不死鳥の飛翔
天使像の鑑定を終え、アルトの規格外の能力を確信したバルカスは、円卓の天使像を指先で弄びながら、貪欲な笑みを浮かべていた。
「まさか、ハズレ職のゴミ漁りが、こんな金を生む神のツールだったとはな。これは金の匂いがプンプンするぜ」
ファビアンは、バルカスの反応から交渉の糸口を探り、切り出した。
「実はバルカス、俺は新しい事業を立ち上げようと思っているのだが、お前も手伝ってくれないか」
バルカスの眼光が鋭く光り、彼が身につけている装飾品がカチャリと音を立てた。
「ほう。アルトを使った事業か」
「あぁ。実は本人からもっと金を稼ぎたいと打診があったのだ。だが、俺はトビーの残したゴミ仕事の後釜なんてまっぴらごめんだ。俺の考えた、トビーの仕組みを完全に超越した事業で大金を稼いで、ヴァレリウス様に俺の方が優秀だと証明をしたいのだ」
バルカスは、彼の派手な顔にわずかな共感の色を浮かべた。彼もまた、組織内でファビアンと同様、トビーの異例な才能に影を潜めさせられていた1人だ。
「お前の気持ちは痛いほどわかるぜ。トビーの残した残務整理なんざ、やってられねぇぜ。詳しく聞かせてくれ」
ファビアンは椅子に深く腰掛け、自信に満ちた表情で語り始めた。
「俺はアルトの修復の才能を使って、上級貴族や大金持ち専門の買取修理会社を設立するつもりだ。アイツらはどれだけ高価な物を持っているか競い合っている。その際、少しのキズでもあれば価値が下がるので、すぐに処分して新しい物を購入している」
ファビアンは身振り手振りを交え、用意周到に練り上げた事業計画をプレゼンする。
「しかし、毎回毎回、新品を買い換える余裕のあるのは、貴族の中でもごく一握りしかいない。そこでだ、アルトの修復によって新品同様にすることで、無駄な金を使わなくても良くなるだろう。しかも、お前の鑑定眼で新品との保証がつけば、依頼が殺到するはずだ!」
ファビアンは自らの知略が完璧であると確信していた。しかし、バルカスの顔は次第に曇り、落胆した表情になっていった。
「ファビアン。その事業は失敗するだろう」
ファビアンは激しく怒りをあらわにした。
「どうしてだ! この事業の収益性と市場のニーズは完璧だ!」
バルカスは嘆息し、テーブルに肘をついた。
「アイツらは体面の見栄の塊だ。お前が言うように、鑑定眼では新品だと誤魔化せるかもしれない。だが、その前段階の修復依頼には来ないだろう。もし、修復しに行ったという行為がバレれば、貧乏人やケチだと社交界で揶揄されるからだ」
ファビアンは一瞬顔色を変えたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そんなことは百も承知だ。だからこそ、建前上は出張買取専門の処分サービスにするつもりだ。我々のサービス名は『修復』ではない。『処分』だ」
バルカスは興味深そうに身を乗り出した。
「処分? どういうことだ」
ファビアンは笑みを深めた。
「我々が客の屋敷に出向き、傷物や不要品を査定する。そこで、内密な交渉をし、客に『完全な売却』か『修復を前提とした新品への買い替え』の2択を選んでもらうのだ。どちらを選んでも品は我々が引き取る」
バルカスは目を見開いた。
「修復を前提とした新品への買い替え、だと? ……要するに、一旦我々が買い取ってからアルトが修復した品を、新品として売るということか」
「そうだ。その際、お前の豪商が持つ鑑定眼と、その権威が必要となる。書類上は、客から古い品を下取り代金を支払って引き取り、アルトが修復した品を新品の代金として請求する。差額が実質の修繕費となる」
ファビアンは続けた。
「これならば、書類上も鑑定眼でも新品の購入となり、偽造にはならない。社交界で貧乏の汚名を着ることもない。特に大金持ちどもはパーティで、豪商が発行する真正証明書を飾って、新品であることをアピールできるのだ」
バルカスは感嘆の声を漏らした。
「なるほど……。お前の狙いは、みえの塊である上客の体面を金で買うことだったか。さらに、俺の鑑定眼と書類作成能力を価値の保証に利用するわけだな」
「そうだ。王都には分野ごとに買取を行っている店があるが、俺は全てのジャンルを一括で買い取るつもりだ。これで客側の要らぬ手間も省けるはずだ」
バルカスは感嘆の声を漏らした。
「客層を上客にし、全てのジャンルを一括で買い取ることで、既存の業者との差別化を図るのだな。その上で、修復が可能であれば利益を最大化する。修復を拒否した場合は買取だけにすればいい。これは確かにトビーの仕組みよりも、遥かに高尚で確実だ」
「ああ。絶対に上手くいくはずだ。この事業は、俺自身が立ち上げた不死鳥の飛翔という名の新たな金脈となる」
ファビアンは、ついに自ら考えた事業名を口にした。その瞳には、トビーへの勝利と、ヴァレリウスからの承認への渇望が燃えていた。




