魔王集結!
今回はタカシ達とは関係のないところでのお話。
冥界べヘリウス……この世界で唯一無二の『魔族の土地』。
人間の介入を一切許さぬ不毛な大地の支配者は、大地を焦がす黒い炎を身に纏いながらゆっくりと玉座から腰を上げる。
「よく来たな……名ばかりの魔王達よ」
地面を這う黒い炎を踏みつけ、ジュッと消して、白衣に身を包んだ見た目は人間にしか見えない男が支配者を睨み付ける。
「人を招待しておいて……とんだ御挨拶だなベリアル。……俺は別に此処で殺りあっても構わないぞ?」
「まあまあパズズ氏気を静めて。ベリアル氏は余裕がないのでしょう。だから強気な言葉を吐く。それを寛大な我々が許容しないでどうするんです?」
苛立つ白衣の男、パズズを宥めるのは顔が馬、体は人間という奇妙な魔族。
「お前も十分口が達者だぞ……オロバス。ベリアルに殺されたいのか?」
「知的に会話も出来ない程にベリアル氏も落ちぶれていないでしょう?」
「……本当に口ばかり達者な奴だ」
馬面男、オロバスを呆れた表情で見下ろす巨大な影。ケタ違いの巨大は地の底まで響くような重低音の声を鳴らす。
「しかしベリアル。一番口が過ぎるのは貴様だ。ワシも暴れたって構わんのだぞ?」
「リヴァイアサン氏……其れだけは御勘弁を。貴方が暴れれば大陸一つが海に沈む」
「ぶおおおおおおッ!!ビビるなよオロバスゥゥ!俺だって大陸一つ滅ぼせるぞォォ!」
「モロク君……張り合わないで下さい」
「ぶおおおおおおッ!人間を焼き殺してェェェッ!!特に小さい餓鬼をなァァァ!」
がたいのいい顔面牛男、モロクが鼻息荒く地面を踏み鳴らす。
協調性のまるで無い異形の化け物達を呆れた顔で見渡し、艶やかな女が扇子を扇ぐ。
「話を進めぬか、いい加減……妾とて暇じゃないのだぞ?」
「バアルペオル、二、概ネ同意。合理的、会議、ヲ、所望ス」
「……右に同じ」
リヴァイアサンに負けず劣らずの巨大な影、黒いローブで顔を覆う小さな影が同調する。
「バアルの魔王ども……こんな所でも馴れ合いか?」
「仲が良いコト、良いコトヨー!パズズ、イジメ良くないヨー!」
三人を睨むパズズを咎める奇怪な声。声の高低が滅茶苦茶なその声にパズズは不快そうに顔を歪める。
「それより早く話を終わらせヨー!もうすぐ三時のおやつの時間だヨー!」
「……パンプディングに同じく」
「あら、ゼブブお腹が空いたのかえ?だったら話をとっとと始めよう」
「勝手に仕切るな……まあいい。話を始めよう」
魔王ベリアルがパチンと指を鳴らす。
すると黒い炎が燃え上がり、中から奇妙な赤いスーツの男が姿を現す。
「偉大なる魔王の皆様、御機嫌麗しゅう!ワタクシ、皆様方の忠実な僕、魔人メフィストフェレスと謂う者で御座います!」
魔人メフィストフェレスはぺこりと深々頭を下げる。恐ろしい魔王達を前に何処か余裕の見える魔人はキョロキョロと魔王達を見渡し、おやと首を傾げる。
「どうも集まり方がよろしくないようで」
「基本敵対関係だからネー!ベリアルの召集に応じる奴は物好きだけだヨー!」
カラカラと笑う魔王パンプディング。メフィストはニッコリと笑うと頭を再び深々と下げた。
「ならば尚更今回顔を出して戴いた魔王様方には感謝せねば……本来ならばこの危機的状況、全ての魔王様に報告したかったのですが」
「危機的状況?」
リヴァイアサンの低い声が響く。
「その通り。皆様もう御存知でしょう?あの偉大なる『殺戮の魔王』、バアルベリト様が勇者に討たれた事を」
メフィストの言葉に魔王達は大した反応は見せない。しかしそれは決して彼等が魔王バアルベリトを侮っているからではない。
「ベリトの奴、どんなヘマをしたのか知らんが……俺らには関係ないな」
パズズが舌打ち混じりに呟く。「ヘマをした」という言葉通り、此処にいる殆どの魔王がマグレでもなければベリトが討たれる筈がないと思っている。
さらには「関係ない」というように、他の魔王にとって、他の魔王の支配する土地の勇者は全く関係ない。
勇者は輩出国を守るのが使命であり、他の国に手を伸ばすことはしない。
強力な魔王とそう何度も戦いたくないからだ。
だから勇者はリスクを避けて、余計に魔王と戦いたがらない。
故に無関係。
しかしメフィストは首を振り、にやりと不敵に笑む。
そして新たな情報を提示した。
「……魔王バアルフェゴール様も討たれました。その勇者に」
ざわ……
魔王達がどよめく。
「それだけでなく……魔王ドッペルゲンガー様までもが、同様の勇者に討たれました」
「馬鹿な!?」
声を上げたのは魔王オロバス。
「何なのですかそれは!?何故!?何故その勇者は余所の魔王までもを!?」
「問題はそこじゃないヨー。『何でそこまで魔王を倒せてるか』、それが一番の問題だヨー」
「…………ベリトを討ったのは、マグレではない……とな?」
怪訝な表情でバアルペオルがパンプディングを睨む。
「……逆にそこまでマグレを重ねられる秘訣が聞きたいヨー」
魔王達はパンプディングの真面目なトーンの言葉に押し黙る。
「そう。パンプディング様の御指摘の通り、その勇者が三人の魔王様を討ったのには明確な理由があります」
そのタイミングを見計らって、メフィストが声を発する。
「召喚獣です」
メフィストがパン!と手を鳴らすと、突然魔王達の前には一人の人間が映った紙が現れる。
「これは……」
「彼こそが我々の上位に位置する異世界から、魔王殺しの勇者レイが呼び出した最強にして最悪の召喚獣……」
その言葉に反応を示したのは支配者ベリアル。
その目を見開き、信じられない情報を知ったと言わんばかり驚愕の感情を露わにした。
ベリアルが吐いた一言……
「堕天使……!」
メフィストが笑顔で頷く。
「そう。彼は『堕天使タカシ』……とでも言いましょうか?」
『堕天使』、ベリアルが選び、メフィストが使ったその言葉の意味を他の魔王は理解しかねる。
しかしそんな事など気にせずにメフィストは続ける。
「何故彼等が複数の魔王様を討ってまわっているのかは定かではありません。しかし確実に言えるのは……」
「彼等が全ての魔王様を狙っているということです」
魔王の反応は様々。
一部は顔色を悪くし、一部は相変わらず表情を変えない、そして一部は笑みを浮かべる。
「どうしたベリアル?顔色が宜しくないようだが?」
言葉を発するのは、笑みを浮かべる魔王パズズ。
「メフィストフェレス。こいつは強いのか?」
「ええ勿論です。それこそ……あのバアルベリト様を単騎で打ち倒す程に」
魔王パズズは尚も笑う。
「ならばこいつを消せば……ベリトの奴を俺が完全に超えられるというわけだ」
「正気ですかパズズ氏!?あのベリト氏がやられた化け物を倒すと!?」
「ふん……何を怯えるオロバス」
焦るオロバスを見下す巨大な影、リヴァイアサン。
「まさか魔王ともあろう者が……人間に屈すると?」
「い、いえ……そういう訳では……」
「ハン!やはりリヴァイアサン、貴様は話が分かる!つまりは……」
パズズが目を金色に光らせる!
すると荒廃した土地に忽ち暴風が吹き荒れる!
「貴様のような臆病者は魔王に相応しくないということだ!ベリアル!」
パズズの操る暴風の刃がベリアルに襲い掛かる!
「黙れ!」
ベリアルは体に纏う黒い炎を更に巨大化させ、炎を全身から噴出する!
巨大な熱の塊と暴風が衝突し、更に巨大な嵐が暴れまわる!他の魔王達が僅かに怯む程の風圧、それを潜り抜けるように、パズズが飛翔する!
「口だけかァ!?ベリアルさんよォ!?」
パズズがその拳をそのまま燃え盛るベリアルの頬に叩き込む!
メキィ、という嫌な音と共に、ベリアルの顔が横に傾く!
「が……!」
「はっ!どうだァ?名ばかりの魔王さんよォ!」
「な……めるなァァァッ!」
首が捻れた状態のまま、ベリアルが燃え盛る拳をパズズに返す!
「おっと!」
その拳を開いた片手でパズズは受け止める!しかしベリアルは強引にパズズを力でぶっ飛ばした。
ぐんと体を傾かせるパズズ。しかしその身を暴風に任せ、難なく体勢を立て直す。
「殺す!」
「調子に乗るなよパズズ!」
黒い炎が燃え移った拳をぶんと一振り、炎を消したパズズは再びベリアル向けて飛翔する!
対するベリアルは体中の黒い炎を槍の様な形に収束させ迎え撃つ!
「「オオオオオ!」」
雄叫びと共に二人の魔王が激突しようとする!
しかしその間に、巨大な影が突然割って入る!
「やめろ蟻どもが!」
ブニィ……
パズズの拳も、ベリアルの黒い炎の槍も、リヴァイアサンの巨大な山のような体に吸い込まれる。ビクともしないその巨体。
「……リヴァイアサン、邪魔するな」
「ワシに指図するかパズズ」
パズズはリヴァイアサンを睨み付けるが、ふうと息を吐くとその拳を巨体から引き抜く。
「チッ……」
ベリアルも黒い炎の槍を自らの体に溶け込ませ、後ろに下がる。
「おお、良かった!仲裁感謝ですリヴァイアサン様。危うく巻き込まれてワタクシ、死ぬところでした!」
「……ふん」
メフィストはまるで慌てた様子もなく、冗談のようにほっと息をつくと、にやりと笑う。
「そう。パズズ様の仰る通り……何も慌てる事じゃないですよね?」
「相手が分かれば……皆様なら幾らでも手の打ちようがありますよね?」
次に返ってきた魔王達の表情は二種類にまで減っていた。
変わらぬ無表情、そして余裕に満ちた表情……脅え、恐怖、絶望……マイナスの要素など既にない。
「ではワタクシからの報告はお終いで御座います。……では御武運を」
メフィストが指を鳴らし、黒い炎の中に消える。
残された魔王達。ベリアルは冷めた表情で口を開く。
「……ではお開きにしようか」
「さて……誰がこいつを狩ることになるかな?」
魔王達の珍しい会合はこうして幕を降ろす。共通の敵を認識して……
魔王がちらほら帰りだした頃、小さなローブの魔王も帰路につこうとしていた。
その肩を掴む、妖艶なる魔王バアルペオル。
「ゼブブ」
ローブの魔王は動きを止め、振り返る。するとはらりと頭を隠す布が捲れ、その素顔が露わになった。
「…………何?ペオル姉」
黒い艶やかな長髪、黒い深淵の瞳、それを際立たせる陶器のような白い肌、そして鮮やかな緑色に輝く小さなエメラルドのような巻き角二本……眠たげな目をした、可愛らしい少女にしか見えないその魔王……その可愛い妹を心配するように、姉の魔王バアルペオルはその顔を見つめる。周囲から魔王が去ったのを確認し、ペオルはとろんとその表情をとろけさせた。
「……ゼブブちゃあん!……お姉ちゃんは心配なのぉ~!やられてる魔王の流れだと……次に勇者が向かう土地は……ゼブブちゃんの土地じゃなぁい!」
ゼブブ、そう呼び妹に抱き付きすりすりと頬ずりするペオル。ゼブブはされるがままで、表情一つ変えない。
「だからゼブブちゃんが酷いことされないか心配なの!だからだから!お姉ちゃん、これからゼブブちゃんのとこにずっといる!いるいるいる~!」
駄々っ子のようにすりすりすりすりとゼブブに擦りよるペオル。
ゼブブはされるがままに呟く。
「……大丈夫ペオル姉」
無理矢理でなく、ゆっくり優しくゼブブは擦りよるペオルを引き剥がす。そして深い暗闇をたたえたような眠たげな瞳でペオルを見つめた。
「……秘策はあるから」
「秘策?」
ゼブブの口だけが笑うかのようにくいっと曲がる。相変わらず感情を感じさせない眠たげな目だが、たったそれだけで可愛らしい笑顔に見える。
「……こんな勇者、三時のおやつ前……だもん」
ゼブブの「だもん」があまりにも可愛すぎて、ペオルの理性はすっ飛んだ。ルパンダイブでゼブブに飛び付く!
「ああああああああああああんっ!ゼブブちゃあああああん!はあはあはあはあはあはあ!ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ!妾の妹はッ!どうしてッ!こんなにもッ!可愛いッ!」
重度のシスコン魔王にされるがままに、妹は嫌な顔一つせずにぼんやりと虚空を見つめる。
「おやつ……」
タカシの存在が魔王達に知れ渡る。
今までとは違う、一筋縄ではいかない罠と準備を持って、魔王達は牙を剥く。
初めに待ち受けるは、不思議な少女……
その異名『求心の魔王』。
異彩の支配者、その名は、
魔王バアルゼブブ
残る魔王の一部(といってもこれが大半ですが)の顔出し回。
遂にタカシの存在が魔王達に知れ渡っちゃいました。
これで大半の魔王が対策を練ってくるので、攻略は難しくなるかな?
数少ない(!?)真面目魔王ベリアル、パズズ、リヴァイアサン……彼等の内何人が真面目なままでいられるのか?w(一部はマジ勝負を繰り広げるかも?)
あと既に雲行き怪しいオロバス、モロク、バアルペオル、パンプディング……
意外とタカシ達を苦しめるかも?w
ちなみにカタカナ語のデカい奴は名前はまだでてません。まあその内……
そして次回、不思議系美少女魔王(?)バアルゼブブちゃんと対決!?
……多いな!という突っ込みはご勘弁を(-.-;)
これ以外にも出てきちゃいますので……w
別に多くてもいいよ!というお方は是非是非お付き合い下さい!
取り敢えずはただただ引き伸ばすつもりはなく、着地点は決まっている事だけは宣言しておきます!
……どんな道順通るかは分かりませんが(ォィ
……と、本編と後書きに複線を潜ませつつw ここで改めてご挨拶を……
今後とも宜しくお願いします!よろしければ感想、ご意見、ご指摘などなど……いただけると励みになります!
……後書き毎度長過ぎですねw