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ハズレ職業【フリーター】を授かった少年アルト、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを綺麗にして売りさばいて最下層の泥底から成り上がる!  作者: 月曜日の憂鬱
ファビアン編

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究極の2択

 ファビアンは、真剣な表情のアルトに歩み寄り、その肩を力強く叩いた。


 「お前の覚悟はわかった。俺は全力でお前に協力をする」


 その言葉に、アルトは救世主を見るような眼差しを向け、大声で叫んだ。


 「ありがとうございます!」


 アルトは深々と頭を下げた。だが、ファビアンはすぐに表情を引き締め、冷静な助言を始めた。


 「だがな、アルト。俺とお前では、ルーナを救えるほどの財力も権力もない」

 「え……」


 ファビアンの言葉に、アルトは一瞬呆然とする。大金貨5枚という壁は、彼らの個人の財布でどうにかなる額ではない。


 「だが、俺たちにはあのお方がいる。そう、ヴァレリウス様だ。お前も一度、あのお方にお会いしたことがあるだろう」


 アルトは眉をひそめる。トビーを弾劾する殺伐とした場において、ヴァレリウスと対面したことはあるが、極度の緊張と恐怖で記憶が曖昧だった。その様子を見たファビアンは補足する。


 「トビーを処刑したあの場所にいた、黒い仮面をつけていたお方だ」

 「あ……っ!」


 アルトの脳裏に、あの冷徹な支配者の姿が蘇る。絶対的な恐怖の象徴。


 「あの人が……僕に力を貸してくれるのでしょうか」

 「貸してくれるさ。お前のガラクタをお宝に変える力を、ヴァレリウス様は高く評価していた。未来の利益を担保にすれば、大金貨5枚くらいなら貸してくれるだろう」


 「本当ですか!」


 アルトは嬉しそうに声を上げた。希望の光が見えた気がした。しかし、ファビアンはそこで冷や水を浴びせるように、静かに諭した。


 「だが、アルト。よく考えろ。お前はルーナをこの店から解放すると言ったが、ルーナはお金を稼ぐためにこの店で働く決心をしたのだろう?」


 アルトはファビアンの意図をすぐには理解できず、ただ単純に頷いた。


 「はい」


 ファビアンは、子供に言い聞かせるように説明を続ける。


 「ルーナは無理やりではなく、自分の意思で、家族を養うためにこの店に入店したのだ。お前が借金を肩代わりしてルーナをこの店から解放したところで、彼女には収入源がない。それではルーナは救われないのだ」


 アルトはハッとした。


 「そっか……。ルーナさんは王都で働く場所がないんだね。でも、泥底ならあるかも……」


 そう言いかけて、アルトは言葉を飲み込んだ。泥底の現実。そこは暴力と貧困が支配する世界だ。女性がまともに働ける場所など、黄金の蜘蛛が管理している職業安定所の受付嬢くらいしかない。それ以外の場所では、女性は常に危険に晒される。アルトが言葉に詰まったことで、ファビアンは彼が理解したことに気づき、残酷な真実を語り始めた。


 「そうだ。ハズレ職業の女性が金を稼ぐには、自分の体を売るしか方法は残されていない。以前は泥底でも働く女性はいたが、女性を襲う者が多くて女性の就労を限定的に禁止したのだ。そこでトビーが発案したのだ。王都の治安の良い場所で、富裕層相手に体を売って安全に稼げる場所を提供することに。以前はここは、高級個室料理店だったのだが、女性と男性が1対1で接客、料理そして、欲望の相手までする店へと様変わりしたのだ。そして、この店のオーナーはヴァレリウス様になる」

「な……」


 アルトの表情が一気に険悪なものに変わる。トビーが作ったシステム。そしてヴァレリウスがオーナー。自分をこの店に連れてきたのは、ヴァレリウスの配下であるファビアン。


 (……はめられた?)


 アルトの直感が警鐘を鳴らす。自分は、ルーナを助けるように仕向けられたのではないか。ルーナと出会い、恋に落ち、借金を背負うことまで、すべてが彼らのシナリオ通りなのではないか。アルトは黙ってファビアンを睨みつけるが、ファビアンはその疑念すら手玉に取るように言葉を続ける。


 「ヴァレリウス様なら、ルーナに体を売らなくても良い、まともな働き口を用意することもできるだろう。アルト、お前の望みを完全に叶えることができるのは、ヴァレリウス様だけだ。……今お前が心に浮かんだくだらない疑問は、捨て去ることが一番賢い判断だぞ」


 しかし、アルトは我慢できずに口を開いた。


 「……お前も、僕を騙したんだな」


 アルトは鋭い眼光でファビアンを睨みつけた。


 「僕を借金漬けにするために、わざとこの店に連れてきたんだ!」

 「勘違いをするな」


 ファビアンは冷ややかに言い返した。


 「俺は、お前を楽しませるためにこの店に連れて来たんだ。お前が勝手に、店の女に惚れたのだろう?」

 「うっ……」


 アルトは図星を突かれて顔を歪める。確かに、ルーナを好きになったのは自分の心だ。だが、疑念は消えない。


 「ルーナも……ぐるなのか?」

 「さあな。俺が仕向けた女ではないと言ったら、お前は納得するのか?」


 アルトは何も言い返せない。疑えばキリがないが、真実を知る術もない。ファビアンは、アルトを冷たく見下ろした。


 「俺はどちらでも構わない。お前がこのまま店を出て、ルーナを見捨てるのを止めはしない。だが、お前が本気でルーナを救いたいなら、手段は1つしかない。……ヴァレリウス様に力を借りるか、それとも何もせず逃げるか。自分で考えろ」


 アルトは、究極の二択を迫られた。これは罠かもしれない。しかし、罠だとしても、ルーナが苦しんでいる現実は変わらない。彼女を救うには、悪魔の手を取るしかないのか。アルトは苦悶の表情で、拳を握りしめた。

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