第79話 死闘
謎の男、もとい皇帝の目的が判明した。なんと皇帝は修復した虹の魔石を使用して、この星に存在する全モンスターの中の魔石を爆破し、地上を焼き尽くそうとしていたのだ。
それを聞いた瞬間、タニーノさんが動いた。彼は貴族にもかかわらず、戦闘を得意としている。深紅の長剣をいつの間にか鞘から抜き去ったと思うと、俺の護衛についていた精鋭2人とともに走りだす。
あっという間に皇帝のそばにまで移動した3人は、容赦なく皇帝の体に剣を突き立てる。
ここで銃を使わないあたり、やはりこの世界の強者の実力は計り知れない。
銃の有用性は分かっているだろうに、それよりも剣の方が確実で早いと瞬時に判断したのだから。
3本の剣は背後と左右からあっさりと皇帝の体に突き刺さった。
これであとは何とか虹の魔石を抑えることができれば終わりだ。
「ふふふ、言っただろう。せっかちな奴は損をするって」
「離れろッ!」
タニーノさんが叫ぶ。
精鋭二人はその声と同時に剣を手放し、バックステップで皇帝から離れようとするが、次の瞬間その二人ともが黒い何かに包まれた。
それは皇帝から伸びた影。そこから飛び出したのは忘れもしないあの闇魔法。
タニーノさんは間一髪で躱したものの、タニーノさんにも劣らない精鋭兵士の二人は闇によって消えてしまった。
「き、貴様! あの攻撃を受けてなぜ笑っていられる!」
「俺をお前たちの枠にはめて考えるからそうなるんだ」
言いながら、男は体に刺さった剣を抜くと破けた上の服を脱ぐ。するとそこにはまるで人間の体とは思えない肌が現れた。
魔道人形だ。
あいつの淡く光を反射する肌、丸い関節の部品、それは魔道人形そのものだった。
「貴様、自分の体を魔道人形に改造したのか?」
「そうだ。言っていなかったが俺が研究していたのは魔道人形。そして、この体は生体を直接魔道人形に変える実験でこうなった。素晴らしいだろう?」
「完全に壊れているな」
「ふふ、壊れているのはそうだろうが、それは俺だけかな?」
タニーノさんがやり取りを続ける中、俺は皇帝が闇魔法を使ったということについて考える。
あの闇魔法はダンジョンを消した魔族の魔道人形が使ったものだった。皇帝がたまたま同じ闇魔法の使い手だったということもありえなくはないが、そうでないとしたらもしかするととんでもない秘密が隠されているかもしれない。
俺は疑問を皇帝にぶつける。
「その魔法、お前も闇魔法の使い手だったのか?」
「賢い救世主君は気が付いているんだろう?」
「チッ! やっぱり、お前はほかの魔道人形の力を使えるのか!」
「当たりだ! 俺は俺の作り出したすべての魔道人形の頂点、マスタードール。ゆえにこの闇魔法も使える。そして、魔力は100万人ぶん! お前たちに俺が止められるかァァァッ!」
狂気に満ちたその笑顔。あらゆる関節、目鼻口から噴き出した闇が、ものすごいスピードで俺たちに襲いかかってくる。
「クソッ! タニーノさん、下がってください!」
俺はタニーノさんの前に出て、手を闇に向ける。
この5年、俺はただ物を作っていたわけじゃない。オババと厳しい魔法の修業をしてきたのだ。
魔法の修業には当然、光魔法も入っていた。
敵の中に強力な闇魔法を使うものがいることは分かっていたんだ。最低限対抗できるだけの力が無ければ、闇に飲み込まれて一瞬で終わってしまう。
「―――ホワイト・ベル!」
だけど、俺には光魔法の才能がほとんど無かった。
オババがダンジョンを消す規模の闇魔法から生き残るために使ったような光魔法は、5年しっかり修行しても使えなかったのだ。
だから、俺がやれることは一方向へ特化した光魔法。しかも、かなり狭い範囲のみ。
ホワイト・ベルは俺の光魔法の才能のなさから、俺が独自に考えた最低限の魔法だった。
効果は出現させた白いベルの音が聞こえる範囲の人間の前に、闇を受け流す光のベールを出現させるというもの。ただしこのベルの音はかなり小さい、だから俺が守れる範囲は俺の後ろにいる数十人の兵士のみになってしまう。
闇は容赦なく俺たちを飲み込んだ。
俺が作り出したホワイト・ベルと、ベルの音を聞いた者たちは何とかその闇の濁流の中で耐えることができたが、闇が過ぎ去った後に残ったのはそのたった数十人だけだった。
「うそっ、部隊が……」
俺のこと心配してか、近くに来ていた俺と同じ車に乗っていた女性兵士が、あまりの光景に絶句する。
俺たちはすでに、大部隊ではなく小隊になってしまった。
だが、だとしてもここで諦めるわけにはいかない。
「タニーノさん、奴は魔道人形です。自分の体を改造したとしても、魔道人形の核は必ず体のどこかにあります。それを破壊してください」
「しかし、部隊はほぼ全滅。それにあの闇魔法の前には俺たちはあまりにも無力だ」
「大丈夫です。俺の光魔法ホワイト・ベルの音が聞こえる範囲にいれば、正面からの闇なら防げます。武器まではカバーできませんが、闇は完全に包んでしまわなければ物体を消せない。闇にのまれる前に振り切れば問題ありません」
「それならギリギリ何とかなるか。君はどうする?」
「奴の体は人のそれじゃない。武器が壊れたり、鎧が壊れたりしたら俺のところに来てください。急いで直します。それと、一つやってみたいことがあります。もしかしたらそれで、消えてしまった部隊を戻せるかもしれません」
闇魔法はこれまで使い手が少なく、よくわかってなかった魔法だった。
俺の設計図でも闇魔法についての詳しいことは分からなかったぐらいだ、
だが、オババがその魔法に触れたことで、闇魔法の性質や闇に呑まれたらどうなるのかということについて、少しだけ分かってきた。
ダンジョンが闇に呑まれたあの時、オババたちは光魔法を使う前に一瞬闇の向こう側に行ってしまったらしい。
つまり、闇魔法というのは呑んだものを跡形もなく消してしまうわけではなく、どこか別の世界。闇の世界へと送ってしまう魔法なのではないかという可能性が出てきたのだ。
オババは向こう側に行って、光魔法で戻って来た。ならば同じように光魔法で消えてしまった部隊の兵士たちをこちら側に戻せるかもしれない。
「分かった。数人の護衛は残しておく。そっちは頼んだぞ」
「はい!」
光魔法ホワイト・ベルは消費の少ない魔法だ。発動したらしばらくは出しておける。消えるタイミングも分かっているから、そこだけは気を付けないといけない。
ニヤニヤと笑いながら、無駄な足掻きをしようとしている俺たちを待っていた皇帝。俺はその顔をしっかり目に焼き付け、この戦いに勝つために死力を尽くすことを改めて心に誓った。
◇◆◇
剣がまるで金属と衝突したかのような甲高い音を出して折れる。
もう何十回と見てきたその光景は、皇帝の体がそこらの鋼の剣よりも硬いことを示していた。
携帯している重火器では傷つけることすらできない。ロケットランチャーや対戦車ロケットは闇に無力化される。
そのくせこちらは剣を折られ、接近すれば拳や蹴りで鎧を砕かれる。
一人、また一人と重傷を負って倒れていく兵士たちは、衛生兵のいない中で何とか多少知識のあった俺が対応していた。
剣も鎧も人も俺が設計図で何とかしている。
おまけにここに来て何が何でも光魔法の精度と出力を上げようと、設計図を使って無理に魔力線をいじっているから、全身にしびれと軽い痛みがあってきつくなってきている。
虹の魔石はあとどれぐらいでモンスター爆弾を起動してしまうかわからない。
極限の恐怖が今、俺たちを支配していた。




