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第77話 魔族はどこに?

 魔族がいると思われていた王都には、魔族ではなく人間が住み着いていた。


 彼らの目は怯えを孕んでいて、こちらをじっと見ている。


 声を上げることはなく、子供でさえもただじっとボールを持ったまま立ち尽くしていた。


「なんだこりゃ。なんでただの人間がいるんだ?」


「魔族とは人と変わらない姿をしているのでしょうか?」


「いや、そんな話は聞いていないけど……」


 集中して周囲の魔力を感知してみる。しかし、彼らから特別強い魔力は感じない。


 魔力を感知されないように制御しているとしても、大人ならまだしも子供は難しいだろう。


 やはりこの人たちはただの人間?


 状況が分からない今、俺たち第四部隊は西門から入って少しのところで停まっている。無線の内容から第一部隊の方も停まっているらしい。


 地上進行部隊のトップを務めている辺境伯家長男のタニーノさんは、住民とのコンタクトは避けるようにと指示しているそうだ。やっぱりだいぶ混乱しているな。


 こんなところで停まっていたら敵が何らかのアクションを起こしてきそうなものなのに、そんな様子は一切ない。


 この王都に住んでいると思われる人々も、こちらを敵意をもって見ている節すらない。


 奇妙だ。


 しばらくいつでも銃を撃てるようにして待っていると、先頭車両から無線で連絡が入った。


 どうやら第一部隊の方で住人と接触を図ったようで、その結果あることが分かったという。


 そのあることとは、王都に住み着いた人々が魔族ではなく正真正銘ただの人間であること。そして、彼らの出身がヴァルカン帝国だということだった。


「ヴァルカン帝国と言えば、10年ほど前までは私たちのアストラル王国といがみ合っていた関係の国ですよ。20年前には戦争もあったと聞いていますが、最近では全く話を聞くこともなくなってたのに、まさかここに来て聞くことになるなんて」


「奴らは何回も王都を攻めてきてそのたびに打ち負かされてたからな。しかも、うちの被害はほとんどなしで向こうの魔道兵士やただの兵士はかなりの損害が出たと来てる。20年前の戦いでさすがにこりておとなしくなってきたのかと思ってたが、やっぱり奴らは蛇みたいな連中だぜ。うねうねこそこそと這い回ってきやがってよ」


 新人兵士の女性はそこまでの感情はないみたいだけど、やっぱりベテラン兵士のおじさんはヴァルカン帝国の印象はかなり悪いようだな。


 しかし、ヴァルカン帝国か。魔道人形の件があったから関与しているかもしれないとは思っていたけど、まさか自国民をアストラル王国の王都に住まわせるようなことをするなんて。何が目的なんだ?


 それに、この人たちがヴァルカン帝国の人たちだからと言って、魔族の件について何かわかっているわけじゃない。


 一応、第一部隊の方で魔族についても聞いたらしいが、ここの人たちは頭をひねるばかりだったという。


 マジで何が何だかわからない。


「俺もわけがわかんねえけどよ。あれじゃねえか? 魔族とヴァルカンの奴らが組んで、王都を襲ったってことだろ。どっちも影でこそこそするのが得意みてえだしな」


「うーん、そうでしょうか。私はなんだかよく分からなくなってきました」


 停まっていた車列が動き出す。結局ここにいてもどうしようもないと、城へ向かう判断が下されたらしい。


 移動する間、街の人々は俺たちが通り過ぎた後も、じっとこちらを見ていた。


 まるで罪人を見送る観衆のように。冷たく、ただ静かに。



 ◇◆◇



 城は門を閉めていなかった。


 部隊は集結し、城門を潜って中に入っていく。


 そこにはかつて使われていた空飛ぶ車の駐車場が広がっていた。あの車はここで管理していたんだな。


 それにしても、駐車場があるだけで空飛ぶ車自体は一台も見えない。外で飛んでいる様子もなかったし、解体して材料に戻したのか?


「車両はここに置いていく。各部隊、最低限車両を動かせる人員を残し、武器をもってエレベーター前に集合せよ」


 俺は運転手とベテラン兵士を残して女性兵士とともに隊列に加わる。


 この城、下から入るにはエレベーターを使うしかないようだ。以前は空飛ぶ車で上層階に直接向かっていたので、エレベーターを使う機会はあまりなかったらしい。ちゃんと動くのかよ。


「これよりエレベーターで城の内部へと入る。第一部隊から順番に第二、第三、第四と上がってきてくれ。第一部隊は到着次第エレベータホールを確保する。万が一エレベーターが上昇中に止められた、あるいはエレベーター内で問題が起こった場合は以降の部隊は下で待機。連絡を待たずにドローンによる状況確認を行うように」


 そして、第一、第二、第三部隊が問題なくエレベーターで上へあがり、俺たち第四部隊もエレベーターに乗り込んだ。


 それにしても大きいエレベーターだ。


 途中、なぜか俺たちの時だけエレベーターがストップするというトラブルに見舞われたが、その後すぐに運転が再開されて無事に城内のエレベーターホールに到着する。


 さすがに市民を10万人も収容していただけあって、全部隊が揃っても問題ないぐらいに広い。


 あ、そういえば市民を城に避難させたときにエレベーターを使ってたか。それなら動かないかもという心配はいらなかったな。


 城の中は意外と綺麗だった。赤い絨毯に壁や天井の絵画。高そうなツボに入った花も枯れていない。


 にもかかわらず、城内には俺たち以外がいる気配はまるでなかった。


 どの部屋を見て回っても、人っ子一人いない。


 調理場にまで人がいなかったので、まさか使われていないのかとも思った。それにしては掃除も行き届いていてきれいすぎるとは思うが。


 そうして、下層階から上階層へ順番に見ていき、階段で一階ずつ階層を上げながら同じことを繰り返していく。


「罠か? いや、それにしては何もなさすぎる……」


 そんなことを言っている第四部隊隊長の声が聞こえてくる。


 次第に、バラバラに散って城内を確認して回っていた各部隊は再び集まった。


 城内には一つの罠もなく、誰もいない。


 俺たちが見るべき場所はもはや一つしかなかった。王城の中でも最も特別な部屋、謁見の間だ。

 

 指揮官のタニーノさんが指示を出し、第一部隊の精鋭の一人が謁見の巨大な扉に手をかける。


 この扉は特殊な魔法によって開く仕組みになっているらしい。力を込めている様子はないのに、勝手に開かれていく。


 謁見の間に入ると、王座に腰掛けて俺たちを待ち受けている一人の男がいた。見た目は40代ぐらいだろうか。瘦せていて白髪、ともすれば老人にも見える。


 そしてその男は、不敵な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がると、ゆっくりと大きく拍手した。


 パンパンパンと続くその拍手に、声を低くしたタニーノさんが問いかける。


「貴様は何者だ。魔族なのか?」


「おやおやおや、王国貴族は教育が行き届いていないようだ。初対面の者に対して最初の言葉がそれとは」


「うるさい。御託はいい、さっさと答えろ」


「はぁ……まあいいだろう」


 男は一度俺たち全員を流し見て、さらに深く笑みを浮かべると、第一声でこう言った。


「魔族、魔族ねぇ……そんなもの、もうこの世に一匹たりとも存在していないよ」

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