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第80話 星の終わり

 戦いの最中、俺は虹の魔石の異変を感じていた。


 しかし、皇帝の圧倒的な力の前に、虹の魔石に近づく事は叶わない。


 どうなっているのか、どれくらい猶予があるのかも分からない。


 光魔法の拡張は、やはり俺には無理だった。かと言ってこの場にいる誰にやらせようとしても出来はしない。


 闇に消えた兵士たちは戻らない。


 戦力は削られ、希望もない。


 何もかもが淡く溶けて消えていく。


 そして、その時はやってきた。


 外からこれまで前世も含めて生きてきた中で最も大きな轟音と衝撃が襲ってきたのだ。


 鼓膜が破れなかったのは、この城が驚くほど頑丈だったおかげだろうか。


 戦闘は止んだ。


 皇帝は目的を達したのだろう。もう戦う意味もないということか。


 しかし、皇帝の顔を見ればその表情には納得がいかないという感情が現れていた。


「この程度の筈がない。魔石のエネルギーは膨大だ、なのになぜこの城程度も壊れていない?」


 それは独り言だった。


 最後まで戦っていたタニーノさんも、もはや口を開くことすらできないほどにボロボロになっている。


 この場で元気なのは皇帝と俺、あとは護衛の女性兵士ともう一人の兵士の男だけだ。


 皇帝は納得がいかないようだが、俺はもう何をする気力も無くなっていた。


 爆発を止められなかった。ここは無事だとしてもあの轟音と衝撃だ。俺たち以外にこの世界でどれだけの生き物が生き残っているか。


 頭に浮かぶのは、辺境伯領を守っている兄とマリーちゃんの姿。ドラゴンも爆発したのなら、ドラゴンキングも死んでしまっただろうし、ドラゴンの国に置いてきた父さんと母さんも無事ではないだろう。


 ガッケノ、辺境伯様、国王様、オババ、皆どうなってしまったのか……。


 帰る場所はもう無い。


 あとは殺されるのを待つだけ。


「諦めないでください。まだ希望はあります」


 それは女性兵士の声だった。名前も聞いていないその女性兵士は、見上げる俺の顔をしっかりと見ながら手を差し出してくる。


 だが俺はその手を握る気が起きなかった。


 「希望って、外がどうなっているかもわからないのにそんなものあるか?」


 もはや敬語を使う気すらない。


 そんな失礼な俺の態度に女性兵士は何を気にすることもなく、しゃがんで俺の手を取ると無理やり立たせた。


「どうなっているかもわからないからこそ、希望はまだあるって言えるんじゃないですか。自分の目で見るまで、絶望するのは早いです」


「それは、そうだけど……」


 確かに皇帝の様子からしても今の爆発は想定より威力が弱かったことはまちがいないだろう。それでも爆発が城を壊せなかっただけで、かなりの威力があったことは間違いない。


「信じましょう。辺境伯領の皆を、ドラゴンの国にいる皆を」


「……どうして、そこまで希望を持っていられるんだ」


「それは、私が5年前のあの日、この城の中で絶望していたからです。あの日、王都が敵に攻められた日、私には一つの希望もありませんでした。何も食べられなくなって死ぬか、飢えて死ぬかしかないと思っていました。ですが、そんな私を辺境伯領の皆さんが、あなたが助けに来てくれた」


 そういって俺の頬を両手で挟んで顔を上げさせる女性兵士。身長は彼女のほうが低いはずなのに、なぜか俺の方が見上げているような気分だった。


「あの時、私は学びました。絶望することに意味はありません。諦めることに価値はありません。希望は常にあります。私たちが諦めさえしなければ、必ず」


 それはただの励ましと、暗示にすぎなかった。


 だけど、話を聞いているうちに俺は諦めようとしていた自分がバカバカしいと思うようになっていた。


「諦めることに意味はない……か。そうですね、俺も生きている限り諦めずにあがこうと思います」


「その意気です!」


「でも、現実問題としてこちらはもう戦う力も残っていません。光魔法の拡張もうまくいかず、闇に消えた兵士たちを戻すこともできていませんし……」


「そのことについてなのですが、私思ったことがあるんです。兵士たちは闇魔法によって別の空間に飛ばされたんですよね?」


「はい、そう考えてます」


「だったら、光魔法じゃなくて闇魔法で連れ戻すことは出来ないのでしょうか?」


「えっ……? はっ! そ、そうか!」


 俺はオババの話を聞いて勘違いしていた。オババが光魔法を使って闇の世界から逃れたと聞いて、闇の世界から兵士たちを連れ戻すためには光魔法が必要だと思っていたけど、そもそも闇の世界を覗くためには同じ闇魔法を使う方が理にかなっているじゃないか。


 設計図を開き、闇魔法の入門書を作成する。誰に見せるわけじゃないのでこの入門書は電子版だ。


 ディスプレイ型設計図の画面を利用して、完成した闇魔法の入門書を読んでみれば、闇魔法のもっとも簡単な習得方法は、夜空を思い浮かべて輝く星々を消していくことと書かれていた。


