気をつけろ。奴らはそこら辺に生息している
昨日、ただ移動したかっただけでタクシーに乗った。
特別な事件に遭遇する予定はなかった。
せいぜい
「少し運が悪かったな」
くらいで終わるはずだった……
ところがタクシーは黙々と
目的地に到着すると停車して、
料金を支払った瞬間、
運転席から深いため息が聞こえた。
どうやらお釣りがすぐに出せないらしい。
運転手は小さくイライラし、
ため息をもう一度。
そして極めつけに、舌打ち。
ああ、
これは人間じゃないな、と思った。
これはきっと――
「お釣りがすぐ用意できない時、
舌打ちする妖怪」だ。
この妖怪は、自分の不手際を客のせいにする習性がある。
お釣りが足りないとため息をつき、
準備不足を悟られる前に舌打ちで威嚇する。
接客業界では出禁にされがちだが、なぜかタクシーには生息している。
脳内ではまず
「あ?」からの
「こんちくしょう!」からの
「低脳がっ!」からの
「ホニャララ!!」←言葉にしちゃいけない
だが、
だが、
私は黙ってドアを開け、
何も言わずに降りた。
ヒュー!わたし大人ー!
そして目を閉じ思った。
人はこういう時、
妖怪に話しかけると、
たぶん舌打ちが進化する。
下手をすると、ため息が咆哮になる。
勝った気はしなかった。
でも少なくとも、
舌打ちを主食にして生きる人生とは、
その場で距離を取ることができた。
妖怪は今日もどこかで舌打ちしているだろう。
私は今日も、人間として静かに帰宅した。




