召喚獣のただの添え物ではないようで……」


 レイの座っていた椅子が、バラバラに崩れ落ちる!


 いつの間にか、レイを見下ろす執事服の老人の手には二本の青竜刀が握られている……


 老人ホロは紳士的に微笑むと、青竜刀を握ったままタイを緩め、恭しく礼をする。


「戦いがお好きならば、主に代わりましてこのホロめがご馳走致しましょう……さあ、道場がありますのでご一緒に……」

「ホロ!あなたがキレてどうするんです!」

「ホロ……私、怒ってないよ……やめて」


 メイとゼブブが止めるが、老人は笑顔を返す。


「何、魚の餌にはしませんよ。少し、手合わせ願うだけです。……構いませんよね勇者様?」

「望むところだ……!」


 レイがホロに続き部屋を出て行く。ミリーが『やめなよー!』と言いながら、後をついて行く。


 その様子を見て、メイは申し訳なさそうに頭を下げた。


「ご無礼を……あの男、ゼブブ様の事となると目の色が変わってしまうもので……」

「いや。こっちが悪かった。レイの奴の態度が悪い。ホロさんもレイを殺す気はないみたいだしな」


 タカシはぼんやりと首を振った。


「……ありがとうございます。……では、お茶会を続けましょう。我々は戦う気などありません。このもてなしはその意思表示だとお思い下さい」


 「戦う気がない」、えらく拍子抜けな言葉だった。しかしあながち悪くもないとタカシは紅茶を啜る。


 帰るためには魔王を倒さないといけないのだが。




「メイー……あの勇者が残してったクッキー、私が食べるー」


 落ち着いた空気に甘い声。

 見れば角を引っ込めたゼブブがテーブルにぐでんと倒れこみ、手をぐいぐいと伸ばしている……

 甘えておねだりをする子犬のようにメイを見上げるゼブブは、声のトーンと眠たげな目はかわらぬものの、明らかに印象が違う。


「駄目です。太りますよ?さっきもアイス食べたでしょう?」

「まだ食べたい。それに太ってもいいもん」

「ホロに怒られますよ?」

「だからメイに言ったの」

「私がホロに怒られますよ……だーめ」


 メイがレイの皿を持ち上げると、ゼブブはもの凄く悲しそうな目をする。


 タカシは少しドキッとする。


「ゼブブちゃんはお菓子が好きなんですか?」


 すっかり親しげに「ちゃん」付けで話し掛けるアリア。まあ、見た目印象からは「ちゃん」が一番似合っているかもしれない。


「……大好き」

「へえ~!実は私、お菓子作りが趣味なんですよ~!ゼブブちゃんにも食べてもらいたいな~」

「食べたい!」


 今までで一番元気な声である。

 アリアはあっと声を漏らし、にやりと笑う。何か企んでる顔だ。


「そうだ!おもてなしのお礼に、私が作ったお菓子を振る舞っちゃいましょう!丁度材料持ってますし!」


 ずるりと小麦粉の袋や調味料のビンをローブの袖から覗かせるアリア。


「何でそこにいれてるの!?」


 タカシも思わず突っ込み。


「そんな……よろしいんですか?」

「やらせてください!」

「食べたい!」

「……ご好意を受け取らないのも無礼ですかね。これならホロも文句は言わないでしょう……では宜しくお願いします。今からキッチンまでご案内しますので」

「はい!」


 皿を片手に食堂を出て行くメイ、それについて行くアリア。


「そういやむくはどこ行ったんだろ」


 いつの間にかいない愛玩魔物むくちゃん。


(宝物庫とか漁ってそうだ……)


 汚いペットに一抹の不安を覚えつつも、タカシは考える事をやめる。


 そして、タカシは今の状況に気付く。


「……二人になっちゃった、ね」


 ゼブブが言葉にして改めて確認する。


「だね」


 どうにも言葉が出てこないタカシ。

 話題に困り、ふと視線を落とすと、皿に大分余ったクッキー。


 タカシはそれを指差し、ゼブブに尋ねる。


「食べる?」







 ゼブブはぴょんと椅子から飛び降り、とてとてとピンクのドレスを揺らしながら駆けてくる。


 そしてタカシの横に立ち、眠たげな目を輝かせて元気な声を上げる。


「食べる!」


 タカシの皿に手を伸ばし、ゼブブは幸せそうにクッキーを頬張る。


(可愛いな……!なんか、犬みたいだ)


 何気に酷いことを考えながら、タカシはまじまじとクッキーを食べる少女を見つめる。


(まさか俺、母性本能に目覚めたのか!?)


 タカシがハッとする。





「ごちそうさま」


 丁度ゼブブがタカシのクッキーを食べ終える。

 するとゼブブはその白く細い指をタカシの手の甲に添える。淡いピンク色の爪、近付けられた髪からは甘い花の香りが漂う。




 そして、優しく儚げな、子供っぽさの中に大人びた空気を潜めた微笑みで、タカシの顔を覗き込み、唇を動かした。




「……だいすき」




 ドッキーーーーーーンッ!!


 タカシの心臓が飛び跳ねる!

 そんかガチガチに固まるタカシの横に、ゼブブは何故かぴょんと腰掛けた。




「お話しよ?」

「う、うん……」


 タカシは気付いた。初めて抱いたこの感情の正体に。




 俺、この子に恋しちゃったわ……




 異性に興味を抱きつつも、未だに知らなかったその感情。焼けるような熱さ、はじけそうな胸、タカシはその感覚を噛み締める。


(ヤバい……マジで惚れたわ)


 タカシ赤面!


 実はピュア!




 ゼブブは首を傾けて、足をぶらぶら揺らす。


「タカシはさ……」







   ----




「ゼブブちゃん、可愛いですね~!」

「でしょう?」


 鼻歌混じりにお菓子作りに興じるアリアと、その様子を眺めるメイ。


「ゼブブ様は『最愛の魔王』と呼ばれる魔王ですから」

「最愛?」

「ええ」


 メイが恍惚とした表情を浮かべる。


「別名『求心の魔王』。あまりの愛らしさにみんなメロメロ!人間も魔族も、みんながゼブブ様に尽くしたくなるんです!」

「だから人間も魔族も仲良しなんですね!」

「その通り!」


 アリアとメイの会話が弾む。アリアはボウルの中身をかき混ぜながら、ふと尋ねる。


「ところで……バアルベリトにバアルフェゴール、それにゼブブちゃんのバアルゼブブ……バアルって名前についてる魔王って多いですよね?」

「ああ、そうですよ。バアルの魔王達はかなりいますね」


 アリアが不思議そうに首を傾げる。


「何か共通点でもあるんですか?」

「ええ。彼等は『バアル一族』、魔王の名門ですよ」




 メイが語り出す。


「かつて存在したと言われる『大魔王』、サタンと肩を並べた数少ない魔王……それが魔王バアル、ゼブブ様達のご先祖様です」

「サタン!伝説の魔王ですよね!?それと同等だったんですか、ゼブブちゃんのご先祖様は?」


 アリアも驚く。この世界の人間なら誰もが知る伝説、サタン。驚かない筈がない。


「ええ。サタンは実在しました。そしてそのサタンと渡り合ったバアル様が、現代まで残してきた魔王の血筋……それが名門魔王族、『バアル一族』です」

「魔王界のグレイシー一族みたいなものですか?」

「はい。魔王界のグレイシー一族みたいなものです」


 メイは頷く。


「今では残る魔王の多くに『バアル』の名は刻み込まれています。ゼブブ様のご兄弟も活躍しておりますし……」

「生まれながらの魔王……ですか」




 ふうんとアリアが呟く。そして気付く。


「……じゃあベリトもフェゴールも……バアル一族なんですか?」

「ええ」









 メイは微笑む。


「既に倒れたお二人は……ゼブブ様の『実兄』に御座います」




「え?」










   ----




 タカシは凍りついた。


 自分が初めて恋をしたかも知れない相手……


 その可憐な少女の口から漏れた悲しげな声。




 それがどうしようもなく遠い二人の仲を示していた。




「ベリト兄と……フェゴール兄を……倒したのは……あなたなの?」






 可愛らしい少女はただの少女ではなく、少女バアルゼブブは魔王なのだと、タカシは今更思い出した。








タカシの初恋、終了!?


レイは残念な子、ホロさんは高性能おじいちゃん。ホロさんの怖さは異常、でも人間……


アリアの趣味登場!白ローブは四次元ポケット。




最愛の魔王ゼブブちゃんは飴をくれるおじさんについて行っちゃうような危ない子。目を離さないで!


次回、ゼブブの秘策が炸裂!?

タカシ撃沈!?



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