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下位世界の『超』召喚獣  作者: 五月蓬
求心の魔王バアルゼブブ篇
14/55

出逢いは三時のおやつに

今回からタカシサイドに戻ります。




 魔王とは、魔族の王である。


 魔族を支配し、人間を恐怖のどん底に叩き落とし、世界を支配する……それが魔王。


 恐怖の対象、それが魔王。




 だがその国は何かが違った。





 既に魔王の手に堕ちた支配国、フルーゼ。


 しかし異常なまでにこの国は魔王の影を感じさせなかった。


「のどかだ……」

「のどかですね~」


 自然豊かな土地、まるで何事もないかのように生活する人々……




 さらに驚くべき事に、人々と共に、如何にも恐ろしそうな魔族が普通に闊歩する。


「大丈夫か?人間にはちと重いだろう?」

「ああ、どうも!いやあ魔族の人は力強くて助かりますよ!」


 重そうな荷物を担ぐ男を手伝う、鬼のような面の……というか鬼?


 荷台を引っ張る魔獣や畑を耕す人獣……普通の人間ももの凄くフレンドリーに魔族に接している。


「……めっちゃ仲良しじゃんか!」


 魔王に完全に支配された国……そんな噂を聞きつけたタカシ達は、想像と違った……むしろ人間の国よりも豊かでのどかな光景に拍子抜けする。


「……本当に魔王がこんなところにいるんですかね?」

「俺に聞くなよ……」


 道行く魔族に挨拶されたら律義に挨拶を返しながら、タカシ達は取り敢えず城下町を目指す。


「完全に支配された……って事はこの国の王は魔王って事か?」

「ですね」

「だったら魔王が居るのは……あの城って事だよなぁ……」


 タカシ達は遠くに見える大きな城を見る。


 それは魔王が住むとは思えない、小綺麗で洒落た西洋風の城だった。


「魔王バアルゼブブ……どんな魔王だ?」







  ----




「ようこそ魔王殺しの勇者様。バアルゼブブ様が中でお待ちしております」


 城の門の前まで訪れたタカシ達を魔族の門番が迎え入れる。門をくぐった一同を待っていたのは羊の顔をした魔族だった。


「ようこそおいで下さいました……私、魔王バアルゼブブ様の右腕のメイと申します」

「羊の執事……ギャグか!」


 執事服を着た羊男、メイに適当に突っ込みをいれて、タカシ達は一応構える。


 しかしメイは敵意を向けられた事を全く気にする様子もなく、手を上げて敵意がないことをアピールする。


「……魔王が俺達を招いて……どういうつもりだ?」

「さあ?私には想像もつきませぬ。ゼブブ様の考えは……私達低級魔族にも、人間の皆様にも、そして他の魔王様方にも理解できないでしょう。この国を見て貴方様方もその感覚に気付いた筈」


