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ハズレ職業【フリーター】を授かった少年アルト、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを綺麗にして売りさばいて最下層の泥底から成り上がる!  作者: 月曜日の憂鬱
ファビアン編

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大事なこと

 ローレンツの狂ったような哄笑が、薄暗い元食堂に反響して、ファビアンはその異様な光景に、訳もわからずただキョトンと立ち尽くすしかなかった。ひとしきり笑い終えると、ローレンツは涙を指で拭いながら、再びあの底知れない不気味な笑みを浮かべて言った。


 「ファビアン君、もしかして、君があの幹部会議を成功させられるとでも思っていたのですか?」


 その問いかけには、純粋な疑問と、残酷な嘲笑が含まれていた。ファビアンは冷や汗を流しながらも、正直な気持ちを吐露した。


 「……難しいとは思っていましたが、なんとか成功させたいと思っていました」


 ファビアンの真剣な言葉を聞いて、ローレンツは再び腹を抱えて大笑いした。そして、バンバンとテーブルを叩く音が響く。


 「アハハハハッ! ファビアン君、君は本当にヤバいねぇ~」


 ローレンツは笑い転げながら、まるで世間知らずの子供に教えるように言った。


 「いいかい? 泥底の幹部会議というのはね、黄金の蜘蛛と蝿の王といった古狸たちの顔を立てるために、本来なら7つの支配座(セプテム・ソリア)もしくは、支配座の影(ジーベン・シャッテン)】が出席するのが義務となっている。最悪の場合でも僕たち7つの柱(ゼーベン・ゾイレ)が出席することになっているんだよ」


 ローレンツはテーブルに頬杖をつき、死んだ魚のような目でファビアンを見据えた。


 「僕たちが出向いても、アイツらは見下されたと被害妄想を抱いて、会議の進行に時間がかかるんだ。本当ならリヒター様が出席できない今回、僕が代わりに参加しなきゃいけなかった。……でも、君が任命されたよね?」


 ローレンツは楽しそうに首を傾げた。


 「幹部ですらない、下っ端の【十の歯車(ツェーン・ラーダー)】である君が選ばれた意図を全く理解していなかったんだね。いやあ、これはヤバいよ。本当にヤバいよ」


 ファビアンの顔から血の気が引いていく。彼は震える声で尋ねた。


 「ローレンツ様……泥底の幹部会議は、初めから失敗させるのが目的だったのですか?」

 「そうだよ。アイツらを怒らせるために、わざと格下の君を送り込んだんだよ。君は僕たちの期待通り、無様に振る舞って、彼らのプライドを逆撫でしてくれた。まさに天晴れだよ」


 ローレンツの言葉に、ファビアンはショックを隠しきれなかった。自分は大役を任されたと思い込み、張り切っていた。しかし、実際はただの捨て駒、相手を怒らせるための道化に過ぎなかったのだ。ファビアンが絶望に打ちひしがれていると、ローレンツは話題を変えるように、にこやかに問いかけた。


 「ファビアン君、それよりも杖の件は、どうなっているのかな?」


 ファビアンはハッとして顔を上げた。


 「そ、捜索はまだ1日です。しかも、どのような杖なのか具体的な特徴がわからないので、かなりの時間がかかりそうです」


 ファビアンの答えを聞いた瞬間、ローレンツは顎が外れるのではないかと思うほどの大口を開けて、狂ったように笑い出した。


 「アハハハハハハッ!!君、ヤバいよ! 本当にヤバいよ!」


 ローレンツは笑いすぎて苦しそうに息を継いだ。


 「杖の捜索は、組織の最重要事項だと知らないの?」


 「ゴミ山から杖を探してこいと言われましたが……それほど重要なことだとは、知りませんでした」


 ファビアンは素直に答えた。トビー亡き後、右も左も分からないまま命令を受けた彼には、事の重大さを知る由もなかったのだ。ローレンツは、スッと笑顔のまま表情を凍りつかせた。


 「君は本当にヤバいよ。ヤバすぎだよ。君は、いちいち何が重要か説明しないとわからないのかな?」

 「そ、そ、それは……」


 ファビアンは言葉に詰まった。自分で何が重要かの判断などしていなかった。ただ与えられた仕事をこなすだけで精一杯だったのだ。


 「君は何も考えていなかったんだね。だから君は、いつまで経っても【十の歯車ツェーン・ラーダー】なんだよ」


 ローレンツの声色が、氷点下のように冷たくなる。


「僕の口からは詳しいことは言えないけど、杖の探索は、君が今、一番力を入れてやらなければいけないことなんだよ。今からでも遅くはないと思うよ? 君が使える構成員を全て使ってでも、探すことを勧めるよ。もちろん、寝る間も惜しんで、見つかるまで探しなよ」


 それはアドバイスという名の、明確な死の宣告に近い命令だった。今すぐここを出て、死ぬ気で探せと言われているのだ。


 ファビアンの背中を冷や汗が伝う。


 (すぐにでもゴミ山へ戻るのが正解なのかもしれない……)


 しかし、ファビアンの脳裏に自らが考案した不死鳥の飛翔デア・フェーニクスフルークの青写真がよぎった。


 (いや、このまま何も言わずにゴミ山へ戻れば、俺はただの言われたことしかできない無能だと思われたままだ)


 ファビアンは、今この場で、自らの価値を証明したかった。 自分が考案したこの完璧なビジネスモデルさえ聞いてもらえれば、ローレンツ様も必ず俺を見る目を変えるはずだ。俺は使える男なのだと、すぐにでも認めさせたい。


 ファビアンは葛藤の末、事業案を提案することを選んだ。


 「ローレンツ様、すぐにゴミ山へ向かいたいと思いますが……1つだけ、話を聞いてもらえないでしょうか」


 ファビアンがそう声をかけた瞬間、ローレンツはまた腹を抱えて笑い出した。


 「アハハハハッ! 君はヤバいよ! 本当にヤバいよ!」


 ローレンツは、理解不能な生物を見るような目でファビアンを見下ろした。


 「僕がせっかくアドバイスをしてあげたのに、すぐにゴミ山へ向かわずに、僕に別の話をするなんて……君は本当にヤバいよ」


 ローレンツの笑いは止まらなかった。



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