初めてのデート
昼過ぎにゴミ山での採集を終えたアルトは、それから修復作業に没頭していた。今日アルトが見つけたのは、小さな彫刻品の欠片、汚れたまま丸められた絵画、そして貴族が使うような精巧な食器などだ。それらの修復を17時には完全に終えたアルトは、翌朝ファビアンが商品を引き取りに来るため、修復品を所定の場所に置くと、急いで宿屋へと戻った。宿屋の部屋で、トビーから受け取った正装に着替える。すでに何度か着用し、着慣れてきたとはいえ、鏡に映る自分の姿に、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
アルトが目指すのは、王都の中央に位置するケーニヒシュタット公園だ。
重厚な石造りの建物が立ち並ぶ王都の町並みにあって、そこはまるで緑の宝石が埋め込まれたかのように静謐な空間だった。公園の中央には鏡のように静かな水面を湛えた大きな池が広がり、水面に映る青空の名残と、池のほとりに植えられた色鮮やかな薔薇や、気品のある白いユリが鮮やかなコントラストを描いていた。白鳥の彫刻が施された噴水からは、規則正しい水音が響いている。やがて日が暮れ、公園中に明かりが灯り始める。池を照らすライトが水面の輝きを増し、噴水が色鮮やかにライトアップされると、そこは一転して恋人たちの憩いの場へと姿を変えた。手入れの行き届いた芝生は深い絨毯のようだった。
アルトは、待ち合わせ場所である噴水広場へと向かう。
噴水の前に到着すると、すぐにルーナの姿を見つけた。あの店で会った時とは打って変わって、ルーナは装飾のない地味なワンピース姿だった。しかし、持って生まれた綺麗な顔立ちと、控えめで清楚な佇まいによって、その姿は周囲の華やかな恋人たちの中でも際立っていた。アルトは心臓が高鳴るのを感じながら、笑顔で声をかけた。
「ルーナさん、お待たせしました」
ルーナはアルトに気づくと、可憐な笑顔を返した。
「私も今来たところです」
ルーナはそう言うと、「アルトさん、あのベンチに座りましょ」と言って、近くのベンチへと歩き出した。ルーナは持っていたハンカチを取り出し、座る場所に丁寧に敷いた。
「アルトさん、どうぞ」
アルトはその細やかな心遣いに胸を打たれ、「ありがとう」と言ってベンチに座る。アルトが座ると、ルーナはアルトのすぐ横に座った。そして、ルーナは深々と頭を下げた。
「アルトさん、この度は、本当にありがとうございました」
その声には切実な感謝が込められていた。
「お金は、少しずつですが必ず返します」
ルーナはそう言い、アルトは笑顔で答えた。
「ルーナさん、お金の返済は要りません。僕が勝手にしたことですから。ルーナさんは家族への仕送りを頑張ってください」
ルーナは顔を上げ、涙目で訴えた。
「そんなのダメです。私はアルトさんに、何の恩返しもできません……」
アルトは静かに、強い眼差しでルーナを見つめた。
「ルーナさん、僕にはちょっとした才能があるみたいなんです。だからお金のことは、僕に任せてください」
アルトは、ルーナが大金貨5枚という途方もない金額を返済できないことを理解していた。彼は最初から、自分が支払うと心の中で決めていた。すると、ルーナは悲しげな決意を込めた目でアルトを見つめ、静かに言った。
「それならアルトさん、私を好きにしてください」
差し出せるものが自分の身体しかないことを、ルーナは知っていた。それが、この大金への、彼女ができる唯一の恩返しだった。アルトは優しく、しかし毅然と首を振った。
「ダメですよ。僕はルーナさんに、幸せになってほしいのです。僕は、ルーナさんが喜んでくれる姿を見たいのです。だから、泣かないでください」
それは、アルトの本心だった。お金でルーナを買うようなことは、彼にはしたくなかった。彼はただ純粋に、ルーナの喜ぶ顔が見たいだけだった。
「ありがとうございます……」
ルーナは、アルトの言葉と優しさに、心の底から救われたような、美しい笑顔を見せた。
「アルトさん、週に一度でもよいので、私とここで会って欲しいです。もっとアルトさんのことを知りたいです」
アルトは即答した。とびっきりの明るい笑顔で。
「はい! 僕もルーナさんのことをもっと知りたいです」
その後の約一時間、アルトは自分のことをルーナに語った。自分のハズレ職業のこと、そのハズレ職業でゴミ山のガラクタを修復して暮らしていることなどを、隠すことなく話した。
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