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ハズレ職業【フリーター】を授かった少年アルト、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを綺麗にして売りさばいて最下層の泥底から成り上がる!  作者: 月曜日の憂鬱
トビー編

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後悔

トビー編が終了してファビアン編になります。引き続きよろしくお願いします。

 トビーの首が斬り落とされ、その頭が布袋に収められた後、静寂が会場を支配した。崩れ落ちた首のない遺体と、そこから広がる赤黒い血溜まり。そのあまりにも残酷な惨状は、処刑の恐怖と共に、その場にいる者たちの脳裏へ強烈に焼き付いた。


 「マルクス、アウレリア」


 その呼びかけは、トビーに向けた時よりも遥かに重く、支配的だった。


 「お前達も、エドワードのようになりたくなければ、決してワシを欺くな」


 その恫喝は、トビーの悲惨な最期を目の当たりにした2人の支配者の心臓を鷲掴みにした。ベルゼブブは、先ほどの入れ歯が飛び出す失態など忘れたかのように、震えながらも最大限の敬意をもって深く頭を下げた。


 「もちろんでございます。私は一生涯、あなた様の下僕でございます。この命を懸けて、忠誠をお誓い申し上げます」


 続いて、アクネラが震える声で続いた。アクネラの少女のような怯えは、まだ消えていない。


 「裏切りなど、絶対に致しません。これからも、あなた様の為に全てを捧げます」


 二人は極度の恐怖に苛まれながら、ヴァレリウスへの絶対的な服従を表明した。ヴァレリウスは二人の服従を軽く受け流すと、静かに、斬首を終えたシュペーアーに視線を移した。シュペーアーは、血の付いた剣を平然と拭っていた。


 「シュペーアー」


 ヴァレリウスの問いは、さらに冷徹な核心を突いた。


 「お前がかつて仕えた戻主の息子を、お前自身の剣で殺した気分はどうだ?」


 その言葉は、シュペーアーがトビーの父、アドラー・フィッツジェラルド伯爵に仕えていたという過去を、この場にいる全員に明確に示唆していた。シュペーアーは一切動じることなく、姿勢を正した。シュペーアーの態度は、ベルゼブブやアクネラの怯えとは違い、堂々たるものだった。


 「私の忠誠の対象は、個人の血筋ではなく、強者側につくことに定めています。私がヴァレリウス様を強者と認めている限り、私からヴァレリウス様を欺くことなどありません」


 それは忠誠の誓いであると同時に、ヴァレリウスが強者でなくなれば、いつでも裏切る可能性があるという皮肉を内包していた。ヴァレリウスは、そのシュペーアーの揺るぎない態度を見て、静かに、そして危険なトーンで告げた。


 「お前もエドワードと同じで、ワシの先導者としての力の効果が、少し薄れているようだな」


 ヴァレリウスの目が、仮面の奥で鋭く光る。


 「だが、勘違いするな。お前も、ワシの計画における危険因子だと認定すれば、すぐに処刑する」


 シュペーアーは、ヴァレリウスの冷徹な警告を受けても表情1つ変えず、恭しく一礼した。


 「御意」




 奴隷オークション会場でのトビーの処刑という冷酷なショーの幕が閉じると、ヴァレリウスは無言のまま、個室の奥からその姿を消した。その後、ベルゼブブとアクネラが個室から出ていく。2人の顔は青ざめ、目にはまだ恐怖の色が残っていた。互いの存在を確認すると、2人は深い安堵のため息を吐く。


 「フゥ……ワシたちも、帰るか」


 ベルゼブブはしゃがれた声で言ったが、その声には以前の泥底の支配者としての威圧感はない。


 「そうね。お互いに命があったことに感謝しないとね」


 アクネラは艶めかしい声を取り繕いながらも、その手は微かに震えていた。2人は足早にオークション会場を後にした。



 舞台から離れたオークション会場の入り口ホールは、奴隷オークション会場へ訪れた貴族が休憩や談笑に使うための空間だ。


 ホールは黒を基調とした重厚な装飾で統一され、高い天井には豪奢なシャンデリアが不気味な光を落としている。床に敷かれた真っ赤な絨毯は、貴族の靴音を吸収する一方で、先ほど舞台で流された血の色を連想させ、豪華さよりも怪しく不吉な雰囲気を醸し出していた。


 アルトは、ホールの一角に置かれたカフカのクッションの椅子に、俯きながら座っていた。彼を連れてきたヴァレリウスの部下に、ここで待つように言われていたのだ。アルトの心は、激しい感情の渦に巻き込まれていた。トビーに再び裏切られて、アルトはトビーを拒絶した。だが、トビーの言葉「お前には俺が必要だ」という声が、今も耳に木霊している。


 アルトがおどおどした態度で座っていると、アルトの前に、シュペーアーが静かに姿を見せた。


 「アルト君、お待たせしました」


 アルトは、シュペーアーと初対面だった。その冷たい目と、腰に提げた剣の威圧感にアルトの体はびくりと跳ねる。


 「あ、あ……僕はこれから、どうなるのですか」


 アルトは、トビーとの縁を切った今、自分が再びゴミ山での生活に戻れるのか、不安で声が震えた。


 シュペーアーは淡々としていた。


 「まず、報告があります」


 シュペーアーは、何の感情も持たない機械のように、残酷な真実を口にした。


 「エドワード様、いえ、トビーさんは……亡くなりました」


 その言葉は、アルトの耳に届いても、すぐに理解できなかった。トビーを憎み、殺したいくらいの怒りを感じていたが、実際にトビーが殺されるなど、想像の枠外だった。


 「え……?」


 アルトの顔から血の気が引く。


 「僕の……せいですか」


 アルトの胸に、激しい精神的ショックと共に、強烈な罪悪感が突き刺さった。トビーの最後の言葉を拒絶した直後、彼が殺された。アルトの心は悲鳴を上げた。


 「違います」


 シュペーアーは淡々と否定した。


 「トビーさんは、こうなることはわかっていたのです。あなたのせいではありません」

 「でも……」


 アルトは、唇を噛みしめる。


 「僕がトビーが必要だ、とあの時言えば……助かったのかもしれない」


 シュペーアーはそれ以上、トビーの死について言及しなかった。トビーに頼りきっていたアルトの魂が、今、深い不安の闇に突き落とされていることを、シュペーアーは理解していた。


 「アルトさん。今は、自分のことを考えてください」


 その言葉は、トビーがいない世界で、アルト自身がどう生きていくかという、途方もない不安を増幅させた。


 「はい……僕は、いままでどおりゴミ山での生活ができるのですか」

 「明日、新たなあなたの担当者が職業安定所へ行かれる予定です。なので、明日はゴミ山へ行く前に、職業安定所へお越しください。これがヴァレリウス様から賜った伝言です」


 そう告げると、シュペーアーは静かに一礼し、赤い絨毯の上を音もなく去って行った。


 1人取り残されたアルトは、フカフカのソファーに身を沈めたまま、トビーを失った孤独、トビーを死なせてしまった罪悪感、そして未来への圧倒的な不安という、3つの感情に押し潰されそうになりながら、泥底へと重い足取りで戻っていった。



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