初めての・・・
「アルトさんは、すごいですね」
ルーナは、アルトの話をすべて聞き終えると、花の綻ぶような笑顔を見せた。
「私と同じ『ハズレ職業』なのに、腐ることなく、職業の特性を最大限に引き出して、あの泥底で大活躍しているんですね。本当に尊敬します」
ルーナに真っ直ぐな瞳で褒められ、アルトは顔を真っ赤にして首を振った。
「そ、そんなことないよ。僕1人では何もできなかったんだ。僕の力を最大限に引き出してくれたのは……」
アルトはそこで言葉に詰まった。その名前を口にするには、今の彼はあまりにも大きな十字架を背負いすぎていたからだ。しかし、彼は意を決して続きを口にした。
「今の僕があるのは、トビーのおかげなんだ」
アルトは夜空を見上げ、亡き相棒の顔を思い浮かべた。
「確かに、トビーは僕を騙し続けた悪い奴だよ。でも、僕が泥底で上手くやっていけるのも、こうしてルーナさんを救うことができたのも……全部、トビーが僕に道を作ってくれたおかげなんだ。僕はトビーにはとても感謝しているよ。……でも、僕はそんなトビーを……」
再び言葉が詰まる。喉の奥が熱くなり、視界が歪んだ。
「うっ……ぐすっ……」
堪えきれない涙が溢れ出し、アルトの頬を伝う。アルトが苦悶の表情で震えていると、ふわりと温かい空気が彼を包み込んだ。ルーナが、アルトをギュッと抱きしめたのだ。
「あ……」
アルトは、ルーナの柔らかくて暖かい温もりと、甘い香りに包まれ、凍り付いていた心がじんわりと溶かされていくのを感じた。
「アルトさん」
ルーナは優しく名前を呼んだ。その声に励まされ、アルトは自分の中に渦巻く最大の罪を告白した。
「僕が……トビーを見捨てたから、トビーは殺されたんだ」
アルトの声は嗚咽で途切れ途切れになった。
「あの時、僕が『トビーが必要だ』と言っていれば……トビーは死なずに済んだはずだ。僕が……僕がトビーを殺したんだ!」
アルトは叫ぶように言った。自分は卑怯で、恩人を死に追いやった醜い人間なのだと、ルーナに告白した。これで彼女に軽蔑されても仕方がないとすら思っていた。しかし、ルーナはアルトを離そうとはしなかった。それどころか、さらに強く、壊れ物を守るようにアルトを抱きしめた。
「アルトさんのせいではありません」
ルーナの声は、慈愛に満ちていた。
「アルトさんが何を言っても、トビーさんは殺されていたと思います。アルトさんは利用されただけです。だから、自分を責めないで……」
裏社会とは非情なものである。トビーの死は組織の決定事項であり、アルト1人の言葉で覆せるものではないだろう。
ルーナの確信に満ちた言葉と、背中を優しく撫でる手のひらの温もりに、アルトの呼吸は次第に落ち着きを取り戻していった。罪悪感が消えることはないが、その重みを彼女が一緒に支えてくれた気がした。アルトは涙を拭い、恐る恐るルーナの顔を見た。
「ありがとう、ルーナさん。……こんな醜い僕だけど、次も会ってくれますか?」
不安げに揺れるアルトの瞳。ルーナは、その瞳を愛おしそうに見つめ返し、微笑んだ。
「もちろんです。アルトさんは、とても素敵です」
そう言うと、ルーナはゆっくりと長い睫毛を伏せて目を閉じた。そして、期待するように少し顎を上げ、桜色の唇をそっと噤んだ。その仕草の意味に気づいた瞬間、アルトの心臓が早鐘を打った。
(こ、これは……キスをしてもいいってこと……?)
アルトは緊張で喉がカラカラになり、唾をごくりと飲み込んだ。夜の公園、ライトアップされた噴水の音、そして目の前で待ってくれている愛しい人。アルトは、自分の気持ちに素直になることを決めた。彼は震える手でルーナの肩に触れ、ゆっくりと顔を近づけた。近づくにつれ、彼女の吐息がかかる距離になる。世界から音が消え、ただ2人の鼓動だけが響いているようだった。アルトは、ルーナの柔らかな唇に、自分の唇を重ねた。触れた瞬間、電流が走ったような衝撃と、蕩けるような甘い感覚が全身を駆け巡った。それは、不器用で、初々しく、けれど何よりも純粋な口づけだった。
噴水の水明かりが2人のシルエットを幻想的に照らし出し、まるで祝福するかのように輝いていた。




