第81話 さようなら。またいつか
星はあと5日で爆発して消える。そう言い残して自爆した皇帝の言葉は、その後に虹の魔石を調べた結果本当だと分かった。
俺たちは落ち着く間もなく城から出て、怪我人を車に乗せると急ぎ西の海へと向かう。
イージス艦は無事だった。海のモンスターたちは予め一掃していたため、爆発の影響が少なかったらしい。
イージス艦に乗り込み、事情を説明して全速力で辺境伯領へ戻る。
辺境伯領に到着すると、その光景に口を閉ざした。
港町は炎上していて、ありとあらゆるところが爆発によってえぐられていた。
人の姿もまばらで、死体もいくつか転がっていた。
しかし、供養してやる時間もない。
俺たちは強制的に人々を連れて領都へと向かう。幸い領都の被害はそこまでではなかった。
城に着くと、国王様は俺たちを出迎えてくれた。そして、あらかじめ無線で伝えていた5日で星が爆発して消えるということの事実確認を行った。
「まさか星が爆発するとはね。これはもうどうしようもないかな」
星が爆発するという事態に、さすがの国王様もあきらめムードになっていた。
だけど俺には一つだけ可能性が残っていた。ただし、これは小さな希望だ。選択しなければならない。誰が死に、誰が生きるかを。
「国王様、星の爆発についてですが、俺に一つだけやれることがあります」
「それは、この事態を収拾することができるようなものではないんだね?」
「はい。すみません、虹の魔石を破壊したところで爆発はもう起こってしまいます。この星にいたら全滅は避けられないでしょう。なので俺が提案できるのは、この星を脱出する手段になります」
「脱出? 宇宙に行くのか。そんなものまで造れるとは凄いな君は」
「いえ……しかし、時間がない関係上一つ大きな問題があるのです。この星を脱出するための宇宙船を造っても、全員は乗れません」
俺が今から宇宙船を造るには製造スキップを使うしか方法がない。しかし、製造スキップは中規模限定。とても全員が乗れるものは造れない。
この辺境伯領に今いる人数は何とかなる。しかし、最初のモンスター爆発でドラゴンが爆発することが無かったため、ドラゴンの国にいる住民も大量に生き残っている。彼らを含めると大きさが足りない。
ひとまず、話し合いをするにもドラゴンの国に戻らなくてはならない。
国王様はこの戦争で倒したモンスターから得た魔石を使用して、この辺境伯領をもう一度浮遊島にして移動すると言った。
どうやら皇帝が指定したモンスターの魔石に、モンスターを倒した後の回収した魔石は含まれなかったらしい。だから爆発の威力が足りなかったのか。
俺たちは浮遊島でドラゴンの国へと渡った。
そして、ドラゴンキングや残っていた人たちの代表とも話し合う。しかし、話はなかなかまとまらなかった。
当然だろう。誰が生き残って誰が死ぬかなんて、そんなこと簡単に決められるわけがない。
その間、俺は中規模宇宙船へ積み込む荷物をまとめていた。
大量の水、大量の食料、各種魔石もできるだけ用意した。
今作ろうとしている船は長期居住を考えて作られている船だ。居住可能な人数は1万人、居住を考えなければ倍の2万人は乗れる。
ただ、このドラゴンの国にいるうちの国の人間だけでも20万人近くいることを考えると、居住を考えなくてもあまりにも許容人数が足りていない。
そのうえ、ドラゴンまで乗せるとなればもっと少なくなる。
ドラゴンには5年も協力してもらったし、今回の戦争でもドラゴンの国に残った人々を守るために戦ってくれていたらしいので、ドラゴンを受け入れろと言われたらまさか断るわけにはいかないだろう。
「何か良い方法があればいいんだけど……」
考えてみても何も浮かばない。そうこうしているうちに刻々と時間は過ぎていった。
そして2日後、いよいよ決断しなければ準備が間に合わない時期になってくる。
この2日間、念のため浮遊島を上空に飛ばしながら地上を観察していたが、やはり地中の魔石が爆発するというのは真実だという証拠が次々と現れていた。
というのも、地上では小規模の地震が頻発し、30センチ程度の津波が何度も押し寄せていたのだ。
オババによると、これは地中の魔石が内部のエネルギーを高めていることで、地下のマグマが影響を受けて起きているのだろうとのことだった。
現時点でも地上にいれば少なからず怪我人は出ていただろう。
