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ハズレ職業【フリーター】を授かった少年アルト、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを綺麗にして売りさばいて最下層の泥底から成り上がる!  作者: 月曜日の憂鬱
ファビアン編

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トビーの復讐

 地下の深淵を後にしたシュペーアーは、夜の帳が下りた王都を急ぎ足で移動していた。向かう先は、王都の中央。深い水堀に囲まれ、難攻不落の威容を誇る国王陛下の居城、そのすぐ傍らである。

 そこには、巨大な王城と対比させるように建てられた城もどきの建物が存在していた。外壁は王城と同じく眩いほどに白く輝き、装飾も遜色ない。だが、その大きさは本物の王城の50分の1程度のミニチュアサイズ。高さこそ3階建ての高級住宅並みにあるが、水堀もなく、門前に警備兵の姿すらない。


 この建物は、かつて王位継承権争いに敗れたヴァレリウスが、王族から追放された際に与えられた住まいであった。表向きは、国王陛下が追放した兄に与えた最低限の慈悲として世間に知らしめられている。だがその実態は、元王族としてのプライドを逆撫でし、その没落を永遠に晒し者にするための、残酷な見世物小屋に他ならない。しかし、国民には、公には出来ない事実があった。追放に際し、ヴァレリウスは密かに4肢を断たれ、声帯を斬り裂かれて声を奪われた。2度と弟である王に歯向かえぬよう、肉体的な自由を完全に奪われたのだ。だが、ヴァレリウスの心は砕けなかった。むしろその惨状が、彼の中に消えることのない復讐の業火を灯したのである。


「自分を生かしたことを、地獄の底で後悔させてやる」


 その執念を実現するため、ヴァレリウスは婚約者であったイリシアに命じ、己の代わりを務める者を探させた。そうして見つけ出されたのが、レア職業【模倣師(コピーマスター)】を有する男、フォルセであった。


 シュペーアーは、誰に咎められることもなく城門を自ら開け、敷地内へと足を踏み入れた。門から城の入り口までは10メートルほど。庭園などはなく、ただ無機質な砂利が敷き詰められているだけだ。シュペーアーが城の重厚な扉を開くと、そこには外観からは想像もつかない光景が広がっていた。


 4階建てに見えたその城の内部は、実は天井が極端に高いだけの、広大な空洞だったのである。


 部屋はたった1つ。


 1階建ての1部屋に、最低限のキッチン、風呂、トイレが押し込まれた、まるで安アパートの1室のような歪な空間。家具といえば、部屋の中央に置かれた粗末なテーブル1つと、2つの椅子のみ。これこそが、国王が元王族に用意した真の住処であった。


 その椅子の1つに、黒い仮面をつけた男が静かに座っていた。レア職業模倣師(コピーマスター)のフォルセ。彼はヴァレリウスの体格から仕草までを完璧に模倣し、世間の目を欺き続けている影である。


 シュペーアーは部屋に入るなり、仮面の男に向かって短く告げた。


 「(本物の)ヴァレリウス様への報告は終了しました」


 その言葉に、フォルセは仮面の下で口角を上げた。本物のヴァレリウスが地下の深淵で肉塊と化し、この惨めな白亜の牢獄に座っているのが偽物であるという真実を知る者は、この場にいる2人と、イリシアの三人のみ。


 「そうか。……して、あの方は何と?」


 フォルセの声は、かつての快活だった頃のヴァレリウスそのものであった。


 「トビーの復讐を機に、王都を揺らすとお決めになりました。全ては計画通りに」


 シュペーアーの答えに、フォルセは満足げに深く椅子に身を預けた。その瞳の奥には、どろりとした暗い愉悦が浮かんでいる。


 「お前の情報では、明日は朝から国王陛下の勅命により、泥底に強制調査が入るのだろう?」

 「はい。トビーは自分が処刑されることを()うに察知していました。彼は復讐の第1手として、王立真実院、通称【銀の牙(ジルバーファング)】へ密かに接触し、周到に用意していた証拠を突きつけたのです」


「あの【銀の牙(ジルバーファング)】にか。……クク、身の程知らずな。だが、奴らが動いたということは、相当な獲物(ネタ)を放り込んだわけだ」


 フォルセの冷ややかな問いに、シュペーアーは淡々と答えた。


「トビーがわざわざあの場所にぼったくり食堂を作ったのは、法外な利子とその帳簿、契約書という決定的な証拠を残すためでした。そして、借金の返済で働かされていたゴミ山で、日雇いカードを作らせたのも彼の入れ知恵です。それこそが、低賃金での強制労働が行われていた紛れもない証拠となりました」


 シュペーアーは一拍置き、闇の中で目を光らせた。


「トビーは死の直前、これら全ての証拠を【銀の牙(ジルバーファング)】の調査官にリークしたのです。ヴァレリウス様の資金源の1つを奪うための、死兵としての警告……。報告を受けた国王陛下は、闇の組織への資金を断つため、ついに泥底の一掃を決断されました」


 トビーの命を賭した緻密な復讐劇。その全貌を聞き終えたフォルセは、暗い部屋の片隅でニヤリと唇を歪めた。


 「……面白い。死してなお、王国の牙を動かしてヴァレリウス様を噛み倒そうというわけか」


 フォルセは満足げに喉を鳴らし、深く、深く椅子の背に身を沈めていった。


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