 人間と魔物が共存する国……それを作り上げた魔王バアルゼブブ。


 確かに理解し難い魔王である。


「……まあ立ち話もなんです。ゼブブ様のもとに案内致しましょう」


 敵を主のもとに招く部下……それも奇妙なものだが、タカシ達は素直に、平気で背中を見せて先行するメイに続く。その無防備さが、逆にタカシ達を警戒させた。




 城はかなり綺麗だった。洒落たインテリア、美しい花の装飾、匠の遊び心溢れる沢山の収納。


「なんということでしょう」


 タカシは素直に驚きの声を上げる。


「バアルベリトやらバアルフェゴールやら、ドッペルゲンガーやらとは大違いだな」

「あの方達はあの方達なりに城の内装には気を使っていたのですよ。魔王らしい石の城、不気味な演出など、こだわりのポイントは違いますがね」

「じゃあバアルゼブブのこだわりは?」


 メイはくすりと笑い声を漏らして、照れ臭そうに頭に手を添える。


「我々従者の趣味で御座います……いやいやゼブブ様にお似合いの城作りを目指していたら……この通り花畑のようになってしまって……お恥ずかしい限りで」


 徐々に彩りの花が増えていく。飾りすぎだろうと思うほどの花の量にタカシ達は目を奪われた。


「でもこの花畑が恥ずかしくないほどに、ゼブブ様は可憐で美しく……ただただ愛らしいのですよ……」


 ウットリと呟くメイ。何かに酔っているような情けない声 である。


 気になったタカシは尋ねる。


「ゼブブってのは女なのか?しかもそれ程に可愛い?」

「はいそれはもう!いや……もしかしたら幼い頃から仕えてきたが故、お世話させていただいたが故の……親馬鹿のようなものかも知れません」

「親馬鹿ねぇ……」


 妙にやりにくさを感じながら、花のアーチに包まれた赤い絨毯の道を歩く。

 そして遂に大きな扉が見えてくる。


 扉の前には白髪に白髭の執事服の老人。どこか上品な空気を纏い、老人といいつつがっしりした体をしたその老人はどう見ても人間。


「おおいらっしゃいましたか。中でゼブブ様がお待ちしております……」





「この中に……バアルゼブブが……」


 扉の向こうからは嫌な気配は感じない。二人の執事が扉の両脇に立ち、扉をゆっくりと開く……


「「此方が我等が主、バアルゼブブ様で御座います」」







 長いテーブル、その奥に腰掛ける一人の少女。


 手前にクッキーの盛られた皿とティーカップを置き、じっとその眠たげな双眼をタカシ達に向ける。


「……いらっしゃい」


 魔王……という陰鬱な響きが似合わない少女。

 手入れの行き届いた黒いつやのある黒髪に花をあしらった白いカチューシャ。黒い瞳に陶器のような白い肌。整った目鼻、小さな唇。そしてひらひらとした可愛らしいデザインのピンクのドレス。僅かに吐き出す言葉を成すその声は甘く優しく何処かそっけなさを持ちつつも耳に心地良い感覚を与える透き通った鈴の音のような声。




 要はそこはかとなく説明するのも下らない程に、その少女はタカシの目には美しく、可愛らしく、芸術的にさえ見えた。


 そんなタカシが示した反応は……




「あ…………」


 下らない言葉の羅列でもなく、下劣な興奮でもなく……ぽかんと口を開き、頬をぼんやりと染め、霞んだ声を漏らすという、唖然とした表情だった。


 タカシは戸惑う。今まで感じたこともない感覚に。


「……かけて」

「さあ、皆様……遠慮なさらずに。お好きな席をどうぞ」


 魔王バアルゼブブとその部下が着席を促す。


 しかしレイだけは剣を構える。


「毒でも盛る気か?その手は食わない。俺達は……お前を倒しに来た……」








「 か け て 」



 ゾク……




 レイは強烈な威圧に身震いする。

 ただの少女の声、しかしそこに乗せられる重みは明らかに少女のものではない……

 レイは改めて目の前の少女が魔王であることを認識する。


「ゼブブ様!客人にその様な態度はいけません!」


 レイがごくりと息を呑んだタイミングで、執事の老人が厳しい声でゼブブを咎める。


 すると……


「……ごめんなさい。早く食べたかったから……」


 しょんぼりと目の前の皿に視線を落とすゼブブ。


 落ち込んでる?