この星に住む俺たち以外の生物は今後どうなって行くのだろうか。
帝国の人々と魔族に関しては皇帝の手によって人形にされてしまっていたため、気にする必要はないが、公爵派の人々やエルフ族、ドワーフ族に、まだ見ぬ他の国々の人々のことを考えると、自分の無力さを痛感する。
もしまだ時間があって、スキルレベルを上げることができたならこの星に住む全員を連れて宇宙に上がることができたのに。
「またくだらないことで悩んでるね」
「オババ……くだらなくないよ。俺の力が足りないばっかりに全員を救えないんだから」
「それが下らないって言ってるんだ。あんたは神じゃないんだから、それだけできりゃ立派だよ」
「そうはいっても、救える1万人よりも何倍も救えない命が多いんだ。俺がもっと頑張ってスキルレベルを上げていさえすれば、何とかなったかもしれない。そう思うとさ……なんかちょっと苦しいんだ」
俺は別に人を救いたいなんて思ったことはない。
それでも、目の前で誰かが倒れていたら駆け寄るくらいの気持ちはある。
だからこそ、見捨てる罪悪感が俺をじわじわと苦しめていた。
「どうあがいてもこの星に生きる生物すべてを救うことはできないんだよ」
「そんなことは最初から分かってるよ」
「だが納得できないと。いや、見捨てる勇気がないのかね」
「……」
「はぁ……あんたはいつまでたっても不出来な馬鹿弟子だったねぇ。仕方がない、なら師匠として最後のアドバイスをしてやろう」
そう言うとオババは不敵に笑う。
「あんたは中規模限定の製造スキップで宇宙船を造ろうとしているんだろう? だけど、あんたの製造スキップってのは果たして物を最初っから作る場合にしか使えないのかね?」
そのオババの言葉に俺は思考を巡らせる。そして、一つの可能性が頭に浮かんだ。
すぐにディスプレイ型設計図を開き、中型宇宙船ではなく大型宇宙船、超大型宇宙船を見ていく。そして、見つけた。
「そうか、こうすればよかったのか!」
開いたページに映っていたのは島を丸ごと宇宙船に改造した超大型宇宙船。
つまり、この浮遊島を改造した宇宙船だ!
「宇宙船としての機能はないけど、浮遊と動力部、あと魔法障壁による空間の隔離と機能的にはそろってる。あとはこれを宇宙でも機能するように更なる改造を施せばいいだけ」
「いけそうかい?」
「ああ! 最低限必要な改造だけなら中規模製造スキップでいける! 残りの部分は宇宙に出てからゆっくり作って行っても問題ないよ!」
「そりゃあ良かった。これで問題は《《ほぼ》》解決だね」
確かに“ほぼ”だ。この島を改造しても、世界中の生き物すべては救えない。だが人類とある程度の動物なら収容できる。人口の規模的にも、おそらくは全人類を運べるはずだ。
「ていうかオババ、それが分かってたならもっと早く言ってくれよ!」
「アタシもさっき思いついたんだよ」
「だろうな! じゃあさっそくこのことを国王様に伝えてくる! この宇宙船なら世界中の人を収容するのに時間はかからないだろうけど、それでも3日しかないから急がないと!」
俺は走り出す。
その背中をどこか寂しそうに見つめるオババに気づかないまま。
◇◆◇
そして浮遊島は宇宙船へと生まれ変わり、宇宙人の円盤型宇宙船でよく見る光で地上のものを回収する装置で世界中から人々と動物、物資を回収した。結果、この星に住む大半の人類と多くの生物を乗せることができた。
しかし、星に残ることを選んだ者たちもいた。
長命のエルフたちは「星とともに生きてきた」と残り、ドワーフもまた鉱石を愛する理由で残った。公爵領の人々の多くは陰謀論を信じて聞き入れず、伯爵は自らの過ちを悔いて故郷に残ることを選んだ。古きドラゴンたちもまた残り、若いドラゴンだけが俺たちと来ることになった。他国も約半数が星と運命を共にする道を選んだ。
そして――オババもいた。
必死に説得したが、その決意は揺らがなかった。
「アタシもハーフとはいえエルフだ。この星に愛着があるしね。……カイララ。あんたを弟子に取った十数年は、本当に大変で、でも最高に楽しかったよ」
それが、オババの最後の言葉になった。
爆発の兆候が激しくなってきた最後の日、俺たちの宇宙船は星を離れた。
最後に俺たちが目にした故郷の星は、真っ赤に輝いていた。
星の終わりの光景だった。
それでも俺は、残った人々と故郷の星に対してつぶやく。
「さようなら。またいつか」と。




