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『元・食品開発研究員ですが、異世界の食材を「科学」で極上ディナーに変えたら、王国中から美食家が押し寄せてきました』  作者: チョコ大福
第1部(辺境の村:ライネ村編)

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第4話:堅くてパサパサの「黒パン」は、「科学(ロジック)」の【絶品ガーリックトースト】で至福のご馳走に変わる

第4話をご覧いただきありがとうございます!

今回は、辺境の村の主食でありながら、硬くてパサパサで皆を悩ませていた「黒パン」がテーマです。

「硬くなったパンは捨てたりスープに浸すしかない」という常識を、エドワードが「デンプンの老化(α化)」と「脂の科学」で鮮やかに覆します。

カリッ、モチッとした食感に生まれ変わる、ガーリックトーストの至福のひとときをお楽しみください!

それでは第4話、どうぞ。

「おい、エドワード。今日のこれ……どうにかできるか?」

翌日、調理場に顔を出したガルドが、腕の中に抱えていたのは何個もの「黒パン」だった。

それは辺境の村の主食であり、小麦と雑穀を混ぜて焼き上げられたものだが、数日経ってすっかり水分が抜けており、カチカチに硬化していた。木製のテーブルの上で叩くと、コンコンと乾いた音が響くほどで、村人たちはこれをスープに浸して無理やり柔らかくするか、あるいは歯をくいしばってガリガリと齧るしかなかった。

「これはまた、見事に水分が抜けていますね」

エドワードは眼鏡を押し上げながら、差し出された黒パンを手に取り、トントンと軽く叩いてみせた。

「村の皆さんは、『パンが硬くなったらスープに浸すか、捨てるしかない』と思い込んでいらっしゃる。ですが、パンが硬くなるのは水分が抜けてデンプンが『老化(結晶化)』しているからにすぎません。構造が分かっていれば、このパサパサの黒パンを、お肉やスープに最高に合う『絶品ガーリックトースト』に生まれ変わらせることができますよ」

「はぁ? あの石みたいに硬いパンが、そんな洒落たものになるのかよ?」

ガルドが目を丸くするのを横目に、エドワードは手際よく調理の準備を始めた。

① 水分補給と「加熱によるデンプンの α 化」

「まず、硬くなったパンのデンプンをもとの柔らかい状態(α化)に戻す必要があります。そのためには、水分を補給してから一気に熱を加えることです」

エドワードは硬い黒パンの表面に、ハケを使ってたっぷりの湧き水をサッと染み込ませた。中心までびしょびしょにするのではなく、表面と適度な層に水分を行き渡らせるのがコツだ。

「水分の補給が足りないとただのパサパサになりますが、多すぎてもベチャッとしてしまう。この『絶妙な水分量』のコントロールが科学の第一歩です」

② 香りと脂の科学(メイラード反応と乳化)

次にエドワードが取り出したのは、村の特産である「動物性の油脂(バターに近いもの)」と、細かく刻んだ野生のニンニク(ガーリック)だった。

「そして、ただ焼くだけでは美味しくありません。パンの表面に油脂を塗って焼くことで、『油の膜』が内部の水分を閉じ込め、蒸発を防ぎます。さらに、ニンニクの香気成分アリシンは油に溶けやすい性質があるんです」

エドワードは溶かした油脂にたっぷりの刻みニンニクと少量の塩を混ぜ合わせ、先ほど水分を含ませた黒パンの表面に隙間なく塗りたくった。

「これを熱した鉄板にスライドさせます。油脂が熱せられ、ニンニクの香ばしいアロマと、パンの表面の糖・タンパク質が結びつく『メイラード反応』が一気に起きますよ」

『ジュウウウウッ……!!』

熱せられた鉄板の上で、バターとニンニクが溶け合い、爆発的な香ばしさが調理小屋を包み込んだ。

先ほどまでの「パサパサで味気ない保存用の黒パン」の匂いは完全に消え去り、鼻腔を強く刺激する、あまりにも芳醇なガーリックの香りが辺りに立ち込める。

「うまっ……!? なんだこの匂いは……! ニンニクと香ばしいパンの匂いが混ざって、これだけで飯が食えるぞ……!」

ガルドは思わず喉を鳴らし、鉄板に釘付けになった。

「ふふ、仕上がりはここからです。外側はカリッと香ばしく、中は驚くほどモチッと焼き上げるのが、科学的アプローチの醍醐味ですからね」

③ 絶品! 異世界初のガーリックトーストの完成

エドワードは手早くパンを鉄板から引き上げ、木製の皿に美しく並べた。

そこにあったのは、こんがりと黄金色に焼き上がり、ニンニクの食欲をそそる香りをまとった、極上の【ガーリックトースト】だった。

「お待たせいたしました。先ほどお作りしたビーフシチューと一緒にどうぞ。最高の相性ですよ」

ガルドは震える手で、その厚切りのトーストを一枚手に取り、大きく口をつけた。

「…………っ!!!?」

ガルドの目が驚愕に見開かれた。

『サクッ……、モチッ……!』

噛み締めた瞬間、外側のハードな皮は心地よい音を立てて崩れ、中から驚くほどしっとり、もっちりとしたパンの生地が姿を現した。あんなに硬くてパサパサだった黒パンが嘘のように生まれ変わり、じゅわっと染み出したニンニクバターの塩気と旨味が、口いっぱいに広がる。

さらに、それを先日作った濃厚なビーフシチューのスープに浸すと――。

「う……うまい……! うまっ……!! カチカチだった黒パンが、こんなにしっとりモチモチになって、シチューのスープを吸い込んで……言葉が出ねえよ……!」

ガルドは夢中でトーストを頬張り、シチューの器とを行ったり来たりしながら、あっという間に平らげてしまった。額には心地よい汗が滲み、その表情は幸福感に満ち溢れている。

「ふふ、お気に召していただけたようで何よりです」

エドワードは満足そうに眼鏡を押し上げた。

硬い魔獣肉、カチカチの干し肉、泥臭い川魚、そしてパサパサの黒パン。

村の誰もが「仕方なく食べるもの」と諦めていた保存食たちが、食品科学のチートによって、次々と極上のディナーへと変貌を遂げていく。

エドワードによる異世界グルメ革命の噂は、まだこの小さな村の範囲を出ていない。しかし、この美味しさが外の世界に漏れ出す日は、そう遠くない未来に迫っていた。

第4話をお読みいただきありがとうございました!

今回の科学のポイントは、

水分を加えて加熱し、デンプンの結晶化した状態(老化)を「α化」に戻す

油脂で表面をコーティングし、水分を閉じ込めて「パサつき」を防ぐ

ニンニクの香気成分を油脂に溶け込ませ、メイラード反応で風味を爆発させる

というフードサイエンスの技法でした。

カチカチの黒パンが、エドワードの手によって、焼きたてのようなモチモチのガーリックトーストに生まれ変わる様子は、見ているだけでもお腹が空いてきますよね。

着実に村の食卓を変えていくエドワードの活躍、次回もぜひご期待ください!

「おもしろかった」「お腹が空いた」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク登録】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援をよろしくお願いいたします!

それでは、また次話でお会いしましょう!

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