第76話 王都の中には
港からイージス艦に乗り込み、モンスターを蹴散らしながら進むこと数時間。夜の暗闇の中、俺たちは王都の西にある海岸へと到着していた。
海軍はそのままレーダーと偵察機での情報収集とモンスターの駆除を行い、俺たちは陸軍第四部隊とともに王都を目指して進軍する。
俺は一応軍用車両の整備担当として同行しているため、後方の車両のに乗り込んでいる。そして、なぜか同乗している兵士たちにお偉いさん扱いされていた。
「あなたほどの方がなぜこんな危険な場所へ?」
「別に理由は単純だよ。俺だって皆のために戦いたいと思っただけさ。それに俺は大した人間じゃないよ」
「国王様や辺境伯様と普通に話ができている時点で大した人間でしょ。それにしても、この車やら武器なんかも全部あんたが造ったなんて、信じられねえな。まだ子供だってのに」
「まあ、たまたまスキルがそういうことに向いてただけさ。その代わり戦う力はほとんどないからね。そこんとこ頼むよ」
「了解しました! あなたのことは私たちがしっかり守ります!」
「まあ、それが任務だしな」
元気のよい女性兵士と、ベテランのおじさん兵士。おじさんと言っても30代ぐらいだけど。
俺は二人との会話もそこそこに、持ってきていたレーダーで生体反応を見ていた。乗っている車両を中心に半径1キロ内の生物の反応が赤い点で示されている。そこには当然俺たちの部隊が密集している複数の赤い点もあったが、そのほかにもいくつもの赤い点が表示されていた。
おそらくこれはモンスターだ。あるいは動物だろうが、現状を考えるとモンスターと見た方が良いだろう。
しかし、それにしては不可解な部分もあった。モンスターと思われる赤い点がこちらに近づいてくるような動きを見せていないのだ。
もしや、魔族は日が出ているうちしかモンスターを操れないのだろうか?
いや、そんなことはないはずだ。出なければ5年前、俺とオババが山の頂上から見た男爵領のモンスターの大群は用意できない。夜になれば正気に戻るなら、モンスター同士の殺し合いが始まるか、逃げ出して散っていくだろう。
となると、魔族はわざと俺たちを王都に来させようとしている?
まさか……と思う。だって、そんなことをして魔族側に何のメリットがあるというんだ。
何もわからないまま、それでも俺たちは前に進むしかなかった。
もう第一から第三部隊は王都に向けて出発している。今からこの流れを変えることは、さらなる戦争の延期につながってしまう。俺たちにはもうそうするだけの時間的猶予はない。
「撤退するとしても、戻れるのは辺境伯領だけ。そうなれば、四方八方から攻撃されて滅ぼされるだけだ」
周りにいるモンスターと思しき赤い点の数は脅威を感じるほどではない。もし、どこかに罠があったとしても、この第四部隊の武装で何とかなるだろう。それに、どうしようもなかったらイージス艦からミサイルを発射してもらえばいい。
俺の不安が本当なら、魔族たちは俺たちを誘っていることになる。だが、それならそれでこちらとしても願ったりかなったりだ。
「目の前にモンスターをぎっしり配置されたら、殺した後の肉片の除去が大変だからな」
道が肉でおおわれてしまえば、その上を車で行くのは不可能だ。少しずつ除去しながら進むしかなくなる。そうなるよりも、罠を張っているにしろこうも簡単に進ませてくれるのは、むしろ有難い。
俺たちは周囲の警戒を怠らず、しかし迅速に王都に向かって進んでいった。
そして、王都が遠目から見える位置にまで来ると、第一から第三の地上部隊に連絡をとって、現在の状況を確認した。
その結果、第一から第三部隊もあと1時間ほどで所定の場所に到着することが分かった。
ほぼ予定通りだ。
敵は目視できる位置まで近づいても攻撃するそぶりを見せてこない。第一から第三部隊の方はそれなりにモンスターを駆除しながら来ているらしいので、もしかしたらこちらが攻撃されていないのは向こうに集中しているからというのも考えられる。
それにしてもこちらが一度も攻撃されなかったのはおかしいと思うが。
王都から少し離れた西の森の中、そこから王都周辺が月明かりに照らされてよく見える。
王都周辺には偵察機からの報告の通り、前に来た時には見なかった広大な畑があった。魔族たちは閻魔イナゴのせいで食糧問題が深刻だ。だから、空いている使えるスペースはああして全面畑にして食料確保を優先したのだろう。
それにしても、たった5年でずいぶんと景色が変わったなぁ。
「すごいですね。ここから見ても、もうあれが私たちの王都だったとは思えません」
「あなたは王都に住んでたんですか?」
「ええ、私は王都の割と一般的な家庭の出身です。両親は第二円盤で穀物の育成についての研究をしていました」
「第二円盤?」
「今は無いですが、昔は王都の上に2枚の円盤が浮かんでいたんです。第一が畜産系、第二が農業系の研究に使われていたんですよ」
「ああ。あれって円盤って呼ばれてたんですね。知りませんでした」
「まあ、王都の外に住む方々は知らなくても無理はないですよ。王都の人たちって王都の外に出たがりませんし、話下手な人が多かったので」
なるほど、俺が第一階層、第二階層と呼んでいたあれは、王都の市民には円盤と呼ばれていたのか。
しかし、元王都の人間でしかも若い女性だというのに、軍にいるというのはなんだか不思議だな。
ドラゴンの国でようやく状況が落ち着いていた5年前、あのころは王都民とその他の意識が違い過ぎてかなり苦労した。なにせ王都の人たちときたら、自分たちは研究しかできないからほかのことはやらないと言ってたし。
まあ、国王様の言葉もあってしぶしぶ作業に従事してくれるようになったし、その後は意外と研究より向いてるかもってことで製造業に従事してくれる人たちは増えたけど。それでも軍人になろうとする人は滅多にいなかった。
「やっぱりおかしいですよね。私みたいな王都出身の若い女が軍人なんて」
「あ、ご、ごめんなさい。そんな風に見るつもりは」
「いえ、良いんです。よく言われましたから。私だって、友達とかと自分を比べておかしいなって思う時があります。でも、やっぱり故郷は自分の手で取り戻したくて。それで軍に志願したんです」
「そうだったんですね。立派です」
「いえいえ、そんな。それを言うならもっと小さかったのに私たちを救って逃がしてくれたあなたの方が1000倍立派ですよ」
「いやいや」
「いえいえ」
そんなやり取りをしていると、もう一人のベテラン兵士が俺たちに声をかけてきた。
「お前ら、気を緩めてんじゃねえぞ。第一部隊から連絡だ。目的地に到着したってよ」
「了解です」
「気を付けます! 了解しました!」
ついに第一部隊から第三部隊の地上部隊が目的地に到着したらしい。
先頭車両から無線が来れば、そのままこの車列が王都の西門へ向かって行くことになる。
俺たちは車に乗り込み、ベテランの兵士が上の機銃を構えた。
先頭車両が森を出る。俺たちの車両も続き、だんだんと、王都がまるで剣山のようにいくつもの塔を突き立てている姿が近づいてくる。
畑と畑の間を抜けて、解放された西門まで一直線。
しかし、どういうわけかここに来ても敵の姿はおろかモンスターの姿さえ俺たちの目の前に出てくることはなかった。
だが、その代わりに西門を潜った俺たちを待っていたのは、まさかの光景だった。
「人間、だと?」
道のわき、建物の窓、店先、あらゆるところから俺たちを見ていたのは、まぎれもなく人間。俺たちと変わらない姿をした、ただの人間だったのである。