 適性があればこれで簡単に習得できるらしい。なければもっと複雑な方法が必要なようだが、俺は自分に適性があると確信していた。


 光魔法に極端に適性が無い俺だ。ならば闇は相性がいいはず。


「よし! 使えるようになったぞ!」


 適性があると言っても、水魔法や雷魔法のようにはいかないだろうが、それでも兵士たちを連れ戻すゲートを作るぐらいはできるだろう。


 あとは皇帝がこちらを気にしているかどうかになる。


 皇帝の様子を見てみると、奴は独り言をうのをやめてタニーノさんを放置したまま虹の魔石の方に向かっていた。


 おそらくさっきの爆発が想定より弱かったことを気にしての行動だろう。何にしても、チャンスだ。


「女性兵士さん……は失礼か、えっと今更ですけどお名前を聞いても?」


「私の名前はアレックスです。気軽にアーちゃんでいいですよ! よろしくお願いします。カイララさん!」


「分かりました。じゃあアーちゃんさん、タニーノさんをここまで運んできてもらえますか?」


「了解しました! バンズさん、ここはお願いします」


「ああ、任せておけ」


 このもう一人の護衛の人はバンズさんというのか。


 アーちゃんさんがタニーノさんを連れてくる間、俺はゲートを作る準備をする。


 闇魔法は一つも知らないし、入門書をしっかり読んでいる暇はないので、これまで魔法を作ってきた感覚で新しく作り出すしかない。


 魔法を作るのは結構得意なんだ。イメージもしっかりあるし、いけるはず……よし! ダーク・ゲートの魔法ができた!


「バンズさん、これからここに闇の世界へのゲートを出します。闇の世界につながったら、光魔法のホワイト・ベルをバンズさん個人にかけますので、その状態で中に入って皆を呼んでください。できますか?」


「ああ、もちろんだ。仲間を助けるためならなんだってやるさ」


「よかった。ただ、もしかしたら兵士たちだけではなく他の何かが来るかもしれません。十分気を付けてくださいね」


「そっちも、俺がいない間は無防備になる。気をつけろよ」


「はい。それじゃあさっそくゲートを出します。――ダーク・ゲート! ――ホワイト・ベル!」


 魔法を発動すると、闇の世界へと続くダーク・ゲートが現れる。


 そして、ホワイト・ベルを頭の上に浮かせたバンズさんは、ダーク・ゲートの中に躊躇なく入っていった。


 外から闇の中は見えない。今はバンズさんがうまくやってくれることを祈ろう。


 少しして、アーちゃんさんがタニーノさんを連れて戻って来た。

 

 見たところタニーノさんはほかの兵士たちと違って大きな怪我はない。俺は水魔法でタニーノさんを包み込み、持っていたポーションを数滴水に垂らす。これで細かい傷と疲労の回復はできるだろう。


「バンズさんはどうしたんです?」


「バンズさんは闇の世界に皆を迎えに行ってもらってる。うまくいけばすぐに出てくるはずだ」


 ダーク・ゲートの中の世界は感覚からして広大だ。ただ、俺は兵士たちが呑まれた闇のことを肌で感じていた。だから兵士たちがいる場所のかなり近くにゲートがつながっているのは間違いない。


 皇帝がこちらの行動に気が付いて攻撃を仕掛けてくるかもしれないという心配をしている中、不意にダーク・ゲートから人が出てきた。


 それは紛れもなく俺たちの仲間。王国軍の兵士だった。


 その兵士が出てきたのを皮切りに、次々にダーク・ゲートから出てくる兵士たち。そして、驚いたことにその中には辺境伯領にいるはずだった兄とマリーちゃんの姿もあった。


「ふ、2人ともなんでここにいるの!?」


「そりゃあ、カイララが心配だったからだよ」


「私も同じ」


 まさかここに2人いるとは。さっき全部を諦めてしまわなくて本当によかった。


 最後にバンズさんが出てくると、ダーク・ゲートは空間に溶けるように消えていった。


「バンズさん! やりましたね!」


「喜ぶのはいいけどよ、声がでけぇよ。耳が痛い」


「す、すみません!」


 そのやり取りに場が少しばかり柔らぐ。


 アーちゃんさんの声がでかすぎたのか、回復したタニーノさんも意識を取り戻し、起き上がって兵士たちが戻って来たのを見ると、目を丸くして驚いていた。


「さすがだなカイララ君。まさか本当に兵士たちを戻すなんて」


「俺も無理かと思いましたけどね。アーちゃんさんのおかげです」


「そうか、それは――『よかったなぁ。救世主君』」


 タニーノさんが話している途中で割り込んできた声。そのざらついた低い声の持ち主は、俺たちがこの謁見の間でもっとも聞いた声だった。


 皇帝が俺のすぐ横に立っていたのである。


「お、お前、いつの間に!」


 周囲にいた兵士たち全員が臨戦態勢に入る。


 しかし、皇帝はどこかその様子を冷めた目で見ていた。


「そういきり立つな。もう争う気はない」


「貴様、何を言っている。計画がうまくいかず諦めでもしたのか?」


「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。確かに計画は失敗した。モンスターを爆破するだけでは地上を焼き尽くすことはできなかった。これでは意味がない。だから俺はもう再生の道を断つことにした」


「どういうことだ?」


 皇帝は何も言わず王座に向かって歩き出す。そして王座に腰掛けると、右手で首をなでながら口を開いた。


「この星の地中に眠るすべての魔石を爆発させることにした。この星はあと5日もしないうちに消える。これはもう、止められない」


 そして、皇帝は自らの首をつかむと、その頭を体から引き抜く。


 頭と一緒にずるりと引き抜かれた背骨は、当然のように人間のそれとは違っていた。骨のあらゆる箇所がちかちかと点滅している。


「俺の役目は終わりだ。お前らもせいぜい残りの時間を楽しめ」


 そういうと、男は背骨の一部を握りつぶし、直後、王座もろとも自爆した。

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