表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ職業【フリーター】を授かった少年アルト、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを綺麗にして売りさばいて最下層の泥底から成り上がる!  作者: 月曜日の憂鬱
ファビアン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/63

緊張の果てに

 神々しい光が降り注ぐテーブルの最奥、上座に1人の男が待っていた。派手な真紅のスーツを着崩した、二十代前半と思われる若い男だ。 腰まで伸びた艶やかな黒髪がスーツの肩にさらりと掛かり、その整った好青年の顔立ちには、人懐っこい笑顔が浮かんでいる。


 男はテーブルに肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せると、その笑顔のまま食い入るようにファビアンを見つめていた。だが、その笑顔はどこか決定的に(いびつ)だった。 口元は三日月のように綺麗な弧を描いて笑っているのに、目だけが一切笑っていないのだ。まるで精巧に作られた蝋人形が無理やり笑わされているような、底知れぬ不気味さがそこにあった。


 彼こそが、組織の実務を支える【7つの柱(ゼーベン・ゾイレ)】 の一人であり、上級職豪商(ハンデルスヘル)を成長させた大豪商ハンデルス・フュルストを持つ幹部、ローレンツである。


 ローレンツは、ガチガチに緊張して立ち尽くすファビアンを見ると、鈴を転がすような明るい声で言った。


 「やあファビアン。挨拶はいいよ! そこにある椅子に座りなよ」


 その口調は、まるで旧友に話しかけるかのように気さくだった。だが、その軽さがかえってファビアンの恐怖を煽る。組織の序列において、十の歯車(ツェーン・ラーダー)であるファビアンと7つの柱(ゼーベン・ゾイレ)であるローレンツの間には、超えられない壁がある。


 「……わかりました。座らせていただきます」


 ファビアンは、自分よりも遥かに格上のローレンツに対し、極めて丁寧な言葉遣いで応じた。その動作は明らかにぎこちなく、指先が微かに震えている。それも無理はなかった。ファビアンは今日、新事業の提案だけでなく、昨日の泥底の幹部会議での失態も報告しなければならないからだ。


 ファビアンは緊張で震える体を必死に抑え込みながら、下座にある薄汚いランプの下の椅子に腰を下ろした。ファビアンが座ると、ローレンツはニコニコと笑いながら、首をコクリと傾げて問いかけた。


 「それで? 泥底の会議の報告をしてよ」


 その瞳は、やはり笑っていなかった。黒曜石のように冷たく、感情の読めない瞳が、ファビアンの心臓を射抜くように見据えている。ファビアンは、ローレンツのその不気味な笑みに晒され、さらに喉が渇き、心臓が早鐘を打った。


 「も、申し訳ございませんッ!」


 ファビアンは報告を口にする恐怖に耐えきれず、ガタッと椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて謝罪した。


 「私の力不足で……今回は……!」


 しかし、ローレンツの反応は、ファビアンの予想とは違っていた。彼は怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ無反応に不気味な笑みを張り付けたまま、軽い口調で遮った。


 「あ! 謝罪なんていいよ。時間の無駄だし。内容だけ端的に教えてよ」


 そのあまりの軽さに、ファビアンは逆に背筋が凍る思いがした。謝罪すら許されないほど、自分は価値がないと思われているのではないか。ファビアンは脂汗を垂らしながら、必死に言葉を紡いだ。


 「は、はい……。すぐにご報告いたします」


 ファビアンは震える声で続けた。


 「蝿の王は、トビーが処分されたことにより、ぼったくり食堂のシノギを縮小せざるを得ないと判断しています。その補填として、賭博場のシノギを拡大させる方針とのことです。……しかし」


 ファビアンは唾を飲み込んだ。


 「賭博場の運営が軌道に乗るまでは、上納金は3割減での支払いを要望しています」


 「ふーん。で、黄金の蜘蛛は?」

 「……黄金の蜘蛛のボルゴは……リヒター様、もしくはそれに相応しい立場のあるお方が幹部会議に来なければ、話はしないと……交渉の席に着くことすら拒否いたしました」


 報告を終えたファビアンは、処罰を覚悟して体を縮こまらせた。トビーがいた頃にはあり得なかった減収と、交渉決裂。これは明らかな失態だ。


 その時だった。


 「アハハハハハハハッ!!」


 突然、広い部屋にローレンツの狂ったような大笑いが響き渡った。


 「傑作だね! アハハハッ!」


 ローレンツは腹を抱えて笑い転げている。その場違いな哄笑に、ファビアンは恐怖も忘れ、きょとんとしてローレンツを見つめるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