「……座りましょうよ皆さん」

「むきゅ」

「……ああ」

「え?」


 レイ以外がぞろぞろと椅子に座る。


『レイ、座りなよ』

「ミ、ミリー?」


 幽霊のようにレイの背後からぬっとミリーが顔を出す。


『別に嫌な感じもしないしいいでしょ?焦らなくても』

「でも……!」

『レイ』


 ミリーの珍しく厳しい口調にレイは少し怯んで、少し悔しそうに席に着く。


 するといつの間にやらクッキーの皿をメイが運んできたようで、タカシ達の前に皿が並べられる。続いて老人が鮮やかな手つきで紅茶を淹れていく。


 あっという間にタカシ達の前にはお茶の準備が整っていた。


「……いただきます」

「皆様も遠慮なさらずに召し上がって下さい。お茶のおかわりは何時でもお申し付け下さい」


 ゼブブは待ってましたと手を合わせ、早速クッキーに手を伸ばす。

 つられてアリアとタカシ、むくちゃんも「いただきます」の一言、そしてクッキーを口に含む。


「あ。美味しい……」


 アリアがぱちくりと瞬きして驚きの顔。


「……おお」


 タカシも驚きの表情。


「……美味しい?」


 ゼブブがタカシの顔を見つめて首を傾げる。タカシはどきりと肩を弾ませ頷いた。


「あ、ああ……美味い」


 ゼブブの口元が緩む。


「……良かった。ホロの手作りなの」

「ホロ?」

「私でございます」


 老人が頭を下げる。


「ホロさんは人間のようにしか見えませんが……」


 アリアがホロの挨拶に乗っかり気になっていた事を尋ねる。


「ええ人間ですよ」

「街でもそうでしたが……魔族と人間が仲良く暮らしてましたし……バアルゼブブさんは魔族と人間の共存を目指していたりするのですか?」


 アリアの質問に、ティーカップのココアを啜るバアルゼブブはしばらく沈黙し、相変わらずの眠たげな目で口を開く。


「……そんなに大したことしてない。気付いたら……みんな仲良くなってただけ」

「ほえ~」


 驚いた表情で紅茶を口に付けるアリアはどうも感心しているようだ。いつの間にやら対立関係のバアルゼブブをさん付けで呼んでいる。

 アリアの痛すぎるほどの視線を嫌がることなく、バアルゼブブはふと口元を弛ませる。


「……ゼブブでいい……よ。あなた、名前は?」

「あ、アリアです!ゼ、ゼブブさん!」

「……さん、なんて柄じゃない、よ。威厳も何ももってないもの」


 いつの間にやら魔王討伐はただの魔王とのお茶会と化している……レイだけがその状況に警戒を張り巡らせる。


 アリアはすっかり親しげにゼブブと話している。むくちゃんは黙々とクッキーを頬張る。


 タカシはというと……




「…………」

「……どうしたの?クッキー、口に付いてる?」


 ゼブブがタカシの視線に気付き、口に指を添える。


「ゼブブ様!お口はきちんとナプキンでお拭き下さい!手で拭うなどはしたない!」

「……うー、ごめんなさい……でもホロ、よその人の前で怒らないで……恥ずかしいよ…」

「ならきちんとなさって下さい!お客様の前なんですから!もう子供じゃないんですし!」

「……はぁい」


 叱られた子犬のようにしゅんとするゼブブ。その様子をタカシはじっと見つめる。


(奇妙な感覚だな……)


 タカシは生まれて初めて覚える感覚に頭をぐるぐる回転させる。




 その気持ちの正体、それに気付けないままにゼブブを見つめるタカシ。


 その視線に気付いたゼブブは、誰にも聞き取れない程に小さな声で、くすりと笑う。


「……タカシ君、変なの」




 首を横に傾けて、ゼブブはタカシに微笑む。そのひとつひとつの動作にタカシは胸を弾ませる。










 そんなタカシを見つめるゼブブの眠たげな瞳には光はない。

 まるで深淵を秘めたような瞳はまるで何かを呑み込むかのよう。








 魔王バアルゼブブは静かに笑う。

 美しい少女は人知れず笑う。




 くすくすくすくす、くすくすくすくす、くすくすくすくす……


 己の内に、底知れぬ何かを隠しながら……





魔王バアルゼブブの城でお茶会!?


タカシの身には何が起きた?


そしてバアルゼブブが隠すものは何か?

バアルゼブブの『秘策』が次回、動き出す!?



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