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【第4章連載中】『元・食品開発研究員ですが、異世界の食材を「科学」で極上ディナーに変えたら、王国中から美食家が押し寄せてきました』  作者: チョコ大福
第4章:海洋都市トライデント・魚介編

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55/62

第55話:「磯臭く生臭い水揚げ直後の白身魚は、『pHコントロールによる中和』で【絶品海鮮熟成丼】に変わる」

登場人物紹介

エドワード:主人公。元・大手食品メーカーの食品開発研究員。気品ある紳士的な物腰で、科学ロジックを駆使して食材のポテンシャルを解放する。

レイラ:エドワードの相棒となった商人見習いの少女。勝気な性格。流通の視野を持ちつつ、最高の食レポで読者のヨダレを誘う。

フィリア:おっとりとしたエルフの薬学少女。三人旅のレギュラーとして科学と薬膳の知識で調理をサポートする常識人。

ルキア:海洋都市トライデントの若き漁師。地元の魚介に精通しているが、特有の臭みに悩み続けている。エドワードたちの技術に驚嘆し、協力者となる。

前書き

第55話をご覧いただきありがとうございます!

いよいよ幕を開けました『科学で極める王国美食フルコース』第4章:海洋都市トライデント・魚介編。

聖薬郷セレスティアを後にした三人が到着したのは、潮風香る巨大な港町・海洋都市トライデント。新鮮な魚介が手に入るこの街で、三人は「獲れたてなのに磯臭い」という魚介特有の悩みに直面します。

頭を抱える若き漁師・ルキアを前に、エドワードが食品科学のロジックで挑む第1弾。魚介の臭みの正体を断ち切り、極上の旨味を引き出す鮮魚の科学を、どうぞお楽しみください!

それでは第55話、どうぞ。

潮騒が轟く海洋都市トライデントの朝。活気ある魚市場の一角で、若き漁師のルキアが頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

彼の目の前には、今しがた水揚げされたばかりのピカピカと銀色に輝く白身魚が並んでいる。新鮮さは申し分ないはずなのに、鼻を突くような独特の磯臭さとツンとした生臭さが周囲に漂っていた。

「くそっ……! 今日も朝早くから網を引いて、身もパンパンに詰まった最高の白身魚なのに、この強烈な臭いせいで市場の買い手がつかないんだ。ただ塩を振って焼くだけじゃ、この臭みはごまかせねぇし……どうすりゃいいんだよ」

悔しそうに歯噛みするルキアの様子を見て、通りかかったレイラが足を止める。

「あら、新鮮そうなのにもったいないわね。……ねぇエドワード、何か手はあるの?」

レイラに促され、エドワードはスッと歩み出ると、シルバーの髪を揺らしながらしゃがみ込み、じっと白身魚の身を観察した。

彼は慣れた手つきでワイヤーフレームの眼鏡のブリッジを押し上げる。

キシリ、とレンズの端が光を反射した。

「ええ、レイラ君。この魚から発せられている嫌な臭いの正体は、主にトリメチルアミンと呼ばれるアルカリ性の揮発性成分です。鮮度が落ちる過程や、あるいは海の環境エンザイムによって生成されるこの成分は、熱を通すだけでは揮発しきれず、かえって鼻を突く嫌な臭いとして残ってしまうのです」

「アルカリ性、ですか?」と、フィリアが腰のポーチから乾燥ハーブの袋を取り出しながら尋ねる。

「はい。ならば、化学のロジックは非常にシンプルです。――**『有機酸による中和』**を行えばいいのですよ」

① pHコントロールによる中和と、旨味の引き出し

エドワードはロングコートの隠しポケットから、小ぶりな瓶に入った柑橘系の抽出液を取り出した。

「魚介の生臭さはアルカリ性の成分が原因ですから、そこに弱酸性の液体や柑橘のクエン酸、あるいはフィリア君が持っているハーブ由来の有機酸を的確に作用させることで、塩基性の臭い物質を化学的に中和し、不揮発性の塩へと変化させることができます。さらに、適切なpHコントロールと浸透圧の調整を行えば、余分な水分と臭みを同時に抜きつつ、魚が持つ本来のイノシン酸やグルタミン酸を凝縮させることができるのです」

フィリアはエドワードの意図を即座に理解し、手際よくハーブをすり鉢で細かく砕いた。

「エドワードさん、このハーブの酸味成分を合わせるのですね。……ふふ、これなら消臭だけでなく、風味付けにも最適ですわ」

② 絶品!【絶品海鮮熟成丼】の完成

エドワードの指揮のもと、水揚げ直後の白身魚は手早く三枚におろされ、特製の柑橘果汁とハーブをブレンドした調味液にくぐらせる。

数分後、アルカリ性の臭み成分が綺麗に中和され、魚の身はキュッと引き締まりながらも、瑞々しい透明感を帯びていた。

これを絶妙な温度管理のもとで短時間熟成させ、仕立てておいた地元の旨味豊かな米の上に、美しく幾重にも並べ立てる。

仕上げに、香ばしく炒った木の実のオイルをひと垂らしすれば――。

**【絶品海鮮熟成丼】**の完成である。

広場の一角に、先ほどまでの嫌な磯臭さが嘘のように消え去り、代わりに爽やかな柑橘の芳香と、魚の身が持つ極上の旨味を含んだ甘いアロマがふわりと立ち込めた。

「わぁ……っ! 磯臭さがすっかり消えて、お魚の透き通るような甘い香りとハーブの爽やかさが引き立ってる……!」

レイラが思わず両手を合わせ、うっとりと見入る。

「ルキアさん、これなら最高級の海鮮料理として、市場で飛ぶように売れるわよ!」

漁師のルキアは信じられないといった様子で箸を手に取り、恐る恐るその熟成丼を一口へと運んだ。

――瞬間。

「う、旨い……っ!!!」

ルキアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

口に入れた瞬間に広がるのは、一切の臭みのない、白身魚本来の圧倒的な旨味とモチモチとした極上の弾力。そして、柑橘の酸味とハーブの香りが完璧に調和している。

「あの生臭い魚が、こんなに……! あんたたち、一体何者なんだ?」

エドワードは優しく微笑み、静かに頷いた。

「ただの通りすがりの旅人ですよ。ですが、食材の持つ欠点は、その科学的構造を正しく理解し、適切なロジックを施すことで、すべて最高の強みに変えることができる。……ルキア君、この手法はあなたに授けます。ぜひ、この町の海の幸を極上の食材へと変えていってください」

ルキアは力強く拳を握りしめ、「ああ、絶対にやってやる! あんたたちの『科学』のおかげで、俺の漁師人生が丸ごと変わった気がするぜ!」と深く頭を下げた。

港町の朝焼けの中、エドワード、レイラ、フィリアの三人は、新たな美食の探求に向けて、颯爽と歩き出すのだった。

後書き

第55話をお読みいただきありがとうございました!

新章・海洋都市トライデント編の幕開けとなる今回は、白身魚の生臭さ(トリメチルアミン)をpHコントロールと有機酸で鮮やかに中和・解決するエピソードをお届けしました。

トライデントの地で新たな協力者ルキアを得て、三人の旅はさらに深まっていきます。

次回の第56話では、パサついて硬い赤身魚の切り身を「酵素分解とオイルバリア」でジューシーなソテーに蘇らせる科学に挑みます。

それでは、次回の話もお楽しみに!

